死に至る病。
『スキャンダル。』収録1本目 - 02.
| 00 僕が死んだ日。 |
「‥‥だからーっ、どうしてなのっ、城之内くん!?」 「えっ!?‥‥あ、ワリー、ワリー、なんの話だっけ?」 どうして二年も前のことを突然思い出していたのかすぐには思考がつながらず、ぼ んやりとしてしまっていた城之内に、隣の席の遊戯は少し呆れたような顔をしてい た。ここは童実野高校の二年生の教室の一室で、放課後ともなればほとんど生徒もい なくなってしまっている。だがなんとなくダラダラと話をしながら残っていた城之内 は、親友である遊戯からある質問を受けたのだった。 「もうっ、このこときくとすぐぼうっとしちゃって!!。誤魔化してるのーっ!?」 「あ、いや、そんなつもりじゃねえんだけどよーっ‥‥で、なんだっけか?」 「だからっ、どうしてそんなに海馬くんにこだわるのって尋ねたの!!」 なんだか泣きそうな勢いで尋ねてくる遊戯に、本当に誤魔化してると思ってるんだ ろうなと全くそんなつもりはなかった城之内は少し申し訳なく思ってしまう。なので ひらひらと手を振って謝りながら、しばし思い出に浸っていた自分を心の中だけで叱 咤していた。 「あーっ、えっとな、こだわるっていうか気になることがあってよ‥‥。」 「‥‥気になること?、海馬くんに?。でも、あの尊大な態度も微動だにしない髪も ファッショナブルすぎる服装センスも、きっと気にしたってしょうがないことだと思 うけど?」 (あ、相棒、言いすぎだ‥‥!!) だが、それはそうなんだけどよーっ、とあっさり頷いて笑った城之内に、もう一人 の遊戯も少し黙ってしまっていた。それでもどこか思案顔の城之内に遊戯は黙って無 言の圧力をかけていると、城之内の方も遂に根負けしてへらっと笑いながらそれを説 明してやることにしていた。 「あーっ、んーと‥‥俺がさあ、中学の頃荒れてたってのは遊戯も知ってるよな?」 「え?。あ、うん‥‥?」 それでも、突然そんなことを切り出されて遊戯も少し不思議そうな顔をしてしま う。だが城之内はあくまでも笑顔で、淡々とそんなことを説明していた。 「そんでな、あるときケンカしてたら刺されちまってよーっ!!。ああ、もうこれは さすがにダメかなっ、てときに、通りすがりの人に助けられたんだわっ」 「ふうん‥‥?」 普通ならばその助けた相手が海馬なのか、と遊戯の思考も回っただろうが、あまり にこの場合は該当人物が人助けなどという言葉とは縁遠い気がしていたためにそんな ふうには思いが至りもしなかった遊戯だった。なので、続けられた城之内の言葉に は、心底驚いてしまっていた。 「ま、誰かが意識失った俺をどっかで治療してくれて、傷だけ縫ってくれて、そんで また公園に転がされてたんだけどよ。その助けてくれた人、てのが‥‥たぶん、海馬 に似てんだ」 「‥‥ええええっ!?。そっ、それは、さすがにいろんな意味でありえないんじゃ!?」 「あ、やっぱそう思う?。確かにあの嫌味ヤローが命の恩人つーか、そんな類の奴だ なんて思えねえけどよ‥‥でも、似てんだよなあ‥‥。」 漠然としか覚えていない外見や声というものも似ている気がするし、人助けと言っ ても傷を縫合だけしてまた意識も戻っていない自分を公園に転がしておくだけならば あの海馬らしいと言えばそんな気もしてしまうのだ。なのでなんとなく気になったま まずるずるときていたのだが、それが親友の遊戯には不思議でたまらなかったらし い。いや、実際気にしていた理由を告げても、遊戯はひどく不可解そうだった。 「中学の頃って、当然海馬くんも中学生だった頃だよね?。てことはボクのじーちゃ んのカード破っちゃったりしてたような人が、人助け?」 「‥‥まあ、今の奴がするよりは気持ち悪くねえだろ?。でもよーっ、こう、決め手 がなくってさ、気にはなってんだけど確信もないままで‥‥。」 だから気になって気になって、と繰り返す城之内に、隣の席に座っていた遊戯は、 大きくため息をついてふいっと視線を他へ投げていた。 「‥‥ねえ、海馬くん。そんな感じみたいだけど、実際のところどうなの?」 (あっ、相棒、そんな唐突に結論を急ぐな‥‥!?) 「だってーっ、ハッキリしてくれないといつまでも城之内くんがボクのこと構ってく れないんだもん!!」 それはそうだが、と言ってしまうもう一人の遊戯も、所詮そんなものだった。だが 珍しく学校に登校してなにやら時間でも余ったのか自分の席でノートパソコンを叩い ていた海馬にそう話をふった遊戯に、海馬はしばらくキーボードを叩いていたもの の、やがて不機嫌そうに顔をあげてやっていた。 