【お試し版】
『トランスフォーマーG』収録-01.





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「兵器の開発は、常に追いかけっこだ。ある画期的な機能が生まれれば、それに対抗する手段が研究される。対抗手段が完成すれば、今度はそれを無効化させる機能に開発目的が移るって具合にな」
「あ、ああ……んんっ、ん、あっ……!!」
 せっかくのご高説だが、まともに聞ける余裕はない。
 訥々と兵器の歴史などを語る言葉はひどく真面目なのに、紡ぐ唇は合間合間にこちらの唇や耳を舐め、愛撫するように食んでくるのだ。緑がかった瞳はひどく冷静なまま、その指先は胸を撫で回し、もう一方は下肢をまさぐる。とっくにシャツ以外は脱がされ、恥ずかしがる余裕もなく晒された腰にはいやらしい手がずっと這っているのだ。潤滑剤代わりのジェルを纏わせた指は後孔をほぐしているが、そこから先へと進めようとせず、指を抜いてしまった。それなのに時折思い出したように後孔にまた指を突き入れられ、ビクビクと震える体を押し付けるようにして耐えるしかない状況は、まさに混沌とした拷問だ。
 それでも、腰が砕け、体が床へと崩れ落ちないのは、手首を縛るようにして両腕で作った輪を首に掛けさせられているからで、また悔しくなってくる。
 こんな体にしておきながら、まだ平然と講義を続けるつもりなのか。
 責めるつもりで睨んでみても、ひどく間近にある緑がかった瞳は満足そうに笑うばかりで、指と舌を同時に侵入させてくるだけだった。
「んんっ……!!」
「……電子戦なんかが、いい例だよな。レーダーが精巧になっていけば、電子妨害装置であるECM(Electric Counter Measure)が開発される。ECMが精度を上げれば、今度はそれに惑わされないように対電子妨害対抗手段、ECCM(Electric Counter Counter Measure)が必要になってきた。何か画期的な技術が開発されたとしても、常にそれは万能じゃねえ、必ず対抗手段がいずれ出てくるってことだ」
「んっ……ん、あ、ああ……それ、が……?」
 たっぷりと舌で口内をかき回してくれた後、淡々と講釈を続ける相手は、一体どういう精神構造をしているのだろう。ずっと、不思議だった。今も、話すためにキスこそ放したものの、相変わらず指の方はこちらの後孔を辱めるように中に埋められたままなのだ。男でありながら、もう十年近く後ろでの快感を与えられ続けた自分の体は、そろそろ危なくなってくる。性器である前には全く触れられておらず、むしろもどかしそうに自ら腰を押し付けるようにして揺らしてしまった程度の刺激で弾けそうになっているのは、本当に情けない。だが、そうしたのもこの男なのだ。
 いまだにどこか冷静な目で淡々と語り、手や舌では卑猥なことをしてくる混在さは、今に始まったことではない。ある意味において、それこそこの男の真髄なのだろう。
「だか、ら……ごく、でら? それが、なんの、関係が……?」
「……。」
 分かりやすいようで、分かりにくい。
 端的に言えば、何を考えているのか分からない。
 単純だと面白がれていたのは、十年以上も前、こんなふうに手を出される前までだった。あの日以降、獄寺の考えていることはさっぱり分からなくなってしまった。
 だが、思考は理解できずとも、仕草や行動は予測がつくようになった。
 今も何も言葉にはいなかったものの、ニヤリと笑って埋めていた指を後孔から抜いたのだ。どうやら焦らすだけの意地悪はやめるらしいと察したことだけは、やはり正しかった。
「……それは、炎でも同じだってことだ。もちろん、対抗手段だからって、完全に無効化できるほどのものじゃねえ。あくまで、対抗できる余地を作る、あるいは広げるってことだ」
「ん、うん……?」
 手首を戒められているので、両腕で作った輪を獄寺の首に掛け、不本意ながら抱きつくような格好になっている。その状態で獄寺は腰を抱き寄せたまま、ゆっくりと前へ、自分の感覚としては後ろへと歩き始めたのだ。
