■だいすき





「……で、昨日の鎌ちのアドバイスは失敗だったんだね?」
「なに勝手に決めつけてんだよ茂庭!?」
「だって他に考えられないし」
「ああ、他に考えようがないな」
「そうですよねえ、他に考えられませんしねえ」
「そうとはまだ限んねえだろ!? ……おいっ、二口!!」
 翌日の日曜日、二口は前日より更に気だるい体をおして休日練習には出た。青根は相変わらず平気そうだ。それがまた悔しくなる。
 ただ、昨日と違うのは、二人の間にあからさまに会話がないことだろう。青根はそもそもまずしゃべらないが、いつもは二口があれこれずっと声に出してコミュニケーションを取っている。今朝からは、それがほとんどない。正確には昨日の夜、セックスが終わってからずっとそうなのだが、鎌先を除いた三人は気がついているのだろう。
 発端は単純に、昨日の夜の行為だ。
 二口は、二つの不満を抱えている。後ろからされたことと、好きだとやっと告げたのに特に喜んでももらえず流されたことだ。
 青根の不満は、よく分からない。拘束されてするのがよほど嫌だったのだろうぐらいにしか、二口も想像していない。
「……なんですか」
「怖い!! ……茂庭、代わりに尋ねてくれ」
「なんでだよ、鎌ちが原因作ったんだから、ちゃんと責任取ってよ……。」
 そう言いつつも、茂庭が穏やかな笑顔で来られると、鎌先のように冷たくはできなくて二口も困った。
「二口、青根とケンカしちゃった?」
「……いえ」
 そもそも、二人は喧嘩をしているわけではない。互いに意地を張っている状態だ。青根は基本的に複雑な事情を説明することは無理に近いため、二口の方が黙ってしまうと歩み寄りは困難だ。青根だけが拗ねているのであれば強引にいけるが、今回は二口も拗ねている。不安になっている。青根から絶対的に好かれているはずだという自信がなければ、言いたがらない青根に無理に口を割らせることは嫌われるのが怖くてできるはずがない。
 だがなりふり構わず突進するほどでもないのは、こんな状態でも青根と接触はあるからだ。言葉も、少しは交わしている。昼食ももちろん一緒だった。互いに察することに長けすぎていて、日常的なことであれば仕草だけでほとんど通じる。肩を叩いて注意を引き、行く方向を示す。時間ならば携帯電話を示す。コンビニに行っても弁当を選ぶには指を差すだけで済むし、交換してほしいおかずは口を開けてねだるだけでちゃんと放り込まれた。それがまた無言でアジト制圧に向かう特殊部隊のように見えて余計に恐怖を煽ったようだが、自分たちの所為ではないと二口は思っている。
 とにかく、ひたすら言葉での会話がないだけで、青根を無視していたわけでも、無視されていたわけでもない。今も背中合わせにベンチに座っているので、上体を反らすようにしている二口は青根と背中がしっかりと触れているのだ。茂庭に話しかけられているので姿勢を正せば触れる面積が減った気がして、二口は無意識にため息を重ねていた。
「でも、今日はなんだか静かだよね。鎌ちの所為?」
「だからオレの所為にすんなって言ってるだろ!? 怖いから!!」
「……いえ、鎌先さんの助言は正しくて、その意味では成功したんですけども」
「ほら見ろっ、オレは正しかったんじゃねえか!! ……つか、例の女友達、もう実行したのか? 昨日あれからすぐに連絡してやったのか、早いな」
 鎌先が首を傾げている間に、茂庭は青根の前へと回っている。おもむろに手を取っているので不思議そうに肩越しに眺めたが、どうやら手首を確認しているようだ。
「擦り傷とか、もちろん捻挫とかもなさそうだよねえ……。」
「……。」
「ええ、まあ、そこはオレも気をつけてたんで……?」
「……でも、首は絞めちゃった?」
「は?」
「そこは気をつけられなかったのかな、二口も」
 青根の手を離し、赤くなってると茂庭が指を差したのは首筋だった。まだ部室なのでマフラーなどは巻いておらず、そもそも青根は持っているのを見たことがない。既に着替え終えているので赤い痕もわずかにしか覗いていないが、練習中はTシャツだったのでがっつり見えていたのだと二口も今更気がついた。
「ち、違いますよっ、これは絞めた痕じゃないですって!? いくらオレでも、そこまでは倒錯的じゃないスよ!!」
「……!?」
 思わず慌てて振り返り、後ろから青根にギュッと抱きついて回した指先で首筋の痕を撫でた。それほど痣になっているようには見えないが、もしかすると青根はかなり痛かったのだろうか。冷戦のことなどすっかり忘れて労わるように後ろから撫でる二口に、茂庭はうんうんと頷く。
「そっか、そうだと思ってたよ」
「茂庭さん……?」
「……つか、アレやっぱキスマークだったのか」
「……青根が堂々としすぎてて、本当にただの痣かと思ってました」
「……オレは蚊にでも刺されたのかと思ってた」
 鎌先の発言には、笹谷と小原だけがさすがだと褒めていた。気を良くしている鎌先は、結局どうして青根の首筋が赤くなっていたのかは、考えが至っていないらしい。そこには安堵してまたギュッと抱きついたところで、二口もようやく自分たちが冷戦中だと思い出せた。
「あっ……青根?」
「……。」