「‥‥貴様ら、さっきから声がデカイぞ。しかも堂々と人の悪口を言うな」 「悪口じゃないよーっ、事実だもん!!。それよりさ、どうなの、その城之内くんの 命の恩人て、君なの?」 相変わらず無邪気にズカズカと尋ねにくいことを口にする奴だ、と海馬は思ってい のだが、そもそも自分が教室にいる段階で『どうして城之内は海馬を気にするのか』 などと城之内に尋ねたぐらいであるので、今更である気もしていた。なので当人はど うなのだと思い海馬がそちらへと視線をやってみれば、 「ハイハイ、ちょっとごめんよーっ?」 「おい、凡骨‥‥!!」 遊戯と話している間に近付いてきたらしい城之内にさっさと机の上に置いていた ノートパソコンを前の席に持って行かれ、代わりに机にドガッと腰を下ろされてし まっていた。 「凡骨、なんの真似だ‥‥?」 「だって、パソコンの上に座ったら、お前もっと怒っただろ?」 「当たり前だ!!」 その前に俺の机に座るなと怒鳴ってはみるが、いつものように噛み付いてこない城 之内は、どうやら先ほどの件に関して、ようやく本気で尋ねるつもりらしい。それが 分かって軽くため息をついた海馬に、机に横向きで座るようにして見下ろしてきた城 之内は、いっそわざとらしいほどにニコッと笑ってみせて海馬に尋ねていた。 「‥‥で、どうなのよ?」 「命の恩人がどうとかいう話か?‥‥フン、くだらんな」 だがこちらも受けて立つと言わんばかりにガッと椅子を引いて尊大に睨み上げて答 えてやった海馬に、城之内は呆れたように返していた。 「それじゃ答えになってないだろーっ?。なんだよテメェ、頭いいクセにやっぱ日本 語で会話できねえのかーっ?」 「正面から取り合うまでもなくくだらんな、という皮肉さえ貴様のような凡骨には理 解できんほど高等だったか?」 「じゃあ正面から取り合うまでもない理由って?。お前が恩人かどうかがくだんねえ 理由ってなんだよ?」 なんとなく、いつもにもましてぎすぎすとした雰囲気で会話をしている二人に、少 し離れた場所で見ていた遊戯は心配になってきてしまう。だがもう教室には海馬と城 之内、そして遊戯の三人しかいなくなってしまっており、いつのまにか随分と静かに なった気がする空間で、二人は互いに視線を逸らすことなく会話を続けていた。 「理由がないから取り合わんのだろう、くだらんのだろう?。それぐらい分かれ負け犬」 「分かんねーよっ、俺にとってはメチャメチャ大事なことだもんっ!!」 だがいつもならば海馬の言葉のなかで完全に目くじらを立てる単語もあっさりと城 之内は流して、そんなふうに返していた。だが字面ほどには城之内の言葉は甘くな く、どこまでも今日この場でハッキリさせたいようだった。 「まあ、貴様は犬だから受けた恩を忘れんのかもしれんがな」 「そうそうっ、俺ってば律儀だからよーっ!!」 「‥‥誉めとらんぞ、負け犬」 こんな城之内は調子が狂う、と内心海馬は少しだけ困ってしまっていた。いっそ ギャンギャンと喚きたててくれればあしらいようもあるのにと思いながらも、そんな ことは表情には一切出さず、海馬は一度言葉を切ってから、少し声を落として尋ねて いた。 「‥‥どうして、そんなに大事なのだ。もう過ぎたことだろう、助かってよかったよ かったで済ませておけ」 だがそんなふうに言った海馬に、城之内は一瞬だけ表情を消していた。だがまたす ぐに気持ち悪いぐらいに慣れた笑みを浮かべて、ゆっくりと口を開いていた。 「そりゃ、大事だもんよーっ、だって‥‥俺を、殺してくれた奴だからよ?」 「‥‥。」 もしかして城之内くん幽霊だったのーっ!?、と離れた場所で一人驚愕している遊 戯は放っておいて、一点の曇りすらない城之内の目を海馬もじっと睨み返す。だがそ うして見詰め合っているうちになんとなく分かってしまった海馬は、どういう意味だ とはもう尋ねないでおいてやっていた。 「‥‥そんなに、殺した相手が大切か。そうだな、面白い、ではそれが俺だとしたら どうする?」 あのときの城之内は、明らかにどこか無償の救いを求める色が残っていた。だが痛 みから解放してくれと叫んだ城之内に、他人である自分から施せる救いは解放ではな く終焉でしかないのだと冷たい銃口で示してやった自分の無言の意思を、城之内は しっかりと受け止めてしまったようだった。 「そら、あのバカみたいに神様だかなんだかかいつか俺を救ってくれる、なんて考え て逃げてた俺を殺してくれた、大切な奴だぜ?。もしお前がその『殺人者』だってん ならっ、それなりにお礼しなきゃなーっ!!」 「‥‥礼?」 だが言葉ほどには感謝しているようにも見受けられず、怪訝そうに返してしまった 海馬に城之内はやはりくすくすと笑っていた。