【お試し版】
『二式錯綜シグネチャー』収録-02.





■01






 山本が任務中に怪我をしてから、明日で十日になる。だが病室に毎日見舞いに行くこともなくなった獄寺は、暇を持て余すようになっていた。そもそもは、三日前に市街のマンションから地下基地へと引っ越す予定だったのだ。しばらくは荷物の整理などで忙しいだろうと予定を空けておいたのが、今となっては仇になっている。
「……まあ、暇だしな」
「え、どうかされましたか?」
「いや、なんでもねえ」
 おかげで、ここ三日ほどは参加予定のなかった作業チームに合流している。実験申請は以前から内々に上げられていたが、安全性と有用性のバランスが取れていないという理由でいつも却下していたものだ。組織の指揮系統上の問題で最終承認が獄寺になっているだけで、本来は直々に参加すべきものではない。
 だが、成功し、それなりの有用性が証明されればいろんな意味で劇薬になる危険がある。
 そうなってから緘口令を敷くのは後手だ、実験段階から関係者はできるだけ少なくしておくべきだ。そんな理屈を強引に通して参加したのは、これまであまり接触のなかった製薬系の部門だ。
「あの、では……試薬はこちらになりますが、その、やはり治験は別の方を選出されますか?」
 地下基地の建設が始まった当初から、研究室を移していたこのチームに顔見知りはいない。だが共同開発ということでジャンニーニが参加しており、この場にも同席していた。試薬を手渡してくれたのに、まだ怪訝そうに言うジャンニーニにあからさまに顔をしかめて見せつつ、獄寺は答える。
「それより水寄越せ」
「あっ、は、ハイどうぞ……!!」
 試薬は現在までに、五段階が作成されている。順当に最も程度の軽いものを手にしても、親指ほどもあるカプセルは決して安全な飲み物とは言えなかった。これでは嚥下は困難で、確かに安全性の面でまだまだ臨床実験が許可できる段階ではない。そう内心では思いつつ、顔には出さずに水の入ったコップも受け取った。
 このカプセルの生成に関しては、ツナやバジルが使用していた服用タイプの死ぬ気弾の技術が応用されている。だが効果に関しては、どちらかと言えばジャンニーニなどの機械系にも近い。そもそも、ランボのいるボヴィーノファミリー秘伝の技術を、ボンゴレでも再現できないかと研究していたのが、ジャンニーニたちのチームだったからだ。
 そのため、この研究室には、製薬チームとジャンニーニなど機械系が半分ずついる。
 もう一度確認をするために部屋をぐるりと見回し、唯一面識のあるジャンニーニに念を押した。
「……実験中の相手は、頼んだぞ」
「は、はい、お任せくださいっ。お気をつけて……!!」
「ああ」
 それを合図と取ったのか、一人机についている白衣姿の女性が、目配せをするように頷いた。
 その手にはストップウォッチが握られている。
 時計を見れば、時刻は午後四時半まであと少しというところだ。実験としてはピッタリから始めた方がいいのかもしれないが、記録係の女性は構えているので問題ないのだろう。
 そう判断して、獄寺は手にしていた試薬をできるだけ口の奥へと押し込み、大量の水で胃へと流し込んだ。
「……。」
「ど、どうですか? 胃まで、入りました?」
「……ああ」
 口内で溶かせば中の劇物が威力で吐き出されてしまうかもしれないので、カプセルは胃液にしか含まれない酵素で溶けるように生成されている。そのため、破裂するまでに若干の誤差があり、飲んですぐはジャンニーニとも会話が出来た。殆ど空になったコップを手渡し、代わりに自分の口元を押さえる。どこまで効果があるかは疑問であるが、胃からの逆流を抑えるためにそうするようにと指示されていたからだ。
 溶けるまでは十秒前後と言われていたが、やけに長く感じた。
 研究室にいる者たちの視線が集まっているのが、なんとなく居心地が悪い。
「……。」
 単純に、やっと治験に辿り着けたことで、研究者たちも緊張しているのだろう。
 そうと分かっているのに、何故か違う意味に受け取りそうになる。
 何故。
 どうして。
 嘘をつくのか。
「……?」
「十秒経過、カウント始めます。12、13、14……。」
 効果が出るはずの時間よりやや遅れたからか、記録係の読み上げに研究者たちの視線がますます鋭くなった。
 だがそれすら、獄寺には責められているように見えてしまった。
 お前は、我々の研究に対する純粋な協力者ではない。
 情けない逃亡者だと言われている気がするのは、きっと自己嫌悪がもたらす幻聴だ。やはり自分は三日前の山本の言葉に、と思ったところで、獄寺の胃がチクリと痛んだ。
「15……。」
「!?」
「じゅうろ……実験成功です。以降、効果継続時間に入ります」
 十六以降の読み上げを聞いたのは、獄寺であって、獄寺ではない。
