【お試し版】 放課後ヒロインに会いに行く。





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 耳を劈くような轟音と、足元から揺るがすような衝撃。
 ソリッド・ビジョンならば、幾度も味わった。いや、相手プレイヤーに味わわせたという方が多いだろう。
「どう、して……。」
 だが、これは立体映像などではない。体感を伴った、現実だ。周囲の壁や空間を隔てる強化ガラスにはヒビが入、機器が不快なエラー音を上げて火花を散らせている。まさに、断末魔の悲鳴のようだ。弾け飛んだスイッチの一部が体をかすめ、服を裂いてうっすらと傷もつける。
 血は滲み、わずかな痛みもある。
 ただ、そのことよりも、もっと理解できない光景が頭を占めて上手く思考が回らない。
「何故、お前が……。」
 壊れかけの強化ガラスの向こうで、咆哮をあげながら暴れ回っているのは、ずっと信頼してきた青い瞳だ。
 洗練された体躯は白銀に輝き、気高い瞳は高潔の青を湛えている。
 だが今その瞳は、わずかに濁っているように見えた。暴れたことで施設の電気回線の大半が落ち、照明が非常灯になっていることだけが原因ではないだろう。
 威嚇し、狂気を撒き散らす雄叫びは、何故か悲哀を伴う嘆きに聞こえる。
 どうして、こんなことになったのか。
 どうして、こんなことをしてしまっているのか。
 理解できないのは、最強のシモベも同じなのかもしれない。
「このオレに……。」
「……兄サマっ、危ない!!」
 ふと、目が合った。
 そう思ったときには、ガッと口が開かれる。そこからすべてを殲滅させる威力砲が放たれることは、充分に承知していた。だがあまりのことに放心しかけたところで、いつも自分を正気に返させる声が鼓膜に刺さった。
「うわっ!? ……に、兄サマ?」
「モクバ……。」
 威力砲の標的からどかせようと走ってきた弟を抱き上げ、逆に移動する。直後に大きな衝撃は食らったが、正射されたからではない。余波のようなものだ。
 幼い弟を腕に抱いたまま、情けないがしばらく機器の下に体を伏せ、隠れておく。
 こうなった以上、簡単には解決できない。電源が回復しないため、一方的にがなりたてるような状態になっている通信回線の求めが、唯一の策だとは分かっていた。
「兄サマ……。」
「……。」
 ただ、従ったところで、その場しのぎにすぎない。決着を先送りにしてしまうだけかもしれない。
 躊躇する自分を窘めたのは、腕の中でわずかに震えている弟の存在だ。
 いつも、どういうときでも、この弟だけは守らなければならない。
 それだけが、自分の中で変わらない軸のはずだった。
「……。」
「兄サマ……!!」
 震えている弟には床で伏せておくようにと肩を叩いて指示し、ゆっくりと立ち上がる。
 少しだけ回線の不具合という不安も頭を過ぎったが、幸い扉に関わる制御機能は失われていないようだ。
 無事だった制御盤で、非常時の開閉動作を入力する。すると重い音を響かせて開いた扉の先から、月明かりが差し込んできた。
 ああ、今夜は月が出ていたのか。
 感慨深さは安堵に似ていた。すぐにそこから飛び立っていく後ろ姿は、月夜にあまりに映えていて、誇らしいのに、寂しい。
「……お前は、どうして」
 去りゆく危機に問いかけても、答えなどあるはずがない。
 それでも、悔やみ絶望することはない。
 再び対峙することは約束されているからだ。
「兄サマ……。」
「……。」
 脅威が飛び去ったことを確認してから立ち上がり、横で同じように扉の向こうに見える月夜を眺めた弟は、それ以上何も言わなかった。
 これは、終わりではない。
 望まぬ形で始まってしまったのだと、きっと、弟も分かっていた。









01




 九月に入って最初の週末、いつものようにバイトを終えてから一人で帰路につく。
「ああもう、やっぱ学校始まるとしんどいよなあっ」
 体力には自信があるつもりだが、先週まではまだ夏休みだったので、感覚が鈍っているのかもしれない。寝ているばかりの授業が体力仕事より疲れるのは、やはり頭の出来の所為だろう。自覚はあるが、認めるのは癪だ。他から指摘されれば余計に反発してしまうが、ここのところはそんな機会もない。
 そのことに、またため息が深まった。
 名前こそ男名に聞こえるが、城之内克也、高校二年生はれっきとした女の子である。中学時代は狂犬と恐れられるほどの拳を振るっていたが、今はそんな名残もない。少なくとも、本人はそう思っている。だが無駄に有名だったことで名前が一人歩きし、物珍しさでいまだに絡まれるのだと、本気で信じているいろいろと自覚のない女子高生だ。
 この日もバイトを終えて歩いていれば、口を突いて出るのは結局同じだ。
「つか、せっかく学校始まったのに、あいつ全然来やがらねえし……。」
 これじゃ何のために学校始まったんだよと、道端の電柱に八つ当たりをしても仕方がない。ひょろ長さと垂直すぎる姿勢のよさで、無意識に思い出していたと気づくこともない城之内は、またため息をついた。
