【お試し版】
『トランスフォーマーG』収録-02.
■01
地下基地の実験場で、新装備品の耐久試験にかこつけて獄寺に好きにされてしまってから、もう一週間が経過している。昨日ようやく潜入任務を開始する通達が、ツナからなされた。その間に獄寺とは顔を合わせなかったので、また出張か、研究開発でもしているのだろうと深くは考えなかった。むしろ、一人だけで潜入するという初めての任務に緊張しながら、ツナの話を聞いたものだ。
『……ネムロマン?』
『いやいや山本、そんな、根室限定のご当地ヒーローみたいなのじゃなくてさ? ネクロマンサーだよ。ええっと、死霊使いとか、そういう感じかな? 通称はそう言われてるんだ』
だが、ツナの方は山本が緊張しているなどとは全く思っていない。聞き慣れない単語に首を傾げている山本は、相変わらず緊張感がないことをツナがむしろ安心していることなど気がつかないまま、なんとか理解しようと努めていた。
獄寺に好きにされた先週はあくまで任務の予定があると伝えられただけで、詳しいことは聞かされていなかった。完全な戦闘要員ではない内偵者が先に潜入しているようで、その報告を待ってから、山本はあくまで制圧を目的に送り込まれるということだったためだ。心構えだけはしておいてくれと言われ、ぼんやりしていると一週間後にこうしてツナに呼び出され、やっと詳細を聞かされている。
『まあ、本当に幽霊だの死体だのを操れるワケじゃないからさ、あくまで通称。あるいは、本人が脅しのつもりで触れ回ってるのかもしれないけど、少なくともボンゴレではそう思ってない』
『ああ……?』
『ただ、そうじゃないかって言われる原因も、確かにあってね?……死んだはずの娘さんが、その屋敷の離れにある塔で生きてるって噂があるんだ』
しかも、生きていれば四十歳くらいなのに、娘は死亡したはずの二十歳くらいの若さを保っているらしい。
そのため、幽霊を操っているだとか、死体を蘇らせたとかいう噂になっているらしい。だが屋敷の主人、娘からすると父親にあたる六十歳を超えた男は、そんな噂を否定も肯定もしない。今のところは、娘が塔から出てくることもないとのことだ。
ならば、放っておいてもいいのではないかと、山本は一瞬思った。父親が、死んだ娘を思うあまり、そっくりな絵や人形を塔に置いているのかもしれない。もしそっくりな女性を監禁しているのであれば犯罪だが、解決のためにボンゴレのようなマフィアが出て行くのは筋違いだろう。そう不思議そうにしているのが当然ツナにも分かったようで、少し困ったように笑ってから続けていた。
『もちろん、ただ死者を悼んで人形でも飾ってるだけなら、美談でもいいんだけど。問題は、その屋敷の主人が、匣職人てことなんだよね』
『え……?』
主人の職業だけで、ボンゴレが噂に興味を持ったことは簡単に理解できた。
『最初はね、いわゆる義肢の技術の一種なんじゃないかってことだったんだ。ほら、クロームは骸の力で幻影の臓器を実体化してるでしょ? あれは特別な絆が二人にあるからできることだけど、もし、炎が灯せれば開匣できる匣なんかで、誰もがそういうことができれば、現存してる義肢よりずっと本人の身体に近いものができる。そういう技術を開発したんじゃないかって推測して、ボンゴレは接触を図ったんだけど、ね……。』
『上手くいかなかったのか?』
『うん、まあ、結論から言うとそうなんだ。やたら警戒されてて、妙なこと嗅ぎ回るなら相手になるぞって脅されて。それがさ、こう、過敏すぎるっていうか? なにより、特定のファミリーの後ろ盾はないはずなのに、実力行使も辞さないって妙に自信満々でさ。それが変だってことで、内偵進めてたら、ちょっと、おかしなことが分かってきてさ』
そう説明するツナは、苦笑している。どうも、最初の交渉の段階で穏便にできなかったことを悔やんでいる様子だ。だが、結果的に知りえることになった不穏な兆候を見逃すこともできなかったらしい。まさに藪をつついて蛇を出してまったようだが、もし最悪だった場合はここで未然に防いでおく必要もある事態のようだ。
『そもそも、二十年前に死んだとされる娘さんは、交通事故で。体の一部がちぎれて死んだってことになってるから、なくなった部分を匣兵器で補完してるんじゃないかって仮説で、接触したわけなんだけど』
『ああ……?』
『……よくよく調べると、娘さんのちぎれた部位って、ココ、なんだよね』
仮に手や足がちぎれたのであれば、場合によっては助かることもある。事故に遭ったのが街中で、病院への搬送が早く、出血量が抑えられればその確率は上がるだろう。
だがそんな推測は、ツナが示した部分、首が切断されたという現実の前ではさすがに無理だ。
思わず息を飲んだ山本に、ツナは一度大きく息を吐いてから、重苦しそうに続けていた。
『この場合、頭がちぎれたとするのか、首から下がなくなったとするのかは、表現が分かれるところだけど。とにかく、もし本当に匣兵器で失った部位を再現してるんなら、もう義肢とかいうレベルじゃない。いっそ、全身が一つの匣兵器で、なんて言うのかな、人造人間みたいなイメージ? それなら、まだ分かるけど、少なくとも人間の動きを人間に混じってても不自然でないほどのものは、まだできてない。なにより、弱いけど波動が複数流れてるって報告もあるから、少なくとも人型の匣兵器ってことはないんだ。ミックスだと、それはそれで出自が怪しくなるからさ』
