All or Nothing !!
side1:攻撃は最大の防御!! 愛しいアイツは恋泥棒!?編〜
08.
「‥‥それでな、城之内。最後まで話は聞け。まずは俺が納得できないのはな、俺が
貴様の初恋とやらを盗んだとされる件だ」
「‥‥。」
なんとなく、どうしていまだにそんなことを言ってこの気持ちを信じてくれないの
だろうと、せっかく立ち上がれた城之内は少し高い視線の海馬を見上げながら、顔を
曇らせてしまっていた。それに、言葉が足りないと気がついたのか、海馬は城之内に
しっかりと瞳を合わせたままで続けていた。
「貴様が、俺のことをそんなふうに想っていることまでは否定はしない。ただな‥‥
この海馬瀬人ともあろう人物が、自覚なく盗みを働いたなどということが気に入らん
のだ!!」
「‥‥はあ?」
そして、これが答えだと言わんばかりに叫んでくれた海馬には悪いが、城之内には
それで一体何が言いたいのかなど全く分からなかった。なので首を傾げたままでいる
と、海馬は調子よく言葉を続けていた。
「まず、『自覚なく』、そして『盗む』という行為がな!!。実に俺に相応しくないっ、
俺ともあろう人間がそんなせせこましさでどうする!?」
「あ、いや、そりゃお前にはもっとバカ派手な豪快っぷりが似合うだろうけどよ、でも
それに関しては単なる言葉の問題みたいなもんで‥‥?」
「その『言葉』が結局はイメージを決定付けることも分からんのか、凡骨」
リアリストらしからぬ発言、と城之内などは思ってしまっていたが、実際城之内など
が思っている現実主義とは海馬は少し違っていたのである。海馬は現実的なことし
か口にしないのではなく、海馬が口にしたいことを現実にしてしまうという、それこそ
すべては言葉に現実を従わせるという逆説的且つ最も厄介な人種だった。
「しかしながら、貴様の心が既に俺の元にあることは分かった。この事実は変わらん」
「あ、ああ‥‥?」
受け入れられないと言ってみたり、この事実は変わらないと言ってみたり、海馬の
言葉は実に支離滅裂のように城之内には聞こえてしまう。だがそれはつまるところ、
城之内の想像よりはるか遠いところに、実は海馬という男は精神世界を置き去りにし
ていたということだった。
「貴様の心が俺のところにあることは認めよう、だがそれを『自覚なく』『盗んで』きたと
言われるのはかなわんと言っているのだ!!」
「でっ、でもよ、だってそれ本当だし‥‥!!」
「だから、過去に関してはどうでもいいにしろ俺はこの現実を俺の納得できるように
従わせる!!」
無茶言うな!!、と城之内が叫ぶ前に、口の端をあげてニヤリと笑った海馬は、そ
の実最も城之内が瞳を奪われる凶悪なまでの真摯な笑みでそれを口にしていた。
「城之内っ、俺は貴様の心を自覚なく盗んできてなどおらぬっ、これが今この瞬間か
らの真実だ!!」
「はあ!?」
「フッ‥‥凡骨にも分かりやすく言ってやるとだな、貴様の心は俺が『自らの意思で』
積極的に『奪った』ものだ」
自分の言葉に満足したらしい海馬に、いまいち思考がついていかず呆然としてし
まった城之内に対し、海馬は楽しそうにその反応を眺めてから、ついでのように言葉
を付け足す。
「‥‥更に言えば、俺が自ら動いて手に入れたいと欲するのだからな、既に手元にあ
る貴様の心だけでは奪い足りんな」
「え、あ‥‥!?」
すっと伸ばされてきた手が頬に触れ、城之内はビクッと肩を震わせてしまう。それ
にまた満足そうに笑った海馬は、動揺している城之内にしっかりと瞳を合わせて続け
ていた。
「心も、体も、貴様のなにもかもを‥‥奪ってやる」
「‥‥。」
「覚悟、しておけよ?」
