■尽くす男
「なあ城之内くん、やってみたいゲームがあるんだが」
「ああ、何のゲームだよ、アテム?」
それは、ごく自然に始まった会話がきっかけとなった。
夏休みも明けてしばらくした二学期のある日、六時間目の授業が急に自習となる。部活がない生徒はほとんど帰ったようだ。ただ、自分たちはまだこうして教室に残っている。本来の下校時間からバイト先に向かうとちょうどいい城之内を気遣ってのことだろう。誰も何も言わなかったが、いつもこの曜日にはバイトに間に合うか城之内がはらはらしているので、自然と覚えてしまう。今日は自習となった授業が数学のため、居残りや追試などの指名を受ける確率が高いのだ。
よって、自習と聞いて城之内はあからさまにほっとしていた。だが一度帰宅するにしても、どこかに遊びに行くにしても中途半端な時間になる。自然と時間を潰すように誰も席を立たない。仕方なくバクラもそれに合わせて座ったままだったが、内心ではやや不満もあった。
せっかく早く帰れるのだ、少しでも長く時間を作れるならばそうしたい。
だがそんな主張をせず、大人しく教室に残ったのは城之内を気遣ったわけではない。ましてや、友情などを重んじたわけでもない。単純に、自分一人が早く帰ったところで、意味がないと知っているからだ。気づかれないようにひっそりと心の中だけでため息をつくのは、今に始まったことではない。元より言いたいことを溜めておける性格ではないのだ、策略の一環として本心を隠しておくのとは全く種類が違う。
「いや、それが、オレも名前しか知らないんだ。もし城之内くんたちが知っているなら、一度是非やってみたいと思って」
「新作のゲームとかか? どうだろな、オレもテレビゲームとかだと疎いことが多いし」
突き詰めていくとまた苛立ちが募るので、バクラはそこで自らの思考を止めておいた。どのみち、もうしばらくはどうにもならない。気を紛らすためにも、今では同じ友人グループとみなされている連中の会話に耳を傾けてみる。
どうやらアテムが何かのゲームをしたいらしい。それに、城之内は応じようとしている。自分のために友人たちが時間潰しに付き合ってくれていることは、城之内も察しているのだろう。穏やかな会話だが、口を挟みたくてたまらない。既にアテムの横では、今では戸籍上の双子の兄となっている遊戯が苦笑しているのだ。どうせ現世のろくでもない情報を聞きかじって、周囲を困らせるだけだろう。六月くらいにすべてを終えたはずなのに、何故か戻ってきた黄泉帰りのアテムは、時々浮世離れしていて面倒くさい。自らもたまにそう思われているとは想像だにせず、バクラは興味をなくして机に伏せようとした。
「分かればでいいんだが、城之内くん、『王様ゲーム』というのは知ってるかい?」
「……。」
「……ご、ごめんね、城之内くん。昨日、変なドラマ見たみたいで」
今時、どういうドラマならば王様ゲームが出てくるのだろう。軽く驚いている他の面々は、きっとバクラと同じ感想を持ったに違いない。だが、友情に篤く、また基本的には律儀なのが城之内だ。自らの知識を総動員し、なんとかゲームを説明し始めた。
「え、ええとな、確か……こう、割り箸とかで、番号とか書いて。で、みんなで引いて、王様だーれだ、みたいな?」
「オレだぜ!!」
「そうだね、そうだね、キミだよね」
「……で、王様に当たった人は、命令ができる、みたいな?」
「なるほどっ、つまりオレが命令していいんだなっ、城之内くん!! なんて素晴らしいゲームなんだ!!」
誰か訂正してやれとバクラは億劫な目を向けるが、それぞれがすっと目を逸らす。アテムはあまり人の話を聞かないので、説明が長くなると面倒に思ったのだろう。いや、約一名は、すっとどころか、わざとらしいくらいに驚いて目を逸らしたが、バクラは気にしないようにする。どうせ、学校ではこうなのだ。後で今の態度も謝らせてやると内心で誓っていると、どうやらアテムが自己完結したらしい。
「じゃあ、早速みんなに命令するぜ!! ……オレのために、予行演習をしてくれ!!」
「……何のだ?」
ただ、あまりに予想外のことを叫ばれ、つい聞き返してしまったのが運の尽きなのか。しっかりと目が合ったアテムから、バクラはどこか憐れまれながら説明された。
「二ヵ月後に、修学旅行があるだろう? バクラ、どうせお前もこの現世でのしきたりを理解してないに違いない。これは、お前のためにもなる提案なんだぜ?」
「修学旅行? いや、あるのは知ってるけどよ、わざわざ予行演習が必要なことってあんのか?」
バクラも、アテムも、六月に転入してきたことになっている。修学旅行の積立金はずっと前からあったらしいが、当然のようにそれぞれの戸籍上の家族が支払ってくれたようだ。
委員に選ばれたクラスメートがたまに多数決を取ったりしているようだが、基本的にバクラは興味がない。どうせ行動するときはいつものこのメンバーだろうし、女子だけの場合は戸籍上の双子の姉になっている獏良と、面倒見がいい杏子と一緒だ。大抵のことは、文化の違いという言葉で避けられるのも学習済みである。特に楽しみにはしていないが、かといって不安にもなっていなかった。だがしきたりという単語を持ち出され、やや不思議そうに聞き返した時点で、遊戯がまた拝むような格好で謝ってきているのが目に入った。