 バズーカのような派手な煙や音も出ることなく、ただ空間が強烈な打撃のように一瞬揺れて、三ヶ月もしないうちに二十四歳になる獄寺はこの研究室から消えていた。




 既にボンゴレの幹部となり、嵐の守護者として匣とリングを操っていた獄寺は、もちろん成人している。
 だが今は並盛の地下基地の研究所から、時間も空間も越えた場所に移動していた。
「痛ててててて……!!」
 座標が十年前の自分自身であるということは、便利でも不便でもある。利点としては、当然もし空間的に移動しないのであれば、十年前のこの時代では地下基地は土の中だからだ。欠点としては、十年前の自分がどこにいたのか、どういう状況だったのか、予測できないという点である。いくら自分の明晰な頭脳を持ってしても、ここ十年分の行動を秒単位まで把握できていない。そう嘆いたものだが、幸いにして致命的な場面ではなかったようだ。
 どうやら中学校の通学路近くの河川敷にいるらしいと察した獄寺だが、喜ぶには少しばかり痛すぎた。
 この実験は、ランボの十年バズーカの逆をもっと簡単に実行できないかという趣旨だ。カプセルのように薬を飲み、十年前にもっと長く留まれる。それが開発されればとんでもない技術ではあるが、実用にこぎつけずいまだ治験すら二の足を踏んでいたのは、この痛みにある。
 なにしろ、バズーカでも五分しかもたないものを、一時間まで効果を伸ばして、更に確実に全身にいきわたらせるために胃の中で破裂させるのだ。単純に、胃が痛い。いや、下手をすると内臓から破裂して四肢が千切れ飛ぶかもしれないなどと言われれば、治験の参加者などいないのは当然だった。
 試薬は滞在時間の長さで五種類作られていたが、一番短く、軽いはずのサンプル1ですらこの威力だ。
「げほっげほ……うあ、やっぱり無事じゃねえのか……。」
 大きく咳き込み、口元を押さえていた手に吐いたのは胃液だけではない。鮮血も混じっているのを見て億劫になった獄寺だったが、助言を守って胃を空にしておいたことだけは良かったと思っていた。これで更に吐瀉物まで混じっていれば、居たたまれなくなっていたに違いない。
 とりあえずはスーツのポケットに入れていたハンカチで手と口元を拭い、獄寺は大きく深呼吸をしてみた。
 するとまた胃がズキリと痛んだが、なんとか立ち上がることはできる。
「……。」
 そうして改めて見回した光景は、随分と懐かしいものだった。
 中学校から自宅マンションまでの間にある、河川の土手だ。記憶を確かめるように川の上流から下流へと何度か視線を巡らせ、どうやらツナの家を過ぎた辺りだということが分かる。
「するってえと、十代目をお送りして、別れた後か……。」
 時計は未来から持ち込んでも正確に動かないため、そもそも持っていない。だが日没にはまだまだ遠い空を見上げていれば、日付と時刻は未来でとほぼ同じ、六月下旬の午後四時半頃だと察しがついた。
 きっと、まだ中学生だった頃の自分は、放課後に一人この土手に腰を下ろして煙草でもふかしていたのだろう。そう思えば大人になった獄寺も無性に煙草が欲しくなるが、胃がズキリと痛んだのでやめておいた。代わりにスーツについていた砂や草を払ってから、のどかな午後としか表現できないようなかつての並盛の町を歩き始める。
「……。」
 並盛は、ボンゴレの基地周辺以外はあまり変わっていない印象があったが、やはりこうして実際に過去に来てみると随分と違うことが分かる。
 個々の建物や、道路、人々の格好などの町並みといったものがやはり懐かしい。
 だがそれよりも、マフィアの抗争など起きていることも知らない町の空気が、やはりどこか穏やかだった。少し居心地の悪さを感じてしまう自分は、ここ十年でどっぷりとマフィアとしての生活に浸かっていたらしい。そう思っても特に寂しさはなく、むしろ誇らしく感じた獄寺は黒いスーツに身を包む自分を恥じることはなかった。
 ともかく、獄寺も過去の世界ですることがある。この薬の効果がちゃんと一時間なのか、計るのだ。
 もちろん本来の世界である十年後では、研究室で記録係がストップウォッチを睨んでいるだろう。だが実際に過去でも同じだけの時間が流れているのか、はっきりしないらしい。こちらから持ち込んだ時計は機能しないようなので正確に測ることはほぼ不可能なのだが、大体同じ、という結果だけは欲しいとのことだった。
「そう言われてもな……。」
 過去の自分が自室におり、時計を確認できる状況を期待していたが、この河川敷では無理だ。
 そう思いながら歩く獄寺は、一歩進めるごとに胃の痛みが増幅していくようだった。
「……。」
 実験に参加したものの、獄寺自身に特に目的はない。だからこそ、唯一頼まれた『滞在時間の確認』だけは実行しようと思ったのだが、なかなか難しいようだ。入れ替わった先で時計が見当たらない以上は、時計がある部屋か、時刻が分かる人に頼るしかない。だが不用意にこの時代の者と接触するのは避けたいので、やはり当時の自分の部屋に向かうしかないようだ。
