All or Nothing !!

side1:攻撃は最大の防御!! 愛しいアイツは恋泥棒!?編〜 06.

 

 

03     愛の攻防戦     逆転勝利





 そんなひどく派手な告白ショーがあってから、一週間が経っていた。
「城之内くーんっ、今日バイトないんだよね!?」
「おうっ、しっかり遊んで帰れるぜーっ!?」
「やったーっ!!」
 城之内があのときのことを引き摺っていないわけはなく、まだ全く吹っ切れてはい
ないようだったが、それでも仲間の前でははしゃいでみせられるほどにはなんとか浮
上していたようだった。それを、回りもようやく安心していた頃に、遊戯はできるだ
けいつもと同じように放課後に城之内を遊びに誘っていた。
「ね、どうする、駅前のゲームセンターに新しいのが入ったみたいなんだけど?」
「なにっ、ほんとか!?。おっしゃーっ、それ行こうぜ!!」
 海馬くんがあの日から全く登校してこなかったのも助かった、と内心遊戯などは
思っていた。元々ほとんど学校に来ない海馬であるので、通常通りならばあともう一
週間くらいも不登校児であるだろう。やはり顔を見てしまえば想いも記憶も甦るもの
で、城之内としても捨て切れない慕情と再現される拒絶との間で苦しむことになるだ
ろう。だからこそ一定期間城之内から海馬という存在を忘れさせることが必要なので
あり、それを経ればやがて甘酸っぱい初恋も少し切なかった失恋も、きっと思い出と
なるはずである。
「‥‥その頃が、狙い目だしね」
「あ、なんか言ったか、遊戯?」
「ううんっ、なんでもないよっ、城之内くん!!」
 最初こそ城之内が海馬に恋心を寄せていたという事実は衝撃でもあり、また悔しく
もあったのだが、
「‥‥考えようによっては、要するに男同士って障害は城之内くんにはあんまり関係
ないって分かっただけでもよかったんだよね」
「ん、遊戯?」
「ううんっ、ほんとになんでもないのっ、ちょっともう一人のボクが話しかけたからさ!!」
(‥‥俺はなにも言ってないぞ、相棒?)
 どうせ分かんないから平気だよ、と笑顔のままで心の中では返してくる表の遊戯
に、闇遊戯は大人しくしておくことにしておいた。だがそんなふうに笑い合ったまま
で教室を出た城之内は、遊戯と並んで歩いている。
「‥‥ほんっと、無理しちゃってるんだから」
 それでも、そんな笑顔もまだまだ作り物でしかないことも明らかであったので、少
し後ろを歩きながら杏子はそんなふうにため息をついていた。それに、隣を歩く本田
も頷く。
「だよな‥‥ま、あいつも単純だから。あと2・3日もすれば吹っ切れるだろ?」
「だといいわよねえ‥‥。」
 城之内が言っていたように海馬に対する想いが初恋だったとするならば、その失恋
の痛手からはなかなか立ち直れないたろう。だが、あまりといえばあまりすぎる相手
だったので、もうこれは不運だったと諦めて持ち前の打たれ強さで乗り越えて欲しい
と本田などは思いながら少し離れた場所で後ろをついて歩きながら考えていた。
「それにしても、海馬くんて人、ひどいんだな。あんまり面識ないけど、あんな真摯
な城之内の告白を、正面から跳ね除けもせずに逃げるだけだなんて‥‥。」
 この段階であまり海馬のことを知らなかった御伽はそんなふうに言っていたが、あ
る意味あの海馬を敵前逃亡させるくらいにあのときの城之内が違ったところで恐かっ
た、ということなのだろう。普段の海馬を知っているだけに、逃げたことを批難する
よりも逃げさせた城之内にむしろ恐怖を感じて本田や杏子は黙ってしまっていたのだ
が、そんな御伽の言葉には喉の奥を震わすような笑いが答えてやっていた。
「‥‥クククッ、まあ、そうなんだろうけどよ!?。それだけじゃ終わらねえぜーっ、
フィナーレはこれからだ!!」
「ちょっとーっ、どうしてまた獏良くんがもう一人の方の人格になっちゃってるのよ!?」
 ヒャハハハと廊下で高笑いを始めてしまったバクラに杏子は嫌そうな視線を送る
が、それにはニヤリと嫌な笑い方をしたバクラが小馬鹿にしたように答えていた。
「そりゃあなっ!!‥‥これから、本当の奪還式が始まるのよ?」
「奪還式?」
「‥‥おおっと、説明してるヒマはねえっ。どうやら結構離されちまったようだからなっ、
こんな面白れぇモン見逃すアレはないぜっ!!」
 のんびりと会話をしているうちに、先を歩いていた遊戯と城之内からは結構距離が
できてしまっていたことを指摘して、バクラは少し歩を早めて追いついていた。そん
な様子に杏子たちは不思議そうにしていたが、取り敢えずは城之内たちから離れる理
由もなかったのでバクラに続くようにしてその後を追っていた。