 足を止め、なんとなく振り返る。すると夜の町並みの、ずっと遠くに、かすかに不可思議な形のビルが見えた。
「……。」
 そこの、恐らくは最上階で仕事をしているはずの男は、クラスメートである。以前から出席率などツチノコ並だったが、それでもある時期から急に顔を見せるようになった。きっかけなど、明らかだ。まだ一学期だった六月の半ば、冥界の門をくぐったと思っていた友人二人、いや一人は友人なのか曖昧だが、ともかく知己の二人が何故か実体を伴って戻ってきた。
 最初はもちろん、その当人たちに城之内も感涙した。数日経って、ようやく二人が仲間内にいることが自然になってきたところで、当該のクラスメートがそれなりに出席するようになる。
「……だって、オレ、あいつのこと嫌いだから」
 顔を合わせれば喧嘩をしていた仲だ。城之内が女だからなのか、それとも単に軽んじすぎているからかは分からないが、暴力的な手の上げられ方はされていない。だが口が達者で湯水のように罵詈雑言が湧き出てくるらしい高飛車な言葉の数々を、無視することはできない。こちらも同じだけのテンションで張り合うしかない。
 そうして、傍目からも、真実の意味でも犬猿の仲だったが、嫌いが行き過ぎて嫌がらせをしすぎたのかもしれない。ただ、城之内にしてみれば、すべてがすべて嫌がらせだったつもりではない。話せば嫌そうな顔をするのが面白かったことは否定しないが、純粋な気持ちも多分に含まれていたのだ。
 あの男は、記憶のゲームに参加していない。
 古代の神官だった者とは、魂が完全に決別しているのだろう。オカルト信者の戯言だという態度を最後まで崩すことはなかったが、それでも知っておいてほしいと願った。
「……。」
 どうして、アテムの魂が千年パズルに封じられることになったのか。
 そして、記憶のゲームの中で何が起き、どう決着がついたのか。
 過去など関係ないと貫く姿勢は、それはそれでいいと思う。ただ、その過去もちゃんと清算されたのだ。その事実だけは知っておいてほしいと、登校してくるたびに嫌な顔をされても話し続けた。
「べ、別に、そうやって何でもいいから話したかったわけじゃ……!!」
 ほんの数ヶ月前、必死になって言葉を紡ぐ自分の姿を思い出し、つい誰もいないのに否定してしまう。同時に、相手の変化も思い出して、キュッと胸が痛くなった。
 ほぼ毎日のように登校してくるが、学校に居る間、しかも授業中以外となると意外に時間は少ない。そのため、過去の話を少しずつ進めるようにして語っていれば、ある時期から相手も興味を持ったのが分かる。真剣に耳を傾けるし、時々質問もしてくる。かと思えば、しばらく黙り込んで考える仕草を見せた後、一人で納得して立ち去ったりもする。
 どうやら、他人事の逸話くらいの興味は持てたらしい。
 城之内は当初、そんな変化を嬉しく思った。まるで悪戯が成功したような、どこか甘酸っぱい喜びを感じていた。
「……。」
 それは、本当は同時に湧き上がった説明しようのない不安から、目を背けていただけだったらしい。的中することで現実を突きつけられたのは、夏休み中だ。補習が大量にあったので城之内は頻繁に学校へと足を運ぶが、相手はそんなことはない。仕事にも集中しているだろうし、会えないのは仕方ないだろう。
 夏休みさえ終われば、きっとまた会える。
 それだけを自分に言い聞かせて、珍しく早く二学期になってほしいとまで願っていたのに、浅はかだがささやかな願いは、最悪の形で裏切られた。
「……まさか、あんなことになっちまうなんて」
 二学期になっても宿題をしていなければ怒られることはさすがに学んでいるので、城之内は頭のいい友人たちに声をかけて勉強会を開いてもらった。正確には、宿題を写させてもらおうの会だ。自分で努力しなさいと呆れる杏子も、アテムから頼めばそそくさと参加してくれる。分かりにくく寂しがり屋の獏良は、広いマンションの部屋を会場として提供することで、友人たちが遊びに来ることを歓迎してくれる。御伽は選択権がない。今では三馬鹿プラスワンと呼ばれる自分たちにとっては、実に有り難い知的集団だ。
 ただ、夏休み中も仕事三昧でそもそも勉強会に呼びようがない男とは別に、もう一人不参加のメンバーがいた。友人なのかは微妙だが、少なくとも一緒につるむことがもう自然になっているアテム以外の黄泉返り組だ。場所が獏良のマンションである以上、出かける手間もない。戻ってまた二ヶ月ほどであるし、一人で長い時間外出ほどの用があるとは思えない。だがあまり気にしないでいられたのは、躾には厳しい獏良が心配している様子がなかったからだ。
 きっと、まともな外出先なのだろう。あるいは、獏良が用事を言いつけたのかもしれない。
 その程度に構えていれば、やがて夕方になってふらりと帰宅する。やや疲れたように見える顔は、勉強会が嫌で脱走していたわけではないのだろう。まずは冷蔵庫に向かい、冷たい飲み物で喉を潤しているところに、どこに行っていたのかと仲間内の誰かが尋ねたのに億劫そうに答えた。