 鍵は掛かっているはずだが、それは壊すしかないだろう。その辺りの説明は、本来の時代でジャンニーニたちが中学生の自分に説明をしてくれているはずだ。
「……。」
 実を言えば、おぼろげではあるが、その記憶もある。未来の実験に振り回されて、金欠気味だった自分は勝手に鍵を壊されると知って随分憤慨した。
 だが、実際に鍵を壊されていたかどうかは、よく思い出せない。
 それは記憶が薄れているからというよりは、歩いているうちに胃の痛みがズキズキと増してきたからだろう。
「くそっ、これ、やっぱ実用化は無理なんじゃねえのか……!!」
 無意識のうちに胃を上から手で押さえてしまっている獄寺は、次第に脂汗も出てきていた。足も徐々に重くなってきており、さほど遠くないはずの当時の自分のマンションまで歩くのが億劫だ。
 吐くかもしれないのでと昨日の夕食を最後に何も食べていないこともあり、意識が朦朧としてくる。
 ついでに言えば、三日ほど前から寝不足なのだ。
 これぐらいの不摂生は大したことないと思っていたが、今回は随分と自分も参っているようだ。
 なにしろ山本から別れを、と思考が三日前の病室へと戻りかけて、獄寺は慌てて首を大きく振る。思い出すな、考えるなという自分への戒めであったが、この体調には少しきつい動作だったらしい。
「おっと……?」
 思わず眩暈がして、獄寺は足を止めた。
 そして一度止めてしまうと、再び歩き出すのが嫌になった。
「……。」
 実験など、本当は大して興味がなかった。こんな自己犠牲をしてまで、禁忌とも言える過去への干渉を誘発しかねない薬の開発などに、協力するつもりはなかった。
 それなのに、どうしてこうして胃の痛みを抱えてまで過去にいるのか。
 導き出される答えはあまりに自尊心を逆撫でするが、痛みで意思が薄弱になってくるとつい呟いてしまいそうになる。
「やま、もと……。」
 十年前ということは、自分は中学二年生だった。
 そうであれば、もちろん同い年の連中もそうだ。
 あの頃のアイツなら、まだ、あるいは、と期待してすがってしまう自分はあまりに情けなくて、虚しかった。だからこそ、過去に戻ってすべきこととして唯一の時間計測は完遂しようとしたのに、やはり建前などこの痛みの前では簡単に挫けてしまうものらしい。
 放っておけば、このままぐるぐると暗く居たたまれない思考に陥っていく。そのことはこの三日間で嫌というほど自覚していたので、獄寺は深呼吸でなんとか気持ちを切り替えた。ギリッとまた胃が痛んだ気もしたが、胸の痛みに比べれば随分とマシだ。
 ただ当時の住まいに向かう気力は回復しなかったので、獄寺は土手から河川敷へと続く法面へと腰を下ろすことにした。
「……。」
 幸いにして、天気はいいようだ。あと一時間くらいは雨も降りそうにない。
 そうであるならば、これほどの痛みを抱えたまま歩き回るより、この穏やかな場所でぼんやりと過ごすのもいいかもしれない。本当は走り出してでも探し出したい欲求は、痛みに隠して気がつかなかったことにしておく。ここまで、過去にまでやって来ていても、やはり自分はくだらないプライドを捨てられないようだ。
 そんなことを頭の隅で思いながら、獄寺はもう一度大きく咳き込む。学習したのでハンカチを口元に当てていたが、やはりまた血が混じっているようだ。
「ったく、これ、痛すぎだろ……。」
 守護者として、それなりに身体は頑丈なつもりである獄寺ですら、一番弱い試薬でこのザマなのだ。
 やはり実用には程遠いと呆れたため息をついたところで、ふとすぐ背後で足音が止まっていた。
「……大丈夫スか?」
「ああ?……なっ!?」
 どうせ後ろの土手をゆく通行人と思っていたが、獄寺が咳き込んでいるのを見ていたのか、そう心配そうに話しかけてきたのだ。
 この時代の人間とあまり接触してはいけないという不文律のため、獄寺としては放っていてもらいたかった。だが怪訝そうに振り返ったときに、面倒くささは吹き飛び違った動揺にさらされる。
 どうして、お前がここにいるのか。
 偶然にしては出来すぎている。
「なんか、具合が悪そうスけど、病院とか行った方が……?」
「お前、なんで……!?」
「え?」
 平日の午後だ、部活があった曜日かは思い出せない。
 仮になかったとしても、家はこの川を渡らない方向だったはずだ。
 それなのに、どうして。
 山本がいるのだと学生服に包まれた姿を肩越しに見上げて呆然としていた獄寺だったが、続いた言葉はそれを尋ねるものではなかった。
「というかっ、どうしたんだよ、その顔!?」
「えっ……あ、えっと……?」
「誰に殴られたんだっ、この、バカ!! オレが仇とってきてやる、さっさと言え」
 可愛い顔に傷つけやがって、とギリッと歯を軋ませた獄寺は、この段階ですっかり自分の胃の痛みは忘れていた。
