■GEL'
同タイトル収録 【お試し版】 -01.
不可解な話題を持ってくるのは、決まってこの男だ。
「ねえ、保健室の噂、知ってる?」
不可解な性格、不可解な言動、不可解な引きの良さ、不可解な髪型。考えてみれば、自分の周りには友人に限定せずとも、いろいろと不可解な人間、もしくはおそらくは人間が多い。その中でも、この男は一般的には不可解の対極、常識人の部類には入っているだろう。
だが、稀にこういうことがある。
言ってしまえば、会話の着地点が見えない。
どういう方向に話を持って行きたいのか、さっぱり分からないままに相槌を打って進めていれば、予想だにしない展開を見せる。後から思えば、このときもその典型だった。だが当初はそんな予感など微塵もなく、むしろ横で青褪めた中学時代からの悪友と同じ想像をした。
「なっ、なんのことだよ、それ!? ももももし七不思議とかオバケとかの話題だったらギャー!?」
「そうだぜっ、無駄に城之内くんを怖がらせるだけだったらオレが許さないぜ御伽!!」
「……そのキミがいきなり背後から気配もさせずに城之内くんの肩を叩いたりするから、見事に親友さんが失神しかけてるけど、大丈夫?」
今日は珍しく遊戯の母親が寝過ごして、弁当を作れなかったらしい。冥界の扉をくぐることを今しばらく猶予され、何故か戻ってきたもう一人の遊戯、いや、古代の王であるアテムも、実体を伴って戸籍上は双子として武藤家で世話になっている。つまり二人とも弁当がなくて、購買に向かった。だがほとんどの者が食事を終えかけたところでようやく帰ってきたところを見ると、人混みの多さでかなり苦労したようだ。
「おかえり、遊戯くんたち〜。パンは買えた〜?」
「うん、なんとかね……あんまり種類は残ってなかったけど……。」
少し遅れて教室に入ってきた遊戯は、獏良からそう尋ねられ、苦笑して手にしていた袋を見せる。透けて見えるパッケージには、『ブロッコリーが丸ごと入った栄養パン』の文字が躍っていた。思わず想像して目を背けると、いまだ城之内の後ろに立っているアテムが提げた袋が見える。そちらはカリフラワーらしい。丸ごと具合によっては、これから自分がコンビニにでも走ってやった方がいいのではないかとまで考えている間に、二人も席へとつく。
「遊戯、パンだけで食事足りる? よかったら、これ二人で食べてね」
「ありがとうっ、杏子」
「恩に着るぜ!!」
いつもデザートが入っている小さなパックを差し出した杏子に、遊戯とアテムは目を輝かせた。どうやら、コンビニに走る必要はなさそうだ。デザートという目標のために、二人は仲良く丸ごと野菜に挑むのだろう。
そんなことを思いながら弁当箱をしまっていたので、アテムたちが戻る直前に御伽が切り出した話題など、すっかり忘れていた。城之内も努めてそうしたのだろう、かろうじて失神することなく食事に戻っている。基本的には早食いが身に染み付いているが、ゆっくり食べた方が満腹感を得られるという豆知識を得て、先週辺りから実践しているようだ。効果があるのかと尋ねそうになって、意外な声に言葉を飲み込んだ。
「……で、保健室がどうしたんだよ」
「え? ああ、いや僕もさっき聞いたんだけどさ、保健室に関しての噂が広まってるみたいだね」
それは、アテムと共に戻ってきたもう一つの魂だ。いや、戻ってきたというのは、正確なのか分からない。当人もよく分かっていない様子なので追及したこともないが、闇人格のバクラも、今では獏良とは違う実体を得て現世へと現れた。古代の王への憎悪はかなり削げ落ちているとのことだが、荒っぽい思考と横柄な態度は素だったらしい。せっかく専用の実体を伴って戻ってきたのに、いつも不機嫌そうな顔でため息ばかりついている姿は、実に勿体無い。だが安心もできる。
なにしろ、その気があればニコニコと人当たりよく愛想を振りまけることは、かつての言動から証明済みなのだ。今そんなことをすれば、男どもはこぞって戦慄するだろう。不気味だと震えるのはアテムを筆頭に本性を知っている人間くらいで、大抵の男は昂揚で胸が高鳴る。恋に落ちるのは簡単だ。それだけ、獏良の双子の妹と公言しても違和感がない容姿と、獏良以上に魅力的な豊満な体つきをしているのだ。