『……あの強引な社長サマが、最近やたらオレサマのこと呼び出すんだよ』
 無視しても拉致られるだけだしマジめんどくせえとぼやく姿に、城之内は心地好いクーラーの設定温度が一気に氷点下まで下げられた気がした。
「あいつって、もしかして……。」
 その後も、夏休み中の行事に何度か不参加だった。すべて理由は同じだと、笑いながら獏良が教えてくれた。
 二心同体だった頃、獏良もそもそも言動がややオカルトなのであの男は毛嫌いしていた。闇人格だった頃は、遊戯ほどには区別がついていなかったように思う。戻ってきた当初も、オカルト現象の生粋とばかりに、アテム同様に完全な無視を決め込んでいる姿は教室で何度も見かけた。それでもちょっかいを出すアテムと違い、自ら構うことはないもう一人を、あの男は本当に興味の欠片も持っていないように見えたはずなのだ。
 それが、どうして個人的に呼び出すほどになっているのか。
 興味を持つに至ったきっかけは、嫌がらせとして語り聞かせたこととしか思えない。
「……。」
 つまりは、城之内の自業自得だ。遠くからでもあのビルを眺めている気分にはなれず、城之内は自宅がある方向へと向き直る。
 自分には、立ち止まっている暇はない。あんな、大嫌いな男のことを考える時間も惜しいのだと言い聞かせ、歩き出そうとしたときにその雄叫びを聞いた。
「……!?」
 遠くからだが、確かに何かが鳴いたようだ。
 それは鳥や獣というより、魔物を思わせるような咆哮だ。いくらなんでも聞き違いだろうと、辺りをきょろきょろと見回してその影に気がつく。
「なっ……!?」
 月が明るい夜空に、見慣れたシルエットが浮かんでいた。
 あの男のことを考えていたから、幻覚を見ているのだろうか。
 そう城之内も思ったのは当然で、どこからどう見ても青眼の白龍にしか思えないその影は、やがて夜の闇へと消えていった。




 週も明けた月曜日、待ちに待った学校だ。城之内はもちろん朝から登校していたが、話したい気持ちはぐっと堪えておく。友人たちを、驚かせたい。全員がそろい、それなりに時間が取れる昼休みまで我慢してみせた。
「……て、ことがあったんだよ!!」
 そして満を持して、先週末の出来事を城之内は昼休みにぶちまけた。
 もちろん、バイトの帰り、午後九時を過ぎた頃に青眼の白龍が空を飛んでいた光景だ。鳴き声も聞いたし、影は移動してやがて見えなくなった。一瞬だけちらりと見た錯覚ということはありえない。とんだ怪奇現象だと意気込んで話した城之内に対し、友人たちの反応は微妙だった。
「城之内くん、見間違いなんじゃ……?」
「違うぜ遊戯っ、ほんとに青眼の白龍がいたんだって!?」
 親友としては信じたいが、やはり信じきれなくて苦しい。そんな表情で尋ねてきた遊戯には強く否定する。
「アンタ、寝惚けてたんでしょ」
「オレのおやすみタイムまでにはあと一時間はあったぜ!!」
 そういえば新聞配達があるから寝るの早いのよねと、杏子は妙に納得している。
「ソリッド・ビジョンてことはないの〜?」
「ち、違うと思うぜ!? だってソリッド・ビジョンだとあんな遠くにしかも移動させるとか、意味分かんねえだろ!?」
 海馬くんの仕業ならいつも意味分かんないじゃない〜と獏良は鋭い指摘をするが、今回に限っては違うと思うのだ。あの青眼の白龍には、絶対に実体があった。触ろうとすれば手がすり抜けるような、ソリッド・ビジョンではありえない。
 そんな主張が届いたらしく、もう一人の親友は力強く賛同してくれた。
「きっと海馬の執念が死せる青眼の白龍の魂を甦らせたんだぜ城之内くん!!」
「それは怖いぜアテム!!」
「オレサマたちだって似たようなものじゃねえか」
 さらりと恐怖の追い討ちをかけられた気もしたが、真面目に考えるとこの親友たちの存在が怖くなってしまうのでやめておいた。
 ともかく、ここまで信じてもらえないのは意外だ。いや、誰も城之内が積極的に嘘をついているとは思っていないのだろう。ただ、本物の青眼の白龍だと考えるには無理がありすぎる。それだけの怪奇現象なのだとまた戦慄したところで、影の薄い援軍が現れる。
「ああ、それ少し話題になってるみたいだね」
「やっぱそうだろ!?」
 たまには役に立つと心から褒めたのに、御伽は何故か嫌そうだ。だが文句を言える性格ならばこの輪に残る必要もなく、適当に流して説明を続けてくれた。
「先週の土曜日、つまり城之内くんが青眼の白龍を見たっていう翌日の朝だけど、海馬コーポレーションから『近々町内全域で新しいアトラクションのテストを行なう』っていうアナウンスが出たよ」
「……。」
「知らなかった?」
 ニッコリと笑みを見せて確認してくる御伽は、人が悪い。これで女子には大人気らしいのだから、不可思議なものだ。心底そう城之内が思っていると、周りも急に納得し始めた。
 どうやら、そのアナウンスとやらはみんな知っていたらしい。だが詳細が告知されていないため、空飛ぶ青眼の白龍の話とはすぐに直結しなかったようだ。
「そっか、それが新しいアトラクションなんだねっ」
