■オレのバクラがこんなに可愛いワケが あった。
同タイトル収録 【お試し版】 -01.
うさぎに似ているという話は、単純に髪型の所為だ。
「……んっ……ん、ぁ……。」
「……。」
腰の動きに合わせて、特徴的なはねた髪がゆらゆらと揺れる。ほとんど聞こえない声よりも、よほど反応がいい。大きく突けば大きく揺れるし、早く動けば早く揺れる。こうして繋がっているのが幻覚などではないのだと、唯一教えてくれる気がした。
包まれた熱さも、締め付ける心地好さも本物なのに、何故かいつも現実感がない。
初めてのときは、無我夢中で何も分からなかった。
だがもうこんな関係を三ヶ月も続けていれば、さすがに最中も余裕が出てきて、知りたくなかったことにも気がついてしまう。
「ん……んっ……。」
「……。」
「……く、ぁあ……。」
ため息と変わらない程度の喘ぎは、布擦れの音や、いっそ抜き差しす粘着質な音にも消されてしまうそうなほど、小さい。後ろから繋がっているので、聞こえにくいということはある。そうにしても、こうして背中ばかり向けられる行為では、回数を重ねるごとに快楽より不可解さが深まっていく。
そもそも、今日にしたところで、何故こんなことをするに至ったのか、さっぱり分からない。
発端は、昼休みの会話だろう。いつもの友人たちと共に昼食を取りながら、珍しく話題がある人物となる。どうやらうさぎに似ているという話を他のクラスから聞いたらしい。
ひとしきり友人たちが話している間、当人はずっと興味がなさそうにしていた。似ている自覚はないのだろう。あるいは、闇人格でなくなった今もはねたままの髪が、うさぎの耳のようだという外見的な事実だけは理解しているのかもしれない。
どちらにせよ、つまらなそうにほとんど会話に加わっていなかったが、もしかすると内心では不愉快になっていたのか。
そんな推測をしたのは、昼休みの終わりを告げるチャイムと同時に立ち上がったときだ。
『……次の授業、オレサマはサボる』
『え〜、どうして〜? せっかく宿題もしてきてるのに〜?』
『それは宿主サマが出しといてくれ』
提出が厳しい授業だったり、当たりそうだからという理由でサボるのならば、分からなくもない。自分もよくするからだ。だがうさぎのようだと評された相手は、意外にもそこそこ勉強はできる。闇人格の頃、暇すぎて授業を眺めていた賜物らしい。今では戸籍上の双子の姉となっている以前からの仲間の指導で、宿題もしてくるし、テストもちゃんと受ける。ただ、繊細さを装うこともできる演技力を発揮して、授業はサボりがちだ。無理に引き止めても、気が乗らないときは授業が始まってから抜け出すともう知っているからか、双子の姉は不思議そうにしつつも代理で提出する宿題を受け取っていた。
あまり珍しいことではないし、自由奔放な性格を仲間内も承知しているため、小言を言うでもなく皆見送った。
ただ、自分は迷った。
宿題をしてきておらず、日付と出席番号という古来からの因縁で今日は当てられる確率が高い。一人でサボッてしまおうと思っていたところだったので、これでは示し合わせたようではないか。
そう考えたものの、すぐに気にしすぎだという結論が出た。
仮に、自分たち二人が同じ授業に出ていないとしても、一緒に居ると邪推する者はほとんどいないだろう。距離がある人間なら、同じグループでつるんでいるからと考えるかもしれない。だが、親しい者ほど、誤解はしない。同じグループにいても、自分たちは最も遠く、会話もほとんどしないのだ。
『……。』
闇人格の頃から、視線が絡むことすら稀だった。
だからこそ、そのわずかな機会でこちらは心の深いところまですべて鷲掴みにされても、相手からすれば三千年の間に通り過ぎていった取るに足りない人間の一人にしか過ぎない。すべてが終わり、何故か戻ってきた今、名前を覚えられているだけでも僥倖なのだ。三千年分の憎悪もごっそりと抜け落ちて、たまに危ういくらい存在感を消している相手を、自分は、ずっと、本当は見ていた。
相手は見ていないことを知っていたので、認識されているだけでも幸運だと思い込むことで、期待はしない。そんな臆病さを極めた結果、一周回ってあんな関係を持つに至るとは、三ヶ月前の自分は想像だにしなかっただろう。
