■だいすき





 鎌先から助言をもらったこの日、さっさと部室を出たのは別の理由もある。普段の休日ではできるだけ長く一緒に居たいので、練習が終わってからも部室でだらだら過ごすことも多い。特に今週は金曜の夜に家族が祖父母宅に行ったので、翌日である土曜日の夜に青根を泊めることはできない。いずれはきちんと家族にも紹介したいとは思っているが、青根の緊張を慮れば慎重に進めた方がいいだろう。なにより二口がまだまだ二人でべったりと甘えたい欲求が強く、結果的に青根が外泊不可の日は帰宅が遅くなる一方だ。
「つか、連泊してくるなら先に言っといてくれれば、洗濯とか焦らなくてよかったのになあ」
「……。」
 そんな二口が早々に青根と共に学校を離れたのは、練習をしている間に家族から祖父母のところにもう一泊してくるというメールが入っていたからだ。金曜の夜から行ったときは、たまにこういうこともある。だがいつもではないし、期待はしてなかったが、今日に関しては最高のタイミングだった。
 やや心配したのはむしろ青根の両親だったが、いつものように電話をすればあっさりと許可をくれた。恐縮しきりの様子には心苦しくなりそうだが、それも当の息子がずっと嬉しそうにしているので罪悪感は相殺される。食事を近所のコンビニで購入し、自宅まで並んで歩きながら二口は電話をする。切る頃には玄関についており、鍵を開けて中へと入り、扉がバタンと閉まる頃には靴も脱がずに青根にキスしてしまった。
 相当心が浮ついていた証拠だが、いつにない行為に青根の方が興奮しかけてコンビニ袋を持ったまま強く抱き締められる。きつく絡められる舌にそのまま流されそうなるが、押し留まれたのはより大きな期待があったからだ。
 鎌先は、本当に天才なのではないだろうか。
 あの素晴らしい助言を実行すべく、二口はそわそわして仕方がなかった。
「青根、もう寝るか?」
「……!?」
「……バカ、冗談だよ」
 昨日よりは早く帰っていたこともあり、メールで家族から頼まれていた家事を少しだけやっておく。後回しにすると、いつ青根の性欲が爆発してできなくなってしまうか分からない。昨夜あれだけヤったのにと思うが、今夜もしたい二口に言えた義理はない。
 夕飯と入浴まで済ませても、まだ夜の九時台だった。いちゃつく時間はたっぷりある。昨日と同じく先に青根を風呂へと入らせ、助言を実行するための準備を進めた。上がってきた青根はだいぶ興奮状態にあったので、うっかり押し倒されないように正面からではなく後ろからタオルで髪を拭いてやる。きちんと水分を補給しておけとミネラルウォーターを渡し、二口の部屋で待っておくようにしっかりと言い聞かせる。だいぶ視線が揺れていたので風呂場に乱入されることも三割くらいの確率で覚悟していたが、幸いにして自制してくれたようだ。さすがに昨日あれだけしたのでやはり落ち着いているのかと思いながら部屋に戻った二口は、ベッドで正座するでもなく本棚に向かって立っていた青根には軽い調子で声をかけておいた。
 ガラス戸付きの本棚の前で何を見ていたのかくらい、二口にも分かる。額に入れず飾っていた中学の部活引退時の集合写真だ。学校生活を垣間見るのは楽しいが、それより嫉妬の方が苦しくて今日は写真の束を見るのはやめたのだろう。昨日からずっと一緒なので、まだ青根が傷つきそうなものを取り除いてやれていない。我慢してくれてよかったと安堵しながら、二口は青根の後ろを通り過ぎて先にベッドに腰を下ろした。
「まだ寝ねえけど、早く、来い」
「……!!」
 ギシリと軋む音に気恥ずかしさを覚えつつ、二口は座ったベッドの横を軽く叩いてみせた。
 それに弾かれたように青根は頷き、そそくさと近寄ってきた。狭い部屋では、青根の足だと三歩もかからない。隣に座ってそのまま腕を回そうとしてくる青根より先に、二口の方から手を伸ばした。
「……!?」
「……あ、もうだいぶ乾いてるよな」
 明らかに期待して硬直した青根に対し、二口が手を伸ばしたのはその短い髪だ。頭を引き寄せるようにして顔近づけるでもなく、ただ指で髪を梳く。風呂上がりに二口がタオルで軽く拭いてやっただけでも、ほとんど乾いているような状態だった。二口の方は脱衣所のドライヤーで乾かしている。秋口までは濡れたまま押し倒されたりもしていたが、今の時期では確実に風邪を引きそうだし、なによりちゃんと乾かさないと朝のセットが大変なのだ。