「どんな内容かしらと思ってたけど、開けてみれば、まあ、海馬くんの趣味全開ってところよねえ」
 遊戯や杏子は楽しそうに話しているが、城之内はそもそもアナウンスを知らなかった。テレビや新聞、インターネット、どの手法だったとしてもバイト三昧の城之内の耳に入る確率は低い。知れるとすれば、まさにこういった友人やバイト先などからの口コミだ。
 それが、今回は裏目に出てしまったらしい。そんな話があるなら先に言ってくれればよかったのにとも思うが、内容が判明していない時点では仕方がなかっただろう。理解はするが、気落ちもする。昼休みまで待って意気込んで話したため、がっかりしたような、拗ねたような気持ちになるのは止められない。
「なんだ、ただのアトラクションかよ……。」
「そう落ち込むことはないぜ、城之内くん? 事実ならキミは最初のテスト目撃者の一人なんだろうし、誇っていいと思うぜ?」
「そ、そうかな?」
 理屈は分からないが、アテムからグッと親指を立てて励まされ、なんとなく気分も浮上した。すると、昼食用のおにぎりが、一口残して握りしめたままだったと気がつく。食べたつもりだったが、話したい欲求から気が急いていたらしい。それぐらい自分にとっては怪奇現象だったのだと示されているようで、またなんとなくため息をついてから最後の一口を食べた。
「……まあ、城之内の話は眉唾物というか、また海馬くんの奇行に期せずして振り回されただけだと思うんだけど。それよりも、もっと身近で、見間違えようのないオカルト現象について、そろそろ言及していいかしら?」
 どうやら他の面々は話している間に昼食を食べ終えていたらしい。最後の一人になっていた城之内が平らげるのを待ってから、そんなふうに杏子が口を開く。
「えっ、なんだよそれ!? 怖い話ならやめろよ!!」
 ただ、内容は聞き流せないものだ。怪獣や宇宙人ならば胸が躍るが、オバケや心霊現象の類は本当に苦手なのだ。空飛ぶ青眼の白龍もオカルトだが、杏子の言葉では幽霊的な何かを感じ取って城之内はそう牽制する。だが先ほど話したときとは違い、他の友人たちも何故か食いつきがいいようで、少し悔しい。
「でもボクも気になってたんだよね」
「実は僕もいつ指摘していいものか僕が指摘していいものか迷ってたよ」
「みんな控え目なんだね〜」
「よしっ、ここはオレはみんなの期待を背負ってみせるぜ!!」
 口火を切ったのは杏子だったが、遊戯と御伽、それにやや微妙だが獏良の後押しも受けたと思ったらしいアテムが、威勢よく立ち上がってビシッと黄泉返り仲間を指差した。
「バクラッ、その椅子はなんだ!!」
「本田だけど?」
「えっ!?」
 相変わらずこちらとも喧嘩仲間なんだなとほのぼの見守っていた城之内だが、意味の分からないアテムの質問と、それに対するバクラの答え、且つ答えが事実だと分かって一人驚いた。
 勝手にいろいろと複雑な思いを抱いていることで、無意識に視界から外していたことだけが原因ではないのだろう。きっと、あまりに自然すぎて、週末の光景で頭がいっぱいになっていた城之内には違和感として認知できていなかった。
 だが、確かにおかしい。これは、おかしい。
 昼食を食べているときからそうだったのかは記憶にないが、ごく自然にバクラが腰掛けているのは、言葉にしたように本田だ。四つん這いにさせて人間椅子プレイというほど末期ではない。どちらかと言えば、本田が座っている前に腰を下ろしている状態だ。
 それでも、充分な不可解さを孕んでいる。相当親しい友人だったとしても、そんなふうに座ることはまずないだろう。ここは教室で、椅子が足りないわけでも、二人羽織りに挑戦しているわけでもない。ましてや、本田とバクラでは性別が違う。ただの親しい友人以上に、こういうスキンシップに移る理由が見つからない。
 しかも、よりによってこの二人では、ますますその謎は広がる。アテムと同時期に戻ってきたバクラは、異常な憎悪と執着こそ削げ落ちているが、元々の性格としては闇人格の頃とあまり変わらなかったらしい。つまり、凶暴で、狡猾。それでいながら、特定の相手には情が深い。今その恩恵を受けているのは、双子の姉ということになっていて名実共に身元引受人の獏良くらいだろう。悪意を持って接するわけではない相手には、それなりに普通の態度を見せる。つまり、遊戯には普通、警戒が解けた杏子や御伽にも普通、個人的な事情でやや話しかけにくい城之内にはバクラからも構わない、アテムにはいつでも挑発的という分かりやすい反応だ。
 ただ、そうしてつるむメンバーの中で、最もバクラと接点がなかったのが本田である。本田は昔気質で男気を重んじる頑固なところもあるので、かつて散々な目に合わせたバクラを簡単には許せなかったのだろう。いやそれを許してこそ男の度量とでも言いそうな性格なのだが、現実に本田はあからさまにバクラを避けるので、その段階に至らないのだと城之内は勝手に思っていた。
 それが、こうしてバクラを前に座らせている。身体的な距離は誰よりも遠かったはずなのに、突然の大接近に周りが戸惑うのは当然だ。
「いやあ、一昨日いきなりこいつに告白されてよ?」
