All or Nothing !!

side1:攻撃は最大の防御!! 愛しいアイツは恋泥棒!?編〜 01.

 

 

01    愛の攻防戦  先手必勝



「‥‥ったくよーっ、今日もココは空席かよっ!!」
「あわわっ、城之内くん、蹴ったりしちゃダメだって‥‥!!」
 いつもと変わらない昼休みの教室で、それこそいつもと変わりなく空席となってい
る主のいない机を、城之内はどこか腹立たしげに軽く足で蹴っていた。それを困った
ように止めるのは親友である遊戯で、またかといったように呆れて笑うのが本田や杏
子であり、机の主に悪いのではと心配そうにしているのが何も知らない御伽で、一体
何がそんなに微笑ましいのかいっそ邪悪にも思える笑みを湛えて見守っているのが獏
良だった。
 童実野高校の二年生のここの教室は、いつもの通りと言えば本当にいつもの通り
だった。風邪などの病欠でたまに休む普通のクラスメートを除けば、むしろ欠席の方
が通常だと思えてしまうような人物が在籍しているため常に机の一つは無人なのであ
る。一年生のときに少なくとも半年は自宅で廃人同様だったはずであるのに、金の力
か権威でも振りかざしたのか、それともそもそもあのような企業の城下町としてなん
ら疑問なく栄えていられるくらいにいっそ町も教育委員会も大らかなのか、諸説ある
が海馬瀬人その人が進級できた理由は定かではない。ほぼ毎日休まず出席していなが
ら成績が超低空飛行なために進級が危ぶまれた城之内などからすれば、自分は真面目
に学校だけは出席するという約束で二年生になれたのに、成績がいいだけで軽く進級
し、しかもせっかく進級した二年生の授業にほとんど出てもこないことが腹立たしい
のだろう、と、少なくとも友人たちは思っていた。
「だってよーっ、コイツなんのためにこのクラスにいるワケ?。全然ガッコ来ねえのに?」
「しょうがないよ、海馬くん忙しいもの‥‥。」
 やっかむというよりは単なる憂さ晴らしで、城之内は二年になってからは特に、い
つも無人のその席を軽く蹴ったり手で叩いてみたりと、本人がいないからこそなのだ
ろうが八つ当たりに近いことをしているのは半ば日常茶飯事だった。最初はそんなに
目くじら立てなくても、と回りも思っていたのだが、一日一回はそんなことを口にす
る城之内に、これは単なる口癖みたいなものなのだろうなと流すようになっていた。
 単純に、なにか適当な話題が欲しくて、城之内は目に付いた空席をいつも話題にし
ているのだろうと。
 いればいたでいつもケンカ腰で最悪な関係のあの男を、取り敢えずはいないところ
でこき下ろしているだけなのだろうと。
「‥‥なに、あいつ、忙しいの?。なんで遊戯が知ってんだよ?」
 なので、城之内がそんなふうに海馬の不在を不愉快そうに批難するのもほとんど通
常会話になってしまっていたこの頃に、いちいちその言葉にまともに取り合ってやる
のはほとんど遊戯くらいしかいなくなっていた。だがこの日、いつものように適当な
ことを言って宥めようとした遊戯に、ふっと城之内は顔を上げて逆に尋ね返していた。
「え、なにが‥‥?」
「だから‥‥あいつ、忙しいって?。だから学校来れない?、なんでそんなこと遊戯
が知ってんの?」
「はあ‥‥?」
 どうやら大して意味もなく口にした遊戯の言葉に、城之内はひどく不審そうな顔を
していた。それにわずかな違和感を感じなかったわけではないのだが、不愉快という
よりどこか拗ねたような表情をしている城之内に、遊戯は不必要なまでに慌てて説明
していた。
「えっ、え、別に浮気とかじゃないよ!?。そんなっ、ボクはいつだって君が‥‥!!」
「浮気?、なにが?。それより‥‥遊戯、あいつと連絡でもとってんの?」
「そんなっ、まさか!!」
 拗ねた表情がどんどん泣きそうな顔へと変わる城之内に、遊戯は拳を握って力いっ
ぱい愛する城之内のために否定することにする。
「だからっ、ボクが海馬くんと連絡なんてとってるハズないでしょ!?。ほら、珍しく
来たときにボクが『なんで来たの?』てきいたら、いっつも海馬くんてば『暇だった
からな』て返すから!!」
 だから学校来てないときは忙しいと思っただけなんだよ!!、と力説する遊戯に、そ
もそも登校してきたクラスメートに『なんで来たの?』と尋ねること自体どうなの