「やっぱこれくらい短いと、乾くの早いよな」
「……。」
「ボウズとは言わねえけど、オレももっと短くしようかな……?」
 さして意味のない会話だったが、次第に二口は本当に悩みだす。昔からほぼ同じような髪型だったが、中学の頃はよく前髪が長いと怒られた。実際に、元々長めにしてあるので少し伸びただけでかなり邪魔そうに見えるらしい。その点を二口は気にしていないが、青根が泊まっているときはこの髪型はいろいろ時間を取られて面倒くさい。青根の髪から手を外し、つい自分の前髪の毛先を指でつまもうとしたが、先により大きな手でかきあげられた。
「青根……?」
「……かわいい」
「……。」
「……ずっと、かわいい」
 だから、切らなくていい。
 青根はそう言いたいのだろうが、そもそも可愛いと言われるのを二口が嫌がるのを知っていて、それは逆効果だ。だが真剣にじっと見つめて言われると、二口も恥ずかしくなってくる。本題を切り出す前の他愛ない話のつもりだったのに、照れくさくて仕方がない。思わず視線を逸らしても青根の手は髪をかきあげるようにして添えられたままだし、隣からぐっと顔を寄せられると逃れる気もなかった。
「んっ……んぁ……。」
「……。」
 唇を重ねている間に、腰の後ろにも腕を回され、しっかりと抱き寄せられた。
 このままベッドに横たえられ、愛撫に身を委ねれば気持ちいいだろう。青根に愛されていると感じる。だがそれでは、今までと同じだ。今日こそはと誓った決意をなんとか保ち、二口は青根の背中に回した手でTシャツの上からさすった。
「……?」
「背中、痛かっただろ? 昨日も、いっぱい爪立てちまったから……。」
「……。」
 痛そうではなかったが、青根は首を横に振ることはない。背中に新たな引っ掻き傷があることは否定できないからだ。以前鎌先に部室で指摘されて以来、前にも増して二口はちゃんと爪を切るようにしているが、それでも思考が曖昧になるほどされると気をつけようがない。少しため息をつき、いたわるように撫でるのは演技ではない。だが、それだけでもなくて、二口は気にしなくていいと頬を撫でてくる青根を見上げた。
「だからな、青根、オレ考えたんだけどさ」
「……?」
 ほとんど押し倒されるような格好から抜け出し、二人でベッドの中央に座りこむ。そしてしっかりと視線を合わせて、二口は訴えた。
「今日は青根が寝ててくれね? オレが頑張るっ」
「……。」
「あ、でも青根に突っ込むて意味じゃねえけど」
「……!?」
「……なんでいちいち驚くんだよ、むしろそっち期待してんのかって戸惑うじゃねえか」
 相変わらず青根は二口とできるならば役割にさほどこだわらないようだ。ただ、受け入れる側は初めてになるので教えてほしい、慣れるまでは我慢してほしい、その程度だろう。二口も男なので全く興味がないわけではないのに、たまに青根がこういう反応で情の深さを見せてくれるので、組み敷きたい欲求は削がれてしまう。そもそも二口も青根からの執着を感じたい部分も大きく、すっかり体も慣れたこの分担に抵抗はない。
 この夜もあっさりと二口が言えば、青根はまた戸惑っていた。それに二口は少し伏し目がちに返す。
「ほら……初めての、とき。オレ、途中までしかできなかっただろ?」
「……?」
「あれ、結構気にしてたんだ」
 これも、嘘ではない。初めて青根と最後までするに至ったとき、全部教えてやると言いながら二口は繋がったところでほとんど動けなくなってしまった。痛みも圧迫感も凄かったが、絶対に頑張りきれなかったのかと問われれば、頷くことに少し躊躇う。たとえばあのとき、最後まで二口から腰を振って青根をイかせなければ身内が殺されるだとか、どうしようもない理由があれば当然できたと思うのだ。
 それでも、途中で諦め、すがったのは、単に意志の弱さだけではない。全部教えると豪語しても、やはり青根からも動いてほしかった。自分と最後までしたいのだと行動で示してほしくて、投げ出すふりをして引きずり込んだ。
 結果的に、青根は期待通りに犯してくれたし、多少の紆余曲折はあっても今ではこうしてきちんと恋人として手を出してくれる。
 そのことは、本当に嬉しい。
 だからこそ、初めてのときのずるさを、今更のように償いたい。
「だから、今夜こそオレが全部してやるし、背中にも傷はつけないようにするから、青根、いいよな?」
「……。」
「……ん、ありがとっ」