 なにしろ、いくら過去に戻っても会えるのかは確信がなかったし、会おうと奔走することも躊躇っていたのだ。
 それが、偶然にも、向こうから声をかけてきてくれた。
 懐かしい中学校の制服で、今の獄寺の記憶にあるより随分と背も低く幼い。当時はそれでもかなり体格がいいと憎く思っていたが、こうして十年の時間差があればやはり相手も子供だったのだなと獄寺は分かった。
 早朝練習で使用したのか、肩から提げた野球道具のバッグには『山本武』と刺繍がされている。
 そういえばこの当時は、バカはバカでも、野球バカだった。そう懐かしく思ってしまいつつ、獄寺はもう動けないと思っていた法面から立ち上がり、土手に立つ幼い山本へと詰め寄った。
「あの……?」
「だから、この怪我、誰にやられたんだってきいてんだよ」
 そうして自然と手を伸ばしたのは、中学生の山本の左頬、目の下に近い辺りにある赤い痣だ。やや切れて血も滲んでいるその痕は、殴られたばかりだからだろう。こんなに可愛い山本を傷物にしやがるなんて、と腸が煮えくり返りつつ、つい獄寺が指先で触れれば幼い体はビクンッと震えて萎縮する。
「あ、痛かったか……!?」
 その反応に、思わず慌てて尋ねたのは、そうであってほしいと願ったからだ。
 反射的に目をギュッと閉じた幼い山本に、もうすぐ二十四歳になる獄寺の胸は不埒な色を孕んで跳ね上がった。自制しなければという理性が、相手からの否定と牽制を求めた。逆を言えば、中学生である山本にそうされなければ暴走してしまいそうなほど、獄寺は煽られてしまっていたのだ。
 この山本なら、あるいは。
 まだ可愛いままで、腕に抱けるかもしれないという浅ましい期待を打ち砕いて欲しかった獄寺に、やがてゆっくりと目蓋を押し上げた幼い山本は、複雑な色を乗せていた。
「いや、えっと……その、友達と、ちょっとケンカしちゃって」
「……!?」
「殴られたとかじゃ、ねえのな? たまたま、手が当たっちゃっただけだから」
 そう説明する少し声の高い山本は、『友達』をかばうというより、偶発的な事故なのだと自らに言い聞かせようとしているようだった。気にしてるかもしれないから謝らねえと、と続ける山本に、獄寺にもようやく思い出せた。
 中学二年生の一学期、まだ『恋人』という関係にはなかった時期だ。
 山本からはやけに懐かれたが、それは勝手な友情だと嫌悪していた。まるで慕情かのように期待してしまう自分自身には、憎悪すら抱いていた。なにより、そうと期待するということは、獄寺の方が山本に寄せる想いがあるということも認めなければならない。
 幼い頃に実家を飛び出し、イタリアでずっと一人で生きてきていた当時の自分は、とっくに大人だと自負していた。だがそれから十年経って振り返ってみれば、やはりまだまだ子供だったのだ。持つべきプライドを間違え、ぶつけるべき先には甘えていた。本当は大事にしたかった相手に、応えられないのが恐くて、手荒に突き放してばかりだったのだ。
「……山本、悪かった」
「え?」
 そんな鬱積ばかりを抱えていた中学生だった当時、確かに学校の帰り道、ツナと別れて山本と二人になってから些細なことで口論になった。正確には、当時の獄寺が一方的に苛々して、結果的に突き飛ばした。その際に手が当たったのは偶然だったが、そうと言い訳はしなかったし、もちろん謝罪もしなかったので山本は殴られたと思っていたのだろう。
 現場は、確かにこの河川敷だ。手が当たり、山本が去ってから、当時の自分は不甲斐なさと苛立ちでそのまま居座り川を見ながら煙草をふかしていた。気にしているかもしれないと山本が戻ってきた記憶がないのは、こうして今の自分、つまり十年後の獄寺が会ってしまっていたかららしい。
 殴った方の心情を慮って戻ってきたということも、結局は中学生だった獄寺がみっともなく動揺していたからだろう。つくづく情けないとため息をつきたいが、これも何かの縁のはずだ。十年の時を経て成長し、山本に対して予防線を張って遠くから警戒するような真似はしなくてすむようになった大人の獄寺は、素直にそう謝ってみせた。 
 それに幼い山本は面食らっているが、理由はすぐに判明した。
「あ、別に、お兄さんが悪いワケじゃねえし……?」
「……。」
「あと、なんでオレの名前、知ってるのな?」
 不思議そうに見上げてくる幼い山本は、当然目の前のスーツ姿の大人が、未来の獄寺隼人だとは知らない。だからこそ、謝られても意味が分からないようだ。
 そのことは当然察することが出来るのに、獄寺はまた思考が停止寸前になる。
 じっと見上げられる深い瞳が、自分を見据えてくる。
 純粋な胸の高鳴りは、やはり二十四歳の山本とは違うのだと突きつけてくるようで、ときめきを相殺する。
「……いや、カバンに書いてあるじゃねえか」
「え?……あっ、そーいやそーだったのな、あははっ!!」
