【お試し版】
『デフコン3』収録-01.





■00







 狭いコクピット内に鳴り続ける警告音に、ほとんど反射でレバーを引いた。
「くそっ……!!」
 避けきれる、そう思ったのに敵の発射した電気の塊のような球が装甲を掠めた。
 炎源を使用しない通常兵器では破壊力に欠ける上、ただでさえ快調とは言いがたい機動性を更に低下させる。いずれかの属性の炎をエネルギーとして出力する兵器であれば、熱源や予備弾の問題は解消されるが、まだまだ実装には物足りない。モニターの端に垣間見えた敵が放ったのは、恐らく雷の属性だろう。炎をそのまま射出するだけの、芸のない攻撃だ。
 だがそれができるのは、パイロットが炎を操れていることが前提になる。たとえ攻撃自体は単調でも、性能がいまだ不安定な機体が直撃を食らえば、下手をすれば一発で行動不能に陥る。自動車ならば、ライターを投げられただけで走行のための内部のガソリンが爆発し、全体が吹き飛ばされるようなものだ。
 だからこそ、直撃だけは免れなければならない。もし刀を手に生身で立ち向かえば簡単に斬って捨てることができたという事実は思い出さないように努め、今は精一杯この機体で敵に集中した。
「……。」
 炎を使った攻撃が実用的でないのは、前提としてパイロットが炎を扱えないことが多いため、研究が進まないからだ。そもそもボディーアーマーの改良型としてこの重装甲駆動機が開発されたのは、炎を扱えず匣の力を解放できない連中をどう戦場で役立てるかというのが起点となっている。ボディーアーマーという呼び名が一般的だった頃は建設等での使用が目的でも、二十年もすれば軍事利用の方が活発になった。それを嘆く暇すら与えられなかったのは、実際に重装甲駆動機が脅威としてふりかかってきたからだ。
 だが今対峙している敵のパイロットのように、最近は炎を扱えるのに重装甲駆動機に乗る者も増えてきた。
 当初はむしろ下端の戦闘員のための補助兵器だったものが、開発が進むにつれ主戦力になってきているからだろう。いくつかのファミリーでは、既に逆転現象も起きていると聞く。要するに、炎と匣を操る者は、よほどの猛者でない限りせいぜい暗殺や単身での警護くらいの任務しか与えられず、武力の主役は重装甲駆動機部隊に取って代わられたということだ。
 それも時代の流れなのかもしれない。
 炎や匣が扱えるより、モニターと操縦桿を素早く処理できる能力が重宝される。ある種の下克上が許せなくて、炎を操れても機体に乗り、炎源を用いた特殊兵器の開発で再び優位に立とうとする者も出る。そんな風潮の成果が、十メートルほどしか飛ばせない敵のちゃちな雷球の攻撃ということなのであれば、やはり時代の流れに抗っているだけのようにも見えた。
「……まあ、そんなものは」
 これまで、あまり関係ないと思っていた。事実、この並盛に支部を置くボンゴレファミリーでは、炎の使い手を積極的にパイロットには起用してこなかったのだ。
 だからこそ、自分は随分と奇異な目で見られたものだ。
 だがこれもアイツのためだ、と操縦桿を握る皮手袋の中がじっとりと汗で濡れたのを感知したとき、モニターの端に赤い電子光で『CALL』の文字が点滅した。
『……サノス・ナンバー・11、21、63、80、92、作戦変更だ。ターゲット・アルファが陥落した、本部はターゲット・アルファを放棄する。我が部隊は敵を市街地に出す前に叩くことに……。』
「……。」
 緊急の回線で淡々と告げられたのは、守るべき施設として筆頭に上げられていた場所の壊滅だった。自分たちは最終防衛ラインとして敵機と交戦していたが、どうやらこことは違うルートから突破されたらしい。
 だから、もうターゲット・アルファを守る必要はない。
 標的を逃げる敵機に変更して殲滅せよという部隊長の指示に、目の前が真っ暗になった。
『サノス・ナンバー・80、復唱せよ!! 作戦の変更を伝えた、聞こえているのか!?』
「……。」
『サノス・ナンバー・80!! おい、まさかやられたんじゃないだろうな、応答しろ山本!!』
 戦闘中に、他のことに気を取られてまともな判断もできなくなる。
 こんなことでは、集団戦闘が身上の重装甲駆動機部隊、通称サノス隊の一員として失格だ。
 だが、失格と言うのならば、自分は最初から失格、不適格なのだ。パイロットには向いていない。オーバー・ハイトを承知で乗っていたのだから、パイロットとしてまともな立ち回りなどできるはずもない。
『サノス・ナンバー・80!! パイロット山本、返事をしろ!! 通信がいかれてるのか、それとも……!!』
「……。」
 それでも頑張ってきたのは、アイツのためだった。
 その理由が、たった今なくなった。
 それなのに、自分はまだこの窮屈な機械の中で戦わなければならないのだろうか。
「!? ……チッ!!」
 だが通信ではなく、モニターの端で動いた映像に、ほとんど条件反射でレバーを引く。
 山岳地帯なので足元が悪く、激しく震動を起こしつつもなんとか敵機を避けたが、やはりかわしきれてはいない。炎源兵器は一発しか撃てないか、あるいは補充に時間でもかかるのか。重装甲駆動機戦らしく、白兵戦のごとく突っ込んできた敵機の持つロッドが、こちらの肩の装甲を再び掠めた。炎源兵器はイレギュラーなものであり、通常兵器を巧みに操るほどの余裕がなければ、戦い方など一つしかない。剣や長棒に模した強固な合金で、敵機を力技で叩き潰すのだ。
 常套に立ち返った敵機からの直撃を免れたのは、それでも駆動を制御する足元のフットペダルを最優先で操作したからだ。その代償として、窮屈なコクピット内ではどうしても長い腕が邪魔になって思ったように動かせず、上体装甲には掠めさせてしまう。こればかりはそもそも自分の体躯が適性基準を超えているので文句の言いようもなく、舌打ちはしたものの、おかげで目が覚めた思いがした。
『おい、サノス・ナンバー・80!! 交戦中なのか!?』
「……。」
 レーダーの性能は絶対的な信用が置けるほどにはまだ確立されておらず、昼戦においては視認に重点が置かれている現状で、部隊長もこの敵機を把握していなかったのかもしれない。もしかすると、敵機の多くは既に撤退状態まで引き上げてしまっているのか。どちらにしろ信頼性の低い全域地図など悠長にモニターに映す余裕はなく、足元の駆動に関しては車輪による走行を左手でスイッチを切ることで完全に解除し、目の前の敵にもう一度集中した。
 外れかけている肩の装甲は、機番を示す『80』という数字も敵の攻撃で塗装が剥げている。
 少し移動するだけでガシャンガシャンと揺れて上腕装甲と接触するのが煩わしく、握り締めた操縦桿で反対のアームを操って引きちぎった。機体の型番ではなく、乗っているパイロットを示す『80』という機番が書かれた装甲を投げ飛ばせば、それが合図になったかのように敵機も突っ込んでくる。
「このっ……!!」
 守るべきものは、一つではない。
 たとえ何かを失っても、戦わなければならないときがあるのだ。
 そう信じてレバーを引くが、胸を張って宣言できる自信はなかった。
 
 これが後追い自殺ではないではないのだと、言いきる自信はなかった。

















▲REBORN!メニューに戻る
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

>>NEXT