All or Nothing !!

side1:攻撃は最大の防御!! 愛しいアイツは恋泥棒!?編〜 05.

 

 

「海馬ぁっ、黙ってねえで‥‥!!」
「‥‥待て凡骨、電話だ」
「‥‥。」
 海馬はこのときほど、自分の仕事熱心さに感謝したことはなかった。うるさく着信
音を鳴らしている携帯電話は海馬の胸ポケットにあり、取り出してみれば案の定会社
からの呼び出しだった。
「‥‥俺だ」
『あっ、社長ですか?。先ほどの‥‥。』
 城之内にあっても、海馬が社長業に忙しいことは分かっているので、それは邪魔し
てはいけないと思っているようで会話をしている間は大人しくそれを待っている。そ
のことを確認してから、海馬は電話の内容に集中していた。
「どうした?」
『はい、先ほどご連絡差し上げたシバサメ工業からのトラブル報告ですが、あれは誤
報との‥‥。』
「なにぃーっ、そんな大変なことに!?。いや構わんっ、俺がすぐに行って先方を話
をつけてやる!!」
 突然叫んだ海馬に城之内はビックリしていたが、海馬も本当に切羽詰まっていたの
である。
『え!?、いえ、社長、ですから誤報でしたので会社にお戻りになる必要はないとご
連絡を‥‥!?』
「しかしっ、俺でないと話をせんとはっ、たかだか下請けのクセに生意気だなっ!!。
だがそういうことなら尚更俺が出向いてきっちり話をつけてやろう!!、なに、
しかも今からだと!?」
『でっ、ですからもうお戻りになられる必要はっ、今日はそのまま学校に‥‥!!』
 電話口で泣きそうに報告してくる部下の声をも消すほどの大音量で一方的に話す海
馬は、そこで本当の意味での切り札を切っていた。
「そうかっ、もうヘリを手配しているのか!!。丁度いい、今俺は学校の屋上にい
るっ、30秒で迎えに来れるのだな!?」
『えっ、ええっ、えええーっ!?』
「‥‥来れなければ貴様の席はもう明日にはそこにないと思え」
 ついでに戸籍からも名前は消えるだろうがなとまで続ければ、部下の絶叫がたっぷ
りと余韻を残して携帯電話からは響いていた。だがそんな携帯電話の通話をあっさり
と切ったときには、既に上空にはパラパラというプロペラ音が轟き始めていた。
「あ、あの、海馬‥‥?」
 そして、電話を切った海馬におずおずと城之内が話しかけたときには、海馬の真上
にはもうKCのロゴ入りの無駄に戦闘ヘリがホバリングをしていた。再びヘリによっ
て人工的に巻き起こった風のなかでかなり険しい表情をしている海馬に、城之内は心
配そうに尋ねる。
「なんか、大変なことになってんのか‥‥?」
 その言葉で、どうやら城之内は先ほどの自分の演技をすっかり信じきっているらし
いと海馬は確信していた。なので、ヘリから下ろされたハシゴに手をかけながら、表
情だけは固いままで返していた。
「‥‥ああ。どうやら下請けの某会社のタヌキが、俺が直接行って初孫のミカちゃん
に子守唄を歌ってやらなければ明日納品予定だった飛び出す筆箱のバネ仕掛けのバネ
1022個の納品をしないと言ってきているらしい」
「な、なんかよく分かんねえけど、大変だなっ、社長さんて‥‥!!」
 タヌキとまで取引してるなんて!!、と感動している城之内に、まさか本当に動物
の狸とでも思っているのだろうかと海馬は勘ぐってしまいそうになった。だがここは
ボロを出すわけにはいかないので、取り敢えずはハシゴに手を掛けたままで一度城之
内へと振り返ってやる。
「あっ、あのさ、海馬!!。その、返事を‥‥!!」
「‥‥城之内」
「えっ‥‥!?」
 そして案の定、海馬が会社からの電話を取る前の話題の返事を求めようとした城之
内に、海馬は振り返ったままで、できるだけ自然に、だがこれ以上にないくらい引き
攣りまくった顔で、それでも精一杯に優しい笑顔とやらを偽造してみて城之内に告げ
てやっていた。
「城之内、悪いが時は一刻を争うんだ。俺の会社の命運がかかってると言っても過言
ではない‥‥。」
「そ、そんなに重要な部品なんだ、そのバネって‥‥!!」
「‥‥とにかく、俺は急いでいる。悪いが、今日はここで失礼する」
 これは逃げるのではない、あくまで態勢を立て直すための戦略的撤退だと自分自身
に言い聞かせ、海馬は迷うことなくハシゴに足もかけて登っていた。
「あっ、ま、待てよっ、返事がまだ‥‥!?」
 それに城之内は慌てて駆け寄ろうとするが、それより早く海馬の指示によってヘリ
は下ろしたハシゴに海馬を乗せたまま上昇を始めていた。
「海馬ぁーっ!?」
「ワハハハハーっ、ではまたな、凡骨!!」
 スチャッ、と軽く片手を挙げてもう格好いいんだかどうなのだかよく分からないい