匣兵器でも複数の波動が流れるものはあるが、あくまでイレギュラーな存在だ。稀少すぎて現存するものはほとんど所在が知れている。
そうなってくると、どう考えればいいのか。
事実だけを淡々と並べられても混乱するばかりなのは、ツナも同じのようだった。
『まあ、それでね。山本に確かめてもらいたいのは、とりあえず、娘さんが人間なのか、人間だとすればどこが匣兵器の応用なのかってこと。それを、塔に登って調べてもらいたいんだけど、屋敷の主人はすっかり警戒しててさ、炎をおおっぴらには使えないと思うんだ。あと、かなり脅されたこともあって、万一戦闘になったときは戦ってくれていいから、とにかく無事に帰還してほしい』
『ああ、分かった』
無事に帰還するという言葉の中には、先に潜入している内偵員の安全も含まれるのだろう。つまり、怪しまれ、素性がばれるまではリングや匣の能力を頼れない。万一戦闘となった場合は、それらを駆使してでも内偵員を守る。どちらの場合でも実力を発揮できる者として、自分が選ばれたことは山本にも納得できた。まさに、一週間前に獄寺の言っていたとおりだ。塔の調査では、例の円盤も役に立つだろう。
だが頷いたところで、山本はふと疑問が浮かぶ。元々匣職人で、且つ警戒もしているならば、そもそもリングや匣を持ち込むことも不可能なのではないか。潜入と言っている以上、使用人などの身分で堂々と顔を合わせて屋敷に入り込むのだろうし、持ち物検査でもされれば一発で怪しまれる。
『あ、それは大丈夫。むしろ、あの屋敷だと使用人も出入り業者なんかも、全員リングはしてるから』
『そうなのか?』
『その方が、レーダーに映るから監視しやすいみたい。匣もパワータイプじゃないものは持ち込みも黙認してるらしいよ。まあ、さすがにボンゴレリングだと怪しまれるし、そっちは封印しといて別の雨のリングを嵌めて行ってもらうことになるんだけど』
ある意味において、匣職人だからこそ、威力を熟知しすぎてリングや匣の存在を過信しているらしい。要するに、匣を開けるにはリングが必要で、そのリングさえ監視していれば不穏な動きなどすべて把握できると主人は考えているようだ。
これならば、確かに身体能力だけで塔を攻略すれば裏をかけるかもしれない。武器にしても、山本の獲物は本来刀だ。長物であれば傘でも杖でも仕込めるし、その場にあったものを代用もできる。そこまで納得したところで、ツナも大きく頷いていた。
『まあ、詳しくは先に潜入してる内偵員と情報交換してもらえば、よく分かると思うから。山本も同じ使用人ってことで、明日から屋敷で働くって手筈になってるんだ。焦らなくていいから、とにかく、塔にいる娘さんについて、確認してきてほしい。もし戦闘になっても大丈夫なようにフォローするし、山本、お願いできるかな?』
既に山本が向かうことは決定事項なのだろうし、なによりツナはボスなのだ。上から頭ごなしに命令しても構わない立場でも、こうして友人としてお願いをし、確認をしてくれる。そういう気遣いが、マフィアになると思っていなかった山本に、ゆっくりと違和感を和らげていってくれたのは間違いなかった。
ツナは、いまだに心のどこかに、自分が山本をこの世界に引きずりこんでしまったような後ろめたさを持っている。戦闘を伴う任務を伝えるとき、いつもどこか不安げだった。最初こそ、マフィアへの合流が遅れた山本の能力を不安視しているのかと思っていたが、どうやらそういうことではないらしい。むしろ、戦闘能力は期待してもらっていると信じている。だが勝敗ではなく、そもそも戦闘に向かわせることに躊躇いがあるようだった。
だからこそ、ツナは気にしなくていいのだと、これは自分が選んだ道なのだといつも山本は思っていた。
言葉にすればまた恐縮させてしまうので、こういうとき、山本はいつも笑って頷いておく。
『……ああ。任せてくれよなっ、ツナ』
『うん、ありがとう、山本……。』
すると、ツナも少しだけほっとしたように笑ってくれるのだ。
互いに、こういう話の際に完全な笑顔というものは、いつまでも向けられないのかもしれない。だが、今はこれでいいのだと気持ちを切り替え、任務に意識は向きかけたが、どうも上手くいかない。普段であればもう不安そうな表情だけは消してくれるはずのツナが、まだどこか落ち着かないような顔をしていたのだ。
『ツナ……?』
不思議そうに名を呼べば、ツナはビクッと肩を震わせて明らかに驚いている。
どうやら、まだ何か不安な要素があるらしい。もしかすると思ったより危険な任務なのかもしれないと山本もまた緊張するが、引き攣ったような笑みを浮かべたツナは、そういう種類とはどこか違うことを告げようとしているようだった。
『いや、あのね、山本、その……獄寺君から、渡してくれって届けられたものがあるんだけど』
『え?……ああ、そういや、そんなこと言ってたな』
不意に思い出したのは、一週間前の会話だ。完全に繋がった状態で、しかも達した後も揺さぶられながら耳元で話しかけられたことだったので、正確なことは分からない。だが、潜入任務の前に円盤とは別の新装備品、確か匣を渡してくれるという話だったはずだ。