 慌てて離れようとしたが、それは叶わない。回していた手を、青根に掴まれた。だがその力は弱く、すぐ振り解けそうだ。それがまた今の自分たちの関係の脆さのように思えて、二口は寂しくてしがみつく。
「……!!」
「青根……。」
「まあ、仲直りしてくれたならそれでいいよ。むしろ今回は、鎌ちの所為でごめんね?」
 驚いた様子の青根も、今度はギュッと力強く手を握ってくれた。昨日とは反対の格好で懐く姿勢に、二口もまずは安堵できた。すると、次はちゃんと向かい合いたくなる。今朝からも何度かキスはしているのだが、抱き締め合うようなことはなかった。一度自覚すると欲求は抑えきれず、どうやって青根を振り向かせようかと思っていたところで、別の喧嘩が勃発していた。
「だからよー、茂庭。勝手に謝るなよ、オレの助言は正しかったって二口も言ってたじゃねえか」
「鎌ちもいい加減にさあ……。」
 茂庭は怒っているというより、疲れているようだ。さすがに鎌先だけが認識していない現状は、ひどく面倒くさいのだろう。だが二口が教えることを望んでいない以上、勝手に話すわけにもいかない。そんな葛藤でため息を重ねるしかない茂庭ではなく、笹谷に二口は尋ねられた。
「ほんとに鎌先の所為じゃないのか? 昨日の助言は、到底成功するように思えなかったが」
「だからっ、笹谷まで……!!」
「……まあ、成功というか、それは限定的なんですけども。確かに告白自体は実行できたんですが、おかげで『彼氏』が怒って冷戦状態というか」
「えっ、マジで!? やっぱオレの所為なのかっ、二口もその女友達も茂庭もすまん!!」
 最も謝って欲しいのは架空の女友達の彼氏だろうが、生憎当人は昨日の話題と夜の出来事が結びついていないので、気配だけで不思議そうするだけだ。あっさりと非を認めて謝罪する鎌先は潔くて、普通は非常に好感が持てる。だが相変わらず面倒くさいことに話を広げるのが鎌先は得意なようだ。
「ええっと、つまり、彼女の方は彼氏を縛って、目隠しをして、好きとは言えたんだよな?」
「……?」
「まあそうなんですけど、繰り返してほしくないっていうか、さすがの青根も気がつきそうっていうか……。」
「でも、彼氏の方は怒ったのか? なんで?」
「……まあ、単純に縛られるのとかが嫌だったんだと思うんですけど」
 さすがの鎌先も、彼女がいきなり彼氏を拘束したとは考えていないだろう。もちろん、許可を取ってから縛り、告白をした。それがどうして冷戦に至るのか、原因は想像でしかなくて適当に答えた二口は、そこで視線を感じた。
「え?」
「……それは、いやじゃない」
「そっか、青根は嫌じゃねえのか。女友達の彼氏ってのは青根に似てるぽいし、その青根が言うなら……?」
「じゃあなんであんなことしたんだよ!?」
「……!?」
「しかもっ、ずっとオレにつれなくしやがって!!」
「……!!」
「お、落ち着いてっ、二口、落ち着いて……!?」
「なんで二口が怒ってるんだ……?」
「鎌先さん、これでもまだ気がつかないとか、相当ですよね……。」
「……あ。ハイ、オレ分かった」
「笹谷さん……?」
 つい熱くなってベンチで半分振り返らせるようにして胸倉を掴んだ二口に、妙に淡々とした声がかけられる。
 一瞬頭が冷え、青根から無理に視線を外してみた。そして深呼吸をしていれば、いつも冷静な笹谷が落ち着かせるように話し始める。
「二口が言う『あんなこと』は分からねえけど、青根が『つれなく』してた理由なら、分かる」
「……なんですか」
 そして説明されたことに、二口はすぐには納得できなかったが、青根はやたら驚いていた。
「お前に『あんなこと』したから怒ってると思って、萎縮してただけだろ」
「……!!」
「青根だって最初はなんか怒ってたし、そんなオレが怒ってたことなんて別に……?」
「……。」
「二口、青根の顔見てみろ。それがいまだに根に持ってつれなくしてるヤツに見えるのか」
「……。」
「……でも、青根だって」
「怒ってたことはあったのかもな、でもずっと些細なことだったんだろ。不満だと示してみたら、より大きな不満を抱えてた二口に反撃されて、何も言えなくなっちまった、どうせそんなとこだ。元から無口な青根なんだし、黙ってる理由が変化したことはお前が察してやらねえとダメだろうが」
 それは青根が言えばいいだけだし、言葉が無理なら文字に書けばいい。
 どうして自分ばかりが気遣いを求められるのかと反論したいのに、泣きそうになってこちらを窺っている青根を見ると、二口も意地を張りきれなくなった。
 そもそも、青根の性格も欠点も全部分かって好きになったのだ。関係を持続させたいなら、努力も必要になる。青根は青根で別のところで頑張っているのだろうし、お互い様だと思うことにして二口は大きく肩で息をした。
「……青根、ほんとに縛ったりしたことが嫌だったわけじゃないのか?」
「……!!」
 胸倉を掴む手を外し、代わりに腰の辺りの服を引っ張ってしっかりと振り返させる。久しぶりに見つめ合ったようで気恥ずかしくなるが、きちんと確認をすれば何度も大きく頷かれた。
