『f-NOTE.』より 「EとFの方程式」 お試し版 -01.
※注意※
この本は、EFというWカプ・W女体のシリーズの第4弾・完結編です。
EF01-03は、この本に再録されています。(※お試し版はEF01)
ご了承下さい。
また、Wカプと開き直っているので謳っている通り、
海城(城之内が女体化)と、本バク(バクラが女体化)が並存してます。
それぞれのカプが恋愛的に錯綜することは一切ありません。
完全に独立・並存しているWカプですが、
女体城之内と女体バクラが異常に仲がいいです。
サイトにあるSSを参考材料とし、苦手な方はご遠慮下さい。
あと、気になると思うので書きますが、
エロ配分は「海城2回(1回は以下のお試し版冒頭、もう1回は再録部分)」、
「本バク1回(再録部分のみ)」です。
ちゃんとしたエロは…
事後のみとか、押し倒すまでとかは、カウントしてないです。
尚、書き下ろしは2本で、本バク編と、海城編です。
↓よろしければ、スクロールをしてどうぞ。
■EとFの方程式
動きを制限された状態で、強い瞳が睨み上げてくる。
「……いいな、その眼」
「……。」
「なんか、そそる……。」
腹の上に座って見下ろしながらそう言えば、青い瞳は怪訝そうに細められた。
時刻はもう深夜となっており、ただでさえ広くて街の喧騒などからは隔離されたこのお屋敷の寝室は、完全な静寂に包まれている。たまに体重を移動させれば、わずかに軋むベッドのスプリングの音がやけに響く。それにも興奮する気がしながら、きつい瞳を向けてくる男の頬に、そっと指先を触れさせた。
「城之内……。」
「なあ、なんか言わねえの?」
屈辱なのか、歪められた表情にますます楽しくなる。そして促すように頬を更に撫でれば、やがて大きくため息をついた男、一応恋人という肩書きのある海馬瀬人は、呆れたように口を開いた。
「……帰って早々、縛られる理由が分からん」
「……。」
「これはなんだ、オレにベッドからおりてくるなということか? 確かにようやく屋敷に帰宅できそうだと貴様を呼びつけたことに相応の期待があったことは否定せん、だが嫌なら嫌と言えばいいだろう?」
いくら恋人でも無理強いはせんと言う海馬は、もう一度深いため息をあからさまについてみせた。
それに、なんだか楽しかった気分が急激に冷めていってしまう。せっかく主導権が握れると思ったのにという失望と、そもそもするつもりはないと海馬が解釈したからだ。
「貴様が拒むならそれで構わん。とにかく外せ、怒って仕置き代わりにヤったりもしない」
「……。」
「信用したなら、添い寝くらいはさせろ。どれだけ一緒に寝てないと思っているのだ、それくらいの融通は利かせてくれても……。」
そう続けた海馬に、ますます拗ねたい気持ちが増した。
いつも、そうなのだ。
いつも海馬は、分かってくれない。
「まあ、それでも信用ならんと貴様が言うなら、オレは……?」
「……海馬のバカァッ!!」
「グハァッ……!?」
そう思ったときには、もう城之内は海馬を殴っていた。帰宅した際のスーツのまま、ネクタイで両手首を縛られてベッドヘッドに括りつけられている海馬は、当然のようにガードすることができない。いや、海馬ならばネクタイくらい引き千切れるだろうし、そもそも腰に乗っている城之内の体重など感じていないも同然だろう。だが素直に城之内に座らせてくれている海馬は、吐血しつつも意識は落とさずに苦しそうに唸っていた。
「クッ、城之内、なんだと言うのだ……!!」
それでも、相変わらず分かっていない様子に、城之内は自らを落ち着けるために、ふぅっ、と肩で息をつく。
「だから!! ……海馬が、変なこと言うから。しないとか言い出すから!!」
「……するのか?」
海馬は帰宅したばかりだが、城之内はバイトが終わってからこの屋敷にやってきており、既に風呂にも入ってパジャマ姿だ。そんな状態で腰に乗っているのに、しないと解釈したらしいことがそもそも信じられない。少し驚いたように聞き返してくる海馬に、城之内は呆れてみせつつワイシャツに手を伸ばす。
「当たり前だろっ、お前だって、どんだけ一緒に寝てねえと思ってんだって言ってたじゃねえか!!」
「言ったが、ならば何故こんな体勢に……?」
シャツのボタンをすべて外し、ベルトのバックルにも手をかける。そしてできるだけ考えないように努めながらベルトを引き抜き、スラックスの前を寛げさせた。
「だって、お前疲れてんだろ?」
「さすがに疲れていないとは言わんが、だが貴様を抱くことに躊躇するほどではないぞ?」
「でも疲れてんだろ!?」
自らの疲労に関しては、その存在すらあまり認めない海馬なので、部分的にはとはいえ肯定したということはやはり相当疲れているはずなのだ。そう思った城之内は、さっさとパジャマのボタンを自分で外していく。そして腰を浮かせて自らのズボンに手をかけると、下着ごと一気におろした。
「城之内……?」
「……だから、オレからヤってやるって言ってんの。お前にばっか頑張らせねえよ、オレだってしたいんだからな!!」