か、とは回りの誰もつっこめなかった。だが必死で姦通疑惑を否定している遊戯の説
明に、城之内はどこかほっとしたように息をついて笑っていた。
「‥‥そっか。そうだよなっ、遊戯があんな男と仲いいワケないもんなっ!!」
「そうだよっ、分かってくれて嬉しいよ、城之内くん!!」
「おうっ!!」
 同じように笑顔になった遊戯に、明るく頷いた城之内だったが、だがその笑顔もや
がて静かに消えていってしまっていた。
「城之内くん‥‥?」
 そんな様子に少し不思議そうにした遊戯から城之内はすっと視線を逸らし、そのま
ま後ろにある机にそっと片手を置くことになる。
「‥‥て、コトは。やっぱ忙しいんかな、こいつ」
「あ、海馬くんのこと?。だろうねえ‥‥。」
 それは当然さっき城之内が蹴って毒づいていた無人の机で、海馬瀬人の席である。
言われて遊戯も指折り数えてみれば、もう一ヶ月以上海馬は登校していないようだった。
「いつも、二週間に一回くらいは顔見せてたのにねえ。珍しいね、本当に会社とか忙
しいのかな?」
「‥‥。」
 半ば独り言のように言った遊戯にも、城之内は背を向けて海馬の机に片手を置いて
黙ったままだった。そんな様子がいつもの覇気ある城之内からはかけ離れていたた
め、遊戯もなんとなく心配になって声をかけてみることにする。
「あれ、城之内くん、海馬くんに用でもあったの‥‥?」
「‥‥。」
 そんなハズはない、と遊戯の言葉は暗に否定を期待していた。元々お互いにウマが
合わないのか、常にケンカ腰で、お世辞にも仲が良さそうとは言えない二人である。
仮に学校に来たとしてももう一人の遊戯にくってかかり、城之内に目を向けたとして
も凡骨だの負け犬だのという罵詈雑言しか向けないのが海馬という男である。そんな
海馬に城之内も昔の血でも騒ぐのか、過剰反応するものだから、いきなり城之内が暴
れて教科書だのなんだのと授業中に投げ出してしまわないように教室ではいつも海馬
と城之内との席は離されているくらいなのだ。
 それほどまでに、犬猿の仲であることは周知であり、また事実でもあり、そのこと
はたとえ海馬がいないときでもぶつぶつと城之内が海馬の席に文句をつけていること
からも半ば定説扱いだったのだ。だからこそ城之内が海馬のことを話題にしていても
今更だという認識もあって今回も遊戯以外は大して気にもしていなかったのだが、い
つになくどこか気落ちしたような様子の城之内に、さすがに他の面子も気になって声
をかけていた。
「おい、城之内。どうかしたのか?」
「そうよ、なんか元気ないじゃない?。海馬くんが休んでるのなんて今更でしょ、そ
れがどうかしたの?」
「‥‥。」
 本田や杏子に声をかけられても、城之内は黙ったままである。それに、本来人のい
い御伽は、あまり面識のない海馬という人間が分かっておらず思わず真っ当な質問を
してしまうが、
「城之内、その海馬くんてのが病気にでもなってるんじゃって気にしてるならお見舞
いに‥‥ガハッ!!」
「どうしてボクの城之内くんが海馬くんのお見舞いなんて行かなきゃいけないの
さっ、どうせ海馬くんが学校来ないのだってブルーアイズとところてん遊びでもして
て知恵熱出しただけだよ!!」
(あ、相棒、千年パズル御伽の額に刺さってる‥‥!!)
 思わずパズルの中のもう一人の遊戯がガタガタと震えてしまうほど、表の人格であ
る遊戯が振り回した千年パズルは深く深く御伽の額をえぐっていた。だが流血沙汰に
なっているのをにこにこと楽しそうに見ていた獏良は、一人納得したように頷いていた。
「そうか、城之内くんはそうだったんだね、ふうん‥‥。」
「獏良くん、どういうこと?」
 さあ?、とやはり真意の読めない笑顔でかわす獏良からは、やはり言葉の真意は分
からない。なのでもう遊戯は回りに構うつもりもなく、本人に尋ねることにしていた。
「ねっ、城之内くん!!‥‥どうしたの?」
「遊戯‥‥。」
 そんな悩ましげな顔もそそるよ!!、と心の中の絶叫にもう一人の遊戯が膝を抱えて
いることなどお構いなしに、遊戯はいまだ背を向けていた城之内の腕を引っ張ってこ
ちらへと振り向かせていた。そのことでようやく海馬の机から手を離し、遊戯の方へ
と顔を向けた城之内は、しばらく視線を泳がせるようにした後、ぽつりと吐き捨てる
ように呟いていた。
「だって‥‥俺、こいつ許せねえんだよ」
「海馬くんが?」