『……オレもサボる』
『アンタは宿題してるの? て、してるわけないかっ』
『だからこそ、当たりそうな日付だしサボるんだろ。あーっ、どうしよ、オレもサボろっかな!!』
『ダメだよ城之内くんっ、そう言って先週もサボッたでしょ?』
他の友人たちとは違う、そもそも友人としての行為ではありえない関係を持っていることを、誰も知らない。友人たちに話せるはずもない。
バレてはいないのだから、勘繰られることもない。最初から自分はサボる気だったのだと言い聞かせてそう呟けば、中学からの付き合いの悪友の賛同に一瞬だけ動揺し、窘めた高校からの親友に安堵した。
結局、チャイムが鳴り終わり、教師が来るまでにさっさと教室を出る。
廊下は既にほとんど生徒もおらず、静まり返っていた。
さて、上に行くか、下に行くか。
サボる場所として定番の屋上か、それとも目立ちにくい校舎の裏で昼寝でもしようかと考えて階段に差し掛かったとき、意外な姿に思わず足を止めた。
『……。』
『……なんだ、オレサマを追いかけてきたのか?』
相手も、それなりには驚いていた。待っていたとは楽観できないので、大方似たような葛藤をしていただけだろう。軽く目を見開いた後、わざとらしく笑ってそんなふうに尋ねる。
追いかけてきたわけではないと、生真面目に返すか。
オレを待っていたのかと、同じ冗談でかわすか。
どちらが正解かは分からないまま、とにかく答えようとすれば、やはりおかしな虚勢となる。
『……だとしたら、どうなんだよ』
『はぁ? マジでそうなのかよ、てめー、ストーカーか?』
呆れてみせても、先ほどよりずっと自然におかしそうに笑っていた。
嫌がられている、あるいは軽蔑されているのに、嬉しくなってしまうのが情けない。こんなふうに笑顔を向けられることなど、いつも同じグループにいても絶対にありえないからだ。
今日はいい日とだとうっとりしている間に、相手はさっさと踵を返す。どうやら階段を下り、校舎から出るようだ。ついていけば、嫌がられるだろう。離れていく後ろ姿を見送りながら、では自分は屋上に向かおうと試みる。
だが、足はなかなか動かない。
視線は相変わらず遠ざかる制服と揺れる白い髪に奪われたままだ。せっかくなら屋上で昼寝をする際にいい夢で見られるように、眼福として拝んでおくか。そう開き直れば、夢ではない続きが舞い降りる。
『……なんだよ、ついてこねえのか?』
『……。』
階段の途中で足を止め、今日はもう見納めだと思った顔を再び視界に収めることができた。
笑顔ではない、やや不思議そうな顔だ。それでも、充分に胸が弾む。教室で最もよく見せるつまらなそうな顔以外を、自分だけに向けられたというだけで、種類はどうあれもう嬉しくて仕方がない。
ただ、相手からすればにやけただらしない顔など向けられても困るだろうし、必死に自制しておく。まるで最初からそのつもりだったとばかりに階段を降り始めれば、また違った顔を見せてもらえた。
『やっぱついてくるのかよ』
『……悪いのか』
『別に? ……どうせ、そのつもりなんだろ?』
追いつきかけたところで、意味深に笑って再び背を向けられた。一段先を進みながら、含み笑いで返される。
『てめーがオレサマに用があるなんざ、他に理由が思いつかねえしな』
『……。』
『ちなみに、そろそろ溜まってんじゃねえのかとは思ってた』
多くの教室で五時間目の授業が始まり、校舎全体が静まり返っているはずなのに、何故か騒がしく感じた。期待で高鳴る鼓動がうるさすぎて、そこからのことはちゃんと覚えていない。
授業をサボり、合流したとしても、必ずしも例の行為に至れるとは思っていない。雑談でもしながら暇潰しをできたら、最高だと考えた。
だが、相手は完全にその気らしい。
むしろ、そのつもりで連れ出すように誘ったのかとまで想像すれば、果てそうになる。
『……違うのか?』
黙っていると、怪訝になったらしい。階段をおりきったところでそう尋ねられ、浮かれた頭では記憶も曖昧だが、おそらくはまた適当な虚勢を張った。
『違わねえよ、それ以外でオレがお前に用があるはずないだろ』
『だな。だったらさっさとヤろうぜ、六時間目は出るつもりだし』