『ああ、なんだっけ? トランスフォーマーG?』
ツナは首を傾げていたが、とにかく預かり物だという匣が入った紙袋を受け取っておいた。あまり大量に荷物として持ち込むとさすがに不審がられるので、日用品を模したケースに隠しているらしい。そのうちの一つは、屋敷の主人、調査対象の片方に怪しまれた場合、誤魔化すことができる特性があるとのことだ。おそらくはカモフラージュ用なのだろうという伝言まで聞いて、山本はツナから紙袋を託された。
『じゃあ山本、気をつけてね』
『ああ。大丈夫だって、心配しなくていいぜ、ツナ?』
そう言葉を交わし、ツナの執務室を出たのが昨日だ。
実務的な話をしてくれた別のファミリーから、目的の屋敷が遠く、夜には出発すると聞いて山本は慌てて自宅に戻り、荷造りをした。
確かに、本来は何日間も潜入して内偵を手伝うような任務は山本に向いていない。だから、ツナも最後まで心配そうだったのだろう。だがその点は大丈夫だと、山本は内心で思っていた。
同じように心配してくれているらしい獄寺から、例の円盤と、新しい匣兵器を、わざわざこの任務のためにと託してもらえたのだ。
「……。」
性的なことに関しては、どうして手を出してくるのか、さっぱり分からない。
だが、新装備品に関しては、ちゃんと獄寺が山本の安全や任務の成功を願って渡してくれたものである。それを自覚すると、ほんの少し胸の奥が熱くなる気がした。ツナのためにも、獄寺のためにも、絶対にこの任務を成功させてみせる。そんな決意を新たにし、慌しく並盛を発った山本は、任務地に到着していた。
「……この屋敷で、いいんだよな?」
だが、予定通りの時刻に辿り着いた山本は、そこでしばらく立ち止まってしまった。
日本国内で、屋敷の主人も日本人らしい。匣職人で、仕事場や塔も持っているという話だったのでかなりの敷地は広いと思っていたが、それは想像よりもずっと広かった。むしろ、どこまでがこの屋敷の敷地なのか、よく分からない。
バスは一日に二往復しかしないということで、最寄の無人駅にタクシーを呼び、延々と山道を進んだ先に目的の場所があった。途中、本当にこの道であっているのか不安になるほどの標高だ。急に現れたフェンスは落石防止か何かかと思っていたが、どうやら屋敷をぐるりと囲む柵の一端らしい。ともかく、柵の先が見えないほど広がっている敷地内には山の一部も入っているようで、どれほど広大なのかと呆れてしまった。
なにより不思議だったのは、フェンスから途中で柵になった際に、その装飾が洋風に変わったことだ。それは、実際にタクシーが停まったところに構えられていた門にも言えている。どうやら買い出し等の足としてこの屋敷によく通っていたらしい運転手は、こんな田舎には不釣合いでしょうと笑って山本を門の前で下ろしてくれた。
その言葉を、山本はしみじみと実感する。
田舎の屋敷ということで、勝手に日本家屋を想像していたのだ。だが洋風の門の向こうに広がっているのは、どこをどう見ても西洋の城と屋敷の中間、宮殿のようなたたずまいだ。もう少し周りに日本的な民家があれば、いっそテーマパークのような不自然さだっただろう。だが山奥過ぎたために、宮殿の背後に広がる光景は森林ばかりであり、むしろここはヨーロッパのどこかで、自分が迷い込んでしまっただけなのではないかと山本は思ったほどだった。
「……。」
だがそんな戸惑いも、屋敷の母屋、宮殿とは違う高い塔が目に入れば一気に吹き飛ぶ。離れなのか、宮殿以外の小さな建物は敷地内にいくつかあるようだが、その塔だけはかなり遠くに建てられているようだ。それでも見えるのは、木々よりもずっと高いからである。
不意に、塔の最上階、開いている窓に人影が見えた気がした。
それに驚き、もっとよく見ようと顔を向けたところで、唐突に門から声がしていた。
『……どちら様かな?』
「えっ、あ……!?」
気配がせずに声だけ聞こえたので、思わず肩に担ぐようにしていた荷物を落としかけたが、なんのことはなく、ただのインターフォンだった。よく見れば、立派な門のところにカメラ付のものが備え付けられている。
本来はこちらからボタンを押し、到着を伝えるべきだったのだろう。だが屋敷の様相に呆気にとられているうちに気がつかれたようだと察し、山本は慌てた気持ちを落ち着けていた。
「ああ、えっと、本日よりこちらで働かせてもらうことになってる、山本武なんですけど……!?」
『……。』
本名を名乗っているが、ボンゴレの守護者としての名はある程度の層にいないと知られていないので構わないらしい。そのため、本名で潜入できるのはありがたかった。
だが内偵者の手引きで使用人を臨時採用するということは決定しているはずなのに、話しかけてきた男はしばらく黙っている。声の感じからすれば、かなり年齢のいった男性だ。屋敷の主人である可能性は高いが、普通の家庭ならともかく、こんな宮殿に住んでいる者が自らインターフォンに出るのは不自然な気がした。
そのため、どちらとも判断がつかず山本も黙って待っていると、やがて男が笑うのが聞こえた。
『……まあいい、門は開けてやろう。入ってくるが良い』
「あ、はい、ありがとうございます……?」
どこか不敵にも聞こえた笑い声は気になったが、インターフォンはすぐに切れ、門が自動で開いていく。