 痛みがなんとか思考を回してくれたので、与えられた幸運を知ろうともしなかった子供ではない獄寺は、ここはばれない方がいいだろうと判断した。中学生の山本にしてみれば、単純に見ず知らずの人が苦しそうにしていたので声をかけてみただけなのだ。名前を知っていたことも、野球道具のバッグを指摘すれば素直に笑って納得している。
 それに、獄寺は思わず視線を逸らしてしまった。獄寺の前で、他の誰かがいるわけでもないのに、あっけらかんと無邪気に笑う山本をまともに見れる自信がなかったのだ。こんな笑顔は、ここ数年見ていない。自己否定を繰り返しても最終的にやはり山本が好きなのだと認めざるをえなかったのは、こういう笑顔を向けられたからだ。それなのに、実際に久しぶりに遭遇すると照れてしまって顔を背けてしまう。こんな反応に至る元凶は、脳裏をよぎりかけた病室での淡々とした横顔だ。
 思わずまた胸がズキリと痛む。それに、獄寺よりは随分と背も低い山本が顔を覗き込んでくるのが分かった。相変わらずこちらが視線を逸らせば見てくるヤツだと内心苦々しく感じたが、ついいつもの癖で視線を返せばそのまま絡まっていた。
「……!?」
「……なんか、お兄さんて、その友達に似てるのな」
「あ、ああ……!?」
 獄寺が見つめても、視線を逸らさない。
 やはり同じだけ年を重ねた山本ではないのだと突きつけられるのに、慕情の方が大きくなってしまう。それは、危険な兆候だ。自分にとっての『山本武』が、変わってしまいそうな恐怖である。
 だが、こんなことは単なる逃避にしかすぎない。
 自分にとって都合のいい相手に勝手な依存をしかけているだけだと心の中で自制をした獄寺は、なんとか詰めていた呼吸を再開し、できるだけ大人の余裕で笑ってみせていた。
「そう思いたいなら、思っとけ」
「えっ……。」
 仮に獄寺が随分変わっていたとしても、髪や目の色といったものは同じだ。この並盛では珍しい組み合わせではあるし、友人である『獄寺隼人』を想起しても当然だろう。日本人だと言い張ってもボロは出るだろうし、それならばいっそマフィア関係者だと匂わせておいた方が勝手な解釈もしてくれるはずだ。
 そんな打算で適当に頷いておけば、幼く楽天家だった山本は、獄寺の親戚とでも考えるだろう。完全に見知らぬ相手とするよりは、一時間くらいの世間話には応じてくれやすいだろうという期待もあって笑った大人の獄寺を、幼い山本は驚いたように見上げてきていた。
 だがやがて、ふいっと視線を逸らしてしまう。そんな仕草に、同い年の姿を垣間見て焦った獄寺だったが、軽く俯いた山本はゆっくりと口を開いていた。
「お兄さんは、その友達とは、違うのな。その友達は、オレのことちゃんと見て、ちゃんと話して、笑ったりしてくれねえし……。」
「……!?」
「……オレ、そいつには嫌われるから」
 だから違うのだと繰り返す山本に、獄寺は衝撃を受けた。
 年齢差で随分と小さく見える体は、ますます儚げな存在のようだ。予想はしていたはずなのに、まだ中学生の山本の口から、『獄寺には嫌われている』という発言をされるのは、つらかった。
 当時はそう思われても仕方なかったし、むしろそう思わせようと躍起になっていた節もある。単純な虚勢だ。獄寺自身がまだ山本への気持ちを計り損ねていたので、答えが出る前にバレたくないと必死になっていた。
 だがそのことで、少なくとも友人としては獄寺に好意を抱いていた山本を深く傷つけていた。
 それを思い知らされて焦る獄寺より先に、急にがばっと顔を上げた山本が、やけに必死になって続ける。
「あっ、で、でも、だからってお兄さんがオレのこと好きって意味じゃないのな!?」
「あ、ああ……!?」
 俯いていた雰囲気では泣き出してもおかしくないと思っていたので、再び向けられた顔が照れている様子には獄寺も面食らった。勢いよく断言されたので反射的に頷いてしまったが、どうやら変な誤解をされたくないというフォローのようだ。確かに、先ほどの発言は裏返せば今目の前にしている大人には嫌われていないとも取れる。こういうときだけは頭が回るのだなと苦笑してしまった獄寺は、ごく自然に片手を山本の頭へと置き、撫でてやっていた。
「いや、オレはお前のこと好きだぞ?」
「ええっ……!?」
「それに、その友達ってのも、きっとな」
 幼い山本が、少しでも楽になれるように。
 そんないたわりから発した言葉だったが、ただの自己保身にしか聞こえない。内心ではうんざりしつつも、言われた方の山本はやや顔を赤らめて呆然と見上げてくるので、悪い気もしなかった。なにより、意外に固い短めの髪を撫でるのが心地よくて、やめられそうにない。身なりなど全く気にしていない山本は、頭のてっぺんからつま先まで同じ石鹸で洗うことが多かったらしい。中学生のこの時期はまだその習慣の最中のようで、ギシギシと少し傷んでいる髪を撫で続けていると、やがて顔を赤くしたままの山本が小さく頷いていた。