なんだか大変なことになってしまった、と回りがおろおろしているなかで、そんな
不穏な空気を察した遊戯がまたもいきなり復活していた。
「かっ、海馬っ、そんなこと許されるはず‥‥!?」
「‥‥海馬ぁっ!!」
だが、後ろからバクラに襲撃されることを警戒していた遊戯を、精神攻撃で撃破し
たのは、遊戯が本来かばおうとしていた城之内その人だった。
「海馬っ、お前が俺を奪いたいってんならそれはそれでいいけどよっ!!」
「いいのかっ、城之内くん!?」
「でもっ、でもそれじゃあ‥‥だって、俺には純情よこせないって‥‥!!」
もしかして、海馬の方はちょっと懐いてきた犬を構い倒したいだけなのかもしれな
い、と一瞬喜びかけた城之内の胸の中はまた急速に失望感にしぼんでいってしまって
た。もしそうだとすれば、仮に海馬からいろいろと構われたとしてもそれは愛だの恋
だのというものではなく、単なる暇つぶしと代わらなくなってしまう。
「俺、俺はお前のことが好きだから、だからそんなんじゃきっと‥‥!!」
最初は、それこそ触れられるだけで嬉しいと思うだろう。だがそのうちきっと自分
は我慢ができなくなり、海馬に興味以上の感情を要求し、結果として捨てられてしま
うのがオチである。
一気にそこまで遠く暗い未来を考えて涙ぐんだ城之内に、海馬は心底呆れたように
それに返してやっていた。
「なにを考えたのか知らんが、勝手な想像の未来で傷つくな。そこまでは俺の所為
じゃない」
「わっ、分かってるけど、でも、だからお前が純情を‥‥!!」
「ああ、それか」
そもそも、死刑の宣告と言われてしまうほどに城之内を絶望に追いやった言葉がそ
れなのである。だが海馬はあっさりと頷くと、まるでなんでもないことのようにそれ
に返してやっていた。
「だから、俺が全知全霊をかけて貴様を奪わんとしてやるのに、貴様の方だけ『よこ
せ』だの『捧げろ』だのと、失礼な話だと思わんのか?」
「はあ‥‥?」
なんとなく言われた意味がまだ分からなくて首を傾げた城之内の横で、既に千年タ
ウクがなくとも未来が見えてしまった遊戯は頭を抱えて号泣していた。それを杏子や
本田、御伽は身を乗り出すようにして興味津々といった体で眺め、更にいつのまにか
また闇人格へと変わっていたバクラはもう腹を抱えて爆笑していた。
「俺の純情でも心でも、まあ言い方はなんでもいいがな。俺から差し出されるのを期
待するな、そんな待ちの戦法など俺には効かんぞ?」
「あ、うん‥‥?」
「つまり‥‥貴様も俺の心が欲しいと望むなら、貴様も『奪ってやる』くらいの勢いで
臨んでこいと言っているのだ!!」
後ろにブルーアイズでも背負っているのかと思わせるほどの勢いで言い放った海馬
に、城之内はしばらくポカンとしていた後、やがてゆっくりと頷いていた。
「‥‥分かった」
「俺の恋人となるのだからな、それくらいの心意気は見せてもらわんと困る。分かっ
たか凡骨っ、ワハハハハー!!」
そんな海馬の高笑いに、すぐ近くで爆笑しているバクラの笑い声と、恨みがましい
闇遊戯のすすり泣きが混じって童実野高校正門横は、さながら地獄絵図のようだっ
た。
「ひどい、ひどいよ城之内くん‥‥!!」
結局そのまま海馬にお持ち帰りされてしまった城之内の背をいつまでも未練たっぷ
りに見送った遊戯は、いつまでもそんなふうにぐずっていた。ちなみにいつのまにか
表人格に戻っていたのだが、そんな遊戯に他のメンバーもなんと言っていいのか分か
らない。
「でも、あんなこと言われて喜んでた城之内‥‥遊戯、やっぱり諦めてよかったん
じゃない?」
「うわーんっ、いくら城之内くんがマゾだったり頭弱かったりしたとしても諦めきれ
ないよぅ‥‥!!」
(全くだぜ、相棒‥‥!!)