ボンゴレの内偵員のことなので、手引きに抜かりはないはずだ。あるいは、声の主は屋敷の主人で、いちいち使用人の出入りなど関知していなかったのかもしれない。
そのため、急に新たな使用人だと名乗って現れた山本を不審がったのかもしれない。もしボンゴレの守護者だと知っていたのであれば、そもそも門は開けないだろう。
そんなことを考えながら、山本は車が通れるほどの幅が開いた中央の門から敷地内へと足を踏み入れた。
「……?」
母屋と思われる宮殿までは、距離にして二百メートルほどだ。豪勢な玄関前には車止めがあるので、タクシーを呼びつけたときはそこまで来させるのかもしれない。
だが山本が門から入ってすぐに、宮殿の玄関が重々しく開いていた。歩いていてもまだ距離があり、早めに開けてくれたのかと思ったが、どうも違うようだ。扉の向こうから、決して若くはない男が杖をついて現れる。高級そうなスーツに身を包んでいるが、完全な純日本人だ。特徴としては、若干頭髪が寂しくなっているくらいしかない。いっそ太っていればまだ恰幅のいい威厳のある男とも表現できたかもしれないが、痩せすぎの体格で目だけがギラギラしてる様では、気難しい老人にしか見えなかった。
それでも、見た目ほどには耄碌していないようで、杖をつきつつも足取りはしっかりしている。もちろん山本の方が歩幅は大きく、歩くのも早いため、門から宮殿に向かって半分以上を歩いたところでその老人と対峙することとなった。
「……このお屋敷の、ご主人?」
「いかにも」
警戒しているのか、男は数メートルの距離を残して足を止めたため、山本もつられるようにして止めていた。そして念のため尋ねてみれば、やはりこの老人が屋敷の主人らしい。だが、山本にはどうにも不自然なものを感じていた。
誰かが訪ねてきて、しかも身に覚えがなさそうな様子だったのに、ツナの話によればひどく警戒心の強い屋敷の主が自ら出てくるものなのだろうか。いや、考えようによっては、これが不可解な自信とやらなのかもしれない。実際に、鷹揚に頷く様だけは、この貧相な老人にも主らしさを醸し出している気もしたからだ。
どうあれ、本人が主人だと認めているのに、疑っても仕方がない。とにかく不信感だけは持たれないようにと、山本はできるだけ自然な笑みを浮かべてもう一度名乗っていた。
「えっと、山本武です。今日からこちらで働かせてもらうことになってます」
「……くくっ、まだ、そう言うのか」
「あの、ご主人……?」
だが訪問の理由を説明すれば、主人は再び笑い始めていた。それも、心底おかしそうだ。肩を震わせて笑う主人に山本は嫌な予感がひたひたと歩み寄ってくるが、極端にうろたえるわけにもいかない。とにかく、笑われているのが不思議だという程度の困惑でそう尋ねてみれば、山本と比べればかなり背の低い主人がギッと鋭い眼光を向けて睨んできていた。
「貴様、どこのファミリーだ?」
「……!?」
「大方、ワシの研究を狙って、潜り込もうとしてきたんだろう。だが騙されんぞっ、そんな小細工など通用せん!!」
そう宣言する主人に、山本は背中に冷たい汗がおりた。まさに、そのとおりだったからだ。それでも、まだ白状するわけにもいかない。この主人は本当に新しい使用人が来るのを知らず、疑ってかかっているのが偶然正解しているだけかもしれないのだ。ここはあくまで働きにきただけという設定を、山本は固持することにした。
「あの、なんのことですか? オレは、本当にこちらで働くってことで来ただけで……?」
そのことは、他の使用人、おそらく人事などをまとめてやっている者がいるはずで、そちらに聞いてもらえれば分かる。そう続けるはずだった山本は、憐れむような主人の目に迎えられた。
「まだ言うか、そのナリで」
「えっ……?」
騙すにしてもレベルが低いと言いたげに首を振る主人に、山本は今度こそ青褪めた。
実は、山本はバイトを含めても働いたことがない。面接などもなく、ましてや屋敷の使用人という、実際何をしているのかよく分からない仕事の初日に、どんな服を着て行っていいのかさっぱり分からなかったのだ。とにかく、失礼でなければいいだろうと考え、今日もスーツに身を固めている。
それが、おかしかったのだろうか。スーツである不自然さから、山本が実はボンゴレの潜入員と分かってしまったのかと焦るが、どうやらそういうことではないらしい。
「とにかく、帰れ帰れっ。この、不審者め!!」
「い、いや、あのっ、オレはほんとに……!?」
「既に敷地に入っておるからな、侵入者だと警察に通報してもいいんだぞ? まあ、到着までに時間がかかりすぎるし、その間にこっちは自衛のために実力行使に出てもいたしかないだろう」
「だからっ、オレは、本当に……!?」
「それが嘘だと自分で言っていると、まだ分からんのかっ。今日から新しく雇うのはメイドだ、つまり女なんだぞ? 男を雇うこともあるが、今回は違う。なにしろちゃんとメイド用の服をこのワシが昨日町まで取りに行かされたのだからなっ、サイズを間違えていたとかで!!」
「えっ……!?」
どうやら、今日から屋敷で働くことになっていたのは、メイド、つまり女性らしい。
そうと主人が心得ていたのであれば、どこをどう見ても男の山本がやってくれば、追い返しても当然だろう。