「修学旅行の醍醐味と言えばっ、旅館での夜だろう!!」
「……風呂とか? ああ、食事とかか?」
「甘い、甘いぜバクラ、修学旅行はそんな日帰り温泉ツアーでも味わえるような醍醐味だけじゃない!! 夜、クラスメートたちと並べた布団に入り、寝るまでの間が最大の試練らしいぜ!!」
そんな話は初耳だ。ちなみに、旅館では六人部屋らしい。男連中は、このメンバーで固定だろう。いつも欠席の社長様を数合わせに入れたようなので、ちょうど六人になる。だが女子の方は、他の班である三人と同室だ。
確かに、あまり話したこともなく、またバクラの経緯を知らないクラスメートと同室で寝なければならないのだ。いまだ警戒心が強く、熟睡できることは少ない。ましてやほとんど知らない人間がいる部屋ではまともに眠れないだろうと予測が立てば、試練かもしれないと納得しかけたところで、遊戯が仕草だけで謝ってきた意味がようやく分かった。
「オレが知りえた情報ではっ、その、就寝前の時間に……どうやら、『せーの』で好きな子を言い合うらしい」
「……は?」
「既に恋人がいる場合は、猥談なんかにも発展するらしい。どうだバクラッ、知らなかっただろう!? オレは今からどうやって乗り切ろうかとっ、気が気じゃないんだぜ!!」
「童貞だからか」
「童貞だからだ!!」
童貞でも好きな子くらいは言えるだろうし、いないならいないで済む話だろう。しかも、男子部屋は、いつものメンバーなのだ。敢えて好きな子は誰だと聞きだす猛者もいない。猥談をしようにも、そもそも経験がある者が半分いるかも怪しい。何より、絶対にそんな話をしなければならない決まりでもないだろうに、本気で青褪めているアテムは、何故か力強く肯定していた。その潔さにだけは感心していると、ようやく遊戯たちが口を挟む。
「ご、ごめんね、バクラくん? これも同じドラマの中であっただけだから、気にしないでね?」
「つか、王様ゲームと修学旅行が同時に出てくるドラマって何なんだよ」
「……そ、そうだったのか、修学旅行てそんなにハードル高かったのか」
「……強がらずに、中学のときに行っとけばよかったぜ」
「あのね、そこの元ヤンのお二人さん? 絶対じゃないから? 今時、そんなことで盛り上がる高校生もいないから?」
「でも〜、女の子は、そういう話好きだよね〜」
「ちょっと男子、目を輝かせないのっ。好きな人を言うとか、そっちの方の話よ」
突然の獏良の同意には驚いたが、どうやら前者だけらしい。それなら納得できる部分もある。
好きな人はいるのかと、実はこれまで何人もの女子にバクラは尋ねられている。顔も知らない連中が多く、そういう者は何故かえてして挑発的だ。同性なので、バクラを好きということはありえない。それなのに、どうしてわざわざ尋ねてくるのか。さっぱり分からないと首を傾げていれば、杏子や獏良には微妙な顔をされた。追及すると、何故かこういう色恋沙汰には詳しいらしい御伽から、その女子の好きな男子がきっとキミに好意を寄せてるんだよと教えられ、ますます薄気味悪くなったのは最近の話である。
ともかく、そういう話題がなされると予想すれば、バクラは今からげんなりした。楽しみにはしていなかった修学旅行が、途端に億劫になる。ちなみに、男連中で慄いているのは、どうやら修学旅行に行ったことがないらしい元素行不良の二人だ。城之内は、金銭的な事情からだろう。今回は相当無理をして積立金を用意したらしいとも聞いている。もう一人は、恐らくは中学時代は粋がっていたというより、城之内に合わせただけに違いない。小学校まで遡れば分からないが、どうせ直前におたふく風邪にかかったとか、そんな理由で行っていないのだろうという予想は、偶然にも正解だった。
「そうか、つまり、オレは試練から免れるということなんだな、安心したぜ!! そうと分かればっ、バクラ、お前のためにこの試練の予行演習をしてやるぜ!!」
「うるせえな、いらねえ世話だっての童貞王」
「まずは好きな子を言ってみろっ、せーの!!」
好きな『子』という表現からして、中学生、あるいはいっそ小学生くらいにおける定番なのではないかと、バクラは見抜く。だがやけにテンションが高いまま勝手に予行演習を始めたアテムに、今度はあからさまにため息をついてから答えた。
「本田」
「……!?」
「……え?」
「……あらあら、それは興味深いわね」
「……アテムくんの暴走が、一気に楽しくなってきたね」
「ここでほんとに言っちゃうんだね〜」
「つか本田っ、お前だってよ!?」
「おわっ!? い、痛いっての、城之内!!」
遊戯が驚き、杏子が身を乗り出し、御伽が賛同したところで、獏良がやけにしみじみと呟く。驚きすぎて固まっていたらしい城之内は、何故か照れ臭そうに中学からの悪友をどつき、痛みでようやく我に返ったらしい本田は、ひたすら慌てていた。
