■年またぎ
ここにくるまでは、随分と長かった。
「んぁっ、んん……ふ、あ、あぁっ……!!」
「バクラ……。」
いくら恋人関係にあっても、一緒に過ごしにくい日がある。学生という身分において、その最たるものは年末年始だろう。大晦日にしろ、元日にしろ、理由をつけて会うことは可能だ。だが年が変わるその瞬間を共に過ごすことを実現させるには、かなりの準備と説得が必要になった。
宿泊そのものは、問題ない。学校があるときでも週末は必ずどちらかの家に泊まっているし、長期休暇となればほとんど半同棲状態だ。だが、まずこちらの家は年越しは家族と過ごすものだという意識が強い。だからといって呼び出せば、あちらは双子の姉妹で二人暮らしのため、戸籍上の姉を一人にしてしまう。
それを説明すれば、こちらの家族は妥協してくれただろう。とにかく今の彼女との結婚を切望しているので、相手の家族、日本にいるのは双子の姉だけなので、とにかくその子にも配慮すべきという方針だ。ただ、実行すると三人で年越しすることになる。それは双子の姉的にはどうなのだろう。分かりにくく優しいので、気を遣われたことに、気を遣いそうだ。単純に、恋人が双子の姉の前では二人きりのときほど懐けなくてもどかしさに苛立つことも知っており、そちらの理由でも迷っていた。
それぞれの家族が、いろいろと気遣いを探り合う中で、性的願望にまっしぐらの主張などできるはずもない。悩むばかりだった頃に、ふと道を示してくれたのは、いつも分かりにくく応援してくれている恋人の双子の姉だった。
『……そういえば〜、キャンセルが出たみたいで飛行機のチケットが取れたんだよね〜』
『宿主サマ……?』
『獏良、どっか行くのか?』
あれは、クリスマスも終わった頃、早めの大掃除を手伝いがてらに泊まりに行ったときのことだ。疲れたので夕飯はピザにしようという話になり、注文を済ませて待つばかりというときに、急に恋人の双子の姉、獏良がそんなことを言い出した。
バクラも不思議そうにしているので、知らなかったのだろう。趣味の友達も多い獏良は一人で出かけることがよくあるが、飛行機で行くほどの距離はまずない。しかも、キャンセルが出たので確保できたということは、前々からの計画ではなく大した用事でもないのだろう。そんなふうに考えたが、返ってきた言葉には二人して驚く。
『ボクの両親て〜、美術品の買い付けで世界中を回ってるでしょ〜?』
『ああ、そうらしいな』
『で、今年はアメリカで年越しを迎えるらしいんだけど〜、飛行機が取れたらおいでって言われてたんだよね〜』
すっかり忘れかけていたが、獏良は決して天涯孤独の身というわけではない。今でこそ、海馬の助けを借りて強引な手段でバクラは双子の妹ということになっているが、それが唯一の肉親ではないのだ。
実の両親は健在で、父親は童実野美術館の館長をしている。ただ、趣味、あるいは仕事に没頭すると変に行動力があるのは父親譲りだったらしく、美術品を求めて常に海外を渡り歩くような生活らしい。元々資産家なのか、他に事業でもしているのか、日本に残した一人娘には充分な生活費を渡し可能な限りの我儘を許すようだ。そうでなければ、鬼籍に入っていた妹の戸籍を他人のために復活させるようなことを認めはしないだろう。放置していることへの罪悪感かとも考えたが、もしかすると一時的なものになると、そもそも獏良が説明しているのかもしれないと最近は思う。
ともかく、獏良に両親がいるということを、このとき久しぶりに思い出した。ついでに、ソファーで隣に座った恋人が息を飲んでいるのが分かり、さり気なく腕を回して抱き寄せておく。
『まあ、年末には毎年言われてはいるんだけど〜、今年はアメリカだから直行便もあるし、チケットも取れたからたまには行こうかな〜、て』
『なあ獏良、それっていつから……?』
『……でも、ごめんね〜? 飛行機、一人分しか取れなかったんだ〜』