今はまだ愛想の欠片もないので周囲も手をこまねいているが、帰国子女という肩書きからの警戒心がいずれ解けることを願っている。自分には、逆にそうならないことを祈ることしかできない。いつまでも心は鎖国状態であってほしい。だがそれは身勝手な願望という自覚もあり、後ろめたさに頭を抱える日々を繰り返していたためか、このときバクラが御伽へと尋ねこと自体がかなりの衝撃だった。
「だから、保健室のどんな噂だよ」
もったいぶるなと、苛立ったように声を尖らせているが、視線も注意も御伽へと注がれているのだ。
それを、単純に羨ましいと思った。闇人格だった頃の火事での暴言が影響しているのかは謎だが、これまで努めて会話をしたがらないバクラが、いつものメンバーの中で二番目に無視してきたのが御伽である。その認識も正しくあるので、御伽も驚いているようだ。だがすぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべ、会話を続けたのはさすがだと感心した。
「ああ、実は保健室に……。」
「ギャー!!」
「……ええと、城之内くんに配慮すると、科学ではいまだに解明できないとされる不可思議な超常現象的な何かが聞こえないはずの声でよく分からないことを話しかけてくるって噂なんだけどさ?」
「バカ犬もいちいち怖がってんじゃねえよ、大体オレサマや王サマはてめーの中でどう解釈されてんだ」
「……。」
「……ん? どうしたんだっ、城之内くん!? どうしてオレから目を逸らすんだ!? オレはキミを大切な親友だと思ってるんだっ、本当だぜ、この目を見てくれ城之内くん!!」
アテムはやや取り乱しているが、少なくとも今では実体があるのだ。城之内の中でそのことが思い出されれば、いずれ落ち着くだろう。
それよりも、今は御伽の話が気になった。保健室の噂とやらは、自分も聞いたことがない。どうしてバクラが気にして追及したのかはやがてすぐに判明するが、今はそれよりもあまり驚いていない女子二人に意識は向く。
「ああ、保健室の噂って、そのことなの?」
「真崎さんは知ってた?」
「知ってたというか……。」
「ボクも知ってるよ〜、噂になってたって知ったのは今だけど〜」
御伽の情報源は、十中八九、女子生徒からだろう。そのため、女子の間で噂になっている保健室の怪談なのかもしれない。そうであれば、杏子や獏良が知っていても不思議ではない。バクラにはこの二人が教えない限りは耳に入ってこなさそうだ。
そう納得しかけたが、杏子も獏良も反応が曖昧だ。知っていることは間違いないようだが、誰かから『噂』として聞いた様子ではない。それに御伽はかなり怪訝そうな顔をして何故か追及をしないが、杏子たちの方から勝手に話し始めた。
「先週だったかな? 私、貧血起こしちゃって保健室に行ったことがあるのよね。で、そのとき知らない人、たぶん男の人だと思うけど、話しかけられたわ」
「真崎さん、大丈夫だった?」
やたら気遣わしげな御伽にも、杏子は平然としたものだ。
「大丈夫も何も、こっちは貧血でくらくらしてるから保健室に行ったのに。よく分からないことを、ぼそぼそといつまでも言い続けてるから、私、『うるさい!!』て叫んじゃったのよね」
「……さ、さすがだね、真崎さん」
「……杏子に怒られたら、ボクも竦みあがるもんなあ」
「……相棒に心から賛同するぜ」
「で、それきり静かになるし、立ち去るような足音とかもなかったから、てっきり私の気の所為かと思ってたんだけど、噂になってるってことは違ったのよね」
「わ〜、オバケも一喝で退散とか、真崎さんカッコイイ〜」
「おおおおオバケって言うなギャー!!」