 大好きだとうっかり零れそうになる前に、二口はチュッと唇を寄せておいた。むしろ、そのまま口走れていれば悩むこともなかったのだが、反射的にしてしまうので我慢しようもない。
 青根はどこまで理解しているのか怪しいが、とにかく大きく頷いてくれた。それに安堵し、もう一度唇を重ねる。舌を絡めて深まる前に名残惜しさを振り切って手を離した二口は、ゆっくりとベッドから下り、ほとんど荷物置き場になっている学習机に向かった。
「……?」
「……じゃあ青根、始めようぜっ」
「……!?」
 鎌先だけでなく、小原の助言も聞き入れて二口は笑顔で振り返った。
 手にはいわゆるマフラータオルが二本と、中学時代の体育祭で使用した鉢巻がある。ビクッと驚いて肩を震わせた青根は、怪訝そうにこちらを見上げてきた。それに、二口はニッコリと笑って返しておく。
 初めての際のリベンジがしたいという発言で、青根はてっきり仰向けになるだけだと考えていたのだろう。その解釈を、間違いだとは思わない。だが怪我回避より、初体験リベンジより、もっと大きな目的がある二口にとっては必須アイテムだ。
「なんだよ、させてくれるって言ったよな? 嘘なのか?」
「……!!」
 わざとらしく拗ねたように言ってみれば、青根は慌てて首を横に振る。
 本当に、バカだ。バカすぎて、また愛しい。
「じゃ、いいんだよな?」
「……。」
「青根、両手出してみ?」
 念を押せば、戸惑いつつも頷いた青根に、二口はすっかり気を良くしてベッドに戻った。
 青根をまずは中央より上へと移動させ、その前に腰を下ろす。そして当然のように促せば、青根も覚悟を決めたかのように両手を出してきた。左右の手首をつけるようにされると、まるで犯人が自首してきたかのようだ。
「……まあ、ある意味においては泥棒みたいなもんだけど」
「……?」
 心を奪われたからといって被害を訴えるつもりもなく、二口は適当な独り言をこぼしながらまずはマフラータオルで青根の両手首を括った。8の字になるようタオルを回し、幅を広くもたせて緩めに結ぶ。指を差し込める余裕もあるので、きつすぎることはないだろう。
「あんまり暴れたりするなよ? 怪我させたいわけじゃねえんだからな?」
「……。」
 そこだけは念を押し、もう一本のマフラータオルを手首の間に結びつけた。それをベッドヘッドの模様代わりの穴に通して括ればいいのだが、その前にまだやっておくことがある。不安がっている青根には構わず、枕の位置を調整してから二口は鉢巻を手にした。
「オレさー、中学三年の体育祭で、応援団だったんだよなあ」
「……?」
「練習きつかったし、それとは別件でまたいろいろあったし、まあ当日は楽しくなかったわけじゃないけど、まさかそのおかげで今は目隠しにぴったりなのが手元にあるなんてやっぱ応援団やってよかった」
「……!?」
 二口の中学では、鉢巻は本来学校の備品で、練習や体育祭当日に配られてまた回収されるものだった。だが応援団になった男子生徒だけは自分で用意することになる。正確には、女子生徒が自発的に作ってくれるので、二口の場合は作製権を巡っていろいろと揉めた。
 ともかく、通常の倍以上の長さがあるため、頭に二巻きしても結ぶ余裕はたっぷりある。ほぼ中央をまずは青根の目元に当てようとすれば、さすがにタオルで結んだ両手でぐっと胸を押された。
「ん? ああ、大丈夫だっての、ちゃんと横で結ぶから仰向けになっても結び目が痛くないようにするし」
「……。」
「体育祭が終わってから洗濯して仕舞ってたし、別に汚れてはないぞ?」
「……。」
「髪も巻き込まないように結ぶから、大丈夫だって?」
「……。」
「……それとも、見えねえくらいでもうオレのことが分かんなくなるのか」
「……!?」
「安心しろって? 不安になんかさせねえくらい、いっぱい触って、声も聞かせてやっから」
 ずるい口説き方だと分かりつつ、押し返す手が弱まったので二口はそのまま鉢巻で青根の視界を塞いだ。頭の後ろで交差させる際に、しっかりと抱き込むようにして耳元で囁き、ビクリと反応があったところにチュッと唇を触れさせる。それにまた青根が動揺するのを、二口の方はしっかりと眺めながら体を離し、ぐるりと回した鉢巻の端を頭の横で結んでおいた。
「痛くないか?」
「……。」
「じゃあ、ゆっくり仰向けになってみろ」