何を言っても不義理になる気がして黙り込むしかないバクラに代わり、日程を尋ねようとすればさくっと無視される。
そして、獏良がしっかりと目を見てバクラに告げたのは、そんなことだ。
戸籍上は実の姉妹なので、獏良の両親は、バクラにとっても両親ということになる。顔合わせは、日本に立ち寄った際に一度だけしたらしい。どう接すればいいのか分からず黙り込むだけのバクラに対し、獏良の両親は事情も何も聞かず、ただ獏良をよろしくと笑っていたとのことだ。
生活費は二倍になったらしいし、そもそも戸籍の件でも反対はされていない。年末に娘を呼ぶのは毎年らしいが、きっと、今年は姉妹揃ってだったのだろう。連絡があったのはいつかは分からないが、獏良が最初から行くつもりであればキャンセル待ちの時期にならなかったはずだ。だが急に気が変わり、行くことにしたのだとしても、運よく一人分だけ空きが出るとは限らない。いろいろと総合すれば、両親から連絡があった段階で、一人分の予約をしてそれを話したのが今というだけの気もする。だが獏良はそんな予測を否定するようなことを、笑顔のままで続けていた。
『だから〜、今年は、ボクだけ行ってもいい〜?』
『そっ、それは、そもそも宿主サマの両親なんだしっ、そんなの当たり前で……!?』
『そっか〜、よかった。一人分しか取れなかったから、言い出しにくかったんだよね〜』
薄情なお姉ちゃんでごめんね〜と獏良は謝っているが、明らかにこれは気遣いだろう。バクラもそれが分かるからこそ、複雑そうな顔で黙り込んでいる。素直に喜んではいけない気がし、かといって額面どおりに受け取って責めるわけにもいかない。様々な感情と思考を混ぜた結果、完全に硬直したように見えるバクラに、取り敢えずは抱き寄せていた手で頭を撫でておいてやった。
『……ていうことだからさ〜、本田くん?』
『ああ?』
しばらく固まっていたバクラも、やがて少し落ち着いたように胸の辺りに顔を埋めてくる。それを見計らったように、獏良がニッコリと笑ってこちらに話しかけてきた。
『明後日から、この子ひとりになるし〜、三が日まで預かってもらっていいかな〜?』
『ああ、大丈夫だぜ、というかむしろ歓迎っていうかオレも年越しでしたいことあったしというか』
『……オレサマの意志は無視かよ』
『ボクに何も言えなかったストレスで本田くんに八つ当たりしてるだけだから気にしないであげてね〜?』
『分かってるって、いつものことだし』
『……。』
獏良と勝手に会話を進めていれば、拗ねたバクラが抱きついたまま脇腹を抓ってくるので地味に痛い。どうやら、図星だったことも照れに拍車をかけたらしい。そのうち薄い腹肉が千切られるのではないかと怯え、なんとか手を外させてから、足を跨がせて座るようにして抱き込んでおいた。背中に回した手で撫でていれば、落ち着いてくるのが分かる。
こういう、打算のない気遣いというものに、バクラはいまだに慣れないのだ。獏良なので裏に何かあると疑っているわけではない、ただひたすらどういう態度を示せばいいのか分からない。混乱しすぎて、比較的乱暴な態度を取れるこちらに八つ当たりをする。更に冷静になれば、今度はそのことで嫌われたのではないかと暴れ始めるので、適当なところで大丈夫だと示してやることが大切なのだと、もう学んだ。
『ああ、でもよ、獏良』
『うん〜?』
バクラからもしっかりと腕を回してきて、首の辺りに顔を埋めてくる。大人しくなった恋人をしっかりと撫でてやりながら、獏良には返しておいた。
『来年は、こいつも連れて行ってやってくれよな? そういう機会、来年が最後かもしれねえし』
『……そうだね〜、そうするよ〜』
今年は、気遣われたのだと分かる。だから、来年は我慢すると予め言っておく。
やや驚いた顔をした獏良は、やはり気遣いを見破られていたと分かったからだろう。だが不思議そうに顔を上げてきたバクラは、どうして来年が最後という可能性になるのか、分からなかったようだ。