どうやら、杏子は噂を聞いたのではなく、当事者だったらしい。悲鳴を上げたのは城之内だが、どこかキラキラと羨望の眼差しで杏子を見つめている。あれは恋する目でなく、純粋なる尊敬と期待だ。オバケが怖すぎて、それを一蹴できる杏子を心から頼もしいと感動したのだろう。それが杏子も分かるためか、照れるような勘違いなどするはずもなく、むしろ嫌そうに睨み返しながらも無下にするようなこともなかった。
そうして杏子の優しさに感心していれば、獏良もまた当事者だったのだと分かる。
「ボクのときはね〜、まあ体育に出るのが面倒だな〜ってサボッてたときなんだけど〜、化けて出るほど未練があるのかな〜て、ちゃんと聞いてあげたよ〜」
「えっ、それって大丈夫だった?」
何故かまた急に御伽は焦ったように獏良に尋ねるが、当人はニコニコしたままだ。到底怖い思いをしたようには見えない。その理由は、すぐに分かる。
「どうかな〜? もしかしたら、ちょっと泣いてたかもしれないな〜」
「えええっ、ほんとに大丈夫!?」
「さあ〜? そんな女々しい性格だから〜、生きてるうちも彼女できなかったんだね〜て同情してあげたのに〜、なんだか嗚咽しながら消えていったなあ〜」
「……え、泣いてたのって幽霊の方なの?」
「……さ、さすがだね、獏良くん」
「……根掘り葉掘り聞き出されていちいちすべてを正論で捻じ伏せられてすごすご退散する男の背中が見せた気がするぜっ、相棒!!」
「怖ええええ、オバケすら泣かす獏良がマジで怖えええええ!!」
「まあ、獏良くんも無事だったんなら別にいいんだけどさ、というか、そうだよね、僕の取り越し苦労だよね、少なくとも女子の中でもキミたちには無用の心配だったんだよね」
大きく肩で息をしている御伽は、どうやら噂を聞きつけて心配していたらしい。だがその対象は女子だけのようだ。その理由に関しては、獏良の話から推測もできる。男の霊で、きっと女にモテなかったことが未練として残ったのだろう。だからこそ女のところに現れるが、うるさいと一喝されたり、泣くまで論破されたりしたのであれば、少しばかり同情する。
モテない男の苦しみは、まだ生きている自分にも痛いほど分かるとため息をつくが、同じようなため息を重ねていたバクラは呆れたように吐き捨てた。
「なんだ、その程度のことかよ。だったらこれからオレサマが保健室でサボッても、問題ねえな」
「え」
「ちょっと、堂々とサボるって言わないのっ」
「ボクもサボりたいけど〜、先週サボッちゃったからなあ〜」
御伽に追及したのは、元々バクラは次の授業、午後の最初の体育に出たくなかったためらしい。黙っていれば獏良と同じように華奢にも見えるので、体調不良を言い訳にして保健室で休むことはこれまでもよくあった。もっと深刻な噂話かと身構えたが、ただの怪談だ。何の問題もないので当初の予定通りサボるという方向に決断した様子のバクラに、女子二人は強く止めることはなかったが、御伽はやや戸惑っていた。
「体育には出ないにしてもさ、他の場所で時間潰したりとかしないの?」
「なんでわざわざベッドもあって寝られる場所があんのに、他にしなきゃなんねえんだよ」
「ああ、まあ、そうなんだけどさ……獏良くんは、体育に出るんだよね?」
「先週出てないから〜、今週くらいは出ないとまずそうなんだよね〜」
「そっか……まあ、そうか、そうだよね、うん……。」
あくまで保健室で休むと宣言するバクラに曖昧に頷いた御伽は、何故か獏良は授業に出ることを確認してまた複雑そうに頷いている。気がかりなのが噂話だということは誰の目からも明らかだ。だからこそ、余計に周りは不思議になってしまう。
「御伽っ、何をそんなに心配してるんだ!! たとえオバケが出たところで、このバクラなら逆に仲良くなりそうじゃないかっ、オバケ仲間として!!」
「その言葉、そっくりてめーにも返してやるぜ王サマ」
「いや、仲良くなっちゃダメというか、アテムくんの前には出てこないだろうねというか……。」
「そのまま下僕として手懐けちゃったりしてね〜」
「ああ、バクラくんなら、それもありそうよね」
「手懐けられるならそれでもいいんだろうけど、でも……。」