ただ、そんな姿もバクラは冷ややかに眺める。どうせ否定し、冗談として流されるだけだ。面白くない気分が湧き上がってきて、ふいっと視線を逸らしたところで意気揚々と促される。
「ちゃんと答えたなっ、大した進歩だぜ、バクラ!!」
「そりゃどーも。つか、別にてめーに尋ねられて誤魔化したこともねえはずだけどな」
「さあ、次は猥談だ!! いやらしい話をするといいぜ!!」
それは恋人がいる場合という、おかしな限定をつけていたはずだが、たとえその条件でも該当してしまうバクラは淡々と答えた。
「前戯が長い」
「……!!」
「ぜん、ぎ……?」
「あっ、もう一人のボク、じゃなくてアテム、それは家に帰ったら教えてあげるから……!?」
「……いきなりディープな話題になって、追及していいものか悩むわね」
「つか、ゼンギってなんだったっけ?」
「明らかに僕は知ってる前提で尋ねられても困るんだけどなあ、城之内くん」
「そっか〜、長いんだ〜」
唐揚げの一種だったかと首を傾げる城之内は、意外に初心らしい。この情報化社会の時代で、いまだにビデオテープでしか猥褻な知識を得られない弊害かもしれない。そんなことを考察しているバクラも、獏良に妙にニコニコして頷かれると反応に迷った。
ここまでであれば、冗談と流すこともできる。なにしろ、普通であればこういう話題を切り出した者は顔を赤らめたり、羞恥で混乱したりもするはずだ。だが、バクラは平然としている。むしろいつもより落ち着いているくらいだ。それを、冗談の証拠だと言えば、周りも納得するだろう。だが実際にバクラがここまで落ち着いていられるのは、ずっと腹に据えかねていたからなのだ。
「オレにはよく分からないがっ、それはいやらしい話なんだな!? それなら、もっと詳しく話すといいぜ!!」
「ちょっと、もう一人のボク……!!」
焦るとつい以前の呼び方が出てしまう遊戯は必死にアテムを窘めているが、興味があるのも垣間見える。そういう年頃なのだろうし、やはり信憑性が薄いからだろう。バクラの嘘八百だとしても、何を言い出すのか気になる。そんな期待に応えるべく、バクラは嘘偽りない真実を話し始めた。
「詳しくも何も、そのままだ。前戯が長えんだよ、それが不満だ」
「そうなのか。……いや、オレにはよく分からないから聞き出しにくいぜっ、あとは御伽に託す!!」
「えっ、ここでまさかの僕なの!? まあ、僕なんだろうけどさ!!」
久しぶりにアテムの口から御伽の名前を聞いた、というか、覚えているのだと確認された。御伽も指名されて驚いているが、その理由は充分に理解しているのだろう。早くちゃんと会話の相手をしてやれと、無言のプレッシャーをアテムから受けているようだ。仕方なさそうに笑った御伽は、慎重に尋ねてきた。
「長いってさ、具体的にはどれくらい?」
「具体的、てのは、時間のことだよな? まあ、一時間を切ることはねえな、オレサマ的にそれは長え」
「えっ、それは長いよね、いやたぶん長いと思うよ? 毎回毎回そんななの?」
「ああ」
「それは……長い、気が、するなあ……。」
正直に言えば、バクラも自信はなかった。なにしろ、この体で戻ってきてからは経験がなかったし、三千年前はそれどころではなかったのだ。長いと思ったのは、あくまで初体験と比べての感想であり、また主観的なものだ。だが御伽の反応を見れば、やはり一般的より長いらしい。毎回なのかという質問は、たまにはそういう日もあるだろうという意味かもしれない。だが、やはり始めてから毎回一時間以上経たないと挿入しないというのは、驚かれることなのだとバクラは学んだ。
「ああ、でも、それって仕方ない事情があるとか?」
「……どういう意味だよ」
ちなみに、遊戯や城之内も、質問は御伽に委ねることにしたらしい。杏子は恥ずかしいようで、やや顔を背けている。獏良はニコニコしたままなのでよく分からないが、少なくとも止めないので嫌がってはいないのだろう。そう判断したところで、御伽が言葉を選ぶように尋ねてくる。一瞬分からなかったものの、困ったような笑みで察してバクラは思わず声を荒げた。
「なんだよっ、オレサマじゃ勃たないってのか!?」
「あっ、いや、そういう意味だったんだけど、でも実際のとこは……?」
「勃つっての、勃ちまくりだっての!! だいたい、その一時間の間に自分の手で何度か抜いてやがんだぞ!?」
「ええっ、それはまた、無意味なことを……。」
ムキになって否定をすれば、御伽は期待通りの反応をしてくれた。
そう、まさに無意味なのだ。どちらに原因があるにせよ、一時間かけないと勃たないというのであれば、これも仕方がない。だが実際にはそんなことはないのだ。したいのならばさっさとすればいいのにというバクラの主張に、頷きかけた御伽は、そこで止まる。
「……それってさ、キミの方を気遣ってるんじゃないの? ほら、あんまり慣れてないとさ、痛いだろうし?」
相変わらず言葉を選んでいるが、しっかりと伝わったバクラはあからさまに顔をしかめた。
「告白した直後に押し倒して強引に処女奪いやがった男に、どれほどの気遣いがあるってんだよっ」
「え……ええっ、それってかなりダメじゃない!? 事実なら犯罪じゃないの!?」