つものステータスで海馬はヘリで上空高く舞いあがってそのまま飛び去ってしまって
いた。
「‥‥。」
 それを、あと少しのところで引き止められなかった城之内は、いつまでも海馬のヘ
リの飛んで行った方角を呆然と見つめて立ち尽くしていた。
「‥‥結局、なんだったのかしら」
「‥‥。」
「‥‥。」
 そして、そんな城之内の切ない後ろ姿を少し離れたドアのところで眺めてしまうこ
とになりながら、まずは杏子がそう呟いてしまっていた。それに、本田と御伽は同感
といったふうに頷いていたが、闇人格の方が今は出てきているバクラは腹を抱えて爆
笑していた。
「‥‥城之内くん!!」
 だが、そんな気まずい状況で、真っ先に城之内に駆け寄ったのはやはりというかな
んと言うか、表人格の方の遊戯だった。取り敢えずは城之内が海馬を好きだったとい
うことにショックは受けているものの、それよりも茫然自失としている城之内が心配
になって駆け寄ったのだが、相変わらず空を見上げたままの城之内は傍にきた遊戯を
見もせずに、ぽつりと呟いていた。
「‥‥初めてだ」
「え?。なにが、城之内くん‥‥?」
 てっきり海馬に逃げられて泣いているとでも思っていた遊戯は、本当に呆然と空を
見上げたままの城之内に、不思議そうに尋ね返す。だが、城之内の口から返されたの
は、
「‥‥初めて、海馬から次の再会を期待するような『またな』なんてセリフ聞いた」
「城之内くん、さすがに現実を直視しようよ‥‥。」
 ツライのだとは分かっているが、それではあまりに楽観的すぎると、この場合遊戯
でなくとも分かっていたのだ。確かに城之内からの告白は真摯なものだったが、海馬
はそれが本気だと分かった途端目に見えて狼狽していたのである。手酷く拒絶しな
かっただけ優しさだったのだろうかと遊戯は思うが、それでは城之内がいつまでも期
待だけさせられて可哀想だと思ってしまう。
「あ、あのさ、城之内くん。海馬くんは、キミのことは、たぶん‥‥。」
 本来こんなことを言うべき立場にないことも分かっているし、親友としてはわざわ
ざ傷つくと分かっていることも言いたくはない。だがここで言っておいた方が、すぱっと
諦めもつくだろうと思って心を鬼にして遊戯が言葉を続けようとしたとき、
「‥‥やっぱり、海馬って頭いいんだなーっ」
「城之内くん‥‥?」
「やっぱり、あいつは俺なんかよりずっと頭よくって。だから、俺なんかよりずっと
ずっと、いろんなこと知ってて‥‥!!」
 字面だけでは海馬を誉めてうっとりとでもしているのかと思ったが、そう言葉を紡
いだ城之内の声は既に嗚咽で震え始めていた。そしてようやくふっと視線を空から落
とした城之内は、隣に立つ遊戯を見て少しだけ笑っていた。
「やっぱり‥‥初恋って、叶わないんだな」
「城之内くん‥‥。」
 笑っているのに、すうっと涙が一筋流れたのが遊戯にはひどく印象的だった。同情
ではなく友情としてどうすればいいのか分からないでいた遊戯は、結局なにも言えな
くなってしまう。だがそんな様子を見ていた杏子や本田、御伽も声をかけられないで
いる中で、
「‥‥ったくようっ、そこでまだ泣くなっつうの。これからが面白いってのによーっ」
「ちょっとバクラくん、不謹慎よ‥‥。」
「ああーっ?」
 一人不愉快そうに言ったバクラを杏子がたしなめるが、当のバクラはあっけらかん
として言っていた。
「ま、見てなって。たぶん、数日中には面白いことになるぜーっ?」
「え、でももう城之内はふられて‥‥?」
 これ以上あの二人は発展しようもないと続けようとした杏子にも、バクラはひらひ
らと手を振って今はもう興味がないと言わんばかりにさっさと一人先に階段を降りて
いってしまっていた。それを杏子たちは不思議そうに首を傾げていたが、そんなこと
は遊戯や城之内には分からない。
「城之内くん‥‥。」
「‥‥ああーっ、ゴメンな、遊戯?。俺、もちっとしたら、あと少し凹んだら、そし
たらあんないけ好かねえ男のことなんか忘れて、浮上するからよ‥‥!!」
「うん‥‥。」
 そしてそんなことを言ってその場に座り込んだ城之内は、膝を抱えて苦しそうに続
けていた。
「ちょっとだけ落ち込んだらさ、また、元のチョー格好いい俺に戻るからさ‥‥!!」
 だから今は少しだけ情けない男でいさせてくれ、と城之内は顔を伏せて震える声を
もう抑えようともせずに繰り返していた。



 顔を上げてしまえば、この空に消えてしまった男の瞳と同じ色が目に入ってまた涙
が溢れてしまうから、だから顔を上げられないのだと城之内はいつまでも繰り返して
いた。









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