 だがそんな困惑が滑稽とばかりに、バクラは笑いながらアテムに答えた。質問者がアテムということで、殊更からかう部分もあるにはある。ただ、それほど多くはないようだ。本当に楽しそうに、どこか馬鹿にしたような色も滲ませながら後ろに手を回して本田の耳を引っ張る姿に、アテムは質問の矛先を変える。
「ほんとなのか本田くん!?」
「え? あー……まあ、じゃあ、それで」
 バクラの手を嫌がるように外させつつ、アテムから確認されて本田はやや驚いていた。当然否定すると誰もが思ったが、本田はあっさりと認める。しかも、想像できる限りではこれ以上にないくらいの投げやりな態度での肯定だ。
 そんな本田の返しにも、バクラは愉しそうな様子を崩すことなく続ける。
「しかも、土下座してまでヤらせてくださいって頼まれちまってよ?」
「それは少し情けないぜ本田くん!!」
「え? あー……まあ、事実だったら、情けねえよなあ、それ」
「で、仕方ねえからヤらせてやっただけだ」
 バクラはどこまでもからかうような調子で、本田は声を荒げるでもなく低く流す。他人事というか、現実逃避でもしているかのような反応だ。否定はしないので、休日の間に何かがあったことは事実なのだろう。それで、弱みでも握られているのか。本田との付き合いがずっと長い面々は、バクラの言葉が正しいとすれば、本田は慌てふためいてパニックに陥るくらいの想像はつく。だからこそ、大人しくしていることは奇異に映る。だが付き合いが短い、あるいはアテムのようにそもそもあまり注意して観察などしていなった者からすれば、違う解釈も生まれるようだ。
「つまり、お前たち二人は付き合ってるということなのか?」
 だいぶ疑わしそうであるが、アテムはそうバクラへと尋ねる。男女がこんなふうに人前で堂々と接触することに対して、端的な理由をこじつければ、そうなるだろう。だがからかう延長で認めるかと思われたバクラは、それには否定する。
「違えよ、オレサマは承諾してねえ」
「……。」
「……だが、そういうことをしたんだろう?」
「泣いて土下座されて頼まれたから、仕方なく、だけどな?」
「……。」
「……本田くん、こんなことを言われているが、いいのかい?」
 どうやら、することをしたと宣言しつつ、それは本田からの懇願だということらしい。嘘ならば、否定するだろう。真実ならば、そんなことをばらさせないはずだ。
 困惑している友人たちの気持ちが、城之内は手に取るように分かる。だが、ここにいる誰よりも付き合いが長い城之内は、アテムの念押しにどう本田が答えるのか、予想がついた。
「否定するとうるせえし、言わせとけばいいって」
「本田くん……?」
 やや遠い目をし、軽いため息に乗せて本田が流したところで、ちょうどチャイムが鳴った。さすがに授業中まではいちゃつく気もないようで、バクラも素直に本田の前から立ち上がって席へと戻る。
 そんな姿と交互に見ながら、本田はどうしたのだろうと杏子や遊戯が気遣わしそうな視線を送っている。不思議を通り越して、心配になっているようだ。
 それが、城之内は気に入らない。
 事実でも、事実でなくとも、大したこととは思えない。空飛ぶ本物の青眼の白龍の方が大事件なのに、さらりと流されたことへの逆恨みではないが、面白くない気分が募りながら城之内も席へと戻った。




 その日の放課後、城之内はバイトを理由に友人たちには先に帰ってもらった。実は時間に余裕はあったのだが、一人で確かめたいことがあったのだ。
「えっと、確か……。」
 足を伸ばした先は、屋上である。多くの生徒は下校し、部活の生徒はそれぞれの部室やグラウンドへと向かっている。当然のように無人だった屋上で、城之内は端のフェンスまで行き、童実野の町並みを眺めた。
 わざわざここに来たのは、眺望を楽しんだり、一人で黄昏たりするためではない。三日前の金曜日、バイト帰りに確かに青眼の白龍を見た。その場所を起点にした場合、海馬コーポレーションの本社ビルとは正反対の方角だったはずだ。
「てことは、屋敷がある方向か……?」
 造型が青眼の白龍だった以上、海馬が絡んでいないとは思えない。ただ、御伽が言うようにアトラクションという説を取るのであれば、海馬ランドの周辺でやりそうなものだ。距離がいまいちつかめなかったので、あれは海馬ランドから飛んできたのかもしれないと想定してみる。だが改めて屋上からそれぞれの位置関係を確認すると、やはり、本社ビルや海馬ランドとは違う区域から飛び立ったと分かった。
 その周辺にある海馬関係の施設が屋敷だけというのは、あくまで城之内が知る限りでだ。研究所や倉庫、あるいは試作用の施設などがあるのかもしれない。可能性はいくつもあったが、どれも確証には至らない。どれだけ考えたところで、あの海馬の思考など読めるはずもないのだ。
「やっぱ、本人にきくのが一番だよな。つっても、あのヤロー、二学期になってからまだ一度も登校してねえけどっ」
