ブルーアイズトレイン殺人事件.

〜消えた花嫁に手向けた薔薇〜

『KCサスペンス =創刊号=』収録1本目 - 02.

 

01      天国に向かう列車        



 季節は真冬、二月に入ったばかりの頃だった。
 先週大雪を降らせた大寒波がまだ童実野町に居座っているこの時期に、遊戯のもう一人の人格であるファラオは、防寒着に身を固めてガタガタと震えながら目的の場所に向かっていた。
(寒いっ、寒いよ、もう一人のボク!!。どうしてボクたちがこんな目に遭わなきゃいけないのさ!!)
「あ、相棒‥‥!!」
 それでも、今は人格を交代しているので心の奥から聞こえてくるそんな罵声に、だったら代わってくれと涙した水滴さえ流れる前に凍りそうな寒波で、闇人格の遊戯は身も心も寒くなってしまっていた。
 今はもう高校三年生になり、その二月ともなれば普通ならば卒業を前にして大変忙しい時期ではある。だが遊戯の場合、進学はせずに実家の玩具屋を手伝うことで就職先は決まっているようなものなので、あまり多忙ではない。だがそれでもせいぜい最後の高校生活を楽しもうと就職や推薦で進学の決まった仲間と遊ぼうと思っていたところに、年を明けてからはいつも以上に全く姿を見せていなかったクラスメートから、謎の招待状が届いたのである。
(もうっ、海馬くんたらよりによってこんな寒い時期に呼びつけなくても!!。卒業旅行ならあったかいところ連れていってよっ、海馬ランドでなんて安上がりすぎるよ!!)
「い、いや、あの海馬がそんな心温まるイベントを用意してくれたとは思えないん
だが‥‥!!」
 ぶちぶちと表人格の遊戯が文句を言うのも、実はもっともなのである。用があれば唐突にヘリを部屋の窓の外につけたりしてくる傍若無人の代表のかの社長サマから、ご大層な招待状が普通郵便で届いたのはつい先週のことである。
 まず宛名が手書きだったことに表人格の遊戯はそこはかとなく海馬の呪いを感じ取り、そのまま捨てようとしたところを闇人格の遊戯に止められたのだ。
(大体っ、もう一人のボクがあんなウサンクサイ招待状、読んだりするから!!。君が読むって言ったんだからねっ、責任とってちゃんと行ってよね、早く、寒いよ!!)
「あ、相棒、俺は別に‥‥!!」
 今も表人格の遊戯にたきつけられて吹きつける寒風に身を震わせながら、少しでも早く温かい場所へと辿り着きたくて闇人格の遊戯は進む足を早めていた。
 先週届いた海馬からの招待状をそのまま破り捨てなかったのは、何故かそれが海馬だけでなく自分たちの親友との連名だったからなのである。しかも妙に豪華なその封筒は、KCロゴも金色に光った蝋のようなものでご丁寧に封がされていた。なにか用事があればすぐにでも拉致して理不尽な演説をしてくれるであろう海馬のそんな遠回りなコンタクトに、闇人格の遊戯は念の為中身を確認しようとそのときは確かに言ったのだ。だが、
「それが、こんな招待状だと知っていれば、相棒、俺だって‥‥!!」
(あーもうっ、ぐだぐだウルサイよっ、もう一人のボク!!。君が読めって言うから開けたんじゃないっ、それであんな理不尽なことが書いてあったら確認せざるをえないじゃない!!。気になっちゃったのも全部君が開けて読んだりした所為なんだからねっ、寒い!!)
「相棒ぉ‥‥!!」
 それはやつあたりでは、と思っても決して口には出せない闇人格の遊戯だった。
 表人格の遊戯が言うように、興味本位で読んでしまったその招待状の中身は海馬らしい端的な文章しか書かれていなかった。今日の日にちの指定と、時間と場所、それに当然のように正装を指定する文言があり、出席するかどうかの返信をするものはなかった。もちろん来るのだろう?、と海馬に言われているようで癪ではあったのだが、そんな数少ない文面の一番始めに、確かに無視できない一文があったのだ。
(それにしても‥‥『海馬家・城之内家・両家結婚式のご案内』なんてっ、ああーっ、待ってて城之内くんっ、今ボクが助けるからね!!)