「犯罪まではいかねえよ、一応の合意はしちまってたからな。けど、あれから何十回もしてんだ、いくらオレサマだってさすがに慣れる」
「そっかぁ、何十回もしてるんだ……て、ちょっと待って? 前戯が長いっていうのは、その初めてのときから?」
「二回目からだ」
初めてのとき、つまり告白された直後の学校の屋上だったが、あのときは唐突過ぎてバクラも混乱していたことを差し引いても、長くなかった。むしろ、前戯らしいことをされたのかも疑問だ。初めてのキスに翻弄されている間に、胸を揉みしだかれていた。やっと唇を外されて深く息を吸い込んでいると、いきなり手がスカートの中どころか下着の中まで伸びてきて、いいかときれて、よく分からないままに頷いた。
それからのことは、痛みしか覚えていない。繋がった箇所も痛かったが、屋上だったので背中を押し付けられるコンクリートが地味に痛かった。夏休みに入る前で、夕方でもやたら太陽が眩しかったのがかすかな記憶だ。呼び出されたときはまさかそんな展開になるとは思っていなかったので、どういう下着を身につけていたのか、そればかりが気になってしまった。
「……て、ことは。きっと、あれだよ、初めてのときに強引にしちゃったから、反省の意味を込めてるんじゃない?」
「あれからずっとだぞ? しかも、どんどん長くなっていってんだぞ?」
少し首を傾げていた御伽が仮説を立てたように、最初はそうだったかもしれないとバクラも思っている。詫びというよりは、単に初体験ではできなかったことに興味が移っただけだ。バクラが慣れてきているのは分かるだろうし、何より一度も拒んだことはない。だんだん短くなっていくのならまだしも、逆に伸びていくことがバクラは不満だし、不安だった。
「キミが許さないから、ますます必死になって謝ってる、とか?」
「最初から怒ってねえよ、驚いただけで。なのに、ずっとキスしてきたりとか、いろいろ舐めてきたりとか」
「具体的なことは言わなくていいからね、いやほんとにね」
「散々イかせされてっ、こっちも疲れるんだっての!! で、ヤる気がねえのかと思ったら、ぐったりしてる頃に突っ込んできやがるし、マジで意味分かんねえよっ、そんなにオレサマとヤるのが嫌なのかよ!!」
「それは僕に言われても困るけど、むしろそんなにキミとしたいんだなあて感想にならないかな、普通は?」
ただ回数をこなすだけであれば、相手とたくさんセックスしたいということになるかもしれない。だが、自分たちは違うのだ。そこまで愛撫ばかり重ねられると、バクラはまともな思考が残らない。ちゃんとした会話は成立しないし、ほとんど喘ぐだけになっている。
そこまでバクラを蕩けさせてから、ようやく繋がってくるのだ。嬌声しかいらないと言われているようで、いつもバクラは腹立たしくなった。だが何度も絶頂を迎えさせられた体はようやくもたらされた剛直に抗えず、ただ咥え込むことしかできない。
まるで、ダッチワイフにでもなった気分だ。
いや、まさにそうなのだろう。バクラだと認識させるような会話や反応など封じた上で、ただ豊満な肉体を貪りたいだけなのだ。告白してきたくせに、付き合っていることを隠し続ける態度にも、それは表れている。いずれ飽きて捨てられるのだとしても、関係がなかったことにはさせないとばかりにぶちまけてやったのに、当人は俯くだけで全くの無反応なのが悔しくて堪らない。
「あんな状態のオレサマにしか突っ込む気にならねえとかっ、そんなのもうオレサマじゃねえ方がいいってことだろ!!」
「そうじゃないと思うけどなあ、まあそれは本人でないと分からないことだろうけど。……で、本田くんの言い分としては、どうなの?」
「……!!」
「……あ、そういえばこれ、相手は本田なのよね」
「……す、すっかり忘れかけてたよ、ボク」
「……オレはむしろ、御伽が責められてんのかと誤解しそうになってた」
「どうして本田くんにふるんだ? いくらバクラが本田くんを好きでも、関係を持つ男と同じとは限らないだろう?」
「同じと限るんだよ〜、だって、妹はこう見えて好きな人じゃないなら生きてる価値も認めないレベルの一途さだからね〜」
「それだと真っ先にオレの生存が脅かされることになるぜっ、獏良!!」
獏良は言いすぎだ、好きな人以外にはとことん興味が持てない程度である。すっかり周囲は聞き入ってしまっていたようだが、御伽の指摘でもう一人の当事者の存在を思い出したらしい。一斉に注目は集まるが、当人は椅子に座ってまだ俯いていた。若干震えている。あまりのことに怒りでわなないているのか、それすら通り越して悲しくなっているのか。どちらにせよ、本田の自業自得だとバクラは視線を逸らす。御伽に尋ねられて答えた内容に、何一つ嘘はない。本田が否定するのであれば、それは過去だけでなく未来もだろう。
「本田くん? 彼女にここまで言われてて、反論はないの?」
「……。」
震えたまま黙り込む本田に、御伽が再度促す。すると、一度ビクッと肩を派手に揺らした本田は、少しだけ顔を上げた。表情までは見えないものの、なんとか唇を動かして発した声は、かなりか細くて聞き取りにくい。