 九月になってからまだ数日だが、一学期の後半はかなりの頻度で顔を出していたので、おかしいと感じてしまう。これぐらいが普通だったし、夏休みに至っては全く会っていない。不自然ではないと理解していても、どうしても口を突いて出そうな言葉をぐっと飲み込むと、代わりに嫌なことを思い出した。
 城之内は夏休みの間、海馬に会っていない。だが複数回、しかもかなりの時間会っていたはずの人物がいる。当人は心底迷惑そうだったが、羨ましくて堪らなかった。不用意に海馬の情報を聞いてしまい、落ち込んだり嫉妬したりするのが嫌で、なんとなく遠ざけてしまったことは否定できない。
「……。」
 それが、バクラだ。城之内の心理を察したわけではないのだろうが、構わないことはバクラも構わなかったらしい。それがまた不義理を働いているようで、曖昧な友情から自己嫌悪に陥る城之内と違い、バクラはいつも飄々としていた。
 いつか、ちゃんと説明をして謝らねば。
 そんなふうに決めていたが、城之内が腹を括る前に不可思議な出来事が起こったのだ。
「……そういや、どういうことなんだ?」
 昼休みは大したことではないとあまり気にも留めなかったが、今更のように本田とのことが気になった。
 アテムが聞き出してくれた情報によれば、二人はすることはしたが、恋人ではないらしい。本田からの懇願で仕方なく成立したらしいが、にわかに信じがたいと周囲が困惑した気持ちは分かる。ただ、城之内には他の面々よりも二人の仲を信じる要素があった。
「バクラって、海馬とはもう関係ねえのか……?」
 それは、あまりに利己的で、一方的な根拠だ。どちらかと言えば、願望に近い。
 元より海馬とも恋人だったわけではないのだろうが、バクラのあのじゃれ方を見ていれば本田に気があるように見える。言葉はどうあれ、懐いていたのはバクラからのみなのだ。それに本田がどう返すかは別にしても、バクラが本田を好きであれば、海馬からの求めに応じることはないだろう。そんな自分にとって都合がいいだけの解釈だ。
 普段は馬鹿だ馬鹿だと言われ、自分でも賢くないと認めているのに、こんなときばかりの自己欺瞞だと気がついてしまう。浅ましさで、ため息が出た。
「まあ、どっちとも恋人ってわけじゃねえんだろうけどさ……。」
 バクラからは迷惑以外の何物でもないという態度だったが、それでも海馬が興味を持ち、夏休み中に何度も呼び出されたのであれば、羨ましいという感情をもう押し殺せない。もしかすると、それが鬱陶しすぎて海馬への牽制で他の男に懐いてみせたのだろうか。本田は、ただその目的で選ばれた可哀想な生贄にすぎないのだろうか。
 だが本田も夏休みにバクラが海馬に呼び出されていたことは知っているはずなので、不用意に応じれば海馬からの不況を買うことは想像がつくだろう。ジュラルミンケースの餌食になってもおかしくない。投げやりにであっても頷き、懐かせるのを拒まない態度は、海馬がバクラに恋しているのであれば、まさに自殺行為だ。
 これならいっそ、本田がバクラと付き合えばいいのにと城之内は思う。
 バクラは『本田から懇願された』と言っていたが、態度から見れば逆だろう。つまり、バクラの方が付き合いたいのだ。いろいろ出自には胡散臭さも付き纏うが、戸籍だけならば獏良の双子の妹であり、黙っていれば容姿も麗しい。更には本田が絶対的に気に入る長所も持ち得ているのだから、仮に海馬からの嫉妬を危惧しても千載一遇のチャンスだろう。
「バクラって、マジでおっぱい大きいもんなあ……。」
 城之内も大きい方だが、男と見間違えるくらいだった頃からの知り合いのため、徐々に膨らんでいってもさほど巨乳という印象はないらしい。杏子もそこそこ大きいが、あの姉御気質が実姉を髣髴とさせるらしく、そういう目では見れないようだ。獏良はその意味では対象外になる。
 つまり、スタイルだけならばバクラは本田の好みのど真ん中だ。戻ってきた当初、基本的な造型は獏良に似ているのに、胸だけやたら豊満だったバクラを本田が無視していたのは、単に性的に煽られすぎて直視できなかっただけではないかと城之内は疑っている。分かりやすい男気をいつも熱く語っていた悪友は、何の捻りもなく大きなおっぱいが大好きだった。
 このことは、むしろバクラに伝えた方がいいのかもしれない。ヤっただとか、本田から懇願されただとか、真逆の情報はすっかり忘却の彼方になっている城之内はそう考え込む。バクラが本田を気に入り、落としたいのであれば、その豊満な胸を触らせてやれば効果覿面だろう。そうすれば、本田も逃げ切れるものではないと思ったとき、唐突に叫ばれた。
「逃げ切れるとでも思っていたのか!!」
「えっ、思ってねえからおっぱい触る!?」
「……。」
 屋上へと繋がるドアが突然開け放たれ、同時に聞こえた怒声に城之内は思わず返事をしてしまった。
 だが、もちろん主語も所有格も抜け落ちたものだ。そもそも屋上に誰かいると思っていなかったのであれば、不可解になるのは当然だ。いや無人と思っていたのであれば、ああして叫んだことも奇行に違いないのだが、この程度では最早動じない奇特な人物はそこには仁王立ちになっていた。