キョトンした表情を見ていると、キスしたくなったので実行した。すると、誤魔化しているとでも思ったのか、散々舌も絡めてから、ぼんやりした瞳で尋ねてくる。
『なあ、本田ぁ……?』
居間では始めないでねと、獏良に笑顔で釘を刺されたので、キスだけで腰が抜けているバクラを抱えてこの日はさっさと私室に移動した。ベッドに押し倒しても抵抗はしないし、むしろ素直に背中に腕も回して抱きついてくるバクラだが、やはり気になったままだったようだ。
服を脱がせている間にもう一度尋ねられたので、端的に答えておいた。
『なあ、だから、来年が最後て……?』
『だって、さすがに新婚で妻だけ一人で実家に戻るようだと、周りも心配するだろ?』
『……。』
来年の年末は、まだ高校生だ。
だが再来年の年末は、もう高校を卒業して、社会人か学生かは別にしても、籍を入れているかもしれない。確実に入れていないと言えるのは来年までだという意味で言っただけだったが、そんなにも分かりにくかっただろうか。すっかりその気になっていたので、ふと冷静な思考も戻ったが、改めて見下ろしたバクラはそっぽを向くだけだ。
『バクラ?』
『……さっさと続けろよっ、バカ!!』
『続けていいなら、するけどよ……?』
少し赤くなっている顔は、照れているのか、呆れて怒ってしまったのか、単に焦らされた熱の余韻なのかは分からない。ただ、拗ねた表情はしつつも、甘えたようにキスをねだってくるのが可愛くて、大掃除で疲れているはずの体は元気いっぱいになってしまった。
おかげで、励んでいる間にピザは届いてしまったらしく、数時間後に冷めたものを食べる羽目になったが、そんなことは大したことではない。
なにしろ、今年は年越しもバクラと居られるのだ。
ずっと胸に秘めていた願望を実行できるのではないかと期待したのに、とんだ伏兵が実家にはいた。
「んんっ、んぁ、あ…ほん、だぁ……んぁっ、ああ……!!」
「バクラ、気持ちいいか……?」
「んっ……んん、ア、あぁっ……!!」
飛行機のチケットが取れたと聞いた翌日には、獏良は海外旅行用の大きなスーツケースに荷物を詰め、更にその翌日には空港からアメリカへと旅立った。ちなみに見送りに行ったのはバクラだけだ。当初はついていくつもりだったのだが、実家の両親から厳命が下されたため、それは叶わなくなった。
彼女が来る前に、大掃除は終わらせておくこと。
年末年始は一緒に過ごすと連絡を入れた途端、そんなお達しを受けてしまう。そもそも獏良のマンションは早めに大掃除をしたので、海外に行くことがなかったとしても、次はこちらの大掃除をバクラと共にしようと思っていた。だが綺麗な状態でお迎えしろと特にきつく言った母親は、コンビニで最も安いおせちを予約していたのに、やはり自分で作るのだと張り切り始める。
あまりの意気込みように、息子として何も言えなかった。元より口数の少ない父親には、期待していない。ただ、やたら玄関周りを掃除したり、仕事納めで忙しい中、隣町まで車で行って大きな注連飾りと門松まで買ってきたようなので、言わないだけで母親と同じ主張だったのかもしれない。
ともかく、バクラが空港での見送りを終えて一度マンションに荷物を取りに寄り、そこからこちらに来たときはほとんど大掃除は終わってしまっていた。バクラは驚いていたが、予定もなくなったからと、こちらがバイトでいない時間は母屋で母親のおせちの準備を手伝っていたらしい。おかげで、また母親のテンションがおかくなっていることには薄々察していたものの、面倒くさくて放置していたことが、最後の障害になってしまう。
『……じゃあ、そろそろオレたちあっちに戻るから』
今年もあと一時間で終わる。年越し蕎麦も食べ終えてから、できるだけ自然に母屋でそう切り出す。食器を洗う手伝いをしようとしていたバクラも、早々に母親に座っていていいと言われ、手持ち無沙汰になっていた。自室にしている離れに戻ると言えば、嬉しそうに手を握ってきたが、何故か母親が驚愕の声を出す。