「……そうだと、いいのな」
「そうなんだっての」
「あっ、そうじゃなくて!? お兄さん、どっか体が悪いんじゃねえの? 大丈夫なのな?」
 口調からもすっかり気を許して打ち解けてきている山本に、獄寺はようやく自分がそもそも怪我人であったことを思い出す。だが胃の痛みはあるが、気にならなくなっていたのも事実だ。
「いや、お前がいるから大丈夫だ」
「う、うん……?」
 どうせ意味は分からないだろうと思いつつ、獄寺は適当にそう言うと名残惜しい黒髪から手を離し、代わりに山本の手を引いた。すると何の疑問もなく土手から数歩法面を下った幼い山本と共に、獄寺は再び川を臨む場所に腰を下ろした。
 隣に座る山本は不思議そうにしているが、素直に従って手も獄寺に握られたままだ。その手の平にはところどころ皮が硬くなっており、その位置が同い年の大人のそれとは違うことを無意識に感じた獄寺は、ようやく手を離していた。
「なあ山本、お前、暇だったら……。」
 正確な時間は分からないが、あと三十分くらいは滞在できるだろう。その間くらいこうして隣にいてくれないかと提案しようとした獄寺に、横から先に山本が頷いていた。
「あっ、うんうん、そーなのな!!」
「……何がだよ?」
「え? オレ、得意なのなっ。任せて、すぐにお腹痛くなくなっから?」
 どうやら山本にとっては、まだ話が続いていたらしい。獄寺が押さえていたのは胃だが、腹の方が痛んでいたと勝手に思い込んでいる様子は、やはり『獄寺隼人』に似ているからなのだろう。だがそうだとしても、胃腸薬があるわけでもなく、もちろん医者でもない山本が治せると言わんばかりの口ぶりは不可解だ。
 思わずその感情が顔に出てしまったが、ニコニコとした山本は気にした様子もなく獄寺の腹へと隣から手を伸ばしてきていた。
「オレ、近所のちっちゃい子の相手とかすることもあんだけど、ほら、コケて泣いたりするヤツとかいるだろ? でもオレがこうしてあげたらっ、すぐに泣き止むのな!!」
「バカッ、オレをどこぞのガキと同レベルで……!?」
 そうしてスーツの上からピタリと手を乗せられ、不覚にも動揺してしまっている間に続けられた言葉は、民間療法ですらない。迷信の域ではないかと返しかけた獄寺に、得意げな山本は軽く目を閉じ、腹へと当てた手をぐるぐると回しながら予想通りの言葉を発していた。
「いたいの、いたいの、とんでけーっ!!」
「……!?」
 そんな気休めで治るはずがない、非科学的だ。
 そう言えなかったのは、幼い山本が唱えながら撫でた瞬間に、確かに痛みが軽減したからだ。もちろん、獄寺とて心療という存在は理解している。だがこの場合は、幼いとはいえ好きな相手からいたわられて嬉しかったからではない。単純に、本当に山本の力だ。
 きっと、今もスーツの上から腹を撫でている山本の右手に何かしらのリングがあれば、薄っすらと炎が灯っていただろう。雨の属性を帯びた炎は、鎮静をもたらす。痛みが鎮まるのは、その影響だ。だが文字通り鎮静でしかない炎では、傷そのものが治ることはない。むしろ使いすぎれば痛みを感じなくなり、自覚のないままに致命傷に至らせるかもしれない麻薬と表裏一体だ。
 遊んでいて転んだ子供に、親が迎えにきて手当てをするまでに一時的に痛みを鎮めてやるのであれば、いいだろう。
 だが、体内を巡る唯一で単一の属性が雨で、その容量がかなりのものである場合、当人はずっと鎮められ続ける。本当はもっと大怪我なのに、気づかずに放置したりしてしまうことはないのだろうか。
「山本……。」
「ん?」
 山本は、鈍い。とても疎い。それなのに、同時に繊細で傷つきやすいのだ。
 相反する性質のようでいて、それらが混在する理由を垣間見た気がした獄寺は、胃の痛みは癒されていくのに胸の奥がズキズキと軋んでいた。もしかすると、ぼーっとしていたというのは、痛みは癒されても傷の存在は自覚していた山本が、当惑していたという反応だったのだろうか。もしそうであれば、どうして山本が別離を告げる前になんとかできなかったのかと悔やみかけた獄寺の脳裏には、当然二十四歳の山本がいた。
 だが、その直後に視界に飛び込んできたのは、病室でほとんど覇気もなく淡々と獄寺を拒む大人の横顔ではなかった。
「どうっ、痛くなくなった? 効いた? 効いた?」
「あ……あ、ああ。そうだな、凄いな」
「えへへっ」
 褒められ、照れたようにはにかむのは、まだ十四歳で中学生の山本武だった。
 獄寺の腹に乗せていた手は引っ込め、しっかりと斜面に腰を下ろしている。だが上体をひねるようにして横からしっかりと顔を覗き込んでくる幼い山本は、本当に嬉しそうだ。
 その笑顔を見ていると、獄寺も自然と笑みがこぼれる。胃の痛みが和らいだことよりも、こうして山本が笑ってくれることがずっと嬉しい。
「助かった。ありがとな、山本」
「どーいたしましてっ」