 ここは獄寺が地下基地内に持っている研究室の一画だ。実際に実験道具などが転がっているのではなく、どちらかと言えば実験場、改良した匣兵器などの発動試験をする区画である。一段低くなった床から見上げた窓には、本来であれば協力している研究員などがデータをとるために詰めている。だが今は当然ながら他人の姿はない。いかに獄寺が理解不能で、若干露出したがる性癖があるからといって、こうして男を辱める姿を公開しないでくれるだけの分別が残っていることは素直にありがたかった。
「炎は確かに、この世界の勢力図を変えた。匣兵器は多様性に富んでて、実に有用だ。敵にすれば、脅威には違いない」
「それは、わかってる、けど……?」
「だからこそ、当然匣兵器に対抗する手段も開発が進む。リング捕捉用のレーダーなんかが、いい例だ。少なくとも、リングがなけりゃあ炎を精錬できねえ。炎を具現化しねえと、強力な兵器である匣も開匣できねえんだからな」
 この部屋に呼ばれてすぐ、シャツ以外の衣類はすべて獄寺の手によって脱がされてしまったので、背中に感じる無機質な壁の冷たさをやけに強く意識した。もしかすると、押しつけるようにしてくる獄寺の体の熱が、余計に対比させているのかもしれない。少なくとも、普段どおりのきっちりとしたスーツを全く乱していない獄寺も、スラックスの一部が硬く持ち上がっているのだ。
 一方的に辱められているようでいて、意外にそうでもない。こうして自分を淫らな状態にすることで、獄寺もまた興奮しているのだと安堵する瞬間だ。
「もちろん、リングを捕捉されねえようにマモンチェーンなんかで抑えるってのもあるが、まだ普及はしてねえしな。なにより、それだと結局は炎に頼らざるをえねえ。何かを仕掛けようとすれば、当然チェーンを外してリングを解放し、捕捉されることには変わりねえんだ。炎もあくまで一つの手段、最終的にモノを言うのは結局どう使うかっていう本人の素質だよな」
「あ、ああ……?」
 だが、てっきり壁に押しつけられてすぐに繋がると思っていたのに、獄寺は口上を止めることはなかった。
 かなり怪訝には思うものの、内容に関しては理解できる部分が大きい。自分たちより年下で、特に初めて手にした武器が既に匣兵器だったという世代には、本人の鍛錬が全くなされていない場合が多いのだ。
 いかに強大な炎を持っていても、まず戦場まで行く体力がなければ発揮しようもない。
 単純に言えば、とんでもない威力の炎を放てたところで、反動で肩が抜けてしまうようでは戦力として計算できないのだ。
 リングと匣の台頭で先天的、あるいは身体的な能力の差はだいぶ補えるようになった。だが生身の人間が使っている以上、最低限の体力がなければ少なくとも前線では戦いきれない。もちろん、体力があれば勝てるわけではない。だが体力がないと、簡単に息が上がり、苦しくなった呼吸は冷静な思考を奪う。理性的な制御ができない力は、もはや誰にとっても味方にならないのだ。
 だから、炎を頼りすぎないように。
 炎は万能ではないのだから、心身も最低限は鍛えておくように。
 そんな通達がなされるほど、リングと匣の台頭は功罪が混在している。警鐘を鳴らされていることは知っているし、それが間違っているとも思えない。だがやはり理解できないのは、何故獄寺がこのタイミングで、この場所で、こんな状況にして、こんな話をしているのか、だ。
「逆を言えば、敵だって大抵の作戦には炎が使われるって思い込んでるだろう。そこに、捕捉されずに、つまりリングを封印して匣兵器も発動させずに乗り込めば、それだけで奇襲になる可能性は高い」
「それは、そう、だよな……?」
「かといって、実際に敵に見つかって戦闘になれば、リングを封印したままでいるのもバカらしい。要するに、炎を使うか、使わないか、その見極めが大事なんだ。どっちも操れて、的確に使い分けてこそ作戦の成功確率も上がる」