『どうして!?』
『え。……ど、どうしてって、もうメシも食ったし』
あとは寝るだけだ。他にも何か行事があっただろうかと焦っていると、母親の真意がようやく分かる。
『年明け一番に新年の挨拶をして、アンタはどうでもいいけど、可愛い可愛い天音ちゃんにはお年玉をあげようと、母さんはずっと思ってたのに……!!』
『いやオレにもお年玉はくれよっていうかコイツにそういう配慮は気を遣わせるだけだからいらないっていうか』
本人も度々不可解になるらしいほど、母親はバクラを気に入っている。一緒におせちを作ることになって、ますますそれに拍車がかかったのだろう。
普通であれば、このまま母屋で年越しまで過ごし、挨拶をして離れに引き上げればいいと分かっている。
だが、それでは実行できない。せっかく獏良がチャンスをくれたのにと焦っていると、助けてくれたのは久しぶりに口を開いた父親だった。何も具体的なことは言わない、ただお前の息子なのだから分かるだろうと母親を諭した。それに、母親は何故かハッと息を飲み、それでは仕方ないと引き止めることなく送り出してくれる。
正直なところ、両親の推察が何なのかすら自分には分からない。
つまり、正解か、不正解かもさっぱり分からない。
ただ、急にニコニコと、温かい目で見送られることになり、居心地が悪くなったのは事実だ。追及しても居たたまれなくなるだけだとは察したので、明日はいつもの連中と初日の出を見に行くので一応母屋に寄って起きていれば挨拶させると約束をしておいた。
バクラは不思議そうにしていたが、手を引いてさっさと離れに戻る。暖房の入っていない部屋は寒く、今日は風呂が早かったのですっかり体が冷えていたバクラには、一度湯船に浸からせてやる。しっかりと体が温まり、適温になった部屋にバクラが戻ってきたとき、今年はあと二十分ほどだ。各地の寺を中継する番組を珍しそうに見ていたが、肩を抱いてベッドに促せばすぐに体は開いてくれた。
「んぁっ、ア、あぁっ……!!」
「バクラ……?」
事情もあったので、いつもより愛撫も少なめでさっさと脱がし、繋がった。バクラはあまり気持ちよくなっていないかもしれないと心配していたが、むしろ普段より興奮が早い気がする。豊満な胸を揉みしだきながら腰を進めても、愛液でたっぷりと濡れたそこはきついほどの抵抗はなく、じっとりと熱く心地よく包み込んでくれる。硬い剛直をねぶるような絡みつきに、こちらの熱もどんどん高まっていくが、それより早くバクラの方が弾けたようだ。
「んんっ、ア……あ、ああああぁぁぁっっ……!!」
「……!?」
甘ったるい嬌声を上げ、全身と共にそこをキュウッと締め付ける。
つられて出しそうになったが、なんとなく堪えてしまった。来年の目標は、もう少し持久力をつけることだと、密かに思っていた賜物かもしれない。
ともかく、ギリギリのところで耐えたモノに対し、あっさりと達したバクラはやがて全身を弛緩させて小刻みな息をついている。呼吸のたびに揺れる胸を見ながら、やっぱりでかいという感想を持ったところで、ふと気になって部屋の時計を見た。
「……あ」
「んぁ……?」
「あけましておめでとう」
「……。」
どうやら、一分ほどだが新年を迎えていたらしい。再び時計から見下ろす視線に戻し、そう挨拶をしてみれば、濡れた瞳で怪訝そうに睨まれる。
年が明けたのだ、この挨拶は別に不自然でも何でもないだろう。
首を傾げつつ、再び両手で豊満な胸を揉んでいると、ゴクリと一度喉を鳴らしたバクラが掠れた声で尋ねてくる。
「年越して、したいこと、て……てめーが、一番に、それ、言いたいて……?」
「へ? ああ、いや、違う違うっ」
バクラが訝っている理由が、ようやく分かる。おそらく、バクラも忘れていたのだろう。獏良と話していた際のことを、先ほど母屋で引き止められかけたときに思い出した。
そもそも、一緒に年を越せるとは思っていなかった。