そう言って、パジャマの上だけを羽織った状態で、城之内は海馬の上体に覆いかぶさるように身を倒していった。両手でその両頬を包み、青い瞳をじっと見下ろせば海馬はいまだ怪訝そうにしている。それに、まだ分からないのかと拗ねるような気持ちになりながら、城之内はチュッと唇を触れさせる。
「んっ……だから、オレからするんだってば」
そうして耳元で繰り返しながら海馬に抱きつけば、はだけさせた海馬の胸に豊満な乳房がむぎゅっと押し付けられる。少し体温の低い海馬の肌を感じ、それだけで濡れてきそうだと城之内が喉を鳴らせていると、わずかに笑ったらしい海馬が身動きできないままで尋ねてきた。
「だが、できるのか?」
「……。」
含み笑いの理由は、城之内にもよく分かる。
これまで数えきれないほどの褥を共にしてきたが、そのすべてにおいて城之内は海馬に任せきりだったのだ。海馬との経験が初めてだったこともあり、最初からできなくて当然という態度でいてくれたことは有難い。だがもう半年も経つのにベッドの中では相変わらず海馬の手に翻弄されるばかりであることが少し悔しく、また申し訳なくもあった城之内は、この日思いきって実行に移した。
「できるっての!! ……お、オレだって、ただお前にヤられてたワケじゃねえよ!!」
「そうか? 単によがって気持ちよさ以外は何も分からなくなっていると思っていたがな?」
「それも否定しねえけどっ、いいからするの、するんだってば!!」
それでも、互いに服を乱して上には乗ってみたものの、実際に城之内はどうすればいいのかよく分からない。いや、分からないというより、踏ん切りがつかないのだ。今も少し体を起こして、胸が触れるか触れないかという距離で両手だけは海馬の頬や耳の辺りを撫でている。いつものように胸を揉みしだき、海馬の方から激しいキスで翻弄してもらいたいという欲求に抗いつつも、既に覆うものがない下半身がジンと熱くなってくるのは否定できそうにもなかった。
てっきりもっと抵抗してくるかと思っていた海馬は、意外にも大人しく縛られたままだ。それだけ疲労が溜まっているのかと思ったが、どちらかと言えばこの状況を楽しんでいるようにも感じる。
「だが、貴様からしてくれるのだとしても、どうして拘束する必要がある?」
まさか縛られて興奮する性癖なのかと訝っている城之内に、あっさりそんなことは見抜いた海馬がそう尋ねてきた。
それに答えることに意識を集中し、城之内はずるずると身を下の方へと滑らせていく。もう潤いつつある自らの秘奥を否定できなくて、早くそこに埋めてくれる海馬の熱いモノが欲しかった。
「だって……どうせ、オレからするって言ったって。お前、すぐ手ぇ出してきそうだし」
「貴様にしては、正しい推測だな」
「んなことされたら、オレ、絶対それどころじゃなくなるし……。」
既に寛げていたスラックスの下へ手を伸ばした城之内は、下着の下から海馬のモノを取り出そうとする。だが指先が触れただけでビクッと体が震えてしまい、それをまた海馬に笑われてしまった。
「わ、笑うなよ!? オレ頑張ってるんだぞ、いっつもお前がオレのこと、好きなようにすっから……!!」
「ああ、だから今度はオレを好きなようにしたいのか? ならば今夜は大人しくしておいてやるから、城之内、やってみろ?」
どうにも予想とは違ってきているのだが、海馬も楽しそうなのでまあいいかと思う。そして下着の下へとぐっと手を入れると、今度こそしっかりと握って海馬のモノを出してみた。
これまで海馬に奉仕の類を強要されたことはないし、また城之内の方から申し出たこともない。見たことがないわけではないのだが、触れた回数で言えば手などより今も早く欲しいと震えていそうな下の唇だという自覚もある。よって、手で触れて形を確認するのは初めての城之内は、海馬の太腿の辺りに腰は下ろして、手にした熱い性器にゴクリと唾を飲み込んでしまった。
「えっと……な、舐めなくても、いい……?」
多少の熱は持っているものの、その温度も、ましてや硬さもいつも自分の中に埋められるものとはだいぶ違うということは分かる。一度手を離せば恥ずかしさで二度と触れられなくなりそうだという予感から、両手を添えて撫でている城之内がそう尋ねれば、海馬は横柄に頷いた。
「貴様の好きにしろ……それで、満足できるならな」
「うっ、別に舐めたくなったりはしねえよ、まだ!! ……硬くなってくんなかったら、困るから、するかもしれねえけど……。」
まだ奉仕することが自らの愛撫にもなるというほど達観していないので、海馬の揶揄には一応否定しておく。だが実際に手で撫でるだけでは使えそうにならなかった場合、仕方なく咥えてしまうかもしれない。そう付け加えれば海馬もそれ以上からかってこなかったので、そもそもそちらの意味だっただろう。