 山本とて、自らに治癒能力があるなどと信じているわけではないのだろう。この時期であれば、確か、まだ黒曜中学との戦いも起きていない。そうであれば炎やリングといった存在を知るにはまだ遠く、自分の持つ雨の属性など知りもしないはずだ。だから気休めだと笑ってみせているが、それでも嬉しそうなのは、一時的にでも獄寺が楽そうにしているからに違いない。
 優しさや、思いやりとも言えるそんな心情がありありと窺えるこの山本を見ていると、獄寺は逆に切なくなってくる。それは本来の時代で同い年の山本と比べるからだけではない。こうして、大人の獄寺に対しては嬉しそうに笑ってくれる山本の頬には、似つかわしくない痛々しい傷があるからだ。
「……じゃあ、お礼しねえとな」
「ん? そんなのいいって、ほんとに治療とかしたワケじゃないし? それより、すんごい痛いんなら、お兄さんもちゃんと病院とか行ってな?」
 正確な時間は分からないが、こちらの世界に来てまだ三十分も経っていないはずだ。
 つまり、順当であればあと三十分はこうして幼く可愛い山本と共に在れると頭では分かっていても、獄寺は手を伸ばすことを止められない。この山本が痛みを鎮めてくれたように、自分も山本の傷を癒してやりたいと思った。
「ガキが遠慮すんなっての」
 だが晴の属性の炎を、嵐の属性ほど巧みに操れるわけではない獄寺は、自分の方こそまさに気休め程度の効果だと分かっていた。
 しかも、怪我をしている幼い山本ではなく、ずるくて情けない大人の自分が癒されたくて手を伸ばす。
「え?……うわっ!?」
「舐めときゃ治るだろ、この傷も」
「んぁっ……!?」
 三日前の病室でよりは、随分と小さな肩を抱き寄せ、唇を寄せる。
 さすがに山本の唇へではなく、左目の下の、中学生の獄寺に殴られて血が滲んでいる痣に対してだ。最初に舌でベロリと舐め、血の味を感じながら次に唇を押し当てる。そしてこれが迷信からの仕草とも微妙に違うことは自覚したまま、唇を触れさせたまま軽く吸ったのだ。
 そのまま顔を引くようにして離せば、チュッと音が立つ。いくら疎くて、幼い山本でも、これがキスだということぐらいは分かるだろう。もちろん唇にしたわけではないので、この頃の楽天具合を考えれば本当に『舐めておけば治る』という行為と笑って流すに違いない。
 だが、既に唇を離して顔を覗き込む獄寺に対し、山本は笑わない。ただ驚きすぎて呆然としたようにこちらを見つめ返しつつ、頬だけはどんどんと真っ赤になっていっていた。
「……バカッ、お前、ほんっと可愛いな」
「えっ!? あ、ええっと、その……!?」
 この山本にしてみれば、具合の悪そうな青年に親切から声をかけただけなのに、頬へとはいえキスをされたのだ。普通に変質者でもおかしくない。怒り出して暴れても当然なのに、それすら忘れたかのように顔を真っ赤にしている幼い山本が可愛くて、新鮮で、切なくて堪らなかった。
 肩に回した腕はそのままであったし、抱きしめてもっと深く触れ合いたいとは思う。
 だがそれはしてはいけないことだと知っていた獄寺は、山本が動揺しているうちに手を離し、せめてもの償いで『見ず知らずの男にいきなりキスをされた』という汚名だけは晴らしてやることにしていた。
「オレは獄寺隼人だ」
「……!?」
「当然知ってるだろ? その傷作った本人だ」
 そう素性をバラせば、山本は息を飲んで体を硬直させる。それも肩を抱いて感じたかったと名残惜しくなりつつ、獄寺は横に座ったままで自然と笑いながら続けていた。
「いろいろあって、十年後の未来から来た。だから、本来は今年で二十四歳になる」
「そ、そんな、こと……?」
「まあ、お前はバカだしな。信じられねえかもしれねえけど、オレはこの時代より十年後の獄寺隼人なんだよ」
 この頃は、山本は確かまだランボの十年バズーカですら理解していなかったはずだ。ましてや、未来から過去に来れる装置などという存在を鵜呑みにはできないだろう。だからこそ、伝わっても、伝わらなくてもいいという心境で、獄寺は笑って告げてやった。
「だから、山本、安心しろ?……オレは、お前が好きだ」
「……!?」
「オレは、お前が好きなんだよ、山本。だから……?」
 心配しなくていい、意地っ張りなガキだった頃の自分に振り回されなくていい。
 ちゃんと好きだったのだと伝えた瞬間、それまで戸惑うばかりだった山本の目に、すっと暗い色が差した。初めて怒りというものが垣間見えたとき、焦っていたはずの山本が低く呟く。
「……嘘だ」
「山本?」
 そんなのは嘘だ、未来から来るなどありえない。
 そういった趣旨だと思っていた獄寺は、山本の目に灯った激情が、本当は怒りではなく苦痛だったことを見抜けなかった。覗き込んでいた瞳が一瞬で水に覆われ、更に離れてしまったからだ。
 座っていた法面から立ち上がると、山本はそのまま土手まで駆け上がり、川沿いの道を走っていってしまった。