 確かに、海馬を許せない理由など、遊戯自身にも数え上げればキリがないほどには
ある。だが今この場で城之内が本当に悔しそうに、顔を歪ませて血でも吐いているか
のように言った言葉には、もっと深い意味がある気がして遊戯はしばらく言葉を待っ
てみていた。
「そりゃ、こいつは古くは遊戯のじーちゃんのカード破いたりとか、DEATH―T
とかワケ分かんねえことしやがってたけどよ、大体最後のTってなんだよ、Tって。
『鉄砲玉』のTかよ‥‥。」
「いや、その辺りのことはプロトタイプのしたことだから海馬くんも知らぬ存ぜぬ貫
いてるし、ていうか『てっぽう』は日本語だから最後のTはきっと『デンジャラス』
のTだよ、ちなみに『なんて素敵なボク』て意味だよ」
「おおっ、さすがだな遊戯!!」
 騙されるな城之内くんっ!!、ともう一人の遊戯は絶叫していたが、それを表人格で
ある遊戯の方はにこにこと笑ったままで黙殺していた。だが回りは回りで遊戯の成績
の悪さも知っていたので、どこまでが冗談でどこからが本気なのか分からずに傍観し
ているだけだった。
「ま、人生の謎が一つ解けたコトは遊戯に感謝するとして」
「よかったね、城之内くん!!」
「それでな、俺が海馬を許せねえっては‥‥。」
 そこで、城之内は一旦言葉を区切る。なので遊戯だけでなく、回りにいた者も一体
何を言うつもりなのかと城之内の言葉を息を詰めて待ってしまったのだが、
「俺が、海馬を許せねえのは‥‥あいつがっ、犯罪者だからだ!!」
「そんなの今更じゃねえかっ、もったいつけんな!!」
「ガフッ!!」
 思わず盛大なツッコミで力任せに城之内を後頭部から張り飛ばした本田だったが、
「‥‥へええーっ、本田くん、そんな乱暴なこと、ボクの城之内くんにするんだ‥‥?」
「なっ、なんでいつもの遊戯の方なのにデコ光って‥‥ギャアア!!」
「‥‥王サマも、容赦ねえなあ」
 実はこんなときだけ一心同体になって遠慮なく本田に制裁を加えた遊戯に、いつの
まにやら交代したらしい闇バクラが少しニヒルに笑っていたりもした。だが既に血だ
まりが二つになっても全く動じていないこの面々で、杏子は不思議そうに、しかしそ
こは穏便に城之内に尋ねていた。
「海馬くんが犯罪者だから?。ああ、そうよね、その自覚があるのか知らないけど、
素で銃持ってたり拉致監禁は当たり前、だものねえ。でも‥‥それが、今更どうしたの?」
「違う、そんな暴力とか殺しとか、そんなモンじゃねえんだよ‥‥!!」
 暴力も殺しも大した犯罪ではあるが、実際海馬のイメージに直結しすぎていてさほ
ど目新しい話題ではない。城之内もそれを認めているようで、そんなことを言った後
に、実に悔しそうに続けて叫んでいた。
「あいつは、あの海馬って奴は‥‥ドロボーなんだ!!」
「‥‥泥棒?」
 だが、思いきり衝撃的なことを言ったつもりらしい城之内にも、杏子も遊戯も、また
いつのまにかまた宿主の人格に戻っていた獏良も、それぞれ三者三様に首を傾げて
いた。
「ボク、てっきり海馬くんは存在そのものが犯罪だーっ、とかって言うのかと思って
たけど、違うの?」
「遊戯の言うのももっともだけど、ていうか城之内、アンタ、海馬くんになんか盗ま
れたの?」
「まっさかーっ、城之内くんの持ち物で海馬くんが欲しがるほど価値あるものなんて
ないじゃなーいっ、言いすぎだよ真崎さんっ」
 爽快に笑うお前の方が言いすぎだ、とは誰も獏良には何かが恐くて言わなかった
が、そのときハッとしたように遊戯が顔を上げていた。
「‥‥違うぞ、獏良。確かに城之内くんは今時笑ってしまうくらいのビンボーだが、
持っているものの中でたった一つだけ価値のあるものがあるぜっ、それも最高峰のな!!」
 たった一つとか言いきんな、ついでに笑うな、と嫌な顔をしている城之内をよそ
に、久しぶりに出てきたもう一人の遊戯はそう断言していた。それに、隣に面白そう
に近寄ってきた獏良は、やがて声をあげて笑い出していた。
「‥‥ヒャハハハっ、お宝と聞いちゃあ黙ってらんないねえっ!!」
 そしてしっかり闇人格に早代わりしていたバクラは、ニヤリと笑って闇遊戯に尋ね
るが、その際に闇遊戯の城之内に対する過保護具合も分かっていたので釘を刺してお
くのも忘れていない。
「で、王サマようっ、この城之内が持ってる最高峰の価値ってなんだよっ!?。ま、こ