「杏子や獏良君以上に、一喝したらお祓いできそうだよねっ」
「……た、確かに遊戯の言うとおりだっ、今までオカルト一味と思っててすまねえなっ、バクラ!? とっとと悪霊退散してきてくれ頼む!!」
「うるせえっ、オレサマは神官どもと違って悪霊とは仲良くしときたい派なんだよ!!」
「嘘つけっ、アテムと仲悪いくせに!!」
「……え、城之内くん、今、なんて」
城之内からの一方的な期待が、アテムにまで飛び火しているようだが、騒いでいる間に杏子が席を立つ。昼休みが終わるにはまだ時間があるが、次の授業は体育なのだ。女子は体育館に併設された更衣室に向かうし、男子の多くはこの教室で着替える。そのため、少し早めに教室から女子生徒たちがこぞって出て行くのは、最早暗黙の了解になっている。
続いた獏良は自分の席に戻って弁当箱をしまい、ロッカーから体操着が入っている袋を出していた。手ぶらのバクラは、宣言どおり体育はサボッて保健室に行くつもりらしい。
「遊戯、デザートが入ってるケースは、机に置いておいてくれて構わないから」
「うん、ありがとう杏子、いってらっしゃいっ」
気がつけば、まだ教室に残る男子の中でも昼食を食べているのは遊戯とアテムだけになっていた。他の女子生徒たちも多くが更衣室に向かったようで、杏子は遊戯にそう声をかけると、獏良たちと共に教室を出る。
それを見送れば、もう男子生徒しか残っていない。むさ苦しさが増した気がする中で、無意識にため息をついたとき、急に御伽が話を戻した。
「……さっきは女の子の前で堂々とは言えなかったんだけどさ」
「なっ、なんだよ御伽、まだ保健室の怪談の続きがあるのかよギャー!!」
勝手に続きを想像でもしたのか、城之内は悲鳴を上げている。だがいつの間にか食事は終えているようだ。恐怖より食欲が勝っているうちは大丈夫だろうとのん気なことを考えていると、御伽が続けた言葉で、先ほどの微妙な態度の理由が判明した。
「どうも、例の保健室のアレって、出現するには法則があるみたいなんだよね。一つは、女の子が一人で保健室で寝てること」
「うん、杏子も獏良くんも、そのとき遭遇したみたいだしね」
「……で、二人が先に遭遇を認めちゃったから、ますます言いにくくなったんだけど。どうも、その女の子がそういうことが未経験の場合にのみ、出てくるぽいだよね」
どうやら、遭遇するのは処女に限定されるらしい。複雑そうな御伽のため息具合を見れば、そもそもどうしてこの噂が耳に入ることになったのか、想像もついた。
高校生という時期を考えれば、女子の中でも経験がある者とない者で分かれるだろう。ただ、処女を恥ずかしく思うか、誇りに思うかは、個人差がありそうだ。更に状況にもよるし、男からの評価はもっと分かれる。そのため、処女であることをアピールしたい者はその幽霊に遭遇したと言うだろうし、逆に経験豊富に見せたいのであれば一人で保健室で寝ても何も起きなかったと言えばいい。直接的な表現を避けた主張に利用されているのだろう。どちら側であっても、そういう主張を女子からされる御伽のモテ具合をさり気なく自慢された気分だ。
「だからさ、心配してたんだけど。真崎さんや獏良くんは、まあ、取り越し苦労だったなあってことで、よかったよね」
「う、うん、そうだね……。」
今更のように、杏子の清らかさが証明されたと分かり、遊戯は目が泳いでいる。実に初々しい反応だ。決して、パンの中に本当にごろっと丸ごと入っていたブロッコリーに動揺しているわけではないのだろう。アテムはカリフラワーと格闘している。
「でも、彼女は大丈夫かな?」
だが、御伽の言葉にはぴくっと反応してしまった。どことなく、大丈夫だろうという方向に聞こえた所為かもしれない。バクラがその幽霊に遭遇しないと考えているのであれば、その根拠は一つしかない。まさか何かしらの情報でも得ているのかとさり気なく動揺している間に、城之内があっさりと頷いた。