「なら相棒がこの吹雪きの中を歩いて‥‥!?」
 それはヤダ、とあっさりと言われ、闇人格の遊戯はもう黙って足を進めるしかなくなっていた。
 一年と少しほど前、要するにバトルシティ大会を前後して、海馬が遊戯たちの親友である城之内に、異常な執着を見せていることは分かっていた。だが一方的に分かりにくい愛を叫ぶ海馬に対し、城之内の方は持ち前の天然さと鈍感さで、いつも海馬を無意識にかわしていたのだ。そのあまりの分かっていなさに一種海馬に同情してしまいそうにもなったが、どうやらここにきて海馬も強行手段に出たようなのである。今まではどんなに城之内がつれない態度でも、決して海馬を拒んでいるのではなく本当に好意を向けられていることが分かっていないということも海馬が理解していたようで、いっそ笑ってしまうくらいに海馬は暴力的な強引さに訴えることはなかった。だがそれで諦められる程度の想いではなかったようで、最近音沙汰がないと思っていれば、どうやら海馬は遂に既成事実という強行手段の計画を練っていたらしい。招待状こそ連名ではあったが、明らかに海馬の一人暴走の感があった今度の結婚式とやらに、親友として見極めるためにも参加しなければならないというのは当然だっただろう。
「なあ、相棒、その‥‥城之内くんは、そもそも来ると思うか?」
 騙されたり拉致されたりして城之内がこの結婚式とやらに参加させられることは充分に有り得るが、これまでの経験上、何故か海馬は城之内にそういったことをしない雰囲気があったのだ。よく言えば惚れた弱みで嫌われるのを恐がっているといったことであるが、端的に表現するならばまだ結ばれてもいないのに既に尻に敷かれているのである。
 そんな状態で、海馬がいかに結婚式を暴走して企画したところで、城之内が積極的に参加するとは思えない。そもそもあの二人はお付き合いさえしていないはずであるし、強引に拉致したところで城之内に嫌われてしまっては海馬は元も子もないはずである。では一体どうするつもりなのかと首を傾げてしまう闇遊戯に、表遊戯も大きく頷きながら返していた。
(そうなんだよっ、そこなんだよ、もう一人のボク!!。そのことを、ボクもすっごく心配してるんだ!!)
「相棒もか?。だとすると、もしかして‥‥。」
 年が明けてから学校の方も進学組との兼合いもあって、授業が変則的になって遊戯もあまり城之内と会うことはできなかった。海馬の方は元々学校に姿を見せないので気になってなどいなかったが、もしかするとそんな間に想像しにくいが二人の間でなにかしら関係の進展があったのかもしれない。
 そんな近況と、今回の海馬の自信に満ちた計画を考え合わせれば、
「まさか、城之内くんは本当に海馬と結こ‥‥。」
(そうっ、もしかすると洗脳とかされちゃったのかも!!。あの海馬くんのことだものっ、きっと抵抗できない城之内くんをバカみたいに長い手足で組み敷いて‥‥ああっ、想像するだけで羨ましい!!)
「‥‥。」
 どうやら自分と相棒とではいろんな認識がずれているらしい、ということを再確認してしまった闇遊戯だった。基本的な闇遊戯の解釈としては、なんだかんだ言って海馬は城之内に一般的な意味におけるご無体なことはできない気もするのだが、なにせ相手はあの海馬である。なにがあっても、確かにおかしくはない。
「‥‥そうだな、本当に万が一もしかするとほぼ有り得ないだろうが、そんな可能性もなきにしもあらずだぜっ、相棒」
 なので、随分と遠回りして頷いてやれば、表遊戯も心の中で大きく頷いていた。
(じゃあっ、一刻も早く城之内くんを助けてあげなきゃ!!)
「そんな事態にはなってないと思うが、万一のこともある、急がないとな!!」
 そして表遊戯の声に促されて走り出そうとしていた闇遊戯は、そこでごく自然に叫ばれていた。
(そうだよっ、早く城之内くんを海馬くんの魔の手から掻っ攫わなきゃ!!。処女はボクが戴くって決めてたんだからっ、海馬くんに華が踏み荒らされちゃう前に!!)
「‥‥相棒?」
(あーもーっ、なにしてるのっ、早く走りなよ!?。そうでなくったって寒いんだからっ、もう一人のボク、それぐらいしか今は役に立たないでしょ!?)