 頷きが小さいのは、動揺の裏返しだろう。青根は本人がしゃべらない分、他人の意志を汲み取ろうとする意識は強い。それが正解かは別として、詳細を聞きだすということができない以上、相手の言葉だけでなく声色や口調、表情、仕草など、目と耳を総動員して周囲を警戒する野生動物の気質が染みついている。
 その青根が視界を閉ざされるというのは、相当な恐怖があるはずだ。本来の意味での身の危険だけではない。大好きな二口に嫌われないよう、感情を探る術の主力を失った。とにかく動揺が収まらないらしい青根にも、二口はさっさと明確な指示をして次に進ませる。
 こういうときの青根には、取るべき行動を指定してやった方がいいのだ。戸惑ってはいても、青根はゆっくりと体を押していく。二口も背中と頭を腕を回し、枕も挟むようにして横たわらせてから、青根の手首を撫でる。
「これ、ベッドヘッドに括りつけるからな?」
「……。」
 宣言して青根の両手を上げさせて、手首を括るタオルに結び付けられた方のタオルをベッドヘッドに結んだ。どちらもさほど固くはないので、青根の力があれば自力で抜け出すことは可能だろう。だがその際に捻りでもすれば大変だし、赤く擦れただけでも居たたまれない。
 とにかく、暴れたりしないように、怪我をしたりしないように。
 そう本気で思い、青根にも繰り返しているが、二口にはやめる気はない。しっかりと青根の両手をベッドヘッドに固定してから、膝立ちのままやや後ろへと下がり、腰の辺りに座り込んだ。
「……!?」
「……やばい」
 逞しい体に遠慮なく腰を下ろし、しみじみ眺めた二口は自分がそう呟いたことにも気がつかなかった。
 元より青根の方が体格も良く、筋力なども断然上だ。試合中の気迫だけでなく、二口に対する執着も時折獰猛の域に達する。性欲も、独占欲も、やたら激しい。それを二口は嫌がってはいないし、むしろ嬉しい。幸せだ。求められるとあんなにも満たされるのに、今はそれを二口が封じた。青根も、もどかしくて不満だろう。何もかもが噛み合っておらず、互いに渇望だけが増していくはずなのに、どうしてだか体の疼きが止まらない。
 あれだけ二口を欲しがる青根を、組み敷いていることに昂揚した。
 好きによがらせていいのだと思うと、どうしようもなく欲情した。
「なんか……すげー興奮する」
「……!!」
「青根……。」
 そのまま腰に腰を擦り付けたい衝動に抗って、二口は少し前屈みになり、まずは片手を頬へと添える。それに青根はビクッと一度震えるが、せがむように開かれた唇が赤い舌で舐められるのを見て、もう我慢はきかなくなった。
「……!?」
「んんっ……ん、んぁ……!!」
 唇より先に舌で舌へと触れ、口内へと押し込める。最初は驚いた青根も、すぐに舌を絡めてキスを深めてくれる。互いの唾液も混ざって立てる粘着質な音が、本当にいやらしい。
 腕を使えない青根に対し、自由な二口は顔や首、腕などを好きなように撫でる。今日はキスの角度を変えるのも二口からで、それだけでも主導権を握れた気がした。たとえ絡める舌が次第にこちらの口内に侵入してきたり、強く吸われてまた腰が甘く疼いたとしても、だ。紅潮した顔を見られる心配もないので、たっぷりと甘いキスを交わしてから二口は深く息を吐く。
「ん……こういうの、たまには、いいよな……。」
「……。」
 毎回であれば、物足りなくて、寂しくて、快楽より不安が溜まっていただろう。だが今では青根が過剰なほど愛撫も慕情も注いでくれるので、少しくらいは平気だ。うっとりと囁いてキスを外した二口に青根は不満そうに声だけで見えない視線を追う。それに二口は動かせない手を撫でてやってから、青根の首筋に顔を埋めた。
「……!?」
「バカ、今日は……一回目は、オレにやらせろ、て、言っただろ……。」
「……。」
 頬から顎へと舌を這わせ、更に首筋まできたところで一度強く吸っておく。それに青根がビクビクと反応をするのを愉しみながら、二口は鎖骨に軽く歯を立てておいた。
 その間に、青根が寝巻き代わりにしているTシャツの裾をめくる。さすがにこの時期なので長袖だが、上はこれ一枚だ。いくら暖房を効かせているとはいえ、寒くないのだろうか。そんな心配も、触れた素肌が自分よりずっと体温が高いことが分かれば、気にならなくなる。
「青根……。」
「……。」
