ブルーアイズトレイン殺人事件.
〜消えた花嫁に手向けた薔薇〜
『KCサスペンス =創刊号=』収録1本目 - 01.
| 00 招待状 |
「‥‥。」 男は一人、机の上に積み上げられた封筒の山を見つめていた。 昼間だというのに閉めきられた部屋は薄暗いが、男はそれを気にする様子はない。ただ時折深い息をつくが、それは決してため息といった類のものではなかった。 「‥‥。」 どちらかと言えば、その息はひどく満足そうなものだっただろう。当然ながら男が見つめている先の、机に置かれた封筒が、男をそうさせているのだ。 「‥‥。」 とっくに封をされ、後は投函されるだけといった状態でそれらの封書は机の上に乱雑に置かれていた。その宛名は男がひどく見知ったものばかりであり、そしてそれを手ずから書いたのは他ならぬ男自身である。 基本的にそんな事務的作業など、この男がするはずはない。 だが今回の、この件に関しては、それは譲れなかったのだ。 「‥‥。」 それほどまでに、この封書は大きな意味を持っていた。 その目的を果たすために、壮大な計画のために、この封書は男が自らの手で作り上げなければならなかったのである。積年の想いを果たすその計画の遂行に、この封書は必要なキャスティングへの招待状なのだ。 「‥‥。」 まさかこんな日がこようとは、という想いはあった。 だがそれ以上に、ようやくこの日がきたか、という想いの方が強かった。 「‥‥。」 すべての宛名を書き終え、後は投函するだけという状態の招待状の山を目の前にして、男はまた深く息をつく。そして椅子の背もたれにゆっくりと身を沈めながら、慣れない作業で疲れているはずなのに、こうしてまた一つ計画へが進んだことに対し、男はひどく昏い笑みを浮かべてしまうことになる。 そう、宴はこれからなのである。 すべての者に対して、ようやくそれを知らしめる時期がきたのだ。 「‥‥。」 これまで、計画はすべて順調に進んでいる。 だが、不安がないわけではない。 「‥‥。」 それでも、今は、計画が成功することを切に祈るしかないのである。 そう思い直すと、男は軽い息をついた後、ゆっくりと椅子から立ち上がっていた。そして机の上に広げられていた封筒を集め、カバンの中へと無造作に放りこむ。だがそうしているうちに、一つの封筒の宛名が目に入って、思わず男はそれを手にしていた。 「‥‥。」 この計画の最大の目的であり、そしてそもそもの発端でもあり終着駅でもあるその名前。 すべてはこの人物のために、用意された宴だと言っても過言ではない。 「‥‥城之内、克也」 自らの達筆な字のなかでも、殊更慎重に記されたその封筒の宛名を一度だけ口にした男は、やがてニヤリと満足そうな笑みを浮かべてその封筒も他のものと同じようにカバンへと慎重にしまっていた。そしてそれらをまとめて投函するために、男は部屋を出て行くことにする。 「‥‥。」 真冬の豪雪が吹き荒ぶ中、男はそれでも雪をかき分けてその招待状を投函するために向かっていた。 すべては、一週間後の宴のために。 |