 屋上で海馬に告白をしてから一週間、城之内はずっと考えていた。
「‥‥どうかしたの、城之内くん?」
「え?。あ‥‥いや、なんでもねえよっ」
 やはりあれはあれで、よかったのだろうと。きっと自分が恋をして、そして相手が
自分には恋をしてくれなかっただけなのだと、そう思うことにしていた。
「そう?‥‥もしかして、また、あのこと考えてた?」
「‥‥。」
「‥‥ごめん、余計なこと言っちゃって」
 吹っ切れたと言えば嘘になるし、つらさや哀しみが消えているわけでもない。だが
自分にはこうして心配してくれる友達もいるのだし、きっと大丈夫だろうと思うのだ。
「‥‥いや、遊戯が謝ることなんかねえよ。俺こそ悪りぃな、なんか、まだ引き摺っ
ててよ」
「ううんっ、そんな、城之内くんが悪いなんてこと、そんなこと全然‥‥!!」
 あくまで城之内を気持ちを思いやってそんな言葉をかけてくれる遊戯や、変に付き
合いよく遊びに行ってくれるいつもの面々も、きっと自分を心配してくれているのだ
ということは城之内にもよく分かっていた。同情などいらないと叫びたくなるときも
あったが、それよりもずっと、今は一人でいなくてすんだことがありがたかった。も
し一人でいたならば、きっと自分はあのとき初めて自分に対していろいろな表情を見
せてくれたあの男の姿を思い出し、そして寂しくて一人で膝を抱えて泣いていただろう。
「城之内くん‥‥?」
「‥‥ああ、俺なら大丈夫だ」
 だが、自分にはこんなにも本当に心配してくれる仲間がいる。だからこそあの恋心
はもう忘れて、楽になってしまいたいとぼんやりと見上げた空は一週間前のあの日の
ようにとても青く澄んでいて、
「‥‥やべ、また思い出しちまった」
「え、城之内くん‥‥?」
「‥‥。」
 泣きたくなってきた、という言葉だけはなんとか飲み込んだ城之内がちょうど正門
を出たところで足を止めて空を見上げてしまっていると、ふと横からそんな声がかけ
られていた。
「‥‥相変わらず、マヌケ面して上を向いているのだな、凡骨」
「え‥‥ええっ、あ、海馬っ!?」
 どうしてここに!?、と言ってしまうのがむしろ自然であるほど、学校の正門横と
いう場に似つかわしくない格好で腕を組んで佇んでいたのは、今し方城之内が心の中
で思い描いていた海馬瀬人その人だった。今日は一日学校には来ていなかったはず、
と混乱した頭で考える城之内はこの場合正しく、それは海馬が制服ではなく普通の
スーツを着ていることからもむしろ会社を抜け出してきただけというのが真実だっ
た。だがどうして授業にも出ていない奴がここにいるのかとかそういった疑問より
も、失恋したばかりの相手にどう対処していいのか分からず動揺していた城之内に、
いつのまにか人格変換をした遊戯がすっと二人の間に割って入っていた。
「‥‥今更城之内くんになんの用だ、海馬?」
「もう一人の遊戯、か‥‥貴様に今は用はない、ここをどけ」
「なんだと!?」
 唐突に現れた海馬と一週間前の告白ショーの件から海馬に対して敵意を募らせてい
る闇遊戯の間には、これ以上ないくらいにぎすぎすとした空気が漂っていた。本来そ
れを止めるべき城之内は、ただ愛しくて堪らなかった海馬が突然目の前に現れて喜ん
でいるのと同時に失恋したことも思い出されてその虚しさから完全に硬直して動けな
くなってしまっている。ましてや杏子や本田、御伽のような一般人には、元々千年ア
イテムの人格であるオカルトたっぷりな闇遊戯と既に存在がオカルトじみているほど
不可解な海馬の仲裁など入れるはずもなく、どうしたものかと一触即発の空気に怯え
るだけだったところに、ひどくつまらなそうな声が無遠慮に割って入っていた。
「‥‥だからよーっ、王サマなあっ。何度も言ってんだけど、ちょっと城之内に過保
護すぎるんじゃねーのっ?」
「なんだと、バクラ‥‥!?」
 だが文句をつけるだけつけたバクラは、もう闇遊戯には興味をなくしたかのように
