02 愛の攻防戦 先手必勝宣戦布告
「‥‥どうしちゃったの、城之内の奴?」
次の日の同じような昼休み、最初にそんな疑問を素直に口にしたのは杏子だった。
その言葉にすつものメンバーは顔を見合わせるが、決して察していないわけでもな
かったので、軽いため息とともに本田がまずは口を開いていた。
「ほら、あれだろ?。今日3限目から海馬来たから、な‥‥?」
「ああ、だから機嫌悪いんだ。すっごくしかめっ面しちゃってるじゃない、いつもの
ことだけど‥‥。」
こんな会話が城之内の耳に入ればそれはそれで今度はこっちが噛み付かれてしまう
ので、自然声を落としてひそひそと囁き合うことになる本田たちだった。
「でも、あれはいつもにも増して機嫌悪いんじゃないかい?」
「あ、御伽も思ったか?。だよなーっ、どうしちまったんだろ、城之内の奴‥‥。」
だが、海馬と仲の悪い城之内が、海馬の登校してきた日に不機嫌そうにしているの
はむしろいつものことである。今回わざわざ仲間達がそれを話題にしているのは、そ
の不機嫌さがこれまでの非ではないからであって、本田も杏子も御伽も首を傾げてい
るのだった。今はせっかく午前中の授業が終わったところで、本来ならば城之内が最
も楽しみにしている昼食の時間のはずなのである。だが授業が終わったことさえ気が
ついていないかのように教室内で対角線上に最も離れた席にいる海馬を睨んだままの
城之内に、少し離れた場所でポンと杏子が手を打っていた。
「あ、分かった。ほら、アレよ、昨日城之内が言ってたじゃない、海馬くんに大切な
もの盗まれたって」
ひどく納得したようにそう言った杏子には、後の二人は不思議そうな顔をしていた。
「盗まれた?。城之内が?」
「そんなこと、言っていたっけ‥‥?」
「‥‥まあ、二人とも意識なかったから知らないのも分かるけど。確かに城之内が
言ってたのよ、海馬くんに何か盗まれたんだって。だから許せないんだって」
だが、仮にそういうことだとしてもやはり話が分からないのは同じである。何かを
盗まれたという話事態が、やはり城之内の貧乏具合を考えれば信じがたいし、そこが
真実だとしてもすぐに城之内が海馬に噛み付いていかないのもおかしいのだ。海馬が
登校してきてからそれこそ眼光で穴が空くのではないかと思われるほど睨み続けてい
るものの、ただ、それだけなのである。
「どういうことなのかしらね?。海馬くんは確かに悪党だとは思うけど、盗みなんて
みみっちいことするかしら?」
「しかもあの城之内からな。盗むモンなんかねーだろっ、あいつの家‥‥。」
遊戯のレアカードならまだしも、と頷き合っている本田と杏子の視線の先で、そん
な触らぬ神に祟りナシ状態の城之内に、全くいつもと変わらず声をかけられる勇者が
現れていた。
「城之内くーんっ、お昼一緒に食べようっ!!」
「‥‥遊戯か」
そんな遊戯の声で、城之内はようやく海馬から視線を外していた。ちなみにずっと
睨んでいたものの、時々視線が合った海馬は小馬鹿にしたように鼻でせせら笑うだけ
だったのだが、城之内はしばらく考えた後、ゆっくりと席から立ち上がっていた。
「城之内くん、なにぼうっとしてたの?。もうお昼休みだよっ、早くお弁当食べよう?」
ぼうっとしてるレベルじゃなかっただろ!?、とのん気なことを言っている遊戯に
対して思ってはいても、本田や杏子は城之内たちを遠巻きにすることで完全に避難し
ていた。だがやはり親友の遊戯には基本的に穏やかな城之内は、少し無理したように
笑って背の低い遊戯を見下ろしていた。
「あ、ああ、もう昼休みだったんだな‥‥。」
「そうだよ、お昼食べようよ?」
「そうだな、そうする、か‥‥?」
実際、このときまだ城之内は迷っていたのである。心に決めたことはあったのだ
が、それを実行するべきか否か、やはりここはいつもと同じように仲間達と楽しい昼
食に行ってしまおうかと思っていたとき、
「‥‥『盗られたら、盗り返せ』だろ?」
「‥‥。」
「あれ、獏良くん?、じゃない方の‥‥えっ、ああっ、城之内くん!?」
ぽつりと後ろで呟かれた言葉で、城之内はスイッチを入れられていた。
「城之内くんっ、どうしたの‥‥!?」
「すまねえ遊戯っ、昼メシは俺抜きで食っててくれ!!」
「そんなあっ、キミがいないんじゃあうな重だって蛇の皮だよ!!」
(あ、相棒、そんなこと言ったらせっかくの今日の豪華弁当が食えなくなる‥‥!!)
