『"Obey ma ALL"』より お試し版 -01.








※注意※


この本は、BNBというパラレルのシリーズ第8弾です。
BNB6はまだ在庫があるので、これから読むとネタバレになります。
同時購入を予定されている方は、ご注意ください。


★以下、BNB6のお試し版の注意文に同じ★

BNB6は単独でも読めますが、気になる方は「BNB1-5 あらすじ」を先にご覧下さい。
尚、BNB1-5の再版・再録予定は一切ありません。
ご了承下さい。

また、BNB6のメインは海城(=作中表記はセトジョー)ですが、バクラ受を含みます。
それぞれのカプが恋愛的に錯綜することは一切ありません。
完全に独立・並存しているWカプですが、苦手な方はご遠慮下さい。
※BNB1-5のあらすじを読めば分かる細々とした注意事項はここに羅列してません、多すぎて… ごめんなさい…


あと、本田と御伽の偽者率がパネェので、ご注意下さい・・・


★ここからBNB8限定の注意文★

この本もBNB7に引き続き、カプとしては本バクがメインです。
海城は友情出演程度なのでご注意ください。
ただ、メインとしては御伽かもしれません。
カプに恋愛的に絡むわけではないので、当て馬や三角関係等はありません。




↓よろしければ、スクロールをしてどうぞ。




























■00





 百年以上も生きていれば、一年などあっという間だ。
 壁に飾られたカレンダーで、七月に入っていることにふと気がつく。だが初日ではなく、もう数日経っていた。なんとなくその日付に見覚えがある気がしてぼんやりと眺めていれば、するりと腕が回される。
「なに見てんだよっ、ホンダ?」
「いや……。」
 なんでもないと言いかけて、やはり何か意味がある日付だったような気がした。
 だがすぐに思い出せずとも、両手は無意識のうちに懐く体を抱きしめていた。
 押し付けられた胸の柔らかさと、そもそもの大きさから、今日は少女の姿の方だと気がつく。このところは、男の姿でいることが多かった。調停召喚師として、あるいは元藍東公国公爵として振る舞わなければならないという制約がない限り、屋内でプライベートな時間にどちらの性別を取るかは気分に左右されるらしい。
 血縁である双子の兄がいれば、妹の姿が多い。だがこの部屋に、獏良はいない。先月の下旬、王宮での謹慎が始まった当初は、獏良の部屋に居候させてもらっていた。ただ、かつてはバクラ自身が牢獄として入っていたためか、それとも単純に血縁の前では恥ずかしさが勝ったのか、夜の生活での不便さもあって部屋を変えてもらっている。
 今は王宮内の別の客間だ。一応はゼロ隊に籍があるので宿舎も用意されているのだが、単純に遠いからと断った。特殊召喚術で実測の距離など何の障害にもならないバクラからの言葉に、宿舎では基本的に個室であること、要するにダブルベッドではないことが大半の理由だと誰もが気がついただろう。相変わらず、一人では眠れないのだ。王宮内の客間も実は一人用だが、やはりベッドの大きさが格段に違う。ほとんど毎晩したがるバクラなので、やはりいくら血縁でも、獏良と同室では長く過ごせなかった。
「ホンダぁ?」
「ん? ……ああ、ほら?」
「んんっ」
 ただ、それは夜に限定した話だ。するとき以外は、せっかくだからと獏良と居たがる。今朝も着替えてから獏良の部屋に移動し、食事などは一緒に取っている。体力をつけるための日課である散歩に獏良が出た後、こうして部屋に戻ってきたのは、呼び出しを待つためだ。
 バクラにも日課というか、課せられた義務があるため、待機しておかなければならない。だから確実に部屋で捕まえててねと、笑顔で念を押してきたのはかつての部下であり、その後は上官になった友人である。放っておけば、逃走の意味でも、単純な希望からも、バクラは獏良の散歩についていってしまう。そうなると探すのが面倒だからと言い放たれ、素直に申し訳ないと頭を下げた。
 数日前のことを思い出しながら、懐いてきたバクラにせがまれるまま、唇を重ねる。毎日好きだと言ってキスをしろという要望は継続中で、よくねだられる。実際には起きて朝食に向かうまでにもたっぷりキスはしているのだが、愛されることに貪欲なバクラは本当に可愛くて、愛しい。