どこか間延びした思考でそう考えているのは、拝むように手を擦り合わせているだけの海馬のモノが、それでもしっかりと熱を溜めてきているからだ。熱が伝染してきて、頭をぼんやりさせている。ジンジンと自らの奥が疼く感触に我慢ができず、城之内はよく分からないままで海馬へと尋ねてみた。
「なあ、まだ……?」
下着の下から出したばかりのときに比べれば硬くなっているが、もう挿入できるのかは城之内にはよく分からない。すると海馬はやや呆れた様子で、両手首を縛られたままで逆に聞き返してきた。
「どうした、貴様の方がもう欲しくなったのか?」
「ん……。」
「……そう素直に言われると、焦らせんだろうが? 欲しいならその前に、城之内?」
あっちだ、と言わんばかりに海馬が視線で促したのは、ベッド脇に置かれたサイドテーブルだ。そこの引き出しに入っている避妊具をつけろと言っていることは分かったものの、城之内は海馬のモノを撫で続けながら顔をしかめてしまう。
「……つけ方、分かんねえ」
「ならオレの腕を外すか?」
ぐいっと両腕を持ち上げる仕草で、縛っているネクタイを示した海馬に、城之内は少し悩んだ後首を横に振る。
「……する」
「被せればいいだけだ、適当にやってみろ」
いまいちアドバイスになっていない海馬の指示だったが、城之内は素直に腰を上げると、のろのろと移動してサイドテーブルの引き出しを開けた。そこからパッケージを一つ取り出し、ピリピリと外装を破って中のゴムだけを取り出す。そのままできるだけ考えないようにして元の位置まで戻ると、手を離してもそそり立っていた海馬のモノにまたゴクリと唾を飲み込んだ。
「えっと……こっち?」
「ああ」
一応裏表を確認してから被せてみるが、外装に『KC』のロゴが入っていたこの避妊具は非常に薄くて、覚束ない手では破ってしまいそうだった。それでも慎重に下の方までおろし、ほっとしたところで改めて眺めてみる。するとゴムに包まれた海馬のモノはなんだか加工食品を連想させるようで、思わず今までとは違った意味からゴクリと唾を飲み込むと、やけに勘のいい海馬にはバレてしまった。
「……貴様、それを食うのは下の口だけにしろよ?」
「わ、分かってるって!?」
ソーセージなら明日の朝食に並べさせてやる、と嫌そうに約束してくれている海馬に、大きく頷いた城之内は重い腰を上げる。そして海馬が食べてもいいと言ってくれた下の口をぴったりと押し当てれば、その熱さにクラクラした。
「海馬ぁ……!!」
自分で確かめるまでもなく、城之内のそこは早く海馬のモノを味わいたいとヨダレを垂らしているような状態だった。移動する際に膝を進めただけで、クチュクチュと物欲しげな音が立つのが恥ずかしい。そうして実際に海馬のモノの先端が触れれば、もう我慢できないとばかりにひくついているのが城之内自身にも分かった。
「ゆっくり腰を落としてみろ……?」
「ん……!!」
「息を詰めるな、体を楽にしてみろ?……城之内、犯されたいのだろう?」
そして、甘く促すような言葉でゆっくりと腰を落としていた城之内は、大きく頷いたときにグッと奥まで海馬のモノを飲み込んだ。
「ふぁっ、あぁ……!!」
「城之内、そう締め付けるな……!!」
むしろ腰を落としてしまった勢いで海馬のモノを咥え込み、驚いた城之内は思わずそこにギュッと力を込める。それに海馬はやや苦痛に顔を歪めてそう言っていたが、城之内の耳には入らない。ただ自分の奥までやってきてその熱と大きさで存在感を主張している海馬のモノが、苦しいのに気持ちよくてたまらなかった。
「あ、んんっ、やっと……!!」
「城之内……?」
海馬と繋がった、という思いが、圧迫感すら快楽に変えてくれる。それがもう嬉しくてたまらない城之内は、じっとりと熱が馴染むまで海馬の腰に座ったままで待つ。
だが繋がって嬉しいという緩やかな喜びは、時間が経つにつれて物足りなさへと変化していった。
もっと強く、あるいは激しく、繋がっている部分を擦り合わせたい。
そうすることでより大きな熱と充足感を得られると知っていた城之内は、ぼんやりとした瞳で海馬を見上げた。
「……ああ、いいぞ?」
「ん……!!」
すると海馬はそれだけで理解してくれたようで、すぐに簡潔な返事をしてくれた。
それもまた嬉しくて、城之内は心地よい抜き差しをすべくグッと腰に力を入れたのだった。
「でなっ、それでな!? オレからスッゲェ動いてやって、海馬のことアンアン言わせてやった!!」
「……へえ」
「スゲェ気持ちよくって、ホント気持ちよくって!! 海馬も呆れ……じゃなくって、すっごい喜んでくれたんだってば、ホントだって!?」
今はもうそれから半日が経った正午過ぎ、いわゆる昼休みと呼ばれる時間帯だ。平日にも関わらずしこたまハメてきたらしい友人、というかバカそうな犬からのご指名を受け、仕方なく足を運ぶ。そうして屋上で披露されたのは、別に聞きたくもない他人の情事である。しかも無駄に話す相手を選んでいるらしく、バカな犬こと城之内克也は、こういった話のときだけやけに自分を標的にしてきた。