後で聞いた話によれば城之内はそのと きの怪我がきっかけで、突然更正すると言い出し、高校進学も果たし、現在でも相変 わらずな父親と暮らしながらも自分で働いて生活費を稼いでいるらしい。生まれた境 遇を不幸だと嘆く前に、自らが足掻いて這いあがってみせろと示したという心温まる お話にならないのは、やはりそれを示したのが自分で、示されたのが城之内だからだ ろうと海馬が思っていると、それを裏付けるかのように笑いながら城之内は続けてい た。 「そう、礼、お礼、感謝の気持ち」 「‥‥そんな気色の悪いもの、もし俺がそうだとしてももらう気には更々ならんだろ うな」 「なんだよーっ、遠慮するなよーっ!!」 それでも机に横から腰掛けた状態で足をパタパタとさせていた城之内は、ふとその 足を止めて、椅子に座る海馬に告げていた。 「やっぱ、ほら、目には目を、歯にはハニワて言うじゃん?」 「はあ‥‥?」 だからさ、と続ける城之内は、ひどくいい笑顔でにっこりと海馬を見つめていた。 「‥‥俺を殺してくれたお前を、今度は俺が殺してやるよ」 「‥‥。」 決して冗談などではない本気で告げられた城之内からの言葉に、遊戯などはゾクリ としたものが背中を走ってその場で固まってしまっていた。だがそんな脅しなど更々 効かない海馬は、臆することなく平然と城之内を睨み返したままである。なのでそれ をしばらく眺めていた城之内は、やがてくすくすと笑い出して手を振っていた。 「あーっ、あーっ、そりゃあ俺だってお前に身体的に殺されたワケじゃねえから、刺 したりなんだのってので殺すつもりはないんだけどよーっ!!」 「‥‥貴様ごときに、俺を殺せるとは思えんがな、凡骨」 「おっ、言ってくれるじゃんっ。じゃ、試してみる?、試してみる?」 妙に楽しそうな様子の城之内に、怯えるのとは違ったところで嫌そうな顔をした海 馬に、城之内は机の上に座ったままで腰をひねるようにして上体を正面に向けてく る。そして片手を、二年前のあのときとは違い、躊躇いなく海馬の肩に置いてくる城 之内に変に警戒していない自分を海馬が不審に思っていたときに、 「なあ、海馬‥‥俺のこと、愛させてやるぜ?」 「‥‥。」 不意打ちのようなそんな城之内の言葉に、海馬は一瞬不覚にもなにも返せなかっ た。だが少し目を見開いて本当に驚いたような顔を一瞬だけしてしまった海馬に城之 内は相当満足だったらしく、いきなり胸を張るとひどく自慢げに声をあげていた。 「ワハハハハーっ、どうだ俺の殺し文句はっ!?‥‥ちなみにコレ、海馬のマネ」 「俺はそんなに下品に笑わんっ!!。しかし‥‥殺しは殺しでも、殺し文句か。凡骨 なりに精一杯の語彙力だったんだろうがな、悪いが俺は全然殺されてなどいない」 「嘘つけ、嬉しかったクセに」 その根拠のない自信はどこからくるんだとバカにしたように鼻を鳴らす海馬は無視 して、城之内は軽く勢いをつけて机からおりていた。そして椅子に座ったままの海馬 をビシッと指差し、城之内は続けていた。 「言っとくけどなーっ、海馬。自分で努力もしねえで待ってるだけなんざ、負け犬 だって教えてくれたのはテメーだかんなっ!!。俺はだから親父にも期待しねえで、 きっちり頑張って高校にも入ったし今だって生活費稼いでる」 「そうかそうか、エライな負け犬」 「茶化さず聞けよっ、殺人者!!」 そう不機嫌そうに言った城之内は、ハッキリと海馬に宣言していた。 「いいか、俺は俺で頑張るからなっ!!。頑張って足掻いてそんでもって、お前に絶 対愛されるんだからなっ!!‥‥それが、今の俺の『希望』だ」 「‥‥せいぜい頑張れ」 それでも、付き合っていられないというようにさっさと椅子から立ち上がった海馬 に、城之内はほんの少しだけつらそうに言葉を足していた。 「だから、そうなったときは‥‥しっかり、可愛がってくれよ?」 「‥‥お前も愛され慣れるようにしておけよ、負け犬」 そしてそんなふうに返してパソコンを手に教室から出ていった海馬を、城之内は満 足そうにいつまでも見送っていた。 あの日の僕を殺してくれた、君は優しい殺人者。 20020106 『死に至る病。』 了 20020114 改稿 |
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ハイな、コレがオフライン初小説でした(回想)。
All or〜に比べて、お城が頭良さそう!!(死)。
そんなこんなで、2本目の『できない。』、3本目の『スキャンダル。』(エロ)に続くのです。
ああ、ちょっと普通っぽい海城?。
イヤンバカン★