「……も、申し訳ありません」
「……。」
「それって、本田はバクラくんの発言を認めるってこと?」
「認めた上で、本田くんは謝ってるってことかな?」
「本田、お前の男気に、オレは感動したぜ……!!」
「城之内くんが感動してるから、オレも感動することにするぜ本田くん!!」
「でも〜、謝るだけならどうとでも解釈できるよね〜」
「彼女の不満に謝罪したようにも、原因の予想を肯定したようにも聞こえるよね」
バクラが黙ったのは、まさに御伽の言うとおりだ。申し訳ないという言葉が、何に対して向けられているのが曖昧だ。単純に不満に対して謝ったようにも聞こえるが、そこまで前戯が長い原因の予想、つまり本当はバクラとはしたくないのだろうという指摘が図星で、降参したようにも受け取れる。
前者だとしても不満は解消されないが、後者であれば不愉快すら通り越す。やはり自分では嫌だったのかと分かり、みっともない真似はしたくない。だからこそ、さっさと席を立ってしまおうとバクラが椅子を引いたとき、しばらく怪訝そうにしていた本田は、ようやく御伽の言葉の意味を理解できたようだ。
「原因の予想、て……それって、ほんとはバクラとしたくねえってことか!? んなワケねえだろっ、ヤりたくもねえのにそこまで頑張れるかよっ、このオレが!!」
「そうだよねえ、初めてなのに犯罪すれすれだったらしい本田くんだもんねえ、あとそれは彼女に言ってあげてよ」
真っ当な助言の前に、気遣いを装った非難混じりの賛同で、本田はすぐに項垂れた。おかげで、直接バクラに力説することはない。どうやら相当気にして落ち込んでいるようだ。理由はバクラにはよく分からないのだが、少しばかり責任を感じたらしい御伽が代わりに言葉を向けてくる。
「ほら、やっぱり長いのは単にキミへの気遣いなんだよ、きっと? だからさ、許してあげたら?」
「……でも、長えものは長え」
「そうだよねえ……ああ、そっか、じゃあキミはどういうのが希望なの?」
この話題をアテムが御伽に丸投げしたのは、もしかすると適任だったのかもしれない。さり気なく解決案を模索する方向に誘導され、バクラもやや考えてみてから、答える。
「……煙草吸いながら、片手間でヤってるくらいの余裕がある感じとか」
「そういうの、普通女の子は凄く怒ると思うんだけど、そんな希望が出るくらいに全力投球されすぎてるってことなのかな、本田くん?」
「無理に決まってるだろっ、オレ煙草吸えねえんだぞ!? 一回吸って噎せて、二回吸って咳き込んで、三回目くらいでもう吐くか喘息ぶり返す勢いなんだからな!!」
確かに想像すればもっと集中しろと怒りそうな図だが、バクラにしてみれば単にそれくらいどっしり構えてもらいたい程度の例え話だ。だが御伽が本田へと振れば、本田は余裕なく喚きながら机に伏せる。どうやら煙草は吸えなかったらしい。
「……ねえ城之内、アンタたちって元ヤンなのよね?」
「そうだけど、ケンカ以外は分かりやすいことしてねえぞ? オレは単に金がなかっただけだけど、本田は何度か試して燻された干物みてえに悶絶してるの見たことある」
「そ、それって、よっぽどだよね……。」
「体質的にどうしても無理な人っているもんね〜」
「諦めるなっ、本田くん!! 世の中には、シガレットという名の紙でチョコを巻いたものがあるんだぜ!!」
アテムの助言はどうでもいいが、バクラは一つ気がついたことがある。何度も本田の部屋には行っているが、妙にきちんと片付いていた。母親が掃除をしているのかと思えば、自分でしていると言う。布団なども定期的に干し、掃除機もかけている姿に、几帳面だなという感想しか持たなかったが、もしかすると気管支が弱いのかもしれない。空気清浄機が置かれていたので勝手に煙草も嗜むと思い込んでいたが、どうやら真逆のようだ。煙草というのはあくまでイメージにしか過ぎなかったが、落ち着いて構えるという方向は無理そうなので、いっそ猛進することを提案してみた。
「……じゃあ、酒でも飲んで勢いでヤるとか」
「それも女の子は嫌がりそうだけど、でも、なんとなく予想はつくけど本田くんはどう?」
「無理だっ、絶対に無理だ!! 一口飲んで顔が真っ赤になって、二口目でもう吐いて、三口目の頃には爆睡してるオレに何ができるってんだよ、ふざけんな!!」
バクラとしては、酔って気が大きくなり、前戯もすっ飛ばして繋がるくらいの強引さを求めただけだったが、やはりこれも困難らしい。
中学時代のことは城之内しか知らないため、これまでつるんでいる連中も分かりやすい不良のイメージで想像していたのだろう。今はやめたとしても、酒も煙草もそれなりに嗜んでいたのではないか。それはあくまで勝手な思い込みにすぎなかったようだ。よくよく考えれば、セットでついてくる『女』も本田は未経験だったので、当然だったかと周りもようやく察したらしい。
「……ねえ、城之内?」
「酒はオレはオヤジの所為で避けてたけど、本田はマジで飲ませるなって周りに言われてた。わざと飛ばしたのか、ほんとに覚えてねえのか知らねえけど、実際には一口目で真っ赤になったのからかうと、すげーキレて無表情で相手を拳で捻じ伏せた後、二口目で後悔して泣きながら吐くってのがかなり不気味みたいで」