 どうやら、本当に緊縛の件は気にしていなかったようだ。だがそうなると、余計に嫌な想像で落ち着かなくなる。青根が、あのタイミングで暴挙に出たのは、何がきっかけだったのか。緊縛による鬱積したストレスでないのなら、直前の言葉としか思えなくて、つらい。
「ほら、やっぱり青根はそうなんじゃねえか。……ついでに不満もお互い言っとけ、抱えたままだと周りが迷惑する」
「笹谷さん……。」
「……。」
「……というか、笹谷の助言もある意味ではオレたちという周りに迷惑が来るんだけど」
「……広く浅くより、深く狭い被害を選んだ笹谷さんは、本当に男らしいと思います」
「なんでみんな笹谷を讃えるんだよ、オレだって後輩たちから尊敬の眼差しで見られたい……!!」
 鎌先の叫びは誰もが無視した。
 笹谷の助言は胸に響くものがあるが、かといって二口も簡単に言えるものではない。恥ずかしさより、片方は実に自分勝手だと分かっているからだ。保身のために言わないでおこうとギュッと唇を噛み締めたのに、いつの間にか両肩へと手を置いた青根に不安そうにされる。それならば、たとえ些細だろうと青根から言えと睨み返しても、言葉にすることの抵抗の差を思えばやはり自分から口を開くしかなかった。
「……一つは、バカみたいなことです。もう一つは、オレの性格が悪いだけなので言いたくありません」
「……?」
「自覚があったのか、て、感心しそうになったけど。二口が性格の悪さを自称するときは、別にそうじゃないことの方が多いんだよなあ」
「ええ、不思議なことに……。」
「ねえ、『バカみたいなこと』の方は、言える? 青根も不安そうだしさ?」
 笹谷と小原が若干失礼に頷き合っている中で、茂庭から穏やかに促された。ちなみに鎌先は、頼り甲斐のある先輩像に夢中なのか、二口たちよりむしろ同級生たちを凝視している。
「……ほんとに、バカみたいことですからね、それは先に宣言しときますよ」
「……?」
「大丈夫、笑ったりしないから青根には教えてあげて?」
 念を押しても促されたので、二口は一度深く息を吐いてから、しっかりと青根を見上げた。
「……後ろからされるの、ヤダ」
「……!?」
 茂庭の勧めで思いきって告げてみると、青根は相当驚いて慌てる。どうやら、二口がそこに怒っているとは想像もしていなかったらしい。だからこそ、どう機嫌を取ればいいのかも分からなくて混乱するばかりとなり、傍目からはつれない態度で距離を置いたように見えたのだろう。
 昨日、いきなり後ろから繋がったのは、唐突さ以外にも体勢に純粋な不満があった。
 確かに、より深く繋がって気持ちよかった。だが差し引きすると、それをまだ二口は愉しめない。
「……!!」
「……お前に、ギュッてできないでするの、まだ、ヤダ」
「ああ、優しい先輩面をしようとして、こんなこと聞きだしちゃってみんなほんとにごめん……。」
「自分を責めるな茂庭、オレだってまさかここまでバカみたいなことどころか、いかがわしい発言が出るとは思ってなかった……。」
「つまり、青根を縛ったままで後ろから? それって難易度高すぎません? ああ、解いてから第二ラウンドってことですかね?」
「だから小原はどうしてそんなに素で受け入れられるの!?」
「なあ、二口って何が後ろからだと嫌なんだ?」
 鎌先には伝わらなかったようで困惑しているが、もちろん誰も説明はしなかった。
 ああいう繋がり方があることは二口も理解しているし、気持ちも良かった。だがまだ正面から抱き合ってしたい時期なのだと訴えながら抱きつけば、かなり呆然としていた青根もようやく慌てて抱き返してくれる。
 キスはしていても、今日は初めての抱擁だ。やっと安心できて嬉しくなる二口だが、やがて青根の手が背中で不可解な動きをしていることに気がつく。
「……青根?」
「……。」
「なんだよ、別に背中掻いてくれとか言ってねえけど……?」
 一度は服の上から抱き締めたが、今は片手の指先を立てて擦るような仕草をしているのだ。不思議になって顔を上げるが、分かりかけたところで笹谷が手を挙げた。
「……ハイ。青根はお前に背中を引っ掻かせないよう、気遣っただけだったんだろ」
「……!!」
「へ? ……そうなのか?」
 笹谷の言葉に、困惑で曇っていた表情がパッと晴れ渡る。それが、少しだけ悔しい。だが今は正解だと青根が示したことを確かめたくて、念を押せば大きく頷かれた。
 言われて思いだしたが、昨日は上に乗る理由として、背中に回した手でまた深く爪を立ててしまうことへの回避策だとも告げたのだ。本当のことすぎて、すっかり忘れていた。怪我をさせたないのは事実だ。だからこそ気にも留めず話していたが、青根はちゃんと覚えていたらしい。
 だからこそ、一度は押し倒して正面から足を開かせたのに、ぐっと耐えてうつ伏せに体勢を変えさせたのだろう。やっと理解はできたものの、二口は気遣われていた嬉しさを押し留めて釘を刺しておく。
「……でも、オレは後ろからするの、まだイヤだからな」
「……。」
 爪は立てないように気をつける、だからまだちゃんと抱き合ってしたい。
 そう繰り返した二口に、残念がるでもなく青根はやたら真剣に同意していた。それにまた怪訝そうにすれば、茂庭が尋ねている。
「ああ、青根もその体勢に不満があったの?」
「……!!」
「……なんでだよ、あんなにガンガンやってきたくせに」