だが、これには山本も混乱してしまった。ボンゴレの内偵者が手引きをしてくれたはずだったが、どこかで手違いが起こっているようだ。単に主人だけが性別を間違えて思い込んでいるのであればいいが、メイド服を用意したのであればその可能性は低い。つまり、ボンゴレの内偵者も女性が来るつもりで手引きしていたのかもしれない。
この場を切り抜けることに精一杯だった山本には、そもそも屋敷の主人であるはずのこの男が、わざわざ町まで使用人の服を取りに行かされたという不自然さには気がつかない。ただ、なんとかしなければと必死に考えていた。
山本が手違いを認め、帰ったところで、新たに今日中に女性の潜入員をボンゴレが用意することはほぼ不可能だろう。ましてや、戦闘になる危険性を考えれば、時間的制約とも相俟ってまず派遣などできない。
やはり、ここは性別の伝達が不充分だっただけだと押し通すべきだと山本は決断した。
そのとき不意に思い出されたのは、ツナの言葉だ。
「……ま、待ってくださいっ、ほんとにオレなんです!!」
「ええいっ、往生際が悪いぞ、この不審者が!!」
いや、正確には、ツナからの伝言だ。
もし屋敷の主人に素性を怪しまれた場合、必ず切り抜けられるので1の匣を開けろ。
そんな指示が、獄寺からはなされていたらしい。カモフラージュ用だろうというのは、あくまでそれを聞いたツナの感想だ。
「これを見てもらえれば納得しますって……!?」
おそらく、正確にはカモフラージュではない。攻撃力が低い匣兵器だが、極めて特徴的なものなのだ。
この屋敷は、主人の意向からリングの携帯を義務付けられている。そのため、使用人が能力の低い匣を持っていても不自然ではない。山本も、パワーだけならあまり強力ではない雨燕の匣を持参していた。
だがきっと、違う匣を持参すると予め報告されているのだ。順番的には、それに合わせて獄寺が匣をカスタマイズしてくれたのだろう。その匣によって、身分を証明することができるに違いない。
「何を見せようと言うのだ、そんな口先だけでワシは騙せんぞ!! さあ、不審者は帰った帰った!!」
「だ、だからっ、これを見てください……!!」
笑って、まーまー細かいことは気にしなくていいのなっ、と押し切れない潜入任務とは、なんと過酷なものか。
早速泣きたくなりながらも、必死に山本は担いでいたカバンを地面へと下ろし、自らもその傍にしゃがみこんでいた。七つも持っていれば怪しまれるだろうということで、獄寺から託された『7匣』と呼ばれる匣兵器は擬装用のケースに入っている。今となっては、山本が普通に持っていてもおかしくない日用品にケースを擬していたことを、きっと逆に怪しく思われるのだろうが、構ってはいられない。
主人が完全に拒絶する前に、なんとか打開して潜り込まなくてはならない。
そう必死になっていた山本は、カバンの奥底に大切にしまっていた紙袋を引っ張り出していた。そして丁寧に閉じられていた封を破るように開け、中に入っていたケースごと七つの匣を取り出す。
「ほらっ、これでどーなのな!?」
「……!?」
丁寧な口調すら忘れ、そう自信たっぷりに突きつけた山本は、そこでなんとも言えない顔の主人を目の当たりにした。
七つもの匣を隠すには、擬装用のケースもそれなりの大きさになる。
特に一列に並べれば、そこそこ長さのある直方体だ。更にそれを包む擬装用のケースは、当然一回り大きくなる。持っていても不自然ではないように偽装しているという話だったので、女性が使うような棒状のドライヤーや、水筒のようなものを山本は想像していた。実際に、紙袋の外からは円柱に近い形状に思えたからだ。
だが実際に取り出し、ほとんど確認もせずに主人に見てくれと突きつけてしまったものは、爽やかな朝から目撃するにはあまりにいかがわしい造型だった。
「……ふ、不審者ではなく、変質者の方でしたか」
「……。」
還暦を過ぎてから、まさか男からこれを見てくれと禍々しい大人の玩具を突きつけられるとは思っていなかったのだろう。今度は主人の方が妙に丁寧な口調となり、目を逸らしていた。
確かに、目を逸らしたくもなるだろうと山本も思う。普通よりは随分と太く長い男性器を模した玩具は、偽装という意味では大成功だ。よもや中に匣兵器が入っているとは思えまい。これを山本が持っているのは極めて自然だと豪語し、確実に手ずから加工して製作してくれたに違いない獄寺の得意げな顔が、脳裏に浮かぶ。
その瞬間、山本は片膝を立てるようにして座り込んだまま、無言でダンッと男性器を模した玩具の先端を地面に突き立てていた。
「だ、大地強姦!?」
「……どういう、つもりなのな」
「あっ、ああ、いや、その……!?」
山本は決して主人に凄んだつもりはなかったのだが、逆手に持った玩具を足元の地面に叩きつける様に驚愕していた主人は、ひどく動揺していた。
それには気がついていない山本は、しゃがみこんだままで、ふつふつと沸いてくる獄寺への思いを宥めるのに必死だ。手にした玩具がケースである以上、なんとか開けなければならない。玩具には精巧にも回転や震動をするためのスイッチがある。普通に考えれば、そのスイッチは開けるための偽装だろう。
だが、これを作ったのはあの獄寺なのだ。