「そ、それは、不気味っていうか、その前が怖すぎない……!?」
「体質的にどうしても以下同文だね〜」
「諦めるなっ、本田くん!! 世の中には、アルコール分がゼロなビールやシャンパンはいっぱいあるしっ、なにより砂糖入り牛乳に勝るものはないんだぜ!!」
アテムの親切な助言も耳に入った様子はなく、本田はやや呆然として城之内を眺めている。もしかすると、二口目に至るまでに自分が暴れていた記憶は全くないのかもしれない。ちなみに五分しか保たない最強酔拳と言われてたとまで城之内が説明すれば、周りは納得し、本田は項垂れた。
印象に引き摺られていたといえばそれまでだが、バクラもこれまで知らなかったことばかりだ。なんとなく面白くなくなっていると、何故か妙に感心している御伽が口を開く。
「僕、元ヤンててっきり飲む打つ買うを地で行く感じかと思ってたよ、いろいろあるんだね」
それに城之内はやや呆れた顔をする。
「そりゃいろいろあるだろ、まだ中学生のガキだったんだし。でも、その中でも本田は特にアレだったけどな、酒は飲まねえ、女は無縁、ギャンブルどころか将来の夢がずっと公務員」
「もう年齢については野暮な指摘しないけど、むしろどうしてそんな本田くんが非行に走ったのか、そっちのが気になるよ」
「こいつの家行ったら分かるけど、結構なボンボンなんだよな。ないものねだりに憧れたんだろ、男気的なものとかに」
散々な言われようだが、項垂れたまま口を挟まない本田は、大体正解なのだろう。そもそも、離れに自室があったり、自分専用の二輪車を持っていることを考えても、金銭的に困っている家庭とは思えない。金があってもなくても悩みはあるんだなと城之内が言うと、やけに重みがある。責めているようには聞こえない。傍からは比較的裕福に見えている家族でも、問題を抱えているものだ。当人にしか分からない事情はあるのだろう。金だけあっても幸せになれるとは限らないというのは、より大きなスケールで体現してくれた社長様の影響も大きい。
周りも再び納得して頷いている状況は、よほど居たたまれなかったらしい。本田はずっと俯いたままだったが、やがて気合いを入れるように深呼吸をすると、探るような声で妙なことを言い始める。
「……い、いや、でも、もう高校生だし。酒も、煙草も、嗜めるように頑張るし」
「高校生でも嗜んじゃダメだろ、あと体質なんだから無謀なことはやめときなよ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」
ちなみに、言われたのは御伽だ。あれだけ無理だと本人も周りも認めたのに、何故か酒と煙草を頑張るらしい。首を傾げていれば、真っ当な諭し方をした御伽に本田は半泣き状態で聞き返した。それに御伽は胡散臭いまでの笑顔で答える。
「彼女に嫌われたくないんなら、『お前のことが大好きだ』っぽいこと言って抱きしめるとか?」
「嫌われたいわけねえだろっ、むしろ嫌われそうだったから今まで頑張ってきてたんだろっ、それなのになんなんだよこの仕打ち、バクラお前が大好きだ!!」
「え?……おわっ!?」
のん気に眺めていたが、どうやら本田は相当追い込められていたようだ。
恋愛熟練者と崇めている御伽からの助言を、混乱のまま忠実に実行する。いきなり立ち上がるとぐるりと机を迂回して腕を伸ばされ、抱え上げるようにして力強く抱擁してきたのには心底驚いた。だがしばらくすると、苦しいほどの締め付けは徐々に緩む。代わりに、異常に緊張した心音と空気が伝わってきた。
「あ……あの、バクラ、これは……その……。」
「……。」
御伽の言葉に惑わされたと、言い訳したいのだろう。うろうろと視線を彷徨わせているが、緩めた腕を外すことはない。それだけを頼りにして、バクラは殊更大きなため息をついた。
「……ったく、てめーはマジでワケ分かんねえな」
「いやっ、その、バクラ、これはだから……!?」
「今まで散々ひた隠しにしといて、これかよ」
ゆっくりと背中に腕を回し、軽くシャツを引っ張ってみる。そうして腕を回したと示しておいて、バクラは自ら身を寄せるようにしてギュッと抱きついた。
「……!?」
「結局、あんだけ前戯が長いのは何だったんだ? それに、ずっと付き合ってるの隠してたのも」
前者に関しては、ほぼただの気遣いだと判明している。だが、後者はいまだによく分からない。ただの気恥ずかしさであれば、バクラがばらした辺りで羞恥から止めてもおかしくなかったはずだ。
腕の中からしっかりと見上げて追及すれば、本田は再び視線を彷徨わせて動揺する。だが背中に回した手を離さず、じっと待っていれば、やがて観念したように本田が肩に顔を伏せてきた。
「……長い、て、不満に思ってるて気づいてなかったんだよ、お前がすげーよがって可愛かったから」
「……。」
「あっ、いや、その、最初はあれだ、もちろん、初めてのときの失態を挽回したくて!? お詫びと、お前を気持ちよくさせられるだけの懐があるんだぞって示したくて、頑張ってたら、だんだん愉しくなってって、つい!!」