 まさにそうだと言わんばかりに茂庭に頷いているのを見ると、また面白くない。
 抱きつけない寂しさを棚に上げれば、快楽としては相当高かったのだ。てっきり青根もそうだと思っていたが、違うのだろうか。拗ねたようにぼやいて肩へと顔を伏せれば、軽くうなじを擦られる。
「……あ?」
「……顔、見たい」
「……。」
「ああ、顔が見えないと、青根は不満だろうねえ……。」
「いやでも自分からしといてその不満はあんまりじゃ……?」
「……布団より、オレに」
「……。」
「布団? なんだろ、布団にしがみついちゃうのが寂しいってことかな? そうされると声も聞こえないだろうし」
「そうだとしても青根が不満がるのは、て、だから些細すぎてすぐに怒りも消えたのに二口は怒ったままだから焦ったのか」
 キスを促す仕草だったのでやや焦ったが、さすがの青根も顔をあげても唇を寄せてくることはなかった。それをやや残念に思っている間に、珍しく青根から説明をされる。きっと、伝えなければと相当考えていたのだ。
 足りない言葉の解釈は、茂庭たちで正解だろう。後ろからだと当然顔は見えないし、快楽が凄くて二口は確かに掛け布団にしがみついて声を殺した。そして、それを不満に思っても自業自得だと意識もあるので、青根はもしかすると怒っているというより、多少拗ねていただけなのかもしれない。
 だがいろいろ理解できなくて余裕がなかった二口が大袈裟に受け取り、確かめることに怯える。結果的に冷戦に入ったが、二口も後ろからはまだ嫌だと知れば安堵した。
 これで互いに抱えていた不満を言い合い、解決策も分かった。
 しばらくは、後ろからしない。
 それだけで元に戻れると願っていたのに、こんなときばかり敏い鎌先が笹谷に尋ねる。
「なあ、二口が自分で『性格悪いこと』て言ってた方の不満て、何なんだ?」
「オレにきくなよ、本人に尋ねろ」
 当然すぎる返しをした笹谷に対し、鎌先はオレに死ねと言っているのかと詰め寄っている。相変わらず失礼だ。だが今回は鎌先のアドバイスに助けられた結果なので、なんとなく報告する義務があるような気もして、二口は大きくため息をついた。
「……?」
「……オレの『友達』ですけど、まあ単純と言えば単純なんですが、好きって言ったら『彼氏』は喜ぶと思ってたんですよ」
「は? いや、それは喜ぶだろ……あ、ええと、言ったら彼氏は怒ったんだったか?」
 少し前にそう説明したが、その『彼氏』は実は怒っていなかった。第二ラウンドを始めたいくらいには興奮してくれたようなので、決して嬉しくなかったわけではないと思う。
「いえ……ちょっと、語弊があって。『彼氏』が怒ったのは別件というか、怒ったように見えただけの誤解だったんですけど、まあ、どのみち『友達』が期待してたほどの喜び方じゃなかったんですね」
 仕方なく軌道修正をしてみれば、鎌先はなるほどと頷いている。将来的に変な通販や詐欺に引っかかりそうで怖い。もう少しいろいろ勘繰った方がいいのでは心配になってくるほど、鎌先はいつも真っ直ぐだ。
「つまり、意外と彼氏は彼女を好きじゃなかったのか?」
「……そうじゃ、ないと、信じたいですけど」
 ただ、真正面からの真っ当な分析はいつも耳に痛くて、心の奥がズキズキと痛んだ。
「あー……いや、違うな、確かにそうじゃねえ。彼氏の方は、彼女に好きだ好きだって言ってるんだったよな、つまりアレか。彼氏は、自分が相手を好きなのはそれはそれとして、相手から好かれることには執着が薄いのか」
「……大嫌いて言ったら、泣きましたけどね」
「……!?」
「……泣いたの!?」
「……泣かせたのか!?」
「……二口、それはひどすぎだろ!!」
「じゃあ、なんだ。ほら、いるだろ、喜びをあんまり表に出せないタイプって? 彼氏も凄く嬉しかったけど、それが彼女には伝わりにくかっただけじゃね?」
「初めてヤったくらいで三日以上浮かれて挙動不審になるレベルに感情が表に出る『彼氏』ですけど、そういうことなんですかね、もう考えるほど腹が立って自己嫌悪しか湧かなくなるんでそういうことにしておきます」
「……?」
 少なくとも、青根も嬉しくなかったわけではないはずだ、それで充分だと思うしかない。相手が期待ほど喜んでくれないからと拗ねるのは、好意の押し付けが浅ましすぎて嫌になる。こちらが頑張ったのだから、それに見合った見返りが欲しい。要するに、そういうことだ。頑張ったのは二口の勝手であるし、そもそも頑張らなければいけない事態に陥ったのも自業自得だ。
 全く同じことを、より会話が苦手な青根には強要しているのだ。二口の方は、それに見合った何かを返せているのだろうか。
 考えれば考えるほど、自分の性格の悪さが嫌になる。その奥には、青根は二口からの執着に興味がないのかと不安になる。鎌先が二つ目に挙げた想像が、実は一番心を抉った。もし青根が執着されることをあまり求めていないのであれば、好きになりすぎると重いと嫌がられそうだ。好きになることは止められそうにないので、それが青根には伝わらないように、昨日の昼までのように愛の言葉など囁かないくらいの方がいいのかもしれない。
 言葉を求められている雰囲気だけなら何度もあったが、そうと実際に迫られたことはない。