取り敢えず杏子が慰めてみても遊戯は泣き叫ぶばかりで、本田や御伽と顔を見合わ
せて困った困ったとため息をつくことしかできなかった。だがそこでいきなり人格交
代を起こした遊戯は、いきなり顔をあげると少し離れた場所にいたバクラの胸倉を
ガッとつかんでいた。
「大体っ、バクラ、お前が俺を邪魔するから‥‥!!」
「おーいおーいっ、言いがかりはようしてくれよう、王サマ?。邪魔しようとしてたの
アンタじゃねえかっ、ハッピーエンドでよかったな、てことで?」
「いいワケないだろう!?」
俺たちの城之内くんがーっ!!、とまだ未練がましく続けている闇遊戯に首を絞め
られたままガクガクと揺さぶられても、その仮死状態楽しんでいるバクラは薄気味悪
く笑っているばかりだった。
なんとなく、海馬よりも城之内よりも、闇人格のバクラが一番今回は恐かったと、
遊戯以外の面々は心の中でそっと思っていた。
「‥‥。」
「‥‥。」
恋人にしてやると海馬が断言してやれば直後に思いきり抱きついてきた城之内だっ
たが、それきり一言も発さないままにてくてくと海馬の後をついて歩くばかりだった。
海馬の方としてはこのまま俺と来いと誘ったものの、どこに行くとも決めていないし
そもそも勝手に会社を抜け出してしまったので、本来ならば会社に直帰しなければ
ならないところなのである。
「‥‥。」
「‥‥。」
だが思わず連れてきてしまった城之内をどうやって帰らせるかではなく、城之内を
どうやって会社に連れていき、できることならすぐにでも邸宅に連れ帰りたいと悩ん
でいた海馬は、不意にかけられた言葉を思わず聞き逃してしまっていた。
「‥‥なんだ?」
「‥‥。」
なにか、ようやく城之内の方がしゃべったと思ったのだが、少し後ろを歩きながら、
しかもうつむいて話す城之内の声はなかなか聞き取りにくい。なので足を止めて
完全に振り返り、城之内と向かい合ってみれば、しばらく視線をさまよわせていた
城之内がようやく顔をあげてしっかりと海馬を見ていた。
「あの、さ‥‥ほんとに、俺でいいのかよ?」
「‥‥今更だな。この俺が一週間もかけて出した結論だ、間違っているはずがない」
「‥‥うん」
まだ信じられないのか、と言ってやりたかったが、それに関してはお互いさまだと
言われそうだったので海馬は何も言わないでおいた。だが、最初からこう宣言してし
まうのが自分の悪い癖だとも分かっていない海馬は、少し嬉しそうに微笑んでいた城
之内に、嘘のない残酷さで先に言っておいてやっていた。
「だが‥‥優しくは、してやれんからな」
「‥‥。」
普通の恋人同士のような関係を求められても困るし、自分はそんな時間もつもりも
ない。性格上も相手をいたわることなど慣れていないので期待はするなというつもり
で敢えてそう言った自分に、城之内は怒るだろうかと海馬は思っていた。だが、
「‥‥いい、分かってる。そんなところが、好きになったんだから」
「‥‥ならいい」
むしろこれまでにないほど自然に笑って頷いた城之内に、海馬は思ったよりも自分
は重症であることに気がついていた。なのでくるりと背を向けて歩き始めようと思っ
たのだが、その足を一旦止めてじっと城之内を見る。
「‥‥。」
「‥‥なに?」
そんな海馬を不審そうに見つめ返してきた城之内からすっと視線を外し、海馬は宣
言通り優しくはしないことにしていた。
「‥‥帰るぞ」
「あっ‥‥うん」
そしていたわり方など知らないから乱暴になっていることも承知で荒々しく手首を
つかんで引っ張るようにして歩き始めた海馬に、城之内はやはり嬉しそうに笑ったま
まその手を逆に手の平同士で握り合うように直してやっていた。それに海馬は少し驚
いたようにしていたが、やがて視線だけは前を向いたままで強く握り返してくれてい
た。
海馬の手の平から伝わる体温は城之内の想像通りほんの少し低かったが、それでも
どんな言葉よりも一番優しくて、そんな体温をしっかりと感じながら城之内は初めて
好きな人と二人きりで帰る通い慣れたはずの道を、一歩一歩大切に踏みしめていた。
20020206
All or Nothing !! -01(01-08) 了
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そんな感じで、第1話終了。
この後発行物では第2話、第3話と続くんですね。
第3話が体操服エロ。
ウチの海城&マリバクマリのときは、これが基本です(オイ)。
ただ発行物で長編一本のときとかは、
もっと普通に海城ぽい(謎)でし。
これで、1話目は16P。
短編やな〜(遠い目)。