スイッチを入れると、この爽やかな朝の屋外で、本当に玩具が卑猥に震えだすのかもしれない。むしろ、ケースはケースで偽装ではない本来の目的も果たせると、胸を張っている可能性も高い。
そうだとしても、これは潜入任務中は自慰も満足にできないだろうという、邪念なしの心遣いなのだろうか。だがそれならそれで、山本が自慰の際にはもう後ろも弄らないとイけないと何故知ってるのかと、すべてが理不尽で思わず地面に突き立てることで、物理的にケースを破壊することにしたのだ。
「……。」
「ヒッ……!?」
ゆっくりと山本が手を持ち上げれば、男性器を模した玩具は、先端のくびれのところで完全に折れ曲がっていた。
模造品と分かっていてもやはり身が竦むのか、主人はやや内股になって悲鳴を上げている。だが山本は気にせず先端部分を捻り切り、中に入っていた匣を手にしていた。
先端の方に入っていた匣に、ちょうど『1』という数字が刻まれている。獄寺が作るにしては可愛らしいレリーフが施されており、全体がうっすらとピンクがかっているようだ。念のためまだ棹の方に入っている匣を見てみたが、『2』という数字が入った方はレリーフこそ同じものの、色は白だった。
ともかく、このピンクがかった1の匣を見せれば誤魔化せるはずだ。
そうと気を取り直し、山本は大きく深呼吸をしてから立ち上がっていた。
「と、とにかく、この匣を見てください……!!」
思い出したように丁寧な口調でそう怯えている主人へと語りかけ、山本は引き攣った笑顔を向けた。
匣だけを見た主人は、まだ困惑している。何も思い至ることはないようだ。それに、やはり開匣しなくてはならないのかと察し、山本はボンゴレリングではない雨のリングに青い炎を灯し、1の匣を押し当てていた。
「うわっ!?」
「なっ……!?」
その途端、開匣した衝撃が山本を包んでいた。主人にすれば、山本が一瞬で光に包まれたように見えただろう。
だが山本自身は、その光の中で全身が撫でられるような気持ち悪い感触を得ていた。
どうやらこれは装備系の匣兵器らしいと、衝撃の中で察する。匣兵器の中には、アニマル型や、武器などを出現させるものが多い。その中でも特に、防具を出すものは、発動したときから体に装着されることがほとんどだ。もちろんそうするためには、本来は事前に入念なカスタマイズをし、体にピッタリくるように調整する。だがこの1の匣は初めて開匣したにも関わらず、山本の体を寸分違わずしっかりと包み込み、それまで身に着けていたほとんどの衣類を消し去って直接肌へと装着されていた。
「……!?」
「……!?」
「……あ、あの?」
「スイマセンやっぱり見ないでください」
「そうですよねー!?」
衝撃が去り、光の粒子が煌きながら霧散した後にその場に立っていた山本は、共に屋敷の主人と目を見開いて驚いた後、それまで見ろ見ろと詰め寄っていたことを早口で撤回した。屋敷の主人も、素直に同意してくれている。どうやら動揺すると口調が丁寧になるのは、この主人の特徴のようだ。
だが、屋敷の主人は目を逸らしてくれても、山本自身は現実から目を背けることはできなかった。
全身を、まるで獄寺の手や舌のようにねっとりと撫であげる感触に包まれながら装備された匣兵器は、いわゆるメイド服だった。しかも、スカートが極端に短いため、決して機能的ではない。身長も随分と高く、二十四歳にもなった男が着て似合う服のはずがなく、気持ち悪いを通り越して不気味に違いない。
山本を不審者と決めつけ、声を荒げて追い返そうとしていた屋敷の主人は、今は可哀想なくらいに震えている。いきなり荷物から男性器を模した玩具を出したり、それを壊して取り出した匣でミニスカートのメイド服に変身する男に押しかけられれば、得体の知れない恐怖に襲われる心情はいかばかりか。同情を禁じえない。
そう察すれば、なんだか申し訳なくなってくるものの、山本はすぐに言葉が出てこなかった。
一つの理由としては、開匣の衝撃は過ぎたのに、一部ではまだ獄寺に撫でられているかのような感覚があるためだ。その原因を深く考えていると再び地面に座り込んでしまいそうだったので、山本は首を振って思考をやり過ごす。かなり強くかぶりを振ったはずだが、しっかりと髪に留められたカチューシャが揺れもしないのが、なんだか怖かった。
「あの、だから、オレは……。」
そして、もう一つの理由としては、やはりここで任務を頓挫させるわけにはいかないからだ。
警戒心こそ薄れているが、遠巻きにしたい心情に陥っている屋敷の主人を、どう説得すればいいのだろう。1の匣を発動させれば必ず上手くいくと豪語していたらしい獄寺に、心底尋ねてみたい。そもそも、何を思ってメイドの服に着替えるだけなどという、意味不明の匣兵器を作ったのだろう。滑稽な姿を想像して笑い者にしたかったのかと悔しくなったところで、不意に聞こえた声に山本はビクンッと全身が震えた。
「……どうかしたのか、玄関先で立ち尽くして?」
「……!?」
「おおっ、来てくれたか!! いや、この者が、今日から働く予定になってたメイドだと言い張っておっての、追い返すのに難儀しておったのだ……!!」
その声に、嬉しそうに振り返ったのは屋敷の主人だ。