 所詮は、その程度のことだったのか。
 頑張ろうとしていた努力が無駄だと知るより、ずっと胸の奥が冷たくなった。もう二度と口にしたりしないと決意を固めてギュッと抱きつけば、青根はしっかりと抱き返してくれる。これだけで満足しなければいけないのだ。
「……ねえ、たとえばの話なんだけどさ?」
「……?」
「もしも、仮定の話だよ? もし、たとえば、仮に青根に恋人がいたとしてさ、その恋人から好きって言われるのは、嬉しい?」
「……。」
「……そりゃあ嬉しくないわけはないですよ、こいつだって」
 鎌先がいるので、あくまで仮定だと念を押した上で茂庭が尋ねれば、青根は当然頷く。なにも、全く嬉しくないとは二口も思っていない。だが初めてキスをしたり、セックスをしたりという行為に対する喜び方と、言葉への反応はやはり落差が大きい気がした。
 青根が言葉を操れないので、向けられても響きにくいのだろうか。それならばもう仕方がないとため息を重ねている間に、その茂庭に鎌先が尋ねている。
「なんでいきなり青根に尋ねてんだ? ……あっ、そうか、二口の女友達の彼氏は、青根みたいなタイプなんだったよな!!」
「まあ、そういうことなんだけどさ……。」
「……?」
「よし、じゃあ青根、想像してみろ。たとえばずっと好きだった恋人から初めて好きだって言われたら、どう反応する?」
 青根にとっては仮定ではなく、実体験の話だ。だがいつも言葉は足りないので鎌先にばれることはないだろうと構えていた二口は、随分間を置いてから返された答えに思わずがばっと顔を上げることになった。
「……泣いた」
「は? ああ、嬉しくて泣くってことか?」
「嘘つけ!!」
「……!?」
「おい、二口、そんな嘘だって決めつけなくても……?」
 だが驚く青根には、諦めようと思っていた感情が高ぶって仕方がない。
「昨日は泣いたりしてなかったじゃねえかっ、それとも別の相手か!? 恋人なんかいたことねえって言ってたのに嘘ついてたのかよっ、ふざけんな!!」
「……!!」
「……いや、恋人ならたくさんいた二口がそこでそんなに怒るのって、ねえ?」
「……二口って、性格が悪いっていうより、青根に関しては執着が強すぎるだけみたいだよな」
「……普段へらへらしてる割に、こうと決めたことだけは一途で健気ですしねえ」
「えっ、青根って彼女いたことがあんのか!? そんな、笹谷と青根だけは仲間だって信じてたのに!!」
「オレはともかく、青根は絶対童貞じゃねえよ」
 ただ女性経験はないだろうけどなと続けた笹谷に、からかっているのかと暴れる鎌先は、本当に男が抱くのは女だという思考しかないらしい。二口もそうだったはずだが、高校で再会してから今ではもう青根としか行為は考えられなくなっている。
 だからこそ、嘘をつかれると動揺する。みっともない自覚はあっても、青根に女性経験があるとどうしても比べられて不満を持たれそうで、苦しい。まさかやたら胸を弄ってくるのはその所為なのかとまで青褪めるが、当の青根は困惑しきって二口に告げてきた。
「……昨日は、泣いてない」
「……。」
「あれ、じゃあ初めて好きって言われたら嬉しくて泣いちゃうっていうのは、本当にただの想像?」
「青根にそんなシミュレーションができるようには思えねえけど……。」
「あれじゃないですか、昨日は『初めて』じゃなかったっていう?」
「いや、それじゃ最初の前提が……えっ、ほんとにそうなの!?」
 小原の指摘は、根本的なところを覆すものだ。だから茂庭と同様に内心で否定しかけていたが、いきなり青根が頷いて二口も息を飲む。
 そんなはずはない、言った記憶はない。訝るような三人の視線に晒されても、二口も困るだけだ。鎌先は相変わらず話が見えなくて首を傾げている。
「二口は、全然覚えてないの?」
「……ええ、まあ。なんだろう、髪型が好きとか、好きにしていいとか、単語としては出てきても、使い方が違いますし」
「……。」
「で、二口が覚えてなくても青根は驚かないんだ。あと二口の用例の後半は聞かなかったことにするとしても、これって、ほんとどういうこと? ああ、もしかして、夢の中の話とか?」
 茂庭は突拍子もないことを言ったつもりだったのだろうが、青根は頷くことはない。だが、首を横にも振らなかった。やや戸惑うように傾げただけで、反応としては曖昧だ。
 それに、二口はやっと分かってきた気がする。二口が覚えていなくとも当然という状態で、青根は告げられたことがあるのだ。
「……オレが寝惚けてるときか?」
「……!!」
「あっ、なるほど、それだ!!」
「そんな、寝言ごときで嬉しくて泣くとか……。」
「いっそ不憫ですよねえ、ちゃんと起きて言ってあげてほしいですよねえ……。」
「なあ、なんかオレ以外は別の話をしてないか? なんか地味に寂しいんだけど」
 鎌ちにはそのうち教えてあげるよと茂庭が慰めている横で、小さく頷いた青根が微妙なことを言い出す。
「……それも、ある」
「……。」
 寝惚けていて、おそらくは青根から好きと言われて、自分もだと二口が返したことがあるのだろう。さっぱり覚えていない。だが、問題はそこだけではない。