だがもしそれが叶うなら、ずっと願っていたことがある。
「……んぁっ!?」
「まあ、新年の挨拶を一番にしたいってのも、なくはねえけど、でも。……こっちのが、メインていうか」
「あ?……んぁっ、ア、あぁっ!?」
繋がったままで抱き起こし、腰に座らせる格好にする。その上で、がっちりと抱え込んだ腰を揺らしてやれば、バクラは慌てたように腕を背中に回して抱きつきながら、甘い息を漏らす。達したばかりの内壁は、またキュウキュウと締め付けてくるようだ。その感触にうっとりしていると、息を上げながらバクラに尋ねられた。
「だ、だからっ……こっち、て、なんの……!!」
どうやらまだ分かっていない様子に、焦らすつもりではなかったので申し訳なく思いつつ、濡れた唇をまずは塞いでおいた。
「んんっ、んー……!!」
「……いや、だから、お前と繋がったままで年越したいなあ、て。さすがにそれは、母屋だと無理だろ?」
もしこれが父親の諭したことと一致していれば、また知りたくもない両親の性癖となってしまうので、深く考えないでおく。だがやっと説明をしてもう一度キスをすれば、何故か拗ねた顔で嫌がられる。少し傷ついて、ねだるように唇を舐めていればやっと口を開き、舌を入れさせてくれるが、大して絡めないうちにやはり外されてしまった。
「バクラ……?」
やはり、怒っているのだろうか。繋がったまま年を越したいという感性が理解できなくて拗ねているのかと焦るが、ようやく視線を戻してきたバクラは、しっかりと両手は背中に回してくれる。
「……そんなに、オレサマのこと、好きなのかよ」
そして、当たり前すぎることを尋ねられ、思わず抱きしめながら笑ってしまった。
「大好きに決まってんだろっ」
「だったら、へんに、ごまかしたり……ぅあっ!? あ、こら、まてよ、本田ぁ……!?」
「だから続きさせてくれよな?」
ついでに再びベッドへと押し倒し、軽く腰を引いてから、ぐぐっと突き入れる。
「んぁっ!?」
「バクラ……。」
細い腰からは両手を離し、代わりに曲げさせた膝を押しやって開かせた。元々はあまり体が柔らかい方ではなかったバクラだが、こういう関係になってから、やたら柔軟体操に励むようになったとは随分前に獏良から聞いている。それをバクラは恩着せがましく言わないし、こちらもいちいち指摘はしない。ただ、以前よりずっと深く、楽に奥まで突き入れさせてくれるようになったことが、嬉しくてたまらない。
「バカッ、この……んんっ、あ、オレサマ、まだ、イッ…た、ばっか、だか、ら……んぁっ、アア……!!」
「でも、オレはイッてねえし。なあ、バクラ?……ココ、気持ちいいだろ?」
「ひ、アァッ!? ……ああ、んぁっ、あ……あぁ、ほん、だぁ……!!」
何度か深く突き入れた後、最奥に先端を押し当てたままでグリグリと腰を動かしてみれば、バクラからは悲鳴のような声が漏れる。痛かったり、苦しかったりするのではない。気持ちよすぎて、どうしようもない。ビクビクと締め付けるところは震え、鼓膜からも快楽を煽ろうとするかのような嬌声を零す。
「んぁっ、ア、あたっ…て、る、から……!!」
「ん? 当たってるて、何が?」
いや、単純に考えれば、この剛直のことだろう。卑猥な単語を言わせるようなプレイに持ち込む気はなかったので、すぐに腰を引き、再び突き入れる動きへと変えた。すると、あからさまにバクラが安堵したのが分かり、何度か浅く抜き差しを繰り返した後、再び最奥に突き当てるような犯し方をしてやる。
「ふ、あぁっ…んぁっ、んん、ア……あぁ、ヒ、あぁっ…あ、ああっ……!!」
「バクラ……!!」
上体が少し離れているので、背中ではなく、両肩に掛けられた手が痛いくらいに爪を立ててくる。オシャレとして伸ばすつもりはないようだが、関心が乏しくてバクラはよく爪を切り忘れている。また切ってやらねえといけねえなと思いながら腰を打ちつけていると、一気に快感が上り詰めた。