その理由は分からなくもないが、いい迷惑だというのが実感である。だが目を輝かせて話してくる様を見せつけられればそう無下にもできず、自らのこの犬への甘さに億劫になるばかりの日々だ。
「なんだよっ、信じてねえのかよ、バクラ!?」
すると、話に身が入っていないことはバレバレだったようで、拗ねたように叫んだ城之内はいきなりムギュッとこちらの胸を鷲づかみにしてきた。元々スキンシップは激しく、男女を問わず向けているのが城之内という存在だ。それでも、まだ宿主だった獏良了と体を同じくしていたときはそんなことはなかったため、一応これも相手は選んでいるらしい。
それは半分正解で半分不正解だったようだ。すべてが終わってからなんの奇跡だか悪運だか知らないが、宿主と離れて実体を持つに至った自分は、城之内にとって『触ってもいい相手』だったと知らされたのはこの体で初めて会ったときである。しかも単に抱きつくだとか手を握るだといったレベルではなく、やたら胸を揉んでくるこのバカ犬の意図は今のところ全く理解が不能だ。
「信じてねえっつか……オレサマはてっきり、ハメたところでてめーが腰が抜けたかなんかで力が入らなくなって、そんであの社長サマが、ネクタイだったか? 縛ってるの引き千切ろうとしたの殴ってでも止めたりしたのかと思ってたんだよ」
「……。」
「そんで、今夜は乗ってヤるんだとかてめーがぐずりながらごねやがって、それを甲斐性があるんだかないんだかいまいち判断に迷うあの優しい優しい社長サマが、呆れつつも下からガンガン突き上げてやって、『海馬は腰も強いんだぜ!?』とか、そういう自慢話かと思ってたんだが、そうか、違うのか」
それは悪かったな、と白々しく言ってみれば、城之内はこちらの胸を鷲づかみにしたまま無表情で見上げてきていた。
こんなふうに、胸を触られても大して反応もせず止めさせないのが触られる原因なのだろうと、バクラも自分で分かってはいるのだ。いつぞや城之内が同じように杏子の胸を揉み、それこそ『女の子らしく』驚いた杏子に思いきり殴られたときは、明らかに城之内が悪いはずなのに少しぐずっていた。取り敢えずスキンシップとしてどうかと思うのはそのレベルでとどまっているので、杏子にできないためにこちらに矛先が向いているのだろう。かつてバクラの宿主だった獏良了は、さほど胸が大きくないのが二割と、そもそもなんだか怖くて触れないのが八割といったところに違いない。そうなってくれば、女という以前にバカ犬に胸ぐらい触られても目くじらを立てるほどではないと思ってしまう自分は、更に面倒くさいということもあって余計に放置してしまう。おかげでしょっちゅう教室などの人前でも揉まれてしまっているのだが、特に止めてくれる人間もいないのでそのままという状態なのだ。
ちなみに今は、城之内がバクラだけを指名して連れ出したので、この屋上には二人きりである。給水タンクの下の壁に背をつけて座ったまま胸を掴んでいる城之内は、やがて怪訝そうに睨んできた。
「……なんで、そんなこと知ってるんだよ? あっ、どこかで見てたのか!?」
ずるい!! と、なにがずるいのかさっぱり分からないことを叫びだした城之内に、バクラは盛大に呆れてしまった。
大方そうだろうとは思っていたが、やはりこの天然マグロ素材のバカ犬は、自ら乗って腰を振れるほどの技術はなかったようだ。そう思えば話された部分も多大な脚色がある気がしないでもないが、今は取り敢えず面倒なことに発展しそうな誤解を先にといておく。
「バカ言うな、んなことしなくても予想できるっての。大体『ずるい』ってなんだ、『ずるい』って」
城之内たちの情事など、その恋人、つまり海馬が撮影くらいしてそうだ。もし自分が出歯亀したとして、それがずるいと言うのならば、絶対秘蔵のDVDがあるはずだから見せてもらえ。
そう無責任に勧めようとしていたバクラに、城之内は相変わらず胸に手を置いたままであっさり答えた。
「え、だってオレ、お前らのエッチ見たことねえし」
「……見てえのかよ」
「見られたんなら見るっ、だってずるいし!! ……あ、そうじゃなくても見たいかも。だってバクラってさ、胸でかいし?」
どうやら予想した意味ではなかったらしい。そう気がついても、新たに判明した『ずるい』理由とやらは、バクラを億劫な気分にしかさせなかった。
「てめーもでかいだろうが、そんな変わんねえよ」
「でもバクラのがちょっとおっきいんだって!! なあなあ、コレ、やっぱエッチのとき使ってんの!?」
どうやって? どうやって!? と無邪気なフリをしてとんでもなく不埒なことを尋ねてくる城之内は、もう完全にバクラの前に回りこみ、正面から両手で両胸をムギュッと掴みあげていた。
確かに、自分は胸が大きい、それはバクラも認めている。まだ宿主と体を共有していたときは気にならなかったのだが、こうして実体を得た際に、中途半端に三千年前の造型が混じっているようなのだ。肌の色は褐色ではないものの、やはり宿主だった獏良よりは健康的な白さである。身長も獏良より若干高く、ほぼ杏子と同じくらいだ。おかげでいつもつるんでいる仲間内では遊戯の次に身長が低くなってしまった城之内はやけに機嫌を損ねていたが、態度は恋人の次くらいにデカイのでいいのではないかとバクラは適当に慰めたものだ。