 獄寺の理論は分かった、全面的に賛同できる。
 だがやはり、何故この場所で、シャツ一枚で辱められながら話されるのかは、さっぱり分からない。そう不思議そうにしたところで、ゆっくりと息を吐いた獄寺は、唐突に確認してきた。
「……来週、潜入任務が組まれてるだろ?」
「……!?」
 それに思わず息を飲んでしまったのは、まさにそれを伝えられるために本来は地下基地に足を運んだためだ。もちろん、作戦を伝えてくれたのはツナである。あまり危険ではないのだが、作戦上さほど人員が避けないので向かってほしいということだった。概略は教えられたが、詳しいことは既に潜入している内偵員の情報を待ち、来週の決行前にもう一度打ち合わせをするという程度で、今日の伝達は終えられた。
 その場に獄寺はいなかったものの、今ではツナの右腕として活躍しているので知っていたことは不思議でない。だが、そもそも獄寺はここのところ出張でいなかったはずなのである。ツナの執務室を出てすぐに捕まったことには驚いたが、不在だったはずなのに話が伝わっていたことにはもっと驚いた。それを顔に浮かべていることは明らかだったが、獄寺は平然として説明はせず、違うことを口にしていた。
「あの任務だが、ちょっと厄介かもしれねえぞ」
「……そう、なのな?」
「相手がかなりリングや匣に精通してるからな、炎の感知にはそれなりの対策が取られてる。もちろん最初から戦闘するならどうでもいいけどよ、一応潜入での任務だろ? いろいろ動き回るのに、炎にばっかり頼ってはいられねえ場面も出てくるだろうな」
 そのことに関しては、ツナにも既に言われている。むしろ、だからこそ自分が指名されたのだ。
 本来、潜入任務のような神経の細やかな仕事は、滅多に回ってこない。それでもこの案件に関しては、まず人数が割けないことと、いざというときまでは炎に頼らず生身だけで動き回ってほしいという、純粋な身体能力が必要だったのである。
 それを重ねて指摘をされ、素直に頷けば獄寺もまた大きく頷いている。どうやらその忠告をしに来てくれたらしい、と早合点しかけたところで、獄寺がどこに持っていたのかスッと丸い物体を手に持っていた。
「……獄寺?」
「そんな任務に向かうお前に、オレからの餞別だ。この、丸い板みたいな部分があるだろ? これは携帯できる吸着強化盤だ」
「いやあの獄寺そのコースターみたいな部分じゃなくってな?」
 一見すれば、確かに丸い板のようだ。大きさは手の平よりやや小さいだろう。鈍い色は金属製だが、実験場の照明に反射することはなく、ツヤを消されているようだ。厚さは数センチメートルなので、それこそ、吸着強化盤そのものであれば、スーツの内ポケットに忍ばせることもできなくはないだろう。
 だが、気になったのはコースターのような板部分ではない。そこから生えているもの、角のように途中で上方へと折れ曲がっている方だったのだが、獄寺は刀の柄のように持ったまま壁へと向けていた。
「……で、このスイッチを入れると、吸着する」
「いや、あの、だから獄寺……?」
 円盤部分を、今背をつけている壁、床からの高さはちょうど腰の辺りへと押し当てたようだ。近すぎて見えなかったが、確かに獄寺が何かしらの操作をし、シューッと空気が抜けるような音がした。
「真空による吸着を利用したものだからな、使用できるには対象物、つまり壁なんかがある程度凹凸が少なくて平面であることが必要になる。けどまあ、大抵の建物の内壁、外壁、取っ手になるようなものがない場所なら使えるはずだ」
「あ、ああ、それは便利そうだけど……?」
「一回の充電で、約五時間。まあ最悪、充電が切れても炎で作動もできる。ただ、当然炎を使えばリングが捕捉される危険があるからな、炎で作動するのはあくまで緊急時だと思ってた方がいい」
「ん、うん、それも理解できる、けど……?」
「想定としては、両手と両足、四つセットで使用する。そうは言っても、何がどうなるか分かんねえしな、一つでも充分な加重耐性がある。二百キログラムまでなら余裕だ」