 自分も鍛えているつもりだが、やはり筋肉のつき方が違う。女性のような柔らかさなど微塵もないのに、やけに興奮した。先ほど噛んだばかりの鎖骨に今度は下から触れ、ぐいっとシャツはたくし上げておく。久しぶりに青根を脱がすことができただけでも満足する。歯型もほとんど残っていない鎖骨を撫でていれば、次第にそれだけでは物足りなくなって、再び二口は顔を寄せた。
「……?」
「……最初に教えたの、オレなのに」
「……!?」
「オレばっかよがらせてんじゃねえよ、バカ……。」
 まだ最後まではしていなかった頃、愛撫の手管を教えたのはいつも二口からだ。幼くて曖昧な知識しかない青根には、キス以上のことはいまいち分かっていない。女性相手ではないのだからというプライドは、青根の箱入り具合の前に惨敗した。とにかく自分が最初は教えなければという使命感もあり、始めたことは、今ではすっかり青根から施されるばかりで少し悔しい。
 鎖骨を舌で撫でた後、そのまま胸へと滑らせて軽く片方に吸い付いた。子供がする幼いキスのような仕草でも、青根は息を飲むほど驚いている。正直、気持ちいいのかは今でもよく分からない。教え込むときは二口も羞恥と戦うの必死だったし、それが過ぎた頃には青根から逆にされて戸惑うくらいよがってしまった。
 舌で舐め回したり、指で弄るのも青根からの仕草を真似ているようで悔しさがまたぶり返す。それでも、たっぷりと唾液を垂らして捏ね回し、時折強く刺激すれば青根が息を詰めるのは分かった。次第に荒くなっていく息は、胸が大きく上下することでも生々しさを伝えてくれる。
 青根も、気持ちいいのだろうか。
 荒い息はまだ喘ぎとは言いきれないもので、二口は少し顔を上げて尋ねる。
「なあ青根、お前も、こういうの……気持ちいい?」
「……!!」
「オレは、お前にされてると……時々、イッちゃいそうに、なるけど……。」
「……!?」
 女でも胸を弄られただけでイくと聞けば、演技をまず疑うだろう。だが二口はたまに本気で不安になる。その日初めてのときであれば、先にキスや他の愛撫で高められていることも大きい。ただ、回数を重ねられると、過敏になった体が軽い刺激でも簡単に絶頂を迎えるようになる。それがキスであり、また胸を弄られることなのだ。
 個人差があるので、いくら二口には気持ちが良くとも、青根も同様に感じる愛撫とは限らない。返事はないが、相変わらず息が荒い青根は口を少し開けていた。苦しそうに噛み締めてはいない。そのことで、少なくとも嫌ではないのだろうと安心して、二口はもう一度キスをしておいた。
「……!!」
「……青根?」
 そして、そのまま更に下がってジャージに手をかけたところで、二口はふと気がついた。布越しでも、青根のモノが勃っているのが分かる。いつものことと言えばいつものことで、青根は熱を溜めやすく、それを維持しやすいのだ。
 ただ、それでも今はちゃんと興奮してくれているのが嬉しくて、ジャージの上からぐりぐりと顔を擦りつけてしまった。
「……!?」
「青根っ、久しぶりだし、口でしてやるな?」
「……!!」
 足までは固定していないので、動かそうとすればそれも可能である。何に動揺したのか、軽く膝を立てるようにしていた片足が、シーツで踵が滑ったところに二口は跨ぐようにして座り直した。故意に蹴られるとは思っていないが、無意識に暴れられると危険だし、なにより後から青根を凹ませるだろう。少しくらいは拘束しておきたかったので、片足に体重をかけながら下着ごとジャージをやや下ろす。
「……あれ?」
「……。」
 そうして弾むように出されたモノは、想像より角度がついている気がした。ただ、わずかな差が分かるほどの経験はないので、二口は首を傾げつつもそっと手を添える。
「……あ。やっぱ、熱い」
「……!!」
「そんで、すげー硬い……。」
 なんとなく、以前何度か口でしたときよりも、最初から熱を溜めているように思えた。素直な感想を漏らしながら手で撫でている間にも、青根のモノはどんどん育っていく。
 先走りの液でやや濡れた先端を、指でつつき、全体を擦る。ビクビクと脈打つのが分かるほど硬くなっている剛直にはゴクリと唾を嚥下してから、二口は尋ねてみた。
「……もしかして、もう、イきそう?」
「……。」
 それに、青根は一瞬止まった後、枕に乗せた頭をゆっくりと動かして頷いてみせた。
 どうやら、本当に限界が近いらしい。早漏だといまだに気にしている青根は、むしろ遅すぎるくらいに我慢しがちだ。その青根が素直に認めたのだ、そんなにも気持ちよくなってくれたのかと思えば二口も嬉しくてたまらなくなり、青根には見えない満面の笑みを向ける。