れで『この愛らしさだ』とか言いやがったらお約束だけどよーっ!!」
 だがそんなふうにからかうように言ったバクラに、遊戯は自信たっぷりに笑ってみ
せていた。
「フン、所詮お前には分からないだろうな、バクラ‥‥それはっ、愛らしさだけでな
くこの猫っ毛な柔らかい髪、ほどよく掠れたそそる声、そしてその肢体の隅々にまで
溢れる城之内くんの色気こそが最高峰、まさに至宝と言わずして‥‥!!」
「‥‥しっかり寝惚けてんな、王サマも」
 もちっと寝てな、とバクラに無表情でズビシッと指で額を突き刺され、遊戯は口上
半ばにしてそのまま床に血だまりと共に事切れていた。そんな遊戯を、闇遊戯が倒れ
たからこそ慌てて抱き起こして揺さぶっている杏子は放っておいて、バクラはそのま
ますっと城之内に視線を向けていた。
「‥‥で、あの走る理不尽が何を盗んだって?」
「海馬のこと悪く言うなっ!!」
 お前が一番悪く言ってんじゃねえか普段、とは思いつつも、バクラはどこか怒った
ような顔をしている城之内を不躾にじろじろと見やる。
「な、なんだよ‥‥?」
 そんな視線を不可解そうに睨み返してきた城之内に、バクラはしばらくしてようや
くニヤリと笑って口を開いていた。
「いや‥‥宿主が言ってたのも、間違いじゃねえんだろうなって思ってたんだよ」
「はあ?‥‥て、コトはお前万年アイテムの方のバクラ!?」
「分かってなかったのかよ、てツッコミはテメェにはもうしねえけどよ、オレサマは
そんなにジジイじゃねえぞ?」
 シメるぞ?、と凄まれて城之内も素直に頭を下げていた。だがどうやら取り敢えず
城之内にとっては話を聞いてくれるなら誰でもよかったので、御伽が流血した段階で
他のクラスメートがそそくさと教室を抜け出し、本田が倒れ、遊戯も倒れ、そしてそ
の遊戯をこれ幸いと杏子が担ぎ出してしまったので実質バクラしか話し相手がいない
この教室で、切なそうに言葉を続けていた。
「ま、千年か万年かは俺的にはどっちでもいいんだけどよーっ、今問題は海馬、海馬
だってば!!」
「オレサマにとっちゃあテメェの首ふっとばしたいくらいの問題なんだがな、まあい
い、それであの羽ばたく不条理がどうした?」
「だから海馬はまだ飛びきってないっての!!」
 それはどういう切り返しだとバクラが思っていても、元々顔が邪悪な所為で、能天
気な城之内にはバクラが怪訝そうにしていることは分からなかったらしい。取り敢え
ずは大きくため息をついた城之内は、どこかつまらなそうに口を開いていた。
「だからよう‥‥あのヤロー、俺の大事なモン盗んでいきながら、学校にも来ねえで
のうのうとしやがって‥‥。」
「おーおーっ、そら大変だなあ、お可哀想になあ?‥‥で、どうすんだよ?」
 あっさりと尋ねたバクラに、城之内はしばらく黙る。それに、バクラはニヤリと
笑って続けていた。
「‥‥『取られたら、取り返せ』か?」
 だが、そんなバクラの言葉に城之内はいきなり顔を上げると、両手の拳を握り締め
て叫んでいた。
「いいやっ、男城之内、『盗られたら、盗り返せ』だぜっ!!」
「よく言ったぜっ、オメーもようっ!?。ヒャハハハ、こら面白くなりそうだな!!」
「おうっ、俺の勇姿見といてくれよ!?」
 さっすが一万年生きてる奴は話が分かるぜっ!!、と思わず嬉しそうに叫んだ城之内に、
「だから、オレサマそんなにジジイじゃねえっての」
「ギャア!?」
 バクラは再び無表情で城之内を事切れさせた後いつまでもの高笑いを一人で続けて
いたため、教室から響くその声に怯えた他の生徒や次の授業の先生は、昼休みが終
わってもいつまでも廊下でおろおろとするばかりだった。


 そして、このとき城之内克也に盗人呼ばわりされた海馬瀬人が、一ヶ月と三日ぶり
にこの教室に登校したのはこの翌日のことだった。






■NEXT

 

 

そして誰もいなくなった?(違います)。

ココまでが大体3ページ分くらい。
これは3本のうち1本目の冒頭なので、この後馴れ初めになります(笑)。

ちなみに第2話の副題は、「side2:体操服は漢のロマン!? 教室はハプニングがいっぱい★編〜 」、
第3話の副題は「side3:白い部屋の誘惑 嬉しハズカシ★初めて物語編〜 」です。

どっちにしたって、まともな思考の本じゃないです(笑)。
第3話は体操服エロ有り(笑)。
この本は、ギャグっぽいかな〜・・・・たぶん。