だがそんな城之内が、バクラのこの体で身長を抜かされたことには文句を言ったくせに、胸がより大きかったことはやけに歓迎していたのだ。バクラはいまいちサイズだかをまだよく理解していないのだが、カップというものが一段階違うらしい。だがパッと見ただけでは、杏子も、城之内も、大きい方だろうとは思う。むしろ獏良だけが小さいため、いまだに共有している制服が合わず、今もシャツのボタンがとびそうになっているので不便なことばかりだ。一度、どうせ大きさが違うなら宿主サマより小さい方がよかったとぼやいてみたのだが、城之内には泣かれ、獏良には笑顔で凄まれた。それ以来あまり口にはしないようにしているが、取り敢えずバクラにとって自分の胸は邪魔だという感想しかない。
「なあっ、どうやって使ってんのか教えてくれよーっ!!」
「んなこと言いながら顔埋めてくるんじゃねえ、バカ犬。ボタン取れそうになってんじゃねえか」
既に何度か飛ばしたことがあり、次に取っても繕ってあげないと獏良に笑顔で宣言されているボタンを心配し、バクラはそんなふうに言いつつもぼんやりと思いを馳せる。
バクラ自身はどうかと思ったものの、今現在の戸籍は事故死したはずの獏良の双子の妹のものを復活させて与えられている。かなり幼いときとはいえ、全くの別人が生きた戸籍というものを、得体の知れない三千年前の盗賊王が引き継いでいいものか。普通に考えれば、不謹慎極まりないことだろう。だが獏良本人の勧めと、両親の承諾が建前ではないと分かったとき、余計にバクラは悩んでしまった。
遊戯たちのように、自分は宿主であった獏良了と友情を深めたわけでもなければ、助けたこともほとんどない。稀に手を貸すような真似をしたのは、あくまで自分の目的のために利用したにすぎず、決して褒められた理由ではなかった。大体こうして何故か実体を得た肉体も、いつまであるか分かったものではないのだ。戸籍などなくとも生きていけると突っぱねてみたのだが、結局獏良のあのニコニコとした押しの強さに流されてしまい、バクラは今戸籍上の名前は『獏良天音』として童実野高校に籍を置いている。
ちなみに、事故死した人間の戸籍を復活させたり、強引に時期外れの転校手続きを取れたのは、城之内の恋人の影響力によるところが大きい。海馬本人はどうでもよかったのだろうが、愛しい飼い犬にせがまれては拒む理由が見つからなかったのだろう。どんな強引な手段を用いたのかは知らないが、実体を得てから一週間後には、もうバクラはこの高校の生徒として席が与えられる。それを城之内はひどく喜び、恋人の手腕を珍しく手放しで褒めちぎっていたので、海馬も大層ご満悦な様子だった。
そんなことがあったのが三ヶ月前で、六月の終わりの頃の話だ。行くあてもなかったので最初は獏良のところに同居していたものの、あれよあれよという間に戸籍で妹にされてしまったため、バクラはいまだに獏良と一緒に同じマンションで生活している。服などもほとんど兼用しており、制服は冬服からバクラのものは新調する予定だ。おかげで九月始めのこの時期、いまだ夏服なので獏良のものを借りている状態で、胸のサイズが合っていないままのシャツに遠慮なく顔を摺り寄せてくる城之内を、バクラは久しぶりに押し返しておいた。
「いいだろっ、ボタンくらいまたつければ」
「宿主サマが機嫌損ねてて、裁縫道具隠しやがったんだ。まあ見つけて勝手につけることができなくはねえけどよ、それがバレたときのこと考えると、なあ?」
「ああ、うん……。」
怒鳴ったり実際に暴力を振るうようなことは絶対にない獏良なのだが、なんとなく怖い、とにかく怒らせない方がいい。それは共通の認識となっているため、バクラがそう言えば城之内も曖昧に頷いている。そして名残惜しそうに顔は上げてくれたものの、相変わらず胸は緩く触ったままだ。どうしてそこまでして触りたいのだろうとようやく疑問に思ったとき、ふと目の合った城之内がニッコリと笑った。
「……で?」
「なにがだよ?」
バカな犬がまた尻尾振ってやがるとバクラは思ったものの、拗ねられると面倒なので口にはしない。すると、再びわざとらしいまでの笑みを浮かべた城之内は、興味津々といった体で尋ねてきた。
「だからっ、コレで!! おっぱいでいろいろしてんだろ!?」
「……してねえよ」
「またまたぁっ、照れなくてもいいのに!!」
照れてんのはてめーだバカ犬、と自分で言っておきながら顔を真っ赤にしている城之内に、バクラはそう指摘したくてたまらなかった。
恥ずかしいのならば、きかなければいいのに。