「大丈夫なんじゃねえの? 保健室で寝てるのが一人だったら絶対ソレ出てくるだろうけど、あいつならマジで蹴りとか入れれそうだし」
「そ、そうだよね、バクラくん、強そうだもんね……!!」
「真崎さんや獏良くんでも、撃退できたみたいだし。彼女なら、ますます心配はいらないかっ」
どうやら勝手な思い込みだったようだ。御伽も含め、全員がバクラも一人であればその幽霊と遭遇することを前提に話している。なにしろ、まだ戻ってきて半年も経っていない。普段の言動と、警戒心の高さを思えば、そう簡単に体を許せはしないだろう。
自分と同じ結論に友人たちも至っていることにほっと胸を撫で下ろすが、一足先にカリフラワーの栄養パンを食べ終えたらしいアテムが口を開く。
「……だが、オレにしろ、バクラにしろ、もう闇の力はないんだぜ」
「え? ああ、うん、それは知ってるけど……?」
「それでいて、魂の属性が闇寄りなのは変わらない。引き寄せやすいが、対抗手段だけ奪われた。まあオレは元々闇の者とは対立していたからどうということはないが、バクラはああだからな。融和性が高い分、下手すると引きずり込まれるぜ」
先ほどまでの調子とは違い、アテムは淡々と、それでいて明らかにバクラを心配していた。それに、自分だけでなく、御伽たちもやや驚いた様子で見ている。古代の魂が、何故か実体を伴って戻ってくる。そんな奇跡を体感した者同士だからこそ、アテムには分かることもあるのだろう。
かつての印象に引き摺られ、どうしても対抗手段があるような錯覚がしていた。それは本人も誤解している気がする。急に不安で浮き足立ちそうになったのは、心優しい遊戯も同じだったようだ。
「あっ、今からでも、お清めの塩、とかかな? 保健室に届けてあげた方がいいかなっ」
お払いといえば塩だ。そんな想像で言ったと思われる遊戯に、少し考える仕草を見せてから、御伽は返す。
「……この幽霊って、獏良くんも言ってたけど、生前に女性と縁がないまま死んだ未練で出てきてるっぽいんだよね」
「うん?」
「だから、極度の男嫌いらしいよ。特に、自分と同じように女性と縁がない男には、まあ同族嫌悪ってことなんだろうけど、一番の退散効果があるみたい」
確かに、生前の未練で化けて出るくらいなので、理解できる話だ。ただ、少し失礼だろう。むしろ、同じ境遇のモテない男に同情してくれないかとも思ったが、そんな博愛精神があれば処女を襲うために化けて出たりしない。
そんなふうに思ったところで、ふと違和感に気がつく。これまで御伽は城之内に配慮して、明確な単語は避けてきた。だが気が緩んだのか、はっきりと『幽霊』と口にしていたのだ。城之内は大丈夫なのかと視線を向けて、とっくに大丈夫ではなくなっていたのだと知った。
「うぅ……ひきよせやすい、て、それって、つまり……アテムと、いると、おば、け……うわあああぁぁ……!!」
「城之内くん? どうしたんだっ、城之内くん、しっかりしてくれ!!」
「ああ、どうも引き寄せやすいって発言が効いちゃったみたいだね」
魘されている城之内に、アテムが必死に肩を揺さぶるので余計に混乱が増しているようだ。だがこればかりは、どうしようもない。アテムが引き寄せやすいと言っていた以上は、事実なのだろう。遊戯と共に眺めてしまったが、ふと視線を感じた。
「だからね、僕じゃ助けようと思ったとしても効果が薄いんだけど?」
「……それって今さり気なく自慢されたのか?」
「そう受け取れるってことは、本田くんならきっと効果抜群てことだよねっ」
女性と経験済みであれば、除霊の効果は薄い。それを自慢と感じるのは、要するに童貞の僻みだ。
ニッコリと笑って痛いところを突いてきた御伽からは、視線を逸らした。単純に、ばつが悪かったのもある。だがそれ以上に、万に一つの危険性であっても、バクラが童貞の霊におそらくは性的に襲われるという事態に、本田はどうしようもない葛藤にさらされた昼休みだった。
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