ほぼ同時にビクビクと体を弾ませたバクラも、達したのだろう。荒い息をしながら、肩を掴んでいた手を背中に流し、抱きしめられたがっている体をしっかりと捕まえてやる。すると安堵したように息をついたバクラが、迂闊にも『オレサマも大好きだ』などと言うから、一瞬で理性が飛び行為を再開してしまった。
夜も明けていないうちから、友人たちとの集合場所に向かう。せっかくなので、初日の出を見ようと約束したのだ。遠出はできないので、近場の童実野神社、境内に上がる階段の少し手前で待ち合わせ相手たちを見つけた。
「ようっ、新年おめでとう!! あと、獏良は両親がいるアメリカに行ってるから不参加なっ」
あまり大きな神社ではないが、階段付近はかなりの人でごった返している。初日の出としては、童実野埠頭からもよく見えるので、人手はこれでも分散しているらしい。だが初詣は三が日に行けば珍しいくらいだった本田にとっては、こんなにも多くの人間が夜明け前に集まるというだけで不思議な光景だった。
それは、友人たちも同じなのだろう。一応出立前に獏良本人からもメールで全員に連絡は入れたようなので、目新しくもない情報を繰り返したことは不思議ではないはずだ。よって、自分と同じように人手に驚いているのだと勝手に解釈したが、どうやら違ったらしい。
「あけましておめでとう、ところでその背中は起きてるの? 寝てるの?」
「へ?」
「本田くんも、新年早々大変だね」
「まったくだぜ、相棒!! バクラは本当に本田くんの手を焼かせてばかりだなっ」
自然になりすぎてすっかり違和感というものを忘れていたが、ここにきたのは一人ではない。杏子からの指摘で思い出した本田が肩越しに振り返れば、どうやら不機嫌そうでも起きているらしいと分かった。
「バクラ、起きたか? さすがに階段は厳しいし、自分で歩いてくれるか?」
「……ん」
ゆっくりと地面に下ろしてやり、自分の足で立ったことを確認してから振り返る。家からここまで背負ってきたことで、マフラーと耳当てが少しずれていた。それを直してやっている間も、バクラは大人しくしているが、顔は不機嫌そのものである。獏良がいないので、取り繕おうという気には更々ならないらしい。すぐに両手を伸ばして今度は正面から抱きついてこようとするバクラを窘めている間に、少し離れた場所で別の友人たちが正解に辿り着く。
「……あれって、きっと、本田くんが悪いんだよねえ?」
「……どうせ、本田が今年も童貞すぎて寝かせてくれなかったからバクラが寝不足とか、そういうことだぜ」
御伽と城之内が、大正解だ。そもそも初日の出を見る約束をしていたので、出発はかなり早いと知っていたのに、つい本田が何度もしてしまった。おかげで寝不足で起こされたバクラは、眠い寒い面倒くさいと大暴れだったのだ。だがそうして騒ぐのも本田に対してだけだと、もう知っている。要するに、甘えているだけだ。さっさと洗顔と歯磨きだけはさせて、着替えることと集合場所までの移動は請け負ってやる。素直に負ぶわれたので、行く気がないほどではなかったのだろう。責任も感じていたのでここまでは連れてきたが、境内に上がる階段は狭いし暗いので、万が一にもこけたりすれば自分たちも周囲も危ない。そんな説得で、ようやく頷いてくれたバクラの手を握ったところで、まずは杏子が階段に向かった。
「そろそろ上に行くわよ? ここまできて、初日の出に間に合わなかったらシャレにならないし」
「そうだねっ、ボクちょっとこの階段の数にはびびってるけど、頑張るよ」
「相棒、オレはちょっとどころかだいぶびびってるぜ!!」
「遊戯、アテムも、ほんとにヤバそうだったら早めに言えよ? オレが後ろから押してやるから」
「でもさすがに城之内くんが二人ともは押せないよねえ? 結局どっちかは僕が押すことになりそうなんだけど、城之内くんに押してもらえる栄誉を二人が譲り合って僕がちょっとだけ虚しくなる未来がもう見えてる気がするよ」