後ろから不満そうに声をあげる遊戯に悪いと思いつつも、もう城之内は決意してい
た。いつかはっきり返してもらわなければと思っていたことを、今日こそ直談判して
やると意気込んで、城之内は目的の相手の席の前まで来ると、どうやら帰り支度を始
めているらしい海馬を見下ろしながら叫んでいた。
「海馬ぁっ、ちょっと話がある!!。顔貸しやがれ!!」
「断る」
「‥‥。」
城之内が海馬に声をかけたところまではよくやったとバクラなどは手を叩いて関心
していたのだが、再考の余地もないような冷たい拒絶に教室内は水を打ったように静
まり返ってしまっていた。だがそこはそれ、覚悟を決めていた城之内は更に言葉を重
ねていた。
「話があるっつってんだよっ、いいからついて来やがれ!!」
「喚くな凡骨、ついでに再度断る」
「なんでだよ!?」
それでも、海馬は視線さえ上げずにさらりと城之内の誘いを断っていた。それに、
まさかこんなところで挫折してしまうのかと泣きそうな勢いで理由を尋ねた城之内
に、ようやく荷物をまとめたらしい海馬は椅子からゆっくりと立ち上がってから自分
の方が目線が上になってからようやく城之内をその視界に入れていた。
「俺は忙しい、無駄なことはしたくない。故に凡骨のような能無しの戯言に付き合っ
てやる時間も義理もない、非合理的だ」
「かっ、海馬、テメェ‥‥!!」
取り付く島もなく言いきった海馬に思わず城之内が言いよどんだのを見て、取り敢
えず過保護な王様がその援護に回っていた。
「それは言い過ぎだぜっ、海馬!!。わざと城之内くんが理解できない『能無し』だ
の『戯言』だの『非合理的』だのという単語を使うだなんてっ、卑怯にもほどがある!!」
相変わらずバカだと思われてるんだな、と海馬の目は如実に語っていたが、今はそ
れどころではない。思わず振り返った城之内は、少し離れた場所にいる遊戯に向かっ
てグッと拳を握ってみせていた。
「そんなことないぜっ、遊戯!!。『能無し』てのは分かるぜっ、取り敢えず凡骨と
おんなじような意味だろ!?」
「蔑称だって分かってるだけ進歩してるぜっ、城之内くん!!」
「おうっ、任せとけって!!‥‥て、勝手に帰んなあっ、海馬!!」
二人が暑苦しい友情とやらを確かめ合っているうちにさっさと帰ってしまおうとし
ていた海馬は、どうやら帰宅の気配に勘付いたらしい城之内にガシッと腕をつかまれ
てしまっていた。それにチッと舌打ちしつつも、腕を振り払いながら海馬は城之内へ
と足を止めて不機嫌そうに尋ねていた。
「‥‥なんだ、まだ話があるのか?」
「まだもなにもっ、俺なんも話してねえじゃんっ!!。だからまだ帰るなっ、今日こ
そハッキリさせてやる!!」
それでもまくしたてるように城之内に言われて、海馬の方もようやく強引に帰るの
は無理だと判断していた。なので、城之内から見てもあからさまに嫌そうな顔をしつ
つも、海馬は聞く態勢に入ってやることにしていた。
「‥‥手短に話せ、俺は忙しい」
だがそんなふうに促してみても、城之内はすぐには言葉を次がない。それを少しイ
ライラしながら海馬が待っていると、
「‥‥場所、変えようぜ。お前の罪を裁いてやりたいんだからよ、人目だって気にす
んだろ?」
「ほう‥‥?」
どうやらここはまだ教室で、クラス中の注目を浴びていることを暗に示したらしい
城之内に、そこまで人目を憚る話題をふっかけてくるつもりなのかと海馬は少し興味
を持ってしまっていた。しかも凡骨だの負け犬だのとこき下ろしてきた男が、自分を
『裁いてやる』とまで言ってきたのである。
「‥‥どういうことか、話を聞いてやろう」
「ケッ、最初から素直についてくりゃいいんだよ‥‥!!」
興味を持ったことで好意的な声色になっていた海馬の声に、城之内は適当に毒づい
てさっさと教室から出ていっていた。それに続くように海馬が尊大な様子のままで同
じように教室から出て行った後、しばらく顔を見合わせていた遊戯やバクラやいつも
のメンバーも、わらわらと二人の後をつけていっていた。
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