どうやら宮殿のような建物の玄関から出てきたらしく、ジャケットを着ていないスーツ姿では珍しくベストをつけている。だが、山本は混乱してしまった。屋敷から出てきたということは、この屋敷の関係者、おそらくは使用人なのだろう。主人と面識はあるようだし、かなり頼りにもされているようだ。だが顔には出せないだけで、屋敷の主人に紹介してもらうまでもなく、山本もまたこの男について非常に良く知っていた。
「紹介しておこう、こちらは執事を務めてもらっている獄寺氏だ。使用人などの人選も、すべて任せておる。つまり、今更言い逃れなどできんということだ。……ささっ、獄寺氏、この奇妙な女装男にガツンと言ってくれっ、頼む!!」
「……。」
屋敷内の使用人をまとめる立場の執事、つまりボンゴレの内偵者だ。
どおりでここのところほとんど基地でも見かけないと思っていた、と山本は得心したが、改めて見たいとは思わない。なにしろ、屋敷の主人に促された信頼できる執事、つまり獄寺が、実に愉しそうに山本を見つめてくるからだ。
頭のてっぺんからつま先まで、それこそ舐めるような得意の視線でねっとりと眺める。緑がかった目でそうされると、ただでさえざわつく胸は手で押さえつけたくなるし、初めてはいたスカートの中も落ち着かなくなってくる。獄寺も、それが分かっていてたっぷりと時間をかけて山本の全身をじろじろと見回しているはずだ。
ほんの冗談に騙されて、本気で1の匣を発動してしまった山本を内心で小馬鹿にしているのだろうか。
だんだんと居たたまれなくなってくる空気の中、ふと獄寺が口を開いたのは不思議そうな言葉を発するためだった。
「……『奇妙』? なんのことだ、ちゃんとメイドが来ただろ?」
「……!?」
「な、なにを言っておるのだねっ、この者は男だろう!? 獄寺氏も、メイドが来ると言って、メイド用の服まで用意しておったではないか!! 最初に届いたのがサイズ間違いとかでっ、ワシが昨日町まで交換に行ったくらいに!!」
「だからメイドが来ただろうが?」
なんとなく、二度目に主張されたことでやっと山本は違和感に気がつく。あくまで屋敷の主人はこの老人だが、執事の立場にあるはずの獄寺は口調も態度も尊大だ。しかも、主人を顎で使っているらしい。最初にインターフォンで突然話しかけてきたことからも、実はこの主人は屋敷の中でそう立場が強くないのかもしれない。
そんなことを早くも見抜いている間に、怪訝そうに聞き返す獄寺に、屋敷の主人はますます声を荒げていた。
「違うっ、よく見ろ獄寺氏!? この不審者、いや変質者は男なんだぞ!?」
だから今日から働くはずのメイドではないと主張する主人に、獄寺は淡々と、だがはっきりと断言していた。
「別に男がメイドでもいいじゃねえか」
「ぬあっんだと……!?」
「似合ってるし」
「似合っておらんぞ!?」
「似合ってないのな!!」
それでも、似合っているという発言には、つい山本も屋敷の主人に続いて否定してしまった。
やはり、獄寺は馬鹿にしているのだ。二人きりのときに性的に辱められることはよくあったが、ここにきて、第三者である屋敷の主人などに似合わないメイド姿を披露させ、嘲笑っている。
そう確信し、理由の分からない嫌がらせに胸が苦しくなりながら叫んでしまった山本に、獄寺は殊更ゆっくりと視線を向けてきていた。
「……!?」
「……とにかく、今日から働くことになってるメイドは、山本武、この男だ。ちゃんと報告もきてる。身分は確かだとオレが確認したんだ、仕事ができりゃあ特に問題ねえだろ」
獄寺は、本当に笑い者にしたくてこんな衣装替えの機能しかない匣兵器を開発したのか。
確信したばかりの悪意を、一瞬で砕いてしまうほどの獄寺からの熱っぽい視線に、山本はドキドキして目を逸らしてしまった。その間に、再び口を開いた獄寺は、屋敷の主人にそう断言している。
「いや、まあ、しかしだな、獄寺氏……!!」
「大体、こんな田舎の屋敷でのメイドってのは、やたら力仕事も多いだろうが。しかも、アンタの趣味だか知らねえが、無駄に天井が高い設計にしやがって、あれ、どうやって掃除させるつもりだったんだよ、ああ? 脚立持ち歩いて掃除するのに辟易して、これまで何人の女のメイドが辞めたと思ってんだ、このっ、低脳ご主人サマ?」
「ぐ、ぐぬぅ、それを言われると……!!」
どうやら外観だけでなく、内装も西洋の宮殿に近い屋敷になっているようだ。獄寺の言葉通りだとすれば、一般的な女性の身長と腕力では、掃除なども普通よりつらいものなのかもしれない。実際に何人も辞めて困っているのは事実のようで、そこを指摘されれば屋敷の主人も反論を封じられていた。
その際に獄寺は到底雇用されている立場とは思えない暴言も吐いているはずだが、屋敷の主人は黙認している。あるいは、諦めているだけなのかもしれない。クオーターで、整った顔立ちをしている獄寺は、実は胡散臭い爽やかな笑顔よりも、少し意地が悪いくらいの表情の方が凄みを増すのだ。女性ならば、一瞬で恋に落ちてしまいそうな方向での、凄みである。それは男相手でも多少の効果がある。実際に屋敷の主人は押し切られているし、うっかり目の当たりにしてしまった山本はスースーしているスカートの中がまた落ち着かなくなってきた。
「……けど、まあ、アンタが不審がってるってのは、理解してやった。一応オレは執事って立場だしな、たまにはこの屋敷の主人の意向を、多少は汲んでやる」