「え、『それも』ってことは、他にも……あ」
「寝惚けてる以外で意識が朦朧として記憶が曖昧なときって、あんまり……あ」
「……ヤった後とかじゃないですかね? 青根、絶倫みたいだし」
「だから小原は言わないで!? オレたち気がついてたから!?」
「青根って絶倫なのか!? つかそれを披露する相手がいるってことなのかよっ、心底羨ましい!!」
「ちなみに、二口は?」
「いやオレはそこまで絶倫じゃ……てことじゃないですね、オレは全然覚えてないです」
 笹谷から淡々と尋ねられたので、つい絶倫具合への質問かと間違えた。
 ただ、なんとなく記憶の底にざわざわしたものがある。
 寝惚けているのは、あまり回数としては多くないだろう。なにより、それで泣かれたのであれば、目が覚めてから二口は相当驚いたはずだ。青根は泣くとそれがだいぶ顔に出る。数時間は残るので、終わってから会った妹にも顔が怖すぎて余計に怯えさせた。だがそれ以外のときに、泣いたような痕があったことない。それでも青根が初めて二口から好きだと言われて、泣いたのであれば、二度目に行為に及んだあの仲直りの日しか考えられなかった。
「……お前っ、じゃあ最初からずっとオレに言われてたってことなのかよ!?」
「……!?」
「最初って、どの最初? 初めてしたとき?」
「茂庭、よく追及できるな……。」
「ヤった後ってことなら、そうなるんでしょうね」
「違えよっ、最後までヤった回数でなら二回目だ!! 初めて青根がオレに好きって言ってくれた日に決まってんだろとか説明させんなバカ小原!!」
「二口が勝手に説明してくれたんだろ、ほんとは惚気たいだけじゃないのか……。」
 小原に呆れられても、二口も混乱するばかりだ。青根は驚いていたが、やがてゆっくりと頷く。
 やはりあの日のうちに自分は告げてしまっていたらしい。しかも、青根の様子から想像すれば、あの日以降も何度か同じことがあったに違いない。だから青根も不安がらないし、無理に言わせようとはしなかったのだ。
「……いっぱい、したら」
「はあ!?」
「……言って、くれる」
「……。」
 しかも、やたらしたがる原因の一つに、快楽でぐずぐずにされた二口ならば好きだと言ってくれることも大きかったのだと知ってしまった。
 終盤に意識が曖昧になることなど、部屋に泊まらせたときは毎回だ。下手をすれば起き抜けでしてもそうなることがあるし、外や部室でも少し気を失うように眠ってしまったことがある。そんなとき、かなりの確率で好きだと繰り返していたのであれば、両手でも足りないほどの回数になっているだろう。
 初めて告げたときは、泣くほど喜んでくれた。
 本当は青根が不安がることがないほど、ちゃんと告げることができていた。
「……?」
「……。」
 二重の自己嫌悪をすべて吹き飛ばしてくれる事実なのに、顔が熱くて仕方がない。悲しくもないのに、目頭が熱くなって視界が歪みそうになる。そんな二口に、青根は片手を腰の後ろに回したままで、もう一方の手で長めの前髪をかきあげるようにして撫でてくる。
「なっ……!?」
「……すごく、かわいい」
「バカッ、だから、可愛いとか言うなって言っ……!?」
「……だいすき」
 そしてうっとりと囁かれて顔を寄せられると、二口に拒めるはずもなかった。押し当てられた唇からは、すぐに舌が差し込まれる。緩く絡められる舌にたっぷりと愛撫されると、二口はまた頭がぼんやりしてきた。泣いてはいないが、泣きそうなほど感情が昂ぶっていたことも大きいのだろう。やがて強く舌を絡められてからキスを離されると、深く息を吐いてから、二口は青根にもたれかかった。
「ん……オレ、も」
「……。」
 大好きと言いかけて、言葉を飲む。きっと、もう少し頭がぼんやりしていれば言ってしまっていた。青根は残念そうに顔を覗き込もうとしてくるが、恥ずかしくて仕方がない。
 だが、それ以上に頭にきた。
「……だからっ、鎌先さんがいるときはやめろって言ってんだろうがっ、バカ!!」
「……!!」
「またオレ指名でハブるのかよ!? 帰国子女のスキンシップに今更驚いたりしねえぞオレは!!」
 ここは自室でも、二人きりの部室でもないのだ。せめて鎌先の注意を逸らしておけばまだしも、何の対策もなくいきなりがっつりとキスをしてしまった。次第に青褪めてくる二口に対し、青根は何故か慰めるように抱き締めて背中を撫でてくれる。元凶そのものなのに、実にふてぶてしい。そう呆れるのに、抱き締められるとやっぱり嬉しい。
「……むしろ、鎌ちよりオレたちのがたぶん驚いたよねえ」
「……青根ってほんとに好き好き言うんだなっていう驚きすら吹っ飛んだ」
「……驚いてない鎌先さんが一番の驚きでしたけど、どうします? 見なかったことにしますか」
「なあっ、いい加減に教えろよ!? 昨日からの二口の相談事はなんだったんだ、もしかしてみんなしてオレをからかってただけなのか!?」
 どうやら茂庭が言った『そのうち』に、鎌先はもう到達したらしい。さすがに、話の主体がころころと変わって、主旨も著しくずれたことは分かるのだろう。ただ、それを鎌先以外は戸惑っていない。当然のように話を進めていく。自分には分からない何かがあるのだろうとまで察したのは立派だが、あのキスを目の前で見ても勘繰るものはないらしい。