 作動させてから、獄寺は壁へとつけたその円盤を片手で引っ張っているようだが、びくともしない。成人男子が、場合によっては火器類を重装備にして使用し、片手一本でつかまるようなことになっても耐えうる強度はあるらしい。来週には行ってもらうことになると伝えられた任務では、確かに活躍しそうだ。
 だが、何故それをこんな状態で渡そうとしてくれているのか。
 あるいは、明らかに任務時には邪魔で使えるはずがない角のようなもの、取っ手にしては卑猥な造型がオブジェのように生やされているのか、疑問で仕方がない。
「……なんだよ、その目は? ああ、ほんとにそんな重量に耐えられんのか、信じられねえのか?」
「そうじゃ、ねえけど……。」
 いや、本当はとっくに分かっている。怪訝そうに見ていただけで、勝手にそんな言いがかりをつけられたと解釈して嬉しそうにしている獄寺が、両足を抱えてきたからだ。
 もたれかかるようにして立っていた壁には、丸めた背中を更に強く押し付けるような格好になる。両足が床から離れる感覚には一瞬怯え、手首を縛られた両腕で獄寺の肩へとぐっと力を込めてしまう。姿勢を保とうと無意識に抱きつくような仕草になれば、耳元で獄寺はひどく愉しそうに笑ったようだった。
「疑ってんなら、自分で乗ってみろよ?」
 獄寺の両手が、両方の膝の裏に回されて大きく脚を開かされたまま、背中が壁を擦るようにして体全体が横へと移動された。そして狙い済ましたように、反り返った切っ先に獄寺は当然のようにこちらの体を落としてきた。
「ご、獄寺……!?」
「ほら?……大丈夫だろ?」
「んぁっ!? あぁっ……!?」
 壁に吸着している円盤自体は、戦闘時の補助備品として開発されたものなのだろう。だがその強度を示すために、わざわざ獄寺が後付したとしか思えないものは、男性器を模していた。背中を壁につけているので、計ったかのような距離で上方へと向いているそれを、ずっと獄寺の指でほぐされていた後孔は難なく飲み込んでしまう。ずぷずぷと体は沈んでいくのに、まるでその無機質な性器は自分の中へと上昇してくるようだ。獄寺によって慣らされた体は、後孔を犯す侵略者を快楽として受け取ってしまう。
 そのことを、悔しくは思う。だから非難するつもりで顔を上げても、愉しそうに見下ろしてくる獄寺の瞳と、わずかに腕が触れている体温を自覚すると、どうしようもなく心が震えて抵抗できなくなってしまった。
「どうだ、山本?……ちゃんと支えられてるだろ?」
「んんっ……ん、んぁっ……!!」
 そうしている間に、獄寺は胸につくほど曲げて抱えあげた膝を揺らし、何度か体を上下させてきていた。そのたびに、わずかとはいえ後孔で咥え込んでいる無機質な性器を抜き差しされ、またぶるりと快楽が増した。
 だが、こんなものでは物足りない。どれだけ体が慣らされていても、心はずっと不可解なままだ。そもそもどうして獄寺が男である自分を抱きたがるのか、分からないのだ。女だと面倒だからというが理由の大半だとしても、絶対的な前提として、獄寺も快楽を得たいから組み敷いてくるに違いない。
 それなのに、こうして玩具だけで犯されると、また混乱してしまう。獄寺が気持ちよくなるわけでもないのに、自分を辱めてくる理由を思いつけないのだ。
 これは、単純な嫌がらせなのだろうか。
 それとも、獄寺も開発に関わったのであろう装備品の有能さを示したいだけなのか。
 そんな想像を裏づけするように、獄寺はやや不満そうにしていた。
「なんだ、まだ信用してねえのか?」
「え……あ……?」
「大丈夫だっての、一つで充分テメェの体重くらい支えられる。まあ、そうは言っても現実に一つだけじゃあ昇降は難しいしな、両手の分、最低でも二つは同時に使用することになるだろうな」
 だが言葉こそ残念そうだったが、何故か獄寺は笑っている。そして更に似たような円盤を取り出し、背後の壁、手が届くギリギリの高さになる頭上へと押し当て、スイッチを入れたようだ。