 ボクの体間借りしてるんならきっちり働いてよ!!、と表遊戯に叫ばれて、なにかが違うと思いつつも逆らえるはずのない闇遊戯は一路海馬ランドを目指して走り出していた。
 このときはまだ、遊戯もこれから起こる惨劇など、予想だにしていなかった。



「遅いぞ遊戯っ、貴様、俺たちの門出を愚弄しているのか!!」
「‥‥。」
 そして、なんとか指定されたギリギリの時間に海馬ランドへとついてみれば、正面玄関の前に尊大にふんぞり返っている白タキシードの海馬が、今にも頭の血管が切れそうな勢いでそう叫んでいた。海馬がいることは多少予測していたが、遊戯はそれよりももっと気になることがある。
「あ、みんな‥‥?」
「遊戯っ、遅いじゃない!!‥‥ちょっと、それにしても、その格好‥‥!!」
 自分一人が招待状をもらったと思っていたわけでもないのだが、実際いつものメンバーがそれなりにおめかしして集合している姿を見ると、ここにいる全員に海馬はあの招待状を送ったのかとまた感心してしまう闇遊戯だった。それほどまでにこの結婚式に自信があるのかということよりも、まさかやはりこの式は城之内との共同作業で城之内の方が遊戯たちも呼んでくれと言ったのかという方が信憑性が高い気がして、闇遊戯はそっと心の中で表遊戯に謝っていたりもした。
「笑っちゃ悪いよ、真崎さんっ。遊戯くんだって、一生懸命なんだから‥‥!!」
「でも、でも獏良くん‥‥!!」
「‥‥?」
 だが、どうやら一番最後に合流したらしい遊戯が一人そんなことを考えていると、いつもよりずっと大人っぽく見える杏子が耐え切れなくなったように目を逸らして肩を震わせていた。更にそれを宥める宿主の人格の獏良も、御伽も、そして本田も遊戯がそちらへと向けばつらそうに視線を逸らしてしまうので何事かと首を傾げていたのだが、それは期せずして最も厄介な海馬によって理由を示されていた。
「遊戯、しかも‥‥なんだっ、その格好は!?。俺はちゃんと正装をしてこいと書いておいただろうっ、貴様親友の晴れの門出も祝ってやれんほど世間知らずか!!」
「なっ、それはどういう意味だっ、海馬!?。俺はこうしてちゃんとっ、相棒が唯一持っていた正装とやらでビシッと決めてきたぜ!?」
 今から本当に結婚式が行われるかどうかは別として、親友である城之内になにか目出度いことがあれば遊戯は心から祝福してやる自信はある。今回の招待状は訝しんだものの、万が一本当に結婚式だった場合に親友として恥をかかせてはいけないと思い、しっかり表人格の遊戯が両親に相談して着せてもらった一張羅をそのように言われ、憤慨した遊戯に海馬は毅然として言い放っていた。
「それが正装だと!?、貴様本当に小学生か!!。そんな珍妙なスーツもどきっ、今時七五三でも着ておらんわっ!!」
「いつもケッタイな服装のお前に言われたくないぜっ、海馬!!」
「‥‥そう、その服どこかで見たことがあると思ったら。それ、本当に遊戯が七五三の時に着てたやつじゃないっ」
 それでも、にわかに時代が遅れている感のある半ズボンスーツに、思い出したように杏子がひどく大きく頷いていた。だがその言葉に、他の者はひどく驚愕してしまうことになる。
「なっ、ということは、女、まさか遊戯はその頃から身長が変わってないというのか!?。ええいっ、この妖怪め!!」
「そうよーっ、遊戯って、10歳くらいまではその身長だからちょっと大きいくらいだったのよ。それが、突然身長が‥‥それで、今のままに‥‥。」
 はらはらと泣き濡れる杏子も、本気で驚いている海馬も、憐れみの目で見つめてくるその他のクラスメートも腹立たしかったのだが、
「相棒、それは本当のことなのか‥‥!?」
(‥‥あーもうっ、ほっといてよっ、放っておいてよ、うわあああーんっ!!)