やっぱり僕が言った通りじゃないと、横で御伽が誇らしげだ。ただ、その頑張りがどんどん延長していったのは、バクラが可愛くよがっていたからだと言われるのは心外だ。
快楽が増して絶頂を何度も迎えるので、よがっていたというのは否定できない。だがその姿が可愛かったなどと、誤魔化しているとしか思えない。自らの外見に全く自覚がないバクラは責めるように睨むが、肩から顔を上げて間近で目が合う本田は、何故か照れ臭そうな顔をしてから、ハッと息を飲んだ。
「そっ、それで、隠してたっていうか、みんなにオレたちの関係、言ってなかったのは……!!」
「ああ?」
どうやら、二つ目の質問に答えていないと思い出したらしい。慌てて言い募るが、本田はそこで一度言葉を切る。怪訝そうに相槌を打てば、本田はまたゴクリと唾を嚥下した。相当緊張している様子に、バクラもつい衝撃を予想して身構えるが、慎重に切り出されたのは不可解な言葉だ。
「……バクラが、オレのこと好きか分かんなかったから」
「は?」
「だってOKもらえた直後に、オレ浮かれすぎてヤっちまっただろ!? 嫌われないように頑張ったけど、お前あれから一回も好きだって言ってくれねえし、やっぱ怒ってるのかな、て。許してくれねえうちは、みんなにも言えねえなって!!」
「……やっぱり怒ってるって思われてたんじゃない」
「うるせえっ、したり顔してんじゃねえよ!!」
「でもっ、アテムの予行演習でバクラがオレのこと好きだって言ってくれて、ほんとによかった、バクラ、大好きだ!!」
「んんんっ!?」
どうやら二つ目も御伽が正解だったらしい。思わず噛み付けば、感極まったらしい本田にいきなりキスされた。
付き合っている素振りすら見せようとしなかった男の唐突な変貌に、バクラはかなり驚く。だが嫌な気はしない。当然のように捻じ込まれた舌にしばらく口内を好きに嬲らせ、濃厚なキスを愉しむ。やがて名残惜しそうに唇を離されたときは、少し腰が疼いてしまった。
「んっ……バカ、オレサマは最初から怒ってねえよ」
「バクラ……。」
うっとりしたように呟けば、本田も安堵して抱きしめてくれた。単に行き違いがあっただけらしい。変わらず本田が自分を好きでいてくれてよかったと嬉しくなったところで、無粋な手が挙がる。
「ハイッ、質問。結局前戯の長さはどうするの?」
「……てめー、ここで口挟むのか」
「凄い勇気よねえ、御伽くん」
「ボクは思わず見入っちゃいそうだったよ……。」
「オレはびっくりしすぎてちゃんと見てなかったけど……。」
「オレも砂糖入り牛乳の美味しさをどう伝えるか悩んでいたから見損ねたぜ!!」
「だって、止めないとどこまでいくか分からないよ、この二人?」
「さすが御伽くんだね〜、ボクも同じこと思ってたよ〜」
始めはバクラと同じように呆れてくれた周囲も、途中から何故か御伽を讃えるようになる。非常に心外だ、さすがに教室ではキスくらいまでしかするつもりはない。それが既に文化的に暴走気味だという認識がないバクラが訝っていると、しばらく黙っていた本田が躊躇いがちに口を開く。
「いや……オレとしては、今までどおりでいきてえんだけど」
「……。」
どうやら、御伽の質問に律儀に答えを考えていたらしい。こういうところも、変に生真面目で育ちの良さが垣間見える。家族仲はやたらいいし、どうして道を外れたのかまた不思議にもなった。だが、そういうものなのかもしれないとも思う。どれだけ外れそうにない要素が揃っていても、たった一つのきっかけで人生が大きく捻じ曲がることはよくあるものだ。
当時は不幸だと誰もが思ったかもしれないが、そこで城之内と出会ったからこそ、今こうして抱き合えることに繋がっているのだろう。そう考えれば、これもまた奇跡のような気がした。お伺いを立てるような視線でじっと答えを待つ本田に、バクラはニッコリと笑みを見せる。
「……!!」
「……てめーがその気なら、どんだけ苦痛なのかその体で教えこんでやるよ」
本田はやけに慌てていたが、踵を上げたバクラは笑顔のままで唇を押し付けた。
そのとき、ふと既視感が起きる。こんなことが、以前にもあった。少し遅れて思い出せたのは、本田に告白をされたときである。
あの日、屋上に呼び出されていきなり好きだと言われた。ずっと好きだったので、付き合ってほしいと告げられたのだ。浮かれたのは、本田だけではない。それより先に、バクラの方がずっと浮かれてしまった。嬉しくて、オレサマも大好きだと言って笑いながらキスをした。すると、一瞬顔をしかめた本田が、何かが吹っ切れたように暴走して最後までする羽目になったのは前述のとおりである。
もしかすると、自分の迂闊な行為が引き金だったのだろうか。
今更のようにバクラは気がつく。あれから好きだと言ってくれないと本田が嘆いていたことと考え合わせれば、ますます信憑性は高くなる。ましてや、今も完全にその気になったらしい本田によって、机に押し倒された。
ただ、ここは無人の屋上などではない。