 シューッという空気が抜ける音がし、二つ目の円盤が壁に吸着したことは分かる。だがその頃には、獄寺の両手が抱えていたはずの両方の膝へと、革のベルトのようなものが巻かれていた。
「ごく、でら……?」
 両方の膝を括るように回されたベルトからは、細く長い革の紐が出ており、反対の膝を括るベルトに繋がっている。その紐の中央をぐっと獄寺によって上げられれば、つられるように両方の膝がぐいっと持ち上がってしまった。そのままかなり高い位置に吸着させた盤のフックへと掛ければ、もう獄寺に抱えられていなくとも、折り曲げた膝は大きく開かされ、踵は床から浮いたままとなった。
「ご、獄寺……!?」
「ほら、ちゃんと二つ使ってみろよ? 強度は充分だろ?」
 更に獄寺の首へ回すようしていた両腕を外され、手首を縛るロープを同じく頭上のフックへと掛けさせられた。
 獄寺へとしがみつくように丸まっていた上体が、両手と両膝を背後のフックから吊られるようにして、久しぶりに強制的に起こされた。するとシャツしか引っ掛けていないこの体は、恥ずかしいところを全部、無機質な玩具を飲み込んでいる後孔まですべて獄寺の眼前にさらしてしまうことになる。
 今更であっても、やはり恥ずかしい。なにより、獄寺に触れられる部分がなくなって、また不安がぶり返してくる。これはただの辱めではないかと思考は回るのに、体がどんどんと熱くなってくるのは、すぐ前に立つ獄寺がねっとりと全身を舐め回すように見つめてくるからだ。
「ごく、でら……もぅ、いい、だろ? 強度は、ちゃんと…わかった、から……。」
 膝に括りつけたベルトから伸びる紐も革製なので、多少は伸縮する。獄寺からの熱っぽい視線が気恥ずかしくて、膝を閉じようとすればすっと手が伸ばされていた。だが獄寺の手は閉じかけた膝を戒めることなく、シャツで隠れかけている胸へと触れてくる。
「ふぁっ!? ア、ん、あぁっ……!!」
「ほんとに、ちゃんと分かったのか? これ、結構開発に時間かかってんだぞ?」
「んっ、んんっ、ア……!!」
 すっかり硬く尖っていた胸の突起を、獄寺はその両手で同時に指先で押し潰した。その刺激だけで、後孔で咥え込んだ玩具をキュウッと締め付けてしまう。もしこの玩具が獄寺のような熱を持っていたら、達していたかもしれない。両手と両膝を吊られることで体重を支える箇所が分散し、下から突き入れられた無機質な玩具だけに座っているわけではないので、痛みや圧迫感より、純粋に後ろを侵される感覚しかないのだ。
 思わず甘ったるい声が出て、後孔を締め付けると同時に強く膝も閉じかけたが、獄寺の両手が胸へと伸ばされているので完全には膝をくっつけることはできない。そのもどかしさにまた息を吐いてしまっている間に、獄寺の指先は更に意地悪に胸を弄りだしていた。
「ほら、山本、自分で揺れてみろ? 多少の衝撃なんかじゃビクともしねえんだからな」
「んぁっ、ア……ひ、あぁっ、んんっ、あぁ……!!」
 初めて抱かれた十年ほど前から、ずっと愛撫され続けた乳首は獄寺によってすっかり性感帯へと変えられている。今も、少し乱暴に、痛いくらいに摘まれて引っ張られたのに、鼻にかかったような声が漏れてしまう。それを獄寺も充分に分かっているはずなのに、まだこれが新しい装備品の試験かのような言い回しを続けていた。
 だが、自分もまた、その白々しい言葉に付き合っているようなものなのだ。獄寺の指先が強く刺激をしてくれば、快楽が全身を駆け抜けて震えてしまう。逆に指先が胸から離れ、尖った先を撫でるようなぬるい刺激をされると、もっといじめてほしくて胸を差し出すようにして体が再び揺れる。
 また、獄寺の言いなりになってしまっている。
 そうと自覚する自分がいるのに、抗えない。快楽に負けてしまう自分がいる。なにしろ、気持ちがいいのだ。獄寺が何を考え、どういう目的で辱めてくるのかは分からないが、それでも、獄寺に触れられると嬉しい。歪んだ執着でも、向けられれば幸せで仕方がないからだとは気がつきたくない。