「……貴様それはどういう意味だオレが触っていいのかオレが貴様の胸を触っていいのかもちろんオレはやぶさかではないというかむしろ歓迎というか揉ませろと命令したいくらいの甲斐性はあるつもりだからいきなりそのようなことを言われてもオレの心の準備がまだ」
「海馬じゃねえかっ、久しぶりだな!! あれ、どうしたんだ、もしかして夏休みボケが過ぎて、二学期が始まる日付と一時間目の開始時間、忘れた?」
 急に視線を逸らしてぶつぶつ言い始めたのにはやや傷つくが、それでも城之内は胸が弾む。なにしろ、一月半ぶりなのだ。制服ではなくスーツのままである海馬は、会社から直行したのだろう。だがとっくに放課後で、二学期は先週から始まっている。仕事のしすぎで間違えたのだろうかと心配してやったのに、海馬は不機嫌そうな顔を向けるとようやくドアの前から歩き始めた。
「そんなはずがなかろう、オレを誰だと思っている」
「歩く奇行師」
「そんな褒め言葉より、貴様は一人か? いつものオトモダチ連中はどうした」
 響きが同じなので脳内で『貴公子』とでも変換されたのか、海馬はさらりと流して尋ねてくる。だが、それには城之内も不思議になる。海馬が友人や友情といったものにアレルギー反応を起こすことは周知の事実だからだ。
「遊戯たちならもう帰ったけど?」
 全員ではないが、少なくとも遊戯とアテムは下校している。あっさりとそう答えた城之内に、海馬はますます嫌そうな顔をした。
「……ヒトデ共ではない。あの女はどうした、もう帰ったのか?」
「……。」
「それとも、そもそも今日は登校していなかったのか?」
 会ってまたくだらない話をしたい、できればアナウンスの件で確認もしたい。そんなささやかな願望は、あっさりと打ち砕かれる。
 海馬が用があるとすればアテムというのは、以前の話だ。最近ではすっかり別の相手にご執心だと知っていたにも関わらず、不意打ちを食らったように胸が痛くて言葉が出ない。
 そうして黙っている城之内に、欠席だと海馬は判断したらしい。手を焼かせおってと舌打ちしている様を呆然と眺めていれば、嫌な想像しか浮かばなくて、気がついたときにはそんなことを口にしてしまっていた。
「……バクラなら、本田と付き合うことにしたみてえだけど?」
 本当は、まだ絶賛口説き落とし中というところだろう。もしかすると、この週末にまた呼び出され、そこでいい加減海馬に辟易したバクラが本田を使って諦めさせようとしているのかもしれない。先ほどは自分の中で否定した推理が信憑性を増した気がして、青褪めつつそう言ってみるが、海馬は苛立ちながら流す。
「そんな情報はどうでもいい、それよりあの女はどこにいる? 帰ったのか?」
「え、どうでもよくは……?」
 時計を見ながら焦っている様子もあるので、単に時間がないのだろうか。だがそれにしては、海馬の反応がおかしい。本当にバクラに用があるなら、部下にでも迎えに来させればよかったはずだ。海馬本人は仕事があるので出歩くのが難しいとしても、家でも学校でもバクラを部下が引きとめれば、それですむ。かつてのような闇の力がないバクラは、今では思いきりがいいだけの女子高生だろう。腕力で屈強な黒服たちには敵わないと知っているからこそ、バクラもこれまで獏良などに迷惑をかけたくなくて素直に呼び出しには応じていたはずだ。
 それが、部下を使えない、つまり海馬の私的な用件だからというのであれば、本田との交際情報はたとえ疑わしくともどうでもいい情報などではないはずだ。時間を気にして焦っているのに、バクラが誰と仲良くしようが本当に興味がないように見える。
 なんだか、不自然な態度だ。海馬のことなので理解できないと言えばそれまでなのだが、そうにしてもおかしい気がする。
「なあ海馬、お前バクラに何の用で……?」
「それを説明している暇はない。ともかく、もうこんな時間だ。最悪の事態を想定すれ、ば……?」
 そのとき、遠くからエンジン音が聞こえた。だが海馬がよく移動に使っているヘリだと思わなかったのは、回転翼特有のパラパラという音ではなく、擬音で表現するならばゴォッという種類だったからだ。
 もしかすると、いつぞやのブルーアイズ・ジェットかもしれない。近場で小回りが利くヘリとは違い、それなりの距離を音速で移動するには固定翼のジェット機が便利だという話は、以前海馬本人から得意げに教えられた。つまり遠方への出張でもあって、その前になんとかバクラに会いたかったのか。だがそうであれば、ジェット機を手配したはずの海馬があまりに険しい表情をしており、首を傾げながらも城之内は音がする方へと振り返った。
「……え?」
 そこには、見覚えのあるシルエットが浮かんでいた。
 夜空ではなく、まだ残暑も厳しい九月始めの夕方だ。真っ青な空でキラキラと光る体躯は、週末に見た姿そのものである。
 青眼の白龍が、いた。
 徐々に大きくなっていくエンジン音と共に、その姿がどんどん大きくなっていったとき、突然海馬が叫んだ。
「貴様っ、いくら勇壮なる青眼の白龍でもオレ以外に見惚れるな!!」
「へ? ……おわっ!?」