そう思ってはいても、初めて彼氏というものができたらしい城之内は、好奇心が旺盛なのだろう。中学時代の荒れ具合を聞いていれば、やたら経験豊富かその真逆だろうとは思っていたのだが、どうやら後者だったらしい。本当にケンカだけに明け暮れていたらしい凶暴なメス犬は、今ではすっかり男の下でクゥンクゥン鳴いてるようだが、その男を結構な頻度で血祭りに上げているらしいので牙が抜け落ちたわけではないようだ。
だが城之内がただのオンナになろうが、凶暴さを備えたままで成熟しようが、バクラにはどうでもいいことのはずだった。まだ二心同体だった頃からやたら懐かれて相談もされていたが、特に親身になってやった記憶はない。それでもこうしていまだに絡んでくるのは、城之内にとって、バクラはある意味において先輩と思っているからなのだろう。杏子のようなタイプには相談するだけで窘められるだろうし、城之内には母親がいない。バイト先ではひどく真面目らしく、学校で部活にも入っていないため交流は広いが浅く、他にこんな話題をできる相手がそもそも自分しかいないのだろうと諦めていても億劫だった。
「謙遜じゃねえよ、大体この体になってから三ヶ月しか経ってねえんだぞ?」
それ以前の、三千年前での経験はさすがにもう記憶が遠いことに加え、そもそも復讐に関係のないものはあまり覚えていないのだ。この体になってからはまだ三ヶ月であり、環境に慣れることに追われてばかりだったことは城之内も知っているはずだ。そう返したバクラに、城之内は不思議そうに首を傾げた。
「……でも、本田とはしてんだろ?」
「……。」
「だって絶対、お前がリードしてそうだし!! 本田は童貞だしなっ、て、あ、今は違うのかっ」
どうして知ってるのかとは、さすがにもう尋ねなかった。
その翌日に当該の男がこの世の終わりのような暗い顔で登校してきたため、勘のいいヤツは気がついただろう。更に言えば、この城之内には本人が相談した可能性すらある。当然のようにそんなことを言っていた城之内は、アッと声をあげるとポケットから何かを取り出した。
「忘れてたっ、今日はそれ聞きにきたんじゃないんだって。もう昼休み終わっちまう、早くしねえと……!!」
「オイ、バカ犬?」
城之内が殊更海馬との褥の話題を赤裸々に話してくるのは、バクラが聞くのをさほど嫌がらないからではない。
単純に、バクラも同じ立場、つまり彼氏持ちだからだ。
だが城之内にとっての海馬と、自分にとっての本田は激しく違うとバクラは知っている。更に、海馬にとっての城之内と、本田にとっての自分はもっと違うのだから、勝手に同類にしてくるなとバクラは心底思ったものだ。
それでも、相変わらず人の話を中途半端にしか聞かず、マイペースに振り回してくる城之内は、いそいそと制服のスカートから細長い布のようなものを出す。確かそれは来月頭に行われる体育祭で使われるハチマキであり、今日の体育で配られたばかりのものだ。
「それ、どうすんだよ?」
体育の授業中に、稀に競技の予行演習が行われることがある。その際に使用するためのハチマキであり、長さは一メートルちょっとだ。だが頭に巻くと髪のセットが崩れるとかで、午前中にあった体育の時間ほとんど女子は首にネクタイのように巻いており、それで組の見分けになるのかとバクラは疑問で仕方なかった。
だが今はそんなことはどうでもよく、どうして今ここで城之内がそんなものを取り出したのか、である。なんとなく嫌な予感がしつつも、腕を引っ張られればバクラは素直に両手を揃える。すると、慣れた手つきでぐるぐると手首を巻き始めた城之内に、バクラは思わず怒鳴ってしまった。
「なにがしてえんだっ、てめー!?」
「へ? ああ、これ本田のだから大丈夫だぜ?」
「……。」
ここ来る前にカツアゲしてきた、とさらりと告げる城之内に、そういうことじゃないとバクラは心底ため息をついた。
女子に体育の授業があれば、当然男子も同じ時間は体育だ。ハチマキが配られていたのは予想がつくが、どうしてそれを差し出させて、そして自分の手首に巻いてくるかが分からない。いや、分かりそうだからこそもっと嫌だと思っていたバクラに、キュキュッときつく留めた城之内は、その両手首を頭の上へとあげさせる。
「いやさ、ほら、さっきも言っただろ? 海馬縛ったら、スゲェ楽しかったって?」
「……同じ理屈なら、縛られるのはオレサマじゃねえだろ?」
背中側の壁には、すぐ横を排水溝のパイプが通っている。そこにハチマキの余った部分をせっせと括りつけている城之内に呆れて尋ねてみれば、一仕事終えて爽やかな気分になっているらしくあっさりと告げられた。
「バッカだなあっ、いつも従順な本田縛ったって、お前も面白くねえだろ!?」
「……『従順』?」
「ここはやっぱ、主導権持ってる方が縛られねえと!! 絶対楽しいって、海馬もそう言ってたから大丈夫だって!?」
嬉しそうに言っているところを悪いが、海馬は確実に縛られたまま主導権を握っていたのだろうし、愛する駄犬と触れ合えるならなんでも楽しいと真顔で言える男だ。