 腰の後ろに回した腕でやや抱えあげるようにして、しっかりと唇を合わせる。だが少女の体格ではやはり身長差が気になったのか、たっぷりと舌を絡ませてから、シャツを引っ張られた。
「ホンダぁ……。」
「……ああ」
 何を言われたわけではないが、横抱きにしてベッドに運ぶ。先に腰を下ろせばしがみつく手を外してきたので向かい合うように座り直すのかと思ったが、意外にもバクラは一度床に下り、そこからベッドに上がって背中側に回ってきた。
「バクラ?」
「……なあ、だから何見てたんだよっ」
「……。」
 どうやら、まだ気になっていたらしい。自分の注意が少しでも他に向くと拗ねるという、分かりやすい独占欲だ。肩の上から胸側へと両手を回し、しっかりと懐いて背中に豊満な胸を押し付けてくる。大好きなバクラからの質問なので真摯に答えたいとは思うのだが、そういうことをされると注意が散漫になってしまうのは男の性として仕方がない。
 実年齢からも、性格からも、周囲にはやけに淡白と思われがちだ。バクラはそこまでの誤解はしていないだろうが、その気になるまではほぼ無反応くらいには思い込んでいそうで、時々注意したくなる。
 ただ、実際に言葉にして窘めるのは、情けなさの方が勝る。
 この年でまだ年端もいかない少女に欲情しているのかと思えば自然とため息が出て、取り敢えず違うことを口にした。
「……これからどうするんだ」
「は? なんだよ、突然」
 言いよどんだのは別のことだったので、そもそも何を見ているのかという質問を故意に無視したつもりはなかった。
 だが深く考えずに尋ねてみれば、当然バクラは怪訝そうにする。誤魔化したと拗ねられる可能性も高かったのだが、どうやらバクラも思うところがあったらしい。
「どうって、言われても……まあ、考えてることはあるけどよ。何も正式には決まってねえ」
 調停召喚師となって半年が過ぎ、藍東公国での専従期間を終えてからも既に三ヶ月が経過しているのだ。
 このところ、ユーギやユウギとよく話をしている。敢えて同席を断られることはないが、ふと思いついて、尋ねてくると言い残して召喚術で飛び、すぐにまた戻って考え込むようなことは何度かあった。
 バクラがこんなふうに気持ちと時間を割き、頭を悩ませる相手はそう多くない。少なくとも、今回は自分が対象ではないのだろう。言わないのは隠しているからではなく、まさに何も正確に決まっていないからだ。経緯をいちいち説明されても、賢くないと自認している自分には、その情報量だけでいっぱいになりそうだ。どのみちバクラに従うのだから、決定してから簡潔に教えてくれればそれでいい。
 心底そう思っているが、こんな尋ね方では不審がっているようにも聞こえたらしい。
 後ろから回された手がシャツの胸元をギュッとつかみ、身を乗り出すようにしてきたバクラが耳元で囁く。
「バーカッ、心配すんなって? 愛してんのは、てめーだけだ」
「……知ってる」
 今では魔物であり、魔力もたっぷりと融通しているので、体を触れ合わせた状態で告げるバクラの言葉に微塵も嘘がないことは分かっていた。
 バクラは、本当に自分を大好きでいてくれる。
 そんな自分を、こうしてちゃんと捕まえられているのだ。恋愛的な唯一の対象が安定しているからこそ、他に意識が向くようになった。それを悪いことだとは思わないが、寂しくなってしまうのは贅沢というものだろう。シャツをつかんでいた手が外され、促すようにひらひらと振られるので、胸の前でしっかりと握ってやればバクラはまた後ろで嬉しそうに笑った。
「ん……ホンダぁ、てめーは? オレサマのこと、好きだよな?」
 そして甘えるような声で念を押され、もちろんだと返そうとしたとき、部屋の扉がノックされた。
 それはバクラの日課を告げる音だ。
 散歩などと違い、講師役がいないと実行できないため、どうしても時間がまちまちになる。むしろ、忙しい中、手を煩わせて申し訳ない。謙遜する気持ちは本物だが、バクラが同じことを言えば確実に罰則を免れたい口実と解釈されるだろう。しかも事実だ。おかげで、絶対に全課程を終わらせてみせるという意気込みに繋がっているようで、今のところ休日を除いて毎日実行されていた。