 そんなふうに、無意識に意識的な思考がぼんやりと回っていると、また獄寺が笑ったようだ。
「だから、ほら、もっと揺れてみろって?」
「んぁっ、ア……あ、ごく、でら……?」
「ほんっと仕方ねえな、テメェは……。」
 幼子をなだめるような口調で獄寺がそう言ったことよりも、片方の乳首からすっと手が外されたことで我に返り、不思議そうな目を向けた。だがそのときには、やや体を屈めるようにした獄寺とは視線が合わない。片手を下の方へと伸ばし、何をしているのだろうとゆったりした思考が回っている間に、カチッという音の直後に突然内側から激しく揺さぶられるような震動に襲われていた。
「ヒ、アァッ!? あ、んぁっ、あぁ、ごくで、らぁ……!?」
 後孔に埋めたままの玩具が、震え始めたのだ。回転こそしないものの、震動はかなり大きく腰が自分の意思とは関係なく揺さぶられる。途中で反り返るように曲がっていることからも、長さはさほどないが、だからこそ先端の太くなった部分がちょうど内側の敏感な箇所に触れているのだ。
 そこに、震動に任せて強く擦りあげるような刺激を与えられ、耐えようと力を込めればまた無機質な玩具を締め付けてしまう。それでも体内からせりあがってくる熱い予感をどうにもできず、ギシギシと革の紐が軋み上げるのも構わず膝を閉じていれば、やがてもう一方の手も胸から外した獄寺が一歩後ろへと離れていた。
「……どうだ、山本? そんだけ揺れても吸着盤は外れねえだろ? 人一人がつかまる程度なら、問題ねえって分かったよな?」
「んんっ、ん……!!」
 ここまでしておいても、獄寺はこの行為をまだ新装備品の耐久試験と言い張りたいらしい。
 一歩離れたのも、震動する玩具に犯されている自分の姿をたっぷり見て、辱めたいからだろう。思考が熱っぽく膨張しているような感覚に陥りながらそんなふうに考えていたが、不意に届いた獄寺の声は、どこか硬質に鼓膜を叩いていた。
「それに、しても……山本、それ、そんなに気持ちいいのか?」
「……?」
「そんなに、ヨダレ垂らして。お前、突っ込まれるんならなんでもいいのか」
 どこか責めるような苛立ちのこもった声に、ぼんやりとしていた思考は少しだけ鮮明になる。
 最初は文字通り口から唾液が垂れているのかと思ったが、キスしていた際に唇が濡れた程度だ。しかも獄寺の視線がこちらの足の間に向けられているので、すぐに指摘されたことを正確に理解した。
「んぁっ、ん、んん……!!」
「……。」
 閉じきれていない膝の間で、今日は一度も直接的な愛撫をされていないモノが、すっかり熱をためてそそり立っていたのだ。先端ににじむ程度だったはずの先走りの液は、後孔を激しく揺さぶられることで性器も振れ、床にポタポタと飛び散って濡らしている。
 そんな様を、獄寺は腹立たしそうに睨んできていた。
 それには、こちらもやや理不尽に思ってしまう。そもそも、こんなことをしてきたのは獄寺なのだ。いやらしい体だと知り、そうと躾けたのもすべて獄寺なのに、どうして傷ついたような顔をするのか。
 さっぱり理解できない。
「ふぁっ、ア……あ、んんっ……!!」
「……山本」
 大体、どうして自分を性的に辱めてくるのか。
 十年前、中学生の頃の発端からして理解できず、理不尽な目に遭い続けているのは自分の方だと思っているのに、体は勝手に膝を開いていた。最初に獄寺の手によって抱えあげられていたときのように、ほとんど膝が上体の横、後ろの壁につきそうなほど広げてしまう。こういう柔軟性も、獄寺に望まれ、調教されてきた賜物だ。
 足を広げる際の身体的な痛みよりも、玩具を飲み込む後孔と、玩具に揺さぶられて悦ぶ性器を見せつけることになる方が、よほどつらい。それでも、そうして見せつければ獄寺がニヤリと笑って名を呼んでいた。喉を鳴らして唾液を嚥下し、じっと熱っぽく向けられる視線が望む言葉だけは分かり、ほとんど無意識に口も開く。