適当な空き教室を探すことは相手に任せる。なにしろ、盗賊王だった頃の特性なのか、人の気配には敏いし簡単な鍵ならばすぐに破ってしまうからだ。幸いにして、階段を下りてすぐの理科系の特別教室が空いていたようだ。実験をするためか、カーテンも厚い。手際よく鍵を開けられたドアで中へと入れば、中途半端に閉められたカーテンのおかげでほどよく薄暗いのも、また興奮を誘った。
一応は廊下からも目立ちにくい教室の隅まで移動しておく。先に壁際に立った相手は、いつも持ち歩いているのか、個別包装の避妊具を投げて寄越す。
『早く終わらせろよ?』
『……お前の協力次第だ』
決して遅いわけでも、我慢強いわけでもない。ただ、以前よりはずっと果てるまでの時間が長くなっている自覚はある。
からかうように言いながらさっさと壁へと向き直り、手をつく相手は、それを慣れや成長と考えているのだろう。要するに、こちらが故意に射精を制している。だが事実はそうではない。いつの頃からか、前戯もさせてくれないし、最中にまともに顔を見ることも叶わなくなった。始めるとなれば最初からこうして背中を向け、後ろから繋がることばかり求められて、熱が高まるのに時間がかかるようになってしまっただけだ。
ただ、それでも単純にさせてもらえるのは嬉しい。興奮しないわけでもない。
立っているだけの腰に腕を回し、やや後ろへと引き寄せて上体は落とさせる。腰を突き出すような格好にさせてから、肉感のいい尻をスカートの上から撫で、太腿まで伸ばしたところで反対の手でスカートはめくりあげた。すると、少しだけ身を震わせてから、笑いながら返される。
『協力なら、精一杯してやってるだろ?』
『……そうだな』
『童貞だったてめーに、こうして練習台になってやってんじゃねえか』
それなのにこれ以上の協力を求めるのかと、からかっていると分かる口調であっても指摘されると苦しくなった。
こういう関係を、相手はただの練習としか考えていない。もちろん、お互い様なので、金品などの要求はしない。三ヶ月前に童貞だった自分と、戻ったばかりで恐らく体は処女だった相手が、いずれそういうことをする際に初めてでは楽しめないだろうという予測から、利害の一致を見せた。
ただ、それだけだ。
正直に言えば、その場のノリで得た童貞喪失の機会は、最高だが一瞬だとも覚悟していた。関係を続けてもらえるとは思わない。だが諦めきれずに二度目を誘えば、やや驚かれはしたものの、やっぱ一回じゃ身につかねえのかと呆れられる。どうやら、練習行為だという誤解が継続中だとは気がついたが、そのときは二度目の期待で頭がいっぱいだったので否定し損ねた。単純に、否定して別の理由を尋ねられると困るという事情もあった。
そうして、三度目からはもっと気楽に応じてくれるようになる。大抵は週に一回程度、曜日は特に決まっていない。休日で友人たちと遊んだ後に、それとなく合流した際は部屋に来たこともあったが、多くはこうして校内で手っ取り早く繋がる。たまたま先週はその機会を逃したので、珍しく期間が空いたのも事実だ。それが溜まっているという言葉に繋がったのだとしても、間違いではないし、させてくれるのであれば嬉しい。
ぐるぐる考えていても、体は正直だ。熱を持ち、苦しくなり始めていた制服のズボンを寛げ、自分の手で軽く扱いて硬さを増す。繋がること以外をさせてくれないのであれば、せめてこちらの協力はしてくれないのか。見下ろせば情けなくなってくるが、怒られそうなので言えるはずもないし、実際にそこまでしてもらわなくても充分な硬度をすぐに得られるので切羽詰っていない。渡されたゴムをかぶせて準備を整え、惜しげもなくさらされた下着を少し横にずらして、後ろから繋がった。
「……んっ……。」
「……。」
きつくはあるが、もう三ヶ月もこんなことをしているので、入らないということはない。潤っていた内壁は滑りもよく、根元までしっかりとこちらの剛直を咥え込む。溜まっているのだろうと指摘されたが、この濡れ具合ではむしろ相手の方が溜まっていたのではないかと言いたくもなる。だが、女性の体とはこういうものなのかもしれない。生身では一人しか知らないので不確かな情報を根拠にした指摘などできるはずもなく、今はこの熱を貪ることにした。