先を歩く杏子に手を引いてもらうということも、遊戯とアテムはそれぞれ違う理由で遠慮しそうなので、御伽は洞察力に優れていると言えた気がした。結局、階段はせいぜい横に二人くらいしか並んで登れないので、本田も一番後ろをバクラと歩くことにする。
「大丈夫か?」
「……ん」
本当に腰が抜けているのではないかとも心配していたが、やはり寝不足が主たる原因だったらしい。不機嫌そうに頷きながらも、バクラはちゃんと階段を一段ずつ登っていく。手を繋ぎ、数段そうして進んだところで、不意にバクラが顔を上げた。
「……なあ、そういえば」
「どうした?」
「てめーの母親、玄関で倒れなかったか」
どうやら、離れを出てしばらくは寝惚けていたようだ。眠いと騒いでいたのは、甘えたくて大袈裟に振る舞っていたわけではなかったらしい。今更だが中途半端な質問に本田はのん気な感想を持ったが、前を歩く二人がいきなり焦って振り返ってくる。
「おい本田っ、それどういうことだよ!?」
「へ?」
「キミのお母さん、家で倒れてるの? 初日の出の約束も大事だけどさ、そういう事情なら帰った方が良くない?」
城之内も御伽も、違う理由で母親がいない。だから過剰に反応したわけではないのだろうが、なんとなく申し訳ない気持ちになりつつ、足を止めている二人に先に進むよう促す。
「ああ、別に大丈夫だっての。怪我だの病気だので倒れたわけじゃねえし」
「そうなのか? いや、それならいいけどよ」
「というか、怪我でも病気でもなく、玄関で倒れたりするの?」
友人二人はまだ怪訝そうだが、列を抜けなければもっと後ろを歩く参拝客の邪魔になるという意識が大きかったのだろう。首は傾げつつ、階段を再び登り始める。だが実際に母親が母屋の玄関で倒れている姿を、ぼんやりとでも記憶しているらしいバクラが、せがむように手を握りしめてきたので仕方なく説明してやった。
「いや、だからよ? ウチの母親、年末年始にバクラが泊まりに来れることになって、やけに浮かれてただろ?」
「そうみたいだけど、それが……?」
来る前に大掃除を済ませようとしたり、予定にはなかったおせちを作ったりしたことからも、それは明らかだ。
「けど、オレも知らなかったんだけどな?……どうも、お前に振袖着せたかったらしくて」
「……。」
「どっかで借りてきて、ついでに着付けも習ってきたんだとよ。で、初詣のときに着せようと企んでたら、いきなり初日の出を見に行くとか言い出すし。頑張って起きて待ってたら、お前がすっかり寝ててついでに時間もないから無理そうだって分かって、項垂れて玄関に突っ伏したんだよ」
ちなみに、打ちひしがれる母親は、欠伸をしながら現れた父親が回収していった。ごねられると待ち合わせに間に合いそうになかったので実に助かった。だがバクラが気づいていればまた困るだろうと思っていたので、寝ていてくれればと願ったが、どうやら結局はこうなるらしい。
隣を歩きつつ、バクラは変な顔をしている。どういう反応をすればいいのか分からず、葛藤が極まっているときによく見せる表情だ。
「……なんで」
「お前のこと、もう娘みたいに思ってんだろうな、気が早すぎるけど」
何故と尋ねた理由は一つではなかったのだろうが、まともに質問をできそうになかったので、本田はまず一つは答えておく。すると、不思議そうに聞き返したのは先を歩く御伽だ。
「あれ、でも本田くんにはお姉さんがいなかった?」
家族構成について、より知っている城之内が尋ねなかったことで、もう答えは出ているようなものだ。
「あー……いや、ウチの姉貴は、結婚するまでマジでなんつーか、ほら、な?」
「え? ああ、そうなんだ?」
「振袖って、未成年? いや、未婚だっけ? とにかく、そういう時期に着るような状態じゃなかったんだよな、今では落ち着いてるけど」