「おおっ、獄寺氏……!!」
だが、続けられた言葉には、山本も驚いた。
任務のためには、どうしても山本はこの屋敷に潜入しなければならない。このメイド服も、もしかすると臨時採用がメイドの枠しかなく、そこに男である山本をねじ込むための苦肉の策だったのかと納得しかけていたのだ。もちろん山本が来れば屋敷の主人は怪しむが、執事という信頼を得た立場の獄寺が出てきて、強引に説得する。ここまで含めて計画通りだったのかと思いかけたところで、まるで獄寺もまだ山本の素性を怪しんでいるかのような発言をした。
いくつもの譲歩が加えられた上での言葉だったが、屋敷の主人はかなり喜んでいる。立場上、獄寺も本来は使用人なので主人の意に沿わなければならない。つまり、山本が怪しまれすぎたため、認めると内偵者である獄寺の立場が危うくなると判断したのかもしれない。潜入作戦は失敗だと肩を叩かれてしまうのかと青褪める山本に、ゆっくりと歩いてやや後ろに立った獄寺は、地面に置いたままのカバンを片手で持ち上げていた。
「要するに、この男はアンタが揉めてるマフィアからの刺客じゃねえのかって疑ってんだよな?」
「そうそう、その通りだ、獄寺氏……!!」
「まあ、用心するに越したことはねえからな。オレとしてはただのメイドだと思うが、屋敷の主がそう言うんなら、ちゃんと確認しておかねえと。……しっかり身体検査してやるからな、新入り?」
「んぁっ……!?」
「お願いしますよっ、獄寺氏!!」
カバンを片手に持ち、もう一方の手で獄寺はスカートの上から突然尻を撫でてきたのだ。意識しないようにしていても、この服を開匣したときから敏感になりつつ体は、ビクンッと震えて変な声も漏れてしまう。
だが幸いにして、少し離れて立っている屋敷の主人には聞こえなかったらしい。獄寺の言葉を額面どおりに受け取り、安堵したようにそう言うと、杖をつきながら宮殿のような建物へと戻っていっていた。
「……。」
「……。」
屋敷の主人の足取りはさほど遅くもなく、むしろ杖はいらない気がするほどしっかりしている。数十メートルの距離をあっという間に歩き、玄関の扉から中へと消えたのを確認してから、山本は斜め後ろに立つ獄寺を睨んだ。
「……なんだよ、その目は?」
それに気がついた獄寺は、面白そうに尋ねてくる。相変わらず片手は尻を撫でているが、その手はどんどんと下へと伸びていく。太腿の裏までいけば、スカートが短すぎることもあってすぐに素肌に手が触れた。その感触に思わず息を飲んでから、今度はスカートの中へと手を滑り込ませてきそうな獄寺に、山本は一言返していた。
「……身体検査、するんじゃねえの?」
「……。」
屋敷の主人に怪しまれないようにするためとはいえ、言い出した以上はおざなりでも実行するのだろう。
獄寺が今持っているカバンの中身と、山本自身が武器などを身につけていないのか、それを確認してからでないと建物の中には入れてもらえない。ちゃんと安全な人間でしたよと公言するためにも、適当でも調べはするのだろうと山本は思ったのだが、尋ねてみれば獄寺は目を丸くして驚いている。
それに、屋敷の主人が見ていないのならばするつもりがなかったのかと解釈しかけた山本だったが、獄寺が感心したようにしみじみと告げた言葉にすべてを悟った。
「山本、お前……こんなところでされてえとか、結構、好き者だったんだな」
「……。」
まあやぶさかでもねえけど、と獄寺の手が本格的にスカートの中に潜り込んできたので、山本は慌てて歩き始めた。
どうやら、身体検査も獄寺が好む様式で実行されるらしい。いくら一見すれば人目がないからといって、さすがに屋外で、こんな時間からいろいろされては堪らない。そう思いながら逃げるように歩き出した山本に、獄寺はすぐに追いかけてないので、ここで実行するというのは真に受けていないようだ。
地面に落ちていた残り六つの匣が入ったままの壊れた玩具を拾い上げ、カバンへと放り込んでから獄寺はのんびりと歩いてくる。それを無意識に待つように歩を緩めていれば、宮殿のような母屋に辿り着く前に、獄寺に尻を撫でられた。
「……山本、あっちの建物だ」
示されたのは、主人も入っていった宮殿ではなく、その後ろの方にある質素で小さな建物である。どうやらそこは使用人の居住棟のようで、獄寺も私室はそちらにあるらしい。
当然のようにそこに促す獄寺に、一瞬山本は足は止めた。
だがすぐに、ここでは使用人の中でも執事が一番偉いはずで、新入りの自分が逆らえるはずもないのだと思い出し、獄寺に促された建物へと向かうことにする。期待で胸もスカートの中も疼いていることは、まだ認めたくなかった。
| ▲REBORN!メニューに戻る −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <<BACK ここまでで、26ページ。 なんだか今回はエロ本、エロがテーマのエロ本みたいな感じで、がっつりしたエロがこの後も、何回か… それ以外にも、なんとなく獄寺さんが残念だったり、山本がハァハァしてたり、ギャグなのか境目があやしい感じでスイマセンorz 許容範囲の広いメイド好きさんたち、いらっしゃーい!で… ロボっぽい何か |