今度はふいっと視線を海馬へと向ける。
「それから、神官ヤローも。一週間も待たせてんじゃねえよっ、男の風上にも置けね
えって言葉、知ってるかあ?」
「なにが神官だ、俺には常に闘いの風は吹いておるわっ!!」
 確かに、といつも不自然なまでにコートの裾をはためかせている海馬の言葉に、そ
んな場合ではないと分かっていつつも杏子や本田といった一般市民は頷いてしまって
いた。だがそう返されたバクラは海馬の不機嫌そうな視線に動じるでもなく、また先
ほどから無視されている闇遊戯から眼光もあっさりかわして返していた。
「けどようっ、神官ヤロー。そのテメーの闘いの風とやらをよ、一週間前屋上で止め
てみせたツワモノのこと、まさか忘れたワケじゃねえだろうなあっ?」
「‥‥。」
「‥‥いいぜっ、いいぜぇ、その眼だぜっ!?。もっと怒りなっ、そしてぶちまけち
まえっ、俺だってこの腑抜けにずっとイライラしっぱなしだったんだからようっ!!」
 そして乱暴な手つきでバクラが突き飛ばしたのは、当然ながら最大の当事者であり
ながらこの場で硬直したまま動けなくなっている城之内その人だった。
「うああっ!?」
「わっ、城之内くん‥‥!?」
「‥‥目測誤ったか」
 だが、舌打ちしながらバクラが呟いたように、思わずバクラが突き飛ばした城之内
の前には、遊戯が立ちはだかっていたのである。当然前のめりになってこけそうに
なった城之内が思わず遊戯の肩につかまるようにしてガッと手を置いた途端、
「‥‥凡骨っ、貴様もうあの言葉を忘れたというのかっ!?」
「えっ、あ‥‥うわあっ!?」
「海馬ぁっ!!」
 突然怒り出した海馬が城之内の腕をつかんで遊戯の背から引っぺがしたのを見て、
結果オーライだったかな、と無責任にバクラは考えていた。
「えっ、ええっ、あの、海馬‥‥!?」
「‥‥。」
 だが、そんなことをされて最も焦っているのは城之内だった。はっきり言って、失
恋のショックからも全く立ち直っていないときに不意打ちのように海馬に待ち伏せを
され、まともに顔も合わせられないと思っていたところにバクラに突き飛ばされたの
である。更にこけそうになったので遊戯にしがみつけばその腕を海馬につかまれ、あ
ろうことか強引に引っ張られてその胸に抱き込まれてしまったのだ。
「あのっ、海馬、なんで‥‥!?」
「そうだぜ海馬ぁっ、城之内くんからその汚らわしい手を離しやがれ!!」
 だからそれが過保護だっつってんだよ王サマ、とバクラに横持ちにした千年リング
で後頭部をブシッと突き刺され、遊戯はそのままガクリと崩れ落ちていた。だが相変
わらず海馬の胸に抱かれている城之内はそんなことに気がついてもおらず、つれない
ぜ城之内くん、と唸りながら遊戯は自らの血だまりでアスファルトに『海馬コロス』
と書き記していた。
「海馬‥‥!?」
「‥‥貴様に、きっちり話をつけにきた」
「え‥‥?」
 初恋で焦がれていた相手に抱き締められる、という状況に、それこそ乙女のように
胸を高鳴らせていた城之内だったが、耳元で低く囁かれたその言葉で、一気に頭は冴
えていた。あまりのおいしいシチュエーションに酔ってしまいそうになっていたが、
自分のこの胸の高鳴りが事実であるように、自分がこの男に失恋したこともまた事実
なのである。
「城之内、時間はあるか‥‥?」
「あ、うん‥‥。」
 逃げるようにして城之内の告白に返事を返さないで立ち去ってから一週間、きっと
どこか変に律儀なところのあるこの男は、きっと気にしてくれていたのだろうと思う
だけで城之内は自嘲的な嬉しさがこみあげてくる。それが別れを告げる機会を設けよ
うとしてくれていたということでも、もうこの男の心に留まっていられたのならなん
でもいいとまで思っていた城之内は、両肩を海馬につかまれてそっと体を離されてい
た。










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