 表遊戯は高校時代からの付き合いの闇遊戯に心底驚愕してそう尋ねられ、心の部屋に閉じこもってしまっていた。意外な新事実を聞いてしまった面々はしばらくそこで黙ってしまっていのだが、また風が一度吹き抜けてから、杏子が切なそうに海馬を見上げていた。
「そう、だから、海馬くん、お願いだわ。そんな遊戯の違和感のないことがいっそ違和感でもある七五三半ズボンスーツに同情して、コートがめくれないように今日だけは闘いの風を収めてくれないかしら‥‥!!」
 そうでないと、チラチラと見える遊戯の生足に爆笑してせっかくのお化粧が崩れちゃう!、とまた両手に顔を伏せた杏子に、こんなときばかり聞き分けのいい海馬は大きく頷いてやっていた。
「ああ、俺とて花嫁以外の足など見て嬉しいはずもない、むしろ吐き気がする。女、今日は俺にとっても伏目の大切な日だ。忌々しい遊戯の生足で水をさされるのも癪だ、その申し出受けてやる」
「ありがとう、ありがとう海馬くん、いい加減名前覚えてもらいたいってことより
嬉しいわ‥‥!!」
 女に優しい海馬を見るのは初めてだぜ、と本田などは言っていたが、それは微妙に違うと遊戯は生温かい気持ちで眺めてしまっていた。だがその海馬は杏子に向けていたエセくさい同情の瞳をキッといつものように厳しくすると、遊戯に向かって言い放っていた。
「遊戯っ、そういうことで本日は休戦だ!!。せいぜいコートの前はしっかりと留めてっ、不用意に貧弱な下半身をさらさぬようにな!!」
「なっ、海馬っ、貴様俺がさも露出狂かのような言い回しはやめてもらおうかっ!?」
 だがそう叫んでも海馬は軽く鼻を鳴らすだけで、まともに取り合おうとはしなかった。それにまた遊戯は悔しさで地団太を踏むことになるのだが、そうするとまたコートの前が開いて寒波に足がさらされて寒くてしょうがなかったので、ここはぐっと耐え忍ぶことにしていた。
「それはそうとして、海馬、こんな場所は寒い。移動しないのか‥‥!?」
 なので、遊戯がそんなふうに促せば、遊戯からすれば自分よりよっぽどキテレツな白タキシードを着込んでいる海馬は、バカにしきったようにそれに返していた。
「フン、貴様があまりに気色悪い格好をしてきおったから忘れておったわ!!‥‥そろそろ中に入るぞ」
「明らかに責任転嫁だぜっ、海馬‥‥!!」
 偉そうに言っているが、結婚式をまさかこの海馬ランドの正面玄関で行うはずもないのである。それは主催者の海馬が最もよく分かっているはずであるのにさも遊戯の責任であるかのように言った海馬に遊戯はまた腹立たしくなるが、それでもようやく海馬ランドのドアを開けて進み出した海馬に、取り敢えず今は寒風から逃れたくて遊戯は後をついていっていた。
「‥‥人気がないな、今日は休園か?」
 だが、杏子、本田、御伽、獏良の四人とぞろぞろと海馬の後をついて歩いていた遊戯は、照明こそ灯っているものの、客はおろか、従業員さえ全くいない海馬ランドの建物内に、不思議そうにそう尋ねていた。元々屋内型のテーマパークである海馬ランドは、天候に関係なく遊べるということで、この時期でもさほど利用客の落ち込みというものはないらしい。確かに今日は平日ではあるが、時期的に学校が休みの子供も多いはずなので当然のように営業していると思っていた建物内の静けさに遊戯がそう前を歩く海馬に声をかければ、海馬はそれに振り向きもせずに返していた。
「フン、今日は内々の式だからな。貴様らを呼んでやっただけでもありがたいと思え」
「なっ、海馬、それはつまり本当に‥‥!?」
 城之内くんと結婚するつもりなのかと糾そうとした遊戯の声は、嬉々とした様子で重ねられた声に打ち消されてしまっていた。
「嬉しいわっ、海馬くん!!。きっと素敵な料理でもてなしてくれるのよね!!」
「お、おい、杏子‥‥!?」
「フン、当然だろう?。俺と俺の伴侶の門出の席だぞっ、我が海馬家専属の一流シェフに料理もすべて用意させておるわっ!!」
 もしかして、自分以外の者たちはそれが目的でこの招待を受けたのだろうか、と鈍い遊戯はようやく気がついていた。だが嬉しそうにしている杏子の横から、今度は本田がすまなそうに海馬へと声をかける。
「あ、でもよ、海馬。ご祝儀ってさ‥‥?」
「そんなものいらん、貧乏人からせせこましい金を巻き上げるほど俺は心狭い亭主ではないわ!!。引き出物は最高級のものを持ち帰らせてやるっ、せいぜい格の違いを見せつけられるがいい!!」
「よっ、さっすが社長サンっ、アンタぁ立派なダンナになるぜっ!!」
 フッ、当然だ、と本田の安っぽい賛辞にも気をよくしている海馬に、この高校三年間で、みんなは随分と海馬の扱い方が上手くなったものだと遊戯は感心していたりした。最初はあんなに奇人変人で遠巻きにしていたのに、と、実は最も自分が得体の知れないものとして怖がられていたことなどすっかり忘れている遊戯が感慨深くなっていると、こちらは随分と正装が似合っている獏良が前を歩く海馬に尋ねていた。