「でも、オレの中で出してほしいから、もうちょっと我慢してくれよなっ」
「……!?」
「口で出すなよ? オレ、今日こそはお前のこと後ろでイかせるって、決めてんだから……んんっ」
 ギシリとベッドを軋ませて腰を上げた二口は、下だけ自分の衣類も脱いでおいた。いつもは青根がしてくれる馴らしのために、専用のジェルはベッドの脇に隠してある。それをたっぷりと指に纏わせ、久しぶりに自分で後ろを慣らし始めた。同時に身を屈めて顔を寄せ、反対の手で支えた青根のモノをゆっくりと口に招き入れる。
「んっ……んん、んぁ……!!」
「……!!」
 すっかり大きく屹立したモノは、ただでさえ奥まで咥えるのが難しいのに、まともに舌も動かせそうにない。口内から先に犯されている気になりつつ、二口はそれでも必死で頭を動かし、舌と唇で青根のモノを愛撫した。先走りの汁と唾液が混じり、滑りが良くなっていくのが嬉しい。
 これは、もうすぐもっと生々しく繋がるところで感じられる。今は自分の指で馴らしているが、その程度では足りない。太さも、長さも、何より熱が足りていないのだ。早く味わいたくて必死にしゃぶっていると、ふと青根の足が当たった。
「……ん?」
「……。」
 跨いでいる方とは反対の足が、明らかにわざとぶつけられる。蹴られたというほどの威力はなく、本当に、ただ当てられた。それでも視野が狭くなりかけていた二口は少しだけ意識が引き戻され、口淫から顔を上げてみれば、青根が強く唇を噛み締めているのが分かる。
「……もう、イきそう?」
「……。」
「オレに、挿れたい?」
「……!!」
 怒ったり、苦しんでいるのではない。いや、ある意味では苦痛と戦っているが、何度も小さく頷く青根には興奮して堪らなかった。まだ馴らし足りない気もするが、きついくらいの方がいいかもしれない。なにより、青根からそうせがまれてまだ焦らせるほど二口も我慢できるはずがなく、指を抜いてゆっくりと体を起こした。
「オレ、ちゃんと動いて、お前のことイかせてえんだから。入れただけで、イッたりすんなよ……?」
「……。」
 這うようにして腰まで移動し、姿勢を起こしてから後ろ手で青根のモノを支える。自らの腰を落として先端を後孔に当てると、ぞくぞくと体が震えた。すっかり覚え込まされた快楽を期待する腰は疼き、大きく深呼吸をしてから、二口は自ら体を落としていった。
「ん、んぁ……く、あぁっ、んん……!!」
「……!!」
 やはり少し早急だったのか、いつもよりはきつい。それでも、嬉しい。潤滑剤と唾液が混ざりながら挿入を助け、根元まで飲み込んだところで一度ぶるりと腰が震えた。
 青根のモノは、まだ熱を保っている。硬いままだ。繋がっただけでイッたりするなと二口が言ったので、青根は耐えたのだろう。それに比べると、やはり自分は覚悟が足りない。甘えている。気持ちいいとどうしようもないと思わず笑いながら、呼吸が整うまで待って、二口は自分のシャツの裾を持った。
「あー……オレは、ちょっと、出しちまった」
「……!?」
「仕方、ないだろ……だって、青根のが、こんなに……んんっ……。」
 相変わらず目隠しをされたままの青根には見えない。だからこそ、二口は自らシャツを持ち上げてはしたないところを見せつける。
 我慢する気もなかった二口は、軽く射精していた。青根の大きな手で遠慮なく扱かれ、失神しそうになるいつもの絶頂とは違う。愛撫などほとんどされていないも同然なのに、興奮していたのが恥ずかしい。それなのに、青根には教えたい。シャツの裏についた精液を指先で軽くすくいとり、青根の腹へと擦りつける。本当に出したのだと示しながら、二口はまた腰を揺らした。
「んぁっ……あ、でも……オレの、まだ、勃ってる……。」
「……!!」
「青根のが、中で、擦ってくれねえと……ちゃんと、イけねえ体になっちまっただろ、バカ……。」
「……!?」
「んぁっ!? ……こら、動くな。オレが、お前のこと、ちゃんとイかせてやる」
 弾みなのか、わざとかは分からないが、腰を下から突き上げるようにした青根には叱っておいて、二口は前屈みでシーツに手をついた。軽くでも一度出したので、意識は保てている方だ。きっと今回は上手くいくと信じて、二口は腰を持ち上げ、また落としてみた。
「ふ、あぁっ……んぁ、ア、ああぁっ……!!」
「……!?」