 ただ、教育の場に足は運んだとしても、そこでの受講態度があまりに不真面目だったためか、数日前から別の友人が手伝っている。補助員という名目らしいが、実際には監視役だろう。バクラを従わせるだけならば血縁の双子の兄の方が有効だが、いかんせん、獏良はやはり甘い。なにより、仕事や任務といった立場で物を言うことは期待できない。そうである以上、この人選は唯一にして、的確だ。ユーギたちからすれば最善であり、バクラにすれば最悪かもしれない。
 ノックだけで黙り込んだバクラは、もう不機嫌そうにしている。後ろから回した手を繋いだまま、何も答えない。だが、だからといって特殊召喚術で逃げたりもしないので、消極的な肯定というやつだろう。もう一度ノックが響いた後、廊下から『開けるよ』という宣言が聞こえ、実際に扉が開いた。
「おはよう。いつも言ってるけどさ、返事くらいしてよ」
「……てめーの訪問理由が講義の呼び出しじゃねえなら、考えてやる」
 そこに立っていたのは、予想通りオトギだ。どうやらいつもより早くユーギかユウギの時間が空いたようだ。
 不貞腐れたように返したバクラは、そのまま肩に顔を伏せてしまった。もしかすると、もう少しいちゃついていたかったのかもしれない。そう察すれば、もっと撫でておいてやればよかったと思ったが、何故かオトギがニッコリと微笑んでくる。
「ん?」
「でも、ホンダくんはさすがだよね。こうしてごねることも予想して、背負って運んでくれるつもりだったんでしょ?」
「え? いや、これは……?」
「ホンダッ、てめーそういうつもりだったのか!?」
 確かに、このまま背負って運ぶのは楽そうだ。ちょうど手も握っていたので、しっかりと引っ張って重心を持ってこさせてから、ベッドから立ち上がってみる。
「おわっ!? ……ホンダぁ!!」
 しがみついてきたバクラは不満たっぷりに叫んでいるが、諦めてはいるのだろう。手を外し、足を抱えるようにして背負う格好を取れば、ちゃんと負ぶさってくる。それでいて、耳を引っ張ってくるのが地味に痛いので、仕方なく答えておいた。
「お前が後ろに回ったんだろ? オレは正面から抱っこしてキスしたかったのに」
「……!!」
「ホンダくん、ホンダくん、それ事実なんだろうけど、キミからキスされ損ねたって知って面倒くさいくらい彼が凹むから、黙っててあげてよ」
 今は少女の姿なので『彼女』の方が正しいはずだが、オトギからのバクラの呼称はいつも曖昧だ。正確で聡明な物言いをするオトギにしては、珍しい。そんなことを考えながら歩き始めると、背負っているバクラは耳から手を外し、拗ねたようにぼやく。
「……だって、てめーがぼんやりしてっから、いけねえんだろ」
「バクラ……?」
 室内の半分ほどを進んだところで、すっかり忘れていたことを思い出す。
 そう、確かにぼんやりと眺めていたので、バクラに追及された。もしかすると、ベッドに座らせて後ろに回ったのも、何を見ていたのかと確かめたかったのかもしれない。
 結果的に、あの質問には答えていないままだ。忘れていたのもあるが、単純に自分の中でも答えが見つからない。カレンダーを見ていて、ふと気になった。その理由までは分からないのだ。
「いや、ぼんやりしてたっていうか、オレはただ壁の……?」
「壁?」
「ホンダくん……?」
 足を止め、壁に掛かったカレンダーを見やる。思い出せないということは、日付ではなく、カレンダーそのものに何かあったのかもしれない。そんなことまで考えながら視線を向ければ、背負ったバクラも同じように目を向けた。ドアの前に立つオトギも倣ったようだが、急なノックの音にハッと意識は戻される。
「……二人とも、今日は早めに講義は終えてくれるよう僕からもユーギくんに言ってあげるから、早く行こう?」
「あ、ああ……?」
「……。」
 既に開いているドアを、敢えてノックして注意を引く。
 かつては散々見たオトギの仕草だ。だが、随分と久しぶりのような気がして、その理由を考える。
 答えは単純だ。開いているドアをノックせざるをえないのは、そもそもドアを閉めるという習慣がなかった屋敷限定の行為だからである。懐かしさに浸りつつ、急に配慮を見せたかのような態度は不可解だった。オトギは、ここぞとばかりにバクラにこの世界でのゼロ隊や召喚師としての役割を叩き込みたいらしい。そもそも一ヶ月の謹慎と王自らの講義という罰を提唱したのも、オトギである。