驚いた杏子は遠巻きにし、遊戯も距離を取る。耐性がないらしい城之内が硬直した横で、御伽と獏良はどちらが止めるかのジャンケンをしていた。一人状況の理解が遅れていたアテムは、『ホットミルクをバクラにお裾分けするとはっ、粋な計らいだぜ本田くん!!』と叫び、結果的に本田の目を覚まさせ、また遊戯には謝られた。
翌日、いつものようにバクラは登校する。やや機嫌がいいのは、もう仕方ないだろう。なにしろ、ずっと隠さざるを得なかった関係はもう公言していいし、別の悩みも解決したのだ。意気揚々として過ごすバクラに対し、朝から塞ぎ込むようにして項垂れている本田はかなり対照的に映ったらしい。昼休みにそれぞれが食事を終えた頃、代表するかのように御伽が尋ねてきた。
「……ねえ、昨日あれから何かあったの?」
教室ではなんとか我に返ったものの、昨日の放課後、本田はすっかりその気になっていた。ちなみにバクラも同様だ。人前ではやめるようにと獏良にも説き伏せられたので、自習だった六時間目の終了のチャイムが鳴ってから、バクラは本田と手を繋いで帰った。ちなみに、本田の家に、である。ある程度の着替えは置いているので泊まること自体は困らず、今朝もそこから二人で学校には来た。
「何かって、なんだよ?」
「あからさまに本田くんの様子が変だろ? キミ、今までの恨みを晴らすみたいに苛めすぎたとかじゃないの?」
妙に勘が鋭い御伽には感心するが、若干外れている。確かに最初はそういうつもりもあったのだが、意外な方向に事態が転がったのだ。
「まあ、オレサマの苦痛を味わってみやがれとは思ったけどよ、よく考えたらオレサマそういう技術ねえし」
「だろうねえ、キミ物凄く奉仕され慣れしてるぽいしねえ」
「だから、縛って踏んでみた」
「……。」
「そしたら、あっさりイくんだよな。なあ、てめーは早漏の対処法とか知らねえのか?」
一方的に前戯をされ続けた間は、逆に本田に対する奉仕の類は一切求められたことがない。そもそも知識も乏しいので、同じ目に遭わせてやると意気込んでも、バクラにも具体的な策はなかった。仕方なく、普通の拷問のように縛り、苛めてみたが、やりすぎて使い物にならなくなっても困る。手加減、いや足加減をしてぐにぐにと服の上から踏んでいれば、やたら早く硬くなって、驚いている間に射精された。
不思議になって繰り返しているうちに、どんどんその間隔は短くなる。荒い息をついて刺激に堪えようとする顔もそそり、つい夢中になってしまったのは、しょうがないことだろう。
ただ、早く出しすぎるとそれだけ体力の消耗も激しいようなので、何か鍛える方法はないのかとバクラは御伽に尋ねてみる。すると少し黙った後、御伽はやたら優しい口調でポンと本田の肩に手を置いた。
「本田くん、目覚めちゃったんだねえ?」
「……うるせえ、このバクラが、だぞ。このバクラが、すげー愉しそうに腕組んで、足だけでこっち苛めてくるんだぞ、興奮するなってのが無理だろ。しかも、勃ちが悪くなってくると服脱ぐのに触らせてくれないとか煽ってくるんだぞ、我慢できるかよ」
昨日に続いて本田は俯いたままだが、今はもう照れ隠しだと知っている。ニヤニヤしながら眺めつつ、バクラは釘を刺しておく。
「それと、オレサマの本田に気安く触んな」
「はいはい、ごめんね、今後は気をつけるよ。まあ何にせよ、キミたちはお似合いってことだよね」
いきなり話をまとめてきた御伽には驚くが、似合いだと言われて悪い気はしない。思わず嬉しそうに笑えば、机の下で軽くつま先を突かれた。顔を上げれば、本田がやや不機嫌そうに睨んできている。
どうやら、他の男に笑顔を向けたのが気に入らないらしい。心が狭いヤツだと呆れるのに、嬉しくなってしまうのも事実なのだ。今日もしっかり調教してやろうと心に決めながら、バクラは机の上で手を伸ばして本田の手を取った。
「……バクラ?」
「オレサマの苦しみは、あんなもんじゃなかったからな? まだまだたっぷりお仕置きしてやるから、覚悟しとけよ」
指を絡めてしっかりと握り、そう宣言すれば本田はやや顔をしかめてから、ギュッと手を握り返してくる。嫌なのではない、興奮しかけて自制したのだ。昨日も散々見た表情なので、もうバクラも熟知している。
「……アテムくんも、たまには役に立つんだねえ」
「……そういえば、きっかけは王様ゲームだったことを今の今まで忘れてたわ」
「……ご、ごめんね、ボクが変なドラマを見せたばっかりに」
「……本田の性癖が決定しちまったよな、まあマゾ素質は物凄くちらついてたけど」
「アテムくん〜、ありがとう〜」
「いやあっ、それほどでもあるぜ、獏良!!」
何故アテムが友人たちから讃えられているのかは、よく分からない。ただ、こちらに注目していないことを幸いに、握った手を軽く引けば本田が身を乗り出してキスしてくれたのが、本当に幸せだった。
| ▲SSメニューに戻る −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 御伽がだんだんこういうポジションで固定してきた。 そして、たまに、こういう、本田大好きっ子なバクラさんが書きたくなる。 ・・・たまに? ロボっぽい何か |