実は姉は高校生のときに当時の彼氏と駆け落ち同然で家を飛び出している。妊娠したのではなく、単に彼氏も素行が悪かったので交際を両親が反対したからだ。しばらく音信不通だったが、やがて出来は悪いが決して仲が悪くはなかった弟のところには、彼氏と籍を入れたこと、なんとか就職ができたこと、生活も落ち着いてきたことなどの連絡が入るようになった。
二人がこの町に戻ってきたのは、姉が妊娠してからだ。義兄になる人の家族は既になく、初めての妊娠で苦労する妻を見かねて、殴られる覚悟で突然訪ねてきた。当時本田は中学三年で、そろそろ将来のことを考え、城之内と共にグループからは抜けようかと考えていた時期だ。
ある日学校をサボッて自宅にひっそりと帰ると、知らない若い男が両親の前で土下座しており、その横で数年ぶりに見る姉が少し大きくなったお腹を押さえて泣いていた。どういう状況か分からず呆然としたが、もう話し合いはついていたらしく、義兄は父親の知り合いの整備工場で雇われることになったらしい。姉もその近くのアパートを借りて義兄と二人で住んでいたが、最初はぎこちなかった母親が、見かねて押しかけ世話をするようになって、ぐっと姉は落ち着いた。
孫にあたる子供が産まれてからは、そんな経緯などなかったかのように和気藹々としている。
ただ、両親も、姉夫婦も、忘れたわけではないのだろう。だからこそ、たとえ高校生であっても、将来を約束して交際するならば歓迎して見守るという態度に繋がった。
「……知らなかった」
「あ? ええと、姉貴も言ってなかったか? つか、オレも言わなかった、か? いや、言ってなかったかもな、そういやきかれなかったし。まあ、だからってお前が付き合ってやることはないし、無理することはねえからな?」
そんなことを話しているうちに、やっと階段を上りきる。どうやら遊戯たちも、自力で頑張ったようだ。ただ、体力的に限界だったのか、その場で座り込みそうになるのを城之内と御伽が引き摺るようにして移動させる。
真っ暗だった空は、ぼんやりと明るくなり始めている。境内にはかなりの人がおり、参拝やおみくじなどに並んでいれば見逃すかもしれないということで、先に初日の出を拝むことにした。杏子の先導で、ちょうどいい場所を見つけ、息が切れている武藤兄弟を引き摺りながら移る。
そして遠くの海岸線が明るくなり始めたところで、横からバクラがギュッと抱きついてきた。
「バクラ?」
「……オレサマは、宿主サマのほんとの妹でも、てめーのほんとの姉貴でもねえし、その代わりにもなれねえ」
獏良は決して既に死んでいる妹の代わりとは思っていないだろうが、その両親はもしかするとそういうつもりがあるのかもしれない。本田の両親と姉に関しては、確実に心のどこかで道を外れなかった理想の姉を重ねている気がする。
後者に関しては、申し訳ないと思う。度が過ぎれば止めなければと思うのだが、両親たちの方がずっと敏感というか、慎重にもなっているので、これまであまり直接的な行動には出ていなかったのだ。
なにより、バクラはそういうことが不愉快というより、代わりにもなれないことを心苦しく感じているように聞こえた。
本当は、ずっと優しいのだ。
かつても、暴力的手段に抵抗がないだけで、同族に対する情は悲しいくらいに深くて、誠実だった。そんなバクラだからこそ戸惑うと知っていので、周囲がすっかり初日の出に目を奪われていることを確認してから、ぐっと肩を引き寄せる。
「本田……?」
「構わねえよ、オレが好きなのはバクラだから」
「……んっ」
ついでに軽くキスをすれば、バクラは嬉しそうに頷いて、ぎゅっとしがみついてくれた。
甘えた仕草も可愛いが、せっかくなので今は初日の出を見ろと本田は促しておく。
やがて現れた今年初めての太陽が、幾筋もの光を放射状に放ちながら昇り始める。
それに、バクラが『王サマみてえて不吉だ』と言い、アテムが『相棒を侮辱するのは許さないぜ!!』と受けて立ち、周囲が慌てて止めるといういつもの通りの年始めだった。
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