 どうやらかなり呆然としていたらしいと、城之内が気がついたのは海馬に腕を回されてからだ。いきなり腹の辺りを抱えられ、驚いている間に移動する。
 直後に、十数メートルの距離まで近づいていた青眼の白龍が、ガッと口を開いて砲撃してきた。
「ぬわああああ!? て、ほ、本物!?」
 凄いリアリティだと感心しかけたところで、青眼の白龍が放ったバーストストリームは、屋上の端に当たり校舎の一部が轟音と共に崩れ落ちる。
 さすがに、ソリッド・ビジョンではない。本当にそこに青眼の白龍がいて、恐らくは自分たちに向かって攻撃をした。
「クッ、まさか、初日から攻撃されるとはな……!!」
「か、海馬っ、あれ何なんだよ!? かなりヤバくね!?」
 しかも、後ろで唸る海馬の言葉から、青眼の白龍でありながら海馬の忠実なるシモベではないらしいと察して、背筋が寒くなる。いっそ闇の力による具現化であれば、海馬の執着だとかセトだった頃の因縁だとかで、無茶な論理でも従わせられそうだ。
 だが最初からずっと響いているエンジン音が、この青眼の白龍が、そういったオカルトの権化ではなく現代科学の結晶だと教えてくれる。なにより、海馬の意志に従わないということは、その瞳の色からも分かる気がした。
「……ヤツは今、正気を失っておる」
「……!!」
 姿は確かに、まごうことなき青眼の白龍だ。だがその象徴とも言える瞳が、澄んだブルーではなく、若干赤の混じった紫に近い色になっている。青眼の白龍を変質的に愛してやまない海馬の娯楽であれば、こんな色合いにするはずがない。侮辱だと言って塗装係か目玉製作係をカード処刑しかねない。
「その青眼の白龍は、マスターたるこのオレを標的にしているのだ」
「ど、どうすんだよ、マジでやべえだろ!? 海馬なんか青眼の白龍フェチなのと自称決闘王なのと歩く奇行師なのと口調が時代劇なのと服装が奇抜すぎるのとモクバにはいいお兄ちゃんなのとオレには憎いアンチクショウなのくらいしかいいトコねえのに!!」
「対抗手段はある。だが、まだ使えん」
 問い詰めている間に、再び青眼の白龍が口を開き始める。どうやらバースト・ストリームを放つにはある程度の充填時間が必要らしい。その間も、大きな羽を撓らせ、校舎のすぐ上に滞空している。実際に浮力を得ているのは下向きに噴射されているエンジンなのだろうが、実用性の分からない羽の動きは青眼の白龍を青眼の白龍に見せている一因だ。
 再びの攻撃を予感し、悠長なことを言っている海馬に城之内は叫ぶ。たとえ自分たちは避けることができたとしても、校舎が崩れれば被害者が出てもおかしくない。
「な、なんとかしろよ海馬!?」
 相変わらず腹に腕を回されているので、身長差から足が浮いてしまっている。仕方なくバタバタと暴れながら言ってみれば、海馬は砲撃体勢に入りつつある青眼の白龍を睨み上げながら返す。
「打つ手は二つ、だがどちらもまだ無理だと言っている。あとは……根本的な解決にはならんが、一時的に退散させることならできる」
「それでもいいから!!」
 どうやら一時しのぎの策はあるらしい。状況を考えれば、あの青眼の白龍は海馬を狙っているのだろう。そういえば今は発射口である口を開けてから実際に撃たれるまで時間が長いという疑問を持つ前に、城之内は海馬に腕を外された。
 久しぶりに自分の足で屋上に立てば、海馬は肩に両手を乗せ、ぐいっと向き直らせてくる。
「……ならば、貴様が協力するか?」
「は?」
「なんでもするか?」
「いや、なんでオレが……?」
 やけに真剣に尋ねられても、困惑するだけだ。今にも攻撃せんとばかりに滞空している青眼の白龍を追い払うのに、城之内が協力できることがあるはずがない。そう怪訝な顔をしても、海馬は真顔で繰り返してくる。
「洗脳され主を忘れ正気を失いオレを襲う哀れな青眼の白龍を止めるためならば貴様は身を粉にして喜んで何でも尽くすな?」
「いや哀れなのはお前の頭ととばっちり受けてそうな町民ていうか」
 こちらも怪訝そうな態度のままで返せば、青眼の白龍の目が光った気がした。恐らく、レーダーとしての機能もあるのだろう。閉じかけていた口が再び開いていくのを目の当りにすれば、城之内も怪しんでいる場合ではない。
「わ、分かったから!? いいから、追い払えるなら、さっさとしろよ海馬!!」
 背に腹は変えられず、そう叫んだときに海馬は確かにニヤリと笑った。
「そうか、分かった」
「かい、ば……んんんんっ!?」
 そしてぐっと海馬の顔が近づいてきたと思ったときには、もうキスされていた。
 頭は真っ白になり、何も考えられない。
 どうして海馬とキスしているのか、さっぱり理解できない。
 それでも、唇は確かに触れているのだ。
 上手く回らない思考はとけていくばかりで、ぼんやりと、青眼の白龍の餌食になったのかなと思ったときには、もう脅威は飛び去っていた。





 






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何故かロボットものです。
相変わらず、女体祭りです。

ロボっぽい何か