「それで、海馬くん。式はどこで挙げるの?」
 こうして海馬ランドを指定して、あまつさえ休園にしているのであるからこの建物内なのだろうが、それでも一応尋ねてみた獏良に、海馬は足を止めることなく歩きながら淡々と返していた。
「式は、海馬ランドの最上階で執り行なう」
「え、屋上ってことなのかな?」
「いや、屋内だ。教会を設置したり楽団を配置できるスペースが1階か最上階しかなかったのでな、せっかくなので上に用意させた」
 なにがどうせっかくなのかはその説明では分からなかったが、きっと海馬は高いところに昇りたがったのだろうというふうに示し合わせたわけでもないのに誰もが納得してしまっていた。それでも、そんな海馬の回答には珍しく御伽も口を開いていた。
「じゃあ、これからその最上階へ?。どうやって行くんだい?」
 普通に考えればエレベーターやエスカレーターということなのだろうが、先ほどから海馬は奥へ奥へと進んでエレベーターホールなどを通り過ぎているのである。なので不思議そうに尋ねた御伽には、海馬は淡々とそんなことを返していた。
「始めはこの吹き抜けをゴンドラで上がることも考えたが‥‥貴様らと一緒に晴れ晴れしい愛のゴンドラに乗るのが癪で、取りやめた。俺たちだけで乗ったとしても、この高さでは地上にいる貴様らには俺たちの姿を拝むことはできんからな」
「‥‥。」
「よって、普通に列車であがることになる。いつもより時速は落としてあるが、まあそれでも20分はかからんが」
 なんだかいろいろと凄いことをさらりと言われてしまったようで、尋ねた御伽は一瞬にして黙ってしまっていた。だがそんな言葉に、本田が不思議そうに首を傾げている。
「列車?。つっても、ここ建物内じゃん、列車なんか通ってるハズ‥‥?」
「‥‥海馬っ、まさかアレなのか!?」
 本田と同様に、杏子や獏良も不思議そうにしていたところで、一人だけ海馬ランドに来たことのあった遊戯は嫌すぎる予感がして思わず叫んでしまっていた。
 そう、確かに一般に外を通っている鉄道という意味での列車はないのだが、いわゆるアミューズメントパークにありがちな、園内を移動するためのアトラクションの一つ的役割の乗り物がこの海馬ランドにも存在しているのである。この海馬ランドはかなり縦に長い高層の建物であるので、その中をゆるく螺旋を描くようにして最上階にまでそのアトラクションのレールは伸びているため、元々時速も遅く、距離も結構あるので最上階まで20分という海馬の言葉は営業中と違って各階に停車しなければ妥当な時間だっただろう。だが問題はそこではなく、そもそも本当にそれに乗るのかと驚愕して遊戯が叫んだ頃に、ようやく先を歩く海馬がこの一階で駅のコンコースのような作りになっている場所に辿り着いて足を止めていた。
「え、ここって本物の駅みたいなのね‥‥?」
「なあ海馬、ほんとに列車が通ってんのか‥‥?」
 そんな海馬に続いて杏子や本田が不思議そうに足を止めた場所は、まるで本物の地下鉄かなにかの駅のホームのようであった。ただ基本的に列車は上下に移動するので少し傾斜のついているホームに乗ってみれば、地下階から伸びているらしいレールはトンネルのようになっており真っ暗である。他の者はまだしも、遊戯だけはこれから迎えにくる列車とやらを察知していたので妙に薄ら暗い気分になっていたのだが、やがて警笛のような音が辺りに響いて列車の走るような音が聞こえてきていた。
「おおっ、列車ってのが来たのか!?」
「ほんとだっ、まさか‥‥!?」
 それに驚いて視線を向ける本田や御伽に気をよくしたのか、海馬はすっとホームの下ったところに立つ。そして暗いトンネルから現れたその列車のライトを背に、逆光となったままで実に堂々と自信たっぷりに恥ずかしげもなく叫んでいた。
「そうっ、これが貴様らを最上階まで誘う夢の天国列車、ブルーアイズトレインだ !!」
「‥‥。」
「しかも本日限りの祝賀仕様だっ、光栄に思え!!、ワハハハハー!!」
 プパー、という軽快な警笛と意外に静かな走行音でホームに現れたのは、薔薇の花輪と思わしきものを頭に乗せられた、ブルーアイズとモチーフにしているらしい謎の奇怪列車だった。
 こんなの通常走行してたら子供泣いてんじゃねえのか、という至極素朴な意見は、ひどくご満悦そうなこの海馬ランドの持ち主サマには、誰も言ってやれずただ生温かく見守るしかなかった。









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