 それなのに、今日は軽くするように働きかけてくれるらしい。笑顔のままドアを開けて促すので、取り敢えずは廊下に出てみた。黙り込んだ背中のバクラも気にかかる。困惑したまま部屋を出れば、オトギがドアを閉めてくれた。そして独り言のように後ろで話しかけたのは、自分にではない。
「……むしろ、よかったじゃない。キミの命日なんて、ホンダくんにはもうぼんやりした過去にすぎないんだよ」
「……!?」
「……。」
 七月に入って、わずか三日。
 一年前の同じ日付は、ある重大な作戦の決行日だった。
 どうして忘れていたのかと言われれば、そもそも決行日に至る数週間は、記憶が曖昧だということがある。だがそれ以上に、オトギが指摘した理由が大きいのだろう。
 不意に、ズキリと胸が痛んだ。忘れるはずもない後悔と、罪悪感。何より単純な失恋が絶望をより深く彩り、文字通り世界が壊れた音も聞いた。
「……なあ、バクラ」
「……。」
 それなのに、今背中には確かな重みがある。生きている熱と、鼓動、なにより傍にあることを再び望まれた意志が、しっかりとしがみつく手で証明されている。
「……戻ってきてくれて、ありがとな?」
「……。」
「戻ってきてくれて、ほんとに、よかった」
 たとえバクラが戻りたいと願ったとしても、それだけでは実現しなかった。忘陸の魔物たちの願いがなければ、この奇跡は起きていない。
 なにより、こうして戻ってこれても、大陸の礎として千年の孤独に耐えた記憶はなくなっているのだ。
 感謝されても、不甲斐なさの方が強いのだろう。黙り込む気配にそうと察し、戻ってきてくれたという現実に対してのみ、自分の個人的な感想に変えた。
 するとようやく背中で身じろぎした『バクラ』は、もう一度耳元で囁く。
「……オレサマは、てめーのこと、大好きだ」
 先ほど返し損ねた言葉を、ずっと強く欲しがっているのは分かった。
 肩越しに振り返り、しっかりと視線を合わせる。一瞬気配はぶれかけたが、バクラは少女の姿のままだ。かつての男の容姿を取ることはない。それが示す意味もしっかりと受け止めた上で、今度こそちゃんと伝えておく。
「オレも全部愛してるからな、バクラ?」
「……ん」
 安堵したように頷き、首に顔を擦り付けるようにして懐いてくるバクラの存在には、痛んだ胸も癒されていく。
 ただそれも、一年前のあの日、絶望から自棄を起こさずにすんだからこそだ。
 あのとき、託された公爵の剣を抜いて止めたのは、どこまでも遺志を継いだだけだったらしい。甦る可能性は頭にあったようだが、確信には至らない。だからこそ、そのまま今度こそ大陸の礎となり、消えゆくことを前提にしても、死なせないという公爵の遺志を尊重した。
 友人としては、失格だったかもしれない。
 だが、公爵補佐官としては、完璧だった。
「……。」
「……?」
 視界の端に、あのとき後追いを止めた友人の姿が入る。少し離れて後ろを歩いていたが、こちらの視線に気がついたようだ。
 何かを言いかけるが、言葉にならない。何より、何も言わなくていいと笑って手を振られた。
 それは謙遜よりも、ただそうして自分の注意が逸れることに対し、バクラがまた拗ねることを危惧しているのだろう。
 本当に、どこまでも有能な男なのだ。
 今はその優しさに甘えることにして、バクラにだけ返しておく。
「バクラ、今日も、明日も、明後日も、ずっと一緒にいような?」
「……ん」
 負ぶわれたまま嬉しそうに頷くバクラは、本当に子どものようだ。
 無邪気だが、ワガママで、残酷。情の深さは本物だが、その方向性は限りなく狭く、そして分かりにくい。言葉の足りなさは、体感での年齢の幼さなのだろう。
 そんなバクラに全力で懐かれる自分が、惚れ込むのは当然だ。
 だがそうした分かりやすい執着のようなものを一切向けられなくとも尽くせる友人は、百歳を優に越える自分よりも本当はずっと諦めを覚えた大人なのだろうとホンダは思った。













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