 もしかすると、青根以上に箱入りで鈍いのではないか。最近とみに心配になってくるので、二口も関係を断言はできない。ただ、もう嘘をつく気もなかった。
「……ただ、オレが青根を大好きだって話ですよ」
「……!?」
 肩越しに振り返って告げれば、青根は息を飲み、鎌先は憤慨した。
「誤魔化すなっ、そんな分かりきったこと今更みんなで真剣に話し合うわけないだろ!? 誰が犬を見ながらアレは犬なのかって話し合うんだよっ、そんな哲学的な、ああもしかしてオレが馬鹿だと思って実は犬じゃないのに犬に見えてることを隠しながら話してたのか!?」
「……青根?」
「……。」
「無視すんなアレは犬なのか犬じゃねえのかはっきりしろ二口!!」
「……鎌ち、犬はいないから。猛獣はいるけど、犬はいないから、安心してね」
「そうか!!」
 どこから犬の話題になったのか甚だ疑問だが、そのたとえで言えば、むしろ誰が見ても犬なのに鎌先だけが猫だと思い込んでいるので、その夢を壊さないよう周りが苦労していたようなものだ。
 だが、真面目に答えるよりも、適当に慰めた茂庭に鎌先は心底安堵していた。どうやら犬はいないらしい。鎌先も興奮すると何を言っているのか本当に分からないので、茂庭たちはよく対処できているとつくづく感心する。そんな尊敬も、振り返る姿勢から再び青根に向くようぐいっと顔を押されればすぐに別の色に塗り替えられる。
「青根?」
「……もういっかい」
「……。」
 青根は、昨日告げたときも喜んでいないわけではなかった。むしろ嬉しくて、性欲に転化されたされた結果だった。ただ、最中でなら好きだと言われ慣れているはずの青根が、逆にどうしてあそこまで唐突と感じるほどの昂揚を覚えたのか。
 直前の行為の珍しさは、もちろんあっただろう。だがおそらく、それ以上に青根を煽ったのは、あのとき二口はまだ一度目で、普段のとき以上には意識がはっきりしていたという事実だ。
「……別に、今言わなくてもいいだろ」
「……。」
「だからっ、オレだって寝惚けたりとかで散々言ってたんなら……!!」
「……。」
 意識が怪しいときに尋ねて、言葉を引き出すことを、青根はもしかすると卑怯だと感じていたのかもしれない。自制がかからない本音であると同時に、二口が言いたがらない言葉だとは分かっていたはずだ。
 それでも、聞きたくてわざと意識が混濁するまで揺さぶる。明らかに呂律が回らないほどの状態に陥ってしか、告げてくれない。そのことは、ただ言ってもらえないことより、別の苦悩を更に青根にもたらしていたのだろうか。
 あっさりと鎌先には告げたことを、もう一度とせがむ。
 素面のときも言ってほしいとすがられ、再び顔が紅潮していく二口は抗いきれなかった。
「……だ、大好きに決まってんだろ、バカ」
「……!!」
「おわっ!? あ、青根? ……こらっ、バカ、泣くな!?」
 一瞬硬直した後、晴れやかになると思った顔はますます歪められてからギュッと抱き締められた。
 さすがに嫌がっているとは誤解しない。だが、かつて二度は泣かせた前科があると、不安になって仕方がない。
「お前、泣くとますます顔が怖くなるんだから、やめとけって……。」
「……もう、いっかい」
「はあ? ああ、もう……大好きだって、言ってるだろ」
「……!!」
「めちゃくちゃ好きだ、ほんと大好きだ。そんなの分かってただろ、しかも言わせてたんだろ。……でも、ずっとちゃんとは言えてなくて、ごめんな?」
 ここまで恥ずかしい言葉を重ねれば、やっと青根が顔を上げてくれる。どうやら、ギリギリのところで泣いていないらしい。それにほっとしながら、二口も嬉しくなって笑みを向ける。
「青根……ほんと、すっげー好きっ」
「……!!」
「だから、言えなかった間のこと、これで許してくれよな?」
 大好きだからと繰り返して、照れ隠しでチュッとキスをした。今までもよくした仕草だ。今回は、ちゃんと言えてからキスができて満足する。青根は相当驚いていたが、やがてやっと嬉しそうにしてくれた。再び腕に力が込められたので、抱き合えると思ったときには強制的に離された。
「え。……おわっ!?」
「……!?」
「……あのさあ、二口? お前が自制できないでどうするの、オレたちだって二度も眺めるのは気が引けるんだよ?」
「あっ、いや、その、茂庭さん、すみません……!?」
 青根の後ろに回った茂庭と笹谷が、それぞれ肩をぐいっと引いて起こさせている。先輩ということから、青根は驚いても抵抗はできないだろう。ちなみに二口は小原に肩を引いて起こされた。鎌先は一人で小難しい顔をしている。
「そうだぞ、二口。青根はもう自制とか期待できねえんだし、お前がしっかり調教しろ」
「いやそれはそうなんですけど、笹谷さん、調教とか言われると変な想像しか……。」
「あと、オレが二口に回ったのは先輩に指示されて仕方なくだった、て、ちゃんと青根には説明してくれよ?」
「それは小原が言えよっていうかマジで手は離してほしんいだけど? オレ、青根以外に触られるの結構真剣にヤなんだけど?」