 遠ざかる背中を眺めることもなく、ただ足音だけを聞き続けていた獄寺はやがて深くため息をつき、ゴロリと斜面に寝転がった。
「……まあ、結果オーライてやつか」
 元々、試薬の効果が切れて元の世界に戻る瞬間に、あの山本といることはまずいと思っていたのだ。相変わらず意地の張り合いでのケンカをしていた最中に、突然昔の自分を連れてくることになるからである。そんな居心地の悪い場面に遭遇すれば、子供だった頃の自分はまた動揺しすぎて心にもない言葉であの山本を傷つけてしまわないとも限らない。
 だから、効果が切れるはずの時間が近づけば、幼い山本を遠ざけるつもりだった。
 よってこれは予定通りなのだと思い込もうとしても、自分の不甲斐なさは誤魔化しきれない。
 せっかく鎮まっていたはずの胃の痛みが、またぶり返した気がしていた。




「……あっ、おかえりなさいませっ。どうでしたか、あちらは?」
「……。」
 結局一度も時刻の確認を行わなかったので正確なことは分からないが、ほぼ一時間ほどして獄寺は本来の世界である十年後に戻っていた。その際にも胃の中からの衝撃はあったが、始動時ほどではない。軽く鳩尾を殴られたくらいの痛みで地下基地の研究室に戻り、最初にそう声をかけてきたのはジャンニーニだ。
 それに、寝そべる格好だった獄寺はまずは床から体を起こし、辺りを見回す。もちろん、体感として一時間前に別れたばかりの面々だ。表情はどれも悲観的ではない。そのことで、おそらく成功だったのだろうと察しつつ、獄寺はしかめっ面を作っていた。
「……こっちはどうだった、ガキのオレは大人しくしてたか?」
 自分自身のことなので、さして暴れなかったという記憶はある。だが未来が必ずしも定まっているとは確信していない獄寺がそう尋ねてみれば、ジャンニーニは苦笑していた。
「ああ、はい、研究の意義についてお話しすれば、なんとか大人しくお待ち頂けましたので」
「……。」
「……いえ、もちろん、話を始めさせてもらえるまでに多少手間取りは致しましたが」
 ダイナマイトを取り出すくらいはしたはずなので、研究員たちもジャンニーニの言葉には疲れたようなため息をついていた。だが室内が焼け焦げていることもないので、一応は大人しく待ってくれていたというのは事実だ。
 そのことは確認にすぎなかった獄寺は、ようやく深くため息をつく。そして、結果を聞きたがってる研究員たちにまずはその希望を砕いていた。
「失敗だ」
「えっ……!?」
「というか、実用化はまだ無理だ。あっちについた時点で運よく手当てされたからよかったようなものの、こんなの飲んだらたとえ過去に飛べてもそこでショック死してもおかしくねえぞ」
 厳しい口調で言う獄寺に、研究員たちは目に見えて落胆していた。実際に、獄寺は戻ってきた際の衝撃でまた軽く血を吐いている。過去で手当てされて尚その出血と解釈すれば、やはりかなりの負担であることは否定できない。
 やっと治験にこぎつけたチームには、悔しそうな空気が満ち溢れている。だからといって、では自分が実験すると申し出る者がいない以上、やはり開発していた者たちだからこそ、体内で破裂させる衝撃の大きさを予想していたのだろう。
「研究自体は無駄とは思わねえ、でも過程で得た成果を別の方面で活用することを目指した方がいいかもな。開発の中止かどうかは、また十代目とも相談して正式決定する。ただ、治験に関しては今回で終了だ。危なすぎる」
「そう、ですか。残念ですが、仕方ありませんね。むしろ参加してくださって、ありがとうございました。メディカル班には連絡を入れてありますので、獄寺氏はどうぞお体を治してください」
 ジャンニーニの言葉は、実質的に獄寺の意見を受け入れたということだ。研究員それぞれで思いの差はあるだろうが、ボスの名前まで出されれば従わないわけにもいかない。
 そんな研究室内の空気を確認してから、獄寺は頷いた。中止を促すために大袈裟に表現したものの、胃がかなり傷ついたことは確かなのだ。他にも何かしらの損傷があるかもしれない。面倒でも医療チェックは必要だという自覚はあったので、獄寺は部屋を辞す前に鍵のかかるケースの前に立っている研究員に声をかけた。
「残りの試薬を渡せ。念のためオレが預かって、十代目の判断が出れば責任を持って処分する」
「は、はい……!!」
 今回使ったのは、五段階で最も効果の弱いサンプル1だ。
 残りのサンプル2から5まで、四つの試薬が入ったケースを取り出させ、勝手に治験を続行しないようにという建前で受け取って獄寺は研究室を後にした。










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ここまでで、19ページ目。
こんな感じで、何度か24獄が過去に逃避していく話です。
24*14、14*14でエロがあるので、傾向として苦手な方は避けてください。


ロボっぽい何か