 だが、早くも絶望的になってくる。ずるりと引き抜いたときは、熱が離れるもどかしさで名残惜しくキュウキュウと締め付けてしまう。再び腰を落とすときには、奥まで咥え込まされる熱と質量に、疼く全身が悦んでもう崩れ落ちそうになる。
 初めてのときに挫折したのは、慣れなさすぎて無理だった。
 それが、今は慣れすぎて、この快楽に甘やかされすぎて、無理だ。
「青根っ、青根……んぁっ、んん、ア……!!」
「……!!」
「はや、く……出し、て……んっ、んぁ、ああ……んん、ぁ、アア……!!」
 最初こそ抜けそうなくらい腰を上げたが、それでは喪失感が凄くて体力以外の面でも抜き差しは徐々に小さくなる。すると、突き入れられたときの落差も小さくなり、もどかしさで二口は腰を揺らした。たっぷりと使った潤滑剤がグチュグチュと濡れた音を立てるのも、物足りなさを煽る。
 本当は、もっと体が触れたり、ベッドが軋むような音の方がいい。言葉はなくとも、抱き締められて、興奮からの荒い息を聞きたい。すべてが無理ならせめて中に熱い快楽の証を叩きつけてほしくて、とにかく腰を揺らすしかない二口は、嫌な予感そのままに再び体が震えた。
「あお、ね……んぁっ、ア、あああぁぁっ……!!」
「……!?」
 今度はしっかりと全身が疼き、中途半端だったモノが弾けた。情けないと思うのに、それよりも気持ちよくて仕方がない。後孔は拗ねたように青根のモノを締め付けたが、それが良かったようだ。
「……!!」
「……あ……青根、も?」
「……。」
 イッてくれたのだと分かり、二口はほっとした。
 そもそもは青根に跨ってイかせることが目的だったので、先に自分が一回半くらい出していても問題はない。これで、達成できた。達した余韻と嬉しさでぼんやりする頭では、もっと根本的なことを霞ませてしまう。互いに荒い息のままでもキスがしたくて、二口は繋がったまま顔を寄せた。そこでベッド以上にタオルがギシギシと鳴っているのに気がつき、火照った頬を撫でてやる。
「青根、暴れんな、て……もう、外して、やっから……。」
「……。」
 引っ張られるほどきつく締まりそうなので、二口はそう言い聞かせてから労わるように手を押さえた。すると青根も大人しくなる。名残惜しいが後孔からは一度抜き、ベッドヘッドに括りつけたタオルへと手を伸ばした。
「んっ……あ、ほとんど、取れかけてるな……。」
「……。」
「お前、大人しくしとけって、言った、だろ……。」
 まだ整いきらない呼吸の合間に苦笑して、二口はまずはベッドと結ぶ方を外してやる。少しほっとした様子の青根は頭の上から胸の前へと両手を下ろしてきて、こちらは少し締まっていたがなんとか外すことができる。心配したほど赤く擦れた痕もなく、ほっとしながら確認した。
「青根、痛かったり、しないか……?」
「……。」
 手を引きながら体を起こさせ、腰を跨いで座った二口がそう尋ねれば、青根は軽く肩を回したり手首を振ったりしているようだ。どうやら問題はないようで、大きく頷いている。だが視線が絡むことはない。既に両手が自由になった青根は自分で目隠しも外せるが、触れることはない。二口がしたがったことなので、勝手に外してはいけないと思っているのだろう。
 その律儀さも愛しくなりながら、二口は横の結び目に手を伸ばす。それを解けば二重に巻いた鉢巻などすぐに外れてしまうと思うと、どこかもったいなくなって頭を抱え込むようにして腕を回した。
「青根……。」
「……?」
「……大好き」
「……!?」
 告げたのはほとんど無意識だった。すぐに自分で気がついたが、同時にこれが本来の目的だったのだともやっと思い出す。
 初体験のリベンジや、背中に爪を立てることへの配慮であれば、縛ったり視界を閉ざさせる必要はなかった。敢えてこうしたのはずっと告げたい言葉があったからで、ようやく口にできた喜びは気恥ずかしさに勝てず、照れ隠しで唇を塞ぐ。
「んんっ……?」
「……。」
 このとき、青根の両手はとっくに自由だ。既に腰の後ろに緩く回されていた。
 二口から、大好きだと告げられて、キスまでされるのだ。大喜びした青根は強く抱き返してキスを深めるのだと、勝手に期待していたのだと思い知らされる。空いた両手は、何かに耐えるように二口のシャツの裾をギュッと握っただけだった。更にキスも深まることはなく、だんだん不安になってきて唇を離せばずるっと鉢巻が滑ってようやく青根の瞳が拝めた。