しかも、仮にそうだからとしても、それをお裾分けしてもらうつもりはない。城之内はどうも勘違いしているようだが、自分と本田は、そういう仲ではない。寝たことは事実だが、主導権が自分にあったとは思えない。従順というのはあくまで城之内に対する本田の対応であり、自分に対してはいつもどこかビクビクと怯え、萎縮して警戒しているというのが正しい認識だ。
「バカ犬、外見に似合いすぎるバカなこと言ってねえで、さっさとコレ解け」
だが何を説明してやるのも癪だったので、バクラは疲れたようにそう促す。もちろん強引に外してもいいのだが、力をこめた際にシャツかボタンかが弾ける可能性があり、それを宿主に見つかるのは面倒だ。
「もう授業も始まるだろ? 三ヶ月しかまともに通ってねえオレサマより成績悪ぃてめーでも、それぐらいは分かるよな?」
「テストのことは言うな!! なんだよ、ちょっとオレより胸がデカいと思って……!!」
適当に受けてみた一学期の期末テストと二学期の夏休み明けテストで、言い訳できないほど点数が開いてしまったことを指摘してみせたのだが、頬を膨らませている城之内の反論はやはりズレていた。
ちなみにバクラが平均点を上回れたのは、二心同体の頃からやたら授業中に代理で受けてノートを取らされていたからである。暇だったこともあり、バクラはそういうときに大抵は教科書類を流し読みして、ノートも律儀にとっていた。宿主であった獏良はどちらかといえば授業で話を聞くよりも、自分のペースで一人で学習する方が身につくらしく、バクラが代理出席状態でも成績はよかったのだ。
決闘などを見ていれば、決して頭の回転は悪くない城之内なので、勉強は単純に興味がなくて覚えられないだけなのだろう。その気になれば凄い集中力で高得点も狙えるのだろうが、いかんせん城之内の頭の中は大部分がバイトとデュエルと海馬で占められている。デュエルの中に友人たちのことも入っているのでその割合は大きく、普段の授業やテスト勉強に気合いを割く余裕はない。
いまいち危機感の薄いバクラがそんな分析をしていると、ハチマキで縛っていたので久しく触れられていなかったら胸をムギュッと掴んできた城之内がニッコリと笑いかける。
「大体、オレは授業出るしっ。出席だけでも稼がねえと、マジでヤバイしな」
「オイオイ、だからってオレサマをこのまま……?」
「……あ、来た」
どうやら城之内は午後の授業に出る気はあるらしい。ちょうど予鈴が響いているので、昼休み終了まではあと五分だ。屋上から二年生の教室まではやや距離もあるが、すぐに戻れば歩いても充分に間に合う。
だがその予鈴と重なるようにして、屋上に繋がる階段を上がる足音が聞こえ、城之内が呟いたときにはギィッと扉が開く音も続いた。
「……あれ? っかしいなあ、確か屋上つってたよな」
しかもそんな独り言が聞こえれば、相手が誰かは火を見るより明らかだ。
今バクラたちがいるのはドアのある壁からは左後方になるため、正面を向いている限りにおいては死角である。だが振り返れば当然視界に入り、それを促すために案の定城之内が声を張り上げた。
「本田っ、こっちこっち!!」
「ああ、なんだそっちか、て……ええっ!?」
城之内に呼ばれて振り返った長身は、間違いなくクラスメートの本田ヒロトだった。クラスで一番高いのは城之内の恋人である海馬だが、出現率があまりに低いので一般的には本田が一番高いと思われている。だがそれ以外は全く特徴もなく影が薄い男、と本人が思っているほどには、実は女子からの評価が低くはないことをバクラが知ったのは、この体を得てからだ。
これまで本田に彼女らしいものができなかったのは、一つは誰に対しても優しく大らかで誠実という態度のため、いわゆる『いい人』止まりだからである。だがもっと大きな理由としては、本田はあまりに正直なため、特別な好意を寄せる相手が露骨に分かりすぎる。他の女子にとは違い、大きな執着と際立った情を向ける相手が、本田には最初からいるのだ。少しでも本田に好意を寄せて気をつけて見ていれば、その相手が誰かということぐらいはすぐに分かる。そしてその相手には既に恋人がおり、それでも注ぐ情が変わらない様を見ていれば、普通の女子生徒などは本田の気持ちの深さに気後れして諦めてしまうという流れが自然だったらしい。
「いや、あの、城之内……?」
「いいから早く来いよっ、こっちからは動けねえの見えてんだろ、本田!!」
「あ、ああ……?」
随分と残酷な話だと、名前も覚えていない他のクラスの女子に無理矢理話を聞かされたとき、バクラは思ったものだ。
本田が執着している相手というのは、当然ながら城之内だ。獏良が転校してくる前なので詳しくは知らないものの、高校に入ってからも城之内は中学時代の因縁でいろいろ大変だったらしい。今でこそ海馬海馬と大好きなダーリンに浮かれっぱなしなバカな犬、というイメージしかない城之内だが、時折見せる肝の据わり方はやはり可愛らしい非行程度ではなかったことを窺わせる。そんな自分に城之内は嫌気が差し、荒れていた頃の連中とはスパッと縁を切っておきながら、唯一残っているのが本田だとくればそこに男女の仲を勘繰って当然だろう。