だが、それでも今日はいつも以上に高まりが鈍い。ただでさえいろいろ思うところがあるのに、揺れる髪の房が気になっているからだろう。集中しようとしても、難しい。下手をすれば、相手が先にイッて、もうおしまいだと放り出されるかもしれない。
今までそんなことは一度もなかったが、どうしてさせてくれるのかも分からない相手なのだ。どんな仕打ちも不思議ではないという焦りと、それを口実にした欲望で、腰を支える手の一方をそっとシャツの裾から忍ばせた。
「ん……あ……?」
「……。」
「……こら、触んなって言ってるだろ」
スカートの中に入れることがない裾は、手を差し込めばすぐにすべすべとしたわき腹を撫でることができる。肌の感触は楽しみたいが、それよりもっと性的興味を煽る大きな胸へと悪戯を仕掛けたい。躊躇なく手を上げていけば、すぐに気づかれて、シャツの上から窘めるように叩かれた。
「ちょっとくらい、いいだろ。前は触らせてくれてたじゃねえか」
強引に揉みしだく真似はできないが、すぐに手を抜くのはもったいない。反論することで時間を稼ぎつつ、腹の辺りを撫でていれば呆れた視線が肩越しに向けられる。
「前は前、今は今」
「……。」
「つか、前も触っていいとは言ってねえだろ」
てめーが勝手に触ってただけだと文句を言うが、当時はすべてちゃんと承諾は取っていたはずだ。誠実なのではなく、臆病すぎて嫌われるのが怖かった。だからこそ、してもいいのか、相手もちゃんと気持ちいいのか、確かめないと進めることはできない。許可は得ていたはずだが、忘れているのか、からかっているだけなのか、そう言うとシャツの上からもう一度手を叩いてきた。
どうやら本気でダメそうだと分かり、仕方なく裾から入れていた手は抜く。素直に撤退したのは繋がることも拒否されては元も子もないというだけでなく、久しぶりにこの状態で視線が絡んだことに胸が弾んだためだ。
「なんだよ?……痛っ!?」
「なあ、だったらキスはしてもいいだろ」
胸を触り損ねた手で顎を掴み、ぐいっと更に振り向かせる。首を捻るような痛みに相手は文句を言うが、構わず強気に出てみてもやはりダメらしい。
「それはもっと嫌だ」
「……。」
「いいからっ、手、離せよ。首が痛えんだよっ、バカ」
ならば胸で妥協しろと切り返す余裕はない。キスを拒まれると、予想よりずっとダメージが大きいと知った。
もちろん、キスもしたことはある。だがそれも最初のうちだけだ。ここ一ヶ月は、まずさせてもらえていない。なんとなく避けられている、しないですむように誘導されている。そうと感じてはいたが、明確に拒まれたのは初めてで、胸の痛みで熱も萎えそうだ。
顎を押していた手も外し、再び制服の上から腰をつかむ。だがなかなか動きを再開しないことで、焦れたのか、単に不可解になっただけか、珍しく聞き返された。
「……そんなに、キスしてえのか?」
迷うような声には、反射的に頷きそうになった。だが壁へと向き直っていることで、こちらの反応など分かるはずもない相手が、先に続けたことで迂闊な反応をせずにすむ。
「キスも練習したいってんなら、それなら、まあ……?」
「……いや、やっぱいい」
たとえここで頼み込み、一ヶ月ぶりのキスにこぎつけたとしても、それはあくまで『練習』なのだ。
この行為のすべてが偽物だと断罪されているようで、虚しさからすぐに断った。
きっと、終わってしまえばまた後悔するのだろう。些細なプライドなど何の価値もないのに、無駄な見栄を張って、本質を取り損ねる。
再び腰を動かし始めたところで、既に後悔は始まりかけたが、振り切るように行為へと集中した。
「んっ……ん、あぁ……。」
「……。」
そうでもしないと、ひどいことを言ってしまいそうだった。
視界の端で、白い髪のはねた部分がちらちらと揺れている。
少し前の昼休み、友人たちが話していた内容が脳裏を過ぎった。
「……バクラ」
「え? ああ、なん…だよ……?」
「……。」
シルエットならば、まるでうさぎのようだ。
だが、イメージは全く違う。
できれば外見だけでなく、中身もうさぎのようだったらよかったのにと虚しいことをまた思いながら、今は早く出したくて作業のように黙々と腰を振った。
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