 そこまで言えば、小原はパッと手を離してくれた。だが相変わらず青根は先輩二人に捕獲されたままなので、抱き合うことはままならない。なんという悲恋だと思いながら取り敢えずは手だけギュッと握り合ったとき、それまで考え込んでいたらしい鎌先が突然叫んだ。
「……そうかっ、分かったぞ!! 帰国子女でありながら意外なことに好意を素直に示せない二口がっ、女友達という架空の話を持ち出して相談してたんだな!?」
 二口は帰国子女ではないのだが、相変わらずそこは思い込んでいるらしい鎌先を、他の面々は驚いて見つめる。
「鎌ち、そんな、まさかほんとに気がつくなんて……。」
「鎌先の察しがいいと、青根以上に驚くな……。」
「なんだかんだで、青根は動物的な勘みたいなのが鋭いですからねえ……。」
「つまりオレが二口に冷たくされるのもほんとはオレのことが好きで素直になれないからか!!」
「……!?」
「違います。それ以上口走って青根に余計な心配させたらマジで鎌先さんのロッカーでウサギ三羽飼いますからね」
「やめろ!! 可愛いけど齧られる!! あと狭くて可哀想だ!!」
 そういう問題ではない気もするのだが、取り敢えず鎌先が暴れてくれたおかげで、茂庭たちが青根から手を離してくれたのは助かった。ただの暴論でも、基本的に自分に自信がない青根はすぐに動揺してしまうのだ。キスはさせないからと茂庭には頷いて、しっかりと青根を抱き寄せる。すると、青根も安堵したようにちゃんと抱き返してくれた。
「なんだ、二口はいわゆるツンデレかと思ったのに、違うのかよ……。」
「萌え袖といい、鎌ちは変な言葉を知ってるよねえ……。」
「というか、どう見たら二口がツンデレなんだよ、青根に対してはデレデレだろ……。」
「鎌先さんにはツンツンですけどね……。」
「小原っ、お前までオレの心を抉るな!!」
 キスは禁止されたので抱き合うだけに留めていると、そんな外野の声もきちんと耳に届く。
 相変わらず、鎌先はつれない後輩にほど構いたくなるらしい。その性癖はいろいろとトラブルを招きそうだから、早く治した方がいい。誰もがそう思いつつ、加えて今は当事者でもある二口は呆れて言っておいた。
「オレ、何度も言ってますけど、鎌先さんを嫌ってるとか特別態度を悪く接してるとか、全然ないですよ」
 こればかりは、本当に事実なのだ。だが何故かいつも鎌先にだけは信じてもらえない。
「嘘だっ、青根に対してと全然違うじゃねえか!!」
 ただ、そんな指摘の仕方だと、二口も否定はできない。しっかりと抱き寄せた青根の髪を撫でながら、二口は頷いた。
「だって、青根は特別ですもん、いい意味で」
「……!!」
「オレは悪い意味での特別なのか……!!」
「へ? 違いますよ、鎌先さんはあくまで先輩の一人です」
「それはそれでなんか腹が立つ!!」
 その他大勢になるくらいなら特別嫌われていた方がマシだという思考に、呆れはするが、理解もできる。もし青根が好きになってくれなければ、当たり障りのないチームメイトの一人でいるよりは、嫌われてでも毎回苛烈な視線を向けられたかったと二口も思うからだ。
 ただ、それもあくまで想像だけの話だ。現実は、いつも想像より厳しいばかりとは限らない。
「前も言ったじゃないですか。オレは鎌先さんだからこういう態度なんじゃなくて、青根じゃないならこうなんですよ」
「……。」
「……二口は、ほんとにそうだよねえ」
「……まあ多少の差異はあっても、そこだけはがっつり明確に区分けされてるよな」
「……青根もそうですよね、分かりやすくていいですけど」
「二口、お前そんなに青根が好きなのか?」
 しみじみと尋ねた鎌先に、二口は大きく頷く。そして、今度は青根を不満がらせないよう、しっかりと向き直ってから言葉に出した。
「青根、大好きだからな?」
「……。」
 やっと言えるようになったことには、鎌先に感謝する。
 嬉しそうに頷く青根に本当に安堵して、キスしたくなったがさすがに自制した。三度目は茂庭も許してくれないだろう。ギリギリの攻防で唇ではなく首筋に顔を寄せた二口は、昨日とは反対側にキスの痕を残しておく。
「……?」
「んっ……。」
「……いやキスマークならいいなんてオレ言ったかなあ?」
「……二口なりに我慢した結果なんだろうけど、これはこれでびびるよな」
「……というか、所有権の主張に余念がないですけど、青根相手にそんなに心配しなくても」
「ああ、なんかマジで青根が羨ましくなってきた……オレも可愛い彼女がほしい……。」
「……鎌ち!?」
 キスだけは我慢して懐いている間に、鎌先の曖昧なぼやきが茂庭たちを混乱に陥れる。
 だが二口は青根だけを見ていたし、青根も二口だけを見ている。
 互いに好きという言葉は出なくとも、もうしっかりと頭の中で響かせることはできて、ゴチッと額を合わせて嬉しそうにはにかんだ。












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二口さんが意外に変態くさくなって びっくりした!
びっくりした!!!
ところで鎌先さんはただの寂しがり屋です。いつもの。


ロボっぽい何か


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