「……ごくでら、が。犯して」
 玩具ではイヤだ、獄寺の熱がほしい。
 そうねだることを獄寺が好んでいることは、知っていた。だがこの場では獄寺の機嫌を取ったというより、ただの本音に近かった。その証拠に、獄寺がまた一歩近づいて片手を下の円盤へと伸ばしていくことに胸が高鳴って仕方がない。
「……ああ。たっぷり犯してやっからな?」
「んっ……ん、あぁっ、ア、ああぁっ……!!」
 スイッチを切ったことで、吸着盤からはまた空気が流れる音がする。その途端、壁から外れたらしい円盤によって後孔に咥えこんだものの角度が変わったが、すぐに獄寺によって引き抜かれた。
 下から支えるものがなくなったことで、自分の体重を支えるのは両手と両膝を吊る紐だけだ。だがすぐにふっと負荷が軽くなったのは、当然獄寺が再び腰を抱えあげてきたからだ。どうやら円盤のスイッチを切りながらもう一方の手で自らのスラックスを寛げていたらしい。背中をぐっと壁へと押しやられ、抱えられた腰の奥へと今度こそ焼き尽くされそうな熱を持った性器が侵入してきたとき、それまでにないような声が出てしまった。
「山本……。」
「ふぁっ、あぁっ、んん、んっ…ん、アァッ、あ、ごくでらっ、ごく、でらぁ……!!」
 両手は戒められたままで、踵も床から浮いているので自分で体を動かすことはほとんどままならない。だからこそ、せめて繋がっている箇所でだけでも獄寺を感じたくて、自然と揺れる腰にも気づかないままたどたどしく名を呼んでしまった。
 それに獄寺がどこか満足そうに頷いてくれた気はしたが、本当のところはよく分からない。すぐ後から、獄寺が大きく腰を揺らし始めたからだ。
「ひ、あぁっ…ア、んぁっ、あ、あぁっ、ごくでらっ……!!」
「山本、もう少し、待ってろよ……もうすぐ、完成するから、な……!!」
「ごく、でらぁっ、ごくでら、んぁっ…あ、もぅ……!!」
 だからこそ、本当に獄寺がそんな言葉を紡いでいたのかは、分からない。
 ただ、そのときは聞こえた気がした。これだけ激しく動いても、両手と両膝を吊るフックを壁へと吸着させた円盤は外れる様子もなかったので、これは新装備品として完成しているのではないかと、不思議に思ったものだ。
「来週には、オレ……じゃ、なくて。トランスフォーマーGの、最高傑作を、お前のもとに……!!」
「あ、あぁっ、ア…あああああぁぁぁっっ……!!」
 しかも、獄寺によって中を抉られ始めてすぐに、熱い波を我慢しきれずに達してしまった。
 ぶるぶるっと全身が震え、射精の感覚が過ぎても、後ろにはまだ獄寺の熱を感じたままだ。大抵はこうして先に出してしまうが、獄寺は一度腰を止めてくれる。そして大きく息を吐き、落ち着いた頃を見計らってまた腰を動かし始めるのだ。
「んっ……んんっ、あ……!!」
 だがあくまで一番苦しい状態が過ぎただけで、まだ達した余韻に包まれたままだ。揺さぶられる体は熱っぽく甘えた反応しかしないし、思考に至ってはぼやけている。それでも気にせず犯されることは嫌ではなく、むしろ歓迎なのだが、一つ困るのはこういうときに話しかけられてもほとんど内容が理解できない。
「もう、少し……来週には、必ず、『7匣』を届けてやっから、な……!!」
「んぁっ、んんっ、あ、アァッ……!!」
「なあ、山本?……楽しみにしてろ、よ。トランスフォーマーGの、七つの秘匣を、お前に託してやっからな?」
 しかも、このときはそのまま唇を塞がれ、久しぶりの深いキスに没頭してしまったので獄寺が何を言っていたのか、本当に分からなかった。
 ただ、妙に脳裏に引っかかる単語があった。
 話の流れからして、匣職人の名前のように思われる。
 『トランスフォーマーG』という単語が、不可解な獄寺の象徴であるような気がしながら、理由も分からないまま抱かれ続けるという記録をこの日もまた更新してしまった。










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