「青根……?」
「……。」
 しかめ面なのはいつものことであるし、特に今は眩しいのだろう。何度か瞬きをして、明るさに慣れようとしている。
 だが次第に焦点が合ってきた青根は、やけにじっと二口を見据えてきた。これまで見つめ合ったことは何度もあるが、やけに怪訝そうで、相変わらず息も荒くて、二口の不安は増していく。
「あれ……もしかして、怒ってんのか……?」
「……。」
「違うなら、なんで、そんなに……?」
 青根も気持ちよかったのだろうし、怒られる筋合いはない。ちゃんと合意の上だ。確かめてみると、青根は首を横に振って怒っていないと示す。だが気配は獰猛なままだ。
 怒りではないのかもしれないが、青根の感情が非常に揺さぶられたことは間違いない。そして、いまだにそれを昇華できず、持て余している。殴られるような心配はしていないが、少し内心で後悔していた。こういう倒錯的な行為は、性的な知識においては幼い青根にはまだ早かったのかもしれない。焦るあまり、嫌われたくなくて取った行動は、いい加減控えなければと常々反省していたものだ。
「……青根は、オレのこと、好き?」
「……!!」
「好きじゃねえの?」
 こう尋ねれば、二口が不安がっていると察して青根は大抵のことは頭から吹っ飛んで慌てて機嫌を取ってくれる。大好きだと慰めてくれる。今もそうして甘やかしてほしかったが、随分と苦しそうな顔をした青根はいきなり押し倒してきた。
「おわっ!? ……あ、青根?」
「……。」
 いっそ、そのまま繋がるだとか、性的な欲求が見えれば二口も不安にはならない。言葉に出せないほど、性欲が高まっているという証拠だからだ。だが押し倒し、足を開かせるように片方の膝をぐっと押したところで、青根はまた止まった。苦悩するように黙り込む。それがまた怖くて頬へと伸ばした手は結局触れることは叶わず、肩を掴んできた青根にあっさりとひっくり返された。
「えっ……あの、青根、なんで……?」
「……。」
「……んぁっ!? ア、あぁっ……!!」
 ベッドで足側に向くようにうつ伏せにされ、驚いている間に腰だけ持ち上げられる。下の衣類は自分で脱いでいたし、先ほどまでは青根と繋がっていたのだ。今では潤滑剤だけでなく滑りがよくなったそこに、再び剛直が突き入れられて二口は驚くより体が甘く震えた。
「んぁ、あ……なんか、いつも、より……ふか、くて……んぁっ、ふ、アァ、んんんっ、んぁ……!!」
「……。」
 出したばかりなのにもうそんなに硬くなっているのはどんな鍛え方だと呆れたいほど、青根のモノは深く、強く、二口を抉った。すっかり性器として開発された後孔は悦んで受け入れ、快楽を貪る。気持ちの方は追いつかないのに体だけが勝手に熱を溜めていき、更には後ろから伸ばされた両手が胸や性器まで弄ってくるのだ。堪えようがない。
「あっ、んぁ、ア……あお、ね、なんで……んんっ、んぁ……!!」
「……。」
 だが、いくら気持ちよくても、物足りない。心の方が、飢えている。
 ベッドの足側にまとめていた掛け布団を手繰り寄せ、ギュッと握り締めて二口は快楽に耐えた。抵抗して中断させるほどの恐怖はない。もし青根が憤慨して二口を嫌いになったのであれば、そもそもこうして繋がることはない。認識が幼い青根には、懲罰や制裁としてのセックスはありえないのだ。
 こうして繋がるほどには興奮し、したがっているのだろうが、答えてもらえないことは地味に効いてくる。いつにない体勢も、それに追い討ちをかける。
「あおねっ、あお、ね……んぁっ、ア、やだ……んんっ……!!」
「……。」
「おれの、こと……すきじゃ、ないなら、こういうの……んんっ、んぁ、やぁっ……んん、ん……!!」
 嫌だと繰り返しても、青根は腰を打ちつけるのも手での愛撫も止めてくれない。二口も体だけはどんどん昂ぶって、次第に思考も鈍くなっていく。
 いっそ、めちゃくちゃに犯されて、何も考えられなくなれば気にしなくてすむ。
 自然と青根の律動に合わせるように腰が揺れてしまう中、そうぼんやりと考えたとき、ふと聞こえた。
「……だいすき」
「あお、ね……?」
 大好きなら、こんなヤり方をするな。
 当然の文句も言葉にできないほど、再び深い律動が始まって二口はもう快楽に落とされてしまった。
 







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