だが本田と城之内が過去にも現在にも恋人同士だったことがないのも、また周知の事実だ。それは分かりやすいほどに、城之内の方にその気がないからである。城之内は気まぐれで、情が深いように見えて警戒心が激しい。そのため、よほど慎重に付き合わなければ、好意を向けられた時点で相手を疑い始めるという厄介な性質の持ち主だ。よって、告白してきた男たちには、城之内は恋人などいらないという態度で一蹴してきた。そうして城之内の周りから離れざるをえなくなった男たちとは違い、本田は傍に在り続けていることから、一度も告白もしたことがないに違いない。そんなふうに思われている。
本田くんの気持ちも知らないで、そんなのってひどすぎるわ。
名前も知らない他のクラスの女子生徒はそんなふうにバクラに言っていたが、そう思うならば城之内本人に言ってみろと返せば、不機嫌そうに黙られた。
道を逸れずに育ってきた者にとって、城之内という存在は相当怖い。更に今では天下の海馬瀬人と付き合っているのだ、誰も一方的な非難などできないだろう。
どうやらその城之内に遠慮なく言える人物が増えたということで、バクラは見当違いな愚痴に付き合わされたらしい。ついでに、杏子や獏良といった面々はそういった伝言をとっくに託されていたのだと知った。当然無視していることも自明で、ならばと獏良の妹という肩書きで転入してきた自分に白羽の矢を立てたらしいが、お門違いもいいところだろう。
「おい、城之内、なにしてんだ……?」
「見て分かんだろっ、本田のために!! スゲェ楽しいこと用意してやってたんじゃねえか!!」
結局のところ、城之内に対して嫉妬を募らせるということは、本田に言ったところで目を覚ましてくれるとは思えないからだ。
きっと、城之内以外の言葉は本田には届かない。
そんなことは、あの名前も知らない女子生徒ですら知っていた、疑いようのない事実だ。
「た、楽しいって、オレは別に……!!」
「安心しろって、バクラも楽しいし!? な、バクラ!?」
「……。」
「なんだよーっ、素直になれって!!」
しかも、当の城之内はこんな調子で、やけに自分たちの仲を取り持とうとしてくる。いや、一応付き合っていることになっているのだから、どちらかといえばこういった下世話なお節介が多い。その根底にあるのは、城之内と海馬があまりに幸せなのでそのお裾分けといった感覚で、バクラにとってはありがた迷惑なだけだが、本田には残酷すぎる。
今更城之内に何を気づかせるつもりもないが、この無邪気さはやはりかなり腹立たしい。よって黙り込んでじっと睨んでみれば、何故か城之内より本田が慌てていた。
「ほ、ほら、バクラも怒ってるだろ!? 城之内、そんな冗談はやめてさっさと解いてやれよ……!!」
そんなこと言いながら駆け寄ってくる本田にも、城之内は相変わらずの調子で胸を揉んでくる。
「バクラが怒ってんのは、お前に甲斐性がねえからだろ?」
「えっ……!?」
「……待ちやがれバカ犬、いつオレサマがそんなこと言った?」
「お前も男ならビシッと決めろよ!! バクラはほんとは寂しがり屋なんだぜっ、いつでもお前にギュッて抱きしめててもらいたいだぜ!?」
それでも、さすがにそんな暴言は聞き流するわけにもいかず、バクラは腕は縛られたままなので仕方なく足を振り上げた。
「てめー、この、バカ犬っ!! 誰が……!?」
だがその足は、すぐにガッと片腕で押さえつけられる。
「……!?」
「なんだよっ、照れ隠しで蹴ってくんなよ? お前オレと一緒で結構力あるしさーっ、加減なしで蹴られたらさすがのオレだって痛いだろ?」
「このっ、バカ犬……!!」
いつの間にか胸から外された手が、いともあっさりとバクラの太腿をコンクリートに押し付けていた。ちなみにもう一方の足に城之内が座っているため、上げられるのは片方だけだったのだ。だがそれを簡単に片腕で止めた城之内は、ニコニコしながら本田へと振り返る。
「あーっ、なんかバクラちょっと今気が立ってるみてえだけど、頑張れよ?」
「お、おい、こんな状態で二人にされても……!?」
恐らくはキレかけたバクラよりも、そのバクラの足を片手で止めた城之内に本田は恐怖していたのだろう。急に話しかけられて驚きつつも、お鉢を回されることに本田はより焦っている。だがさっさとバクラの上から立ち上がった城之内は、呆然と立ち尽くしている本田の肩を軽く叩いてやった。
「じゃ、オレ授業出てくるから?」
「城之内……!!」
「後は若い二人に任せるぜっ、楽しんでこいよ!!」
そう言うと同時に本鈴が鳴り始めてしまったため、城之内はひどく自分勝手なことを言って走り出す。
「やべっ、遅刻しちまう!! つかオレ次の英語当たるんじゃなかったっけ……!?」
やばいやばいと言いながらさっさと屋上から出て行った城之内は、かなり乱暴にドアを閉めたらしくしばらくその余韻が響いた。そうして階段を駆け下りる足音も聞こえなくなれば、急に辺りは静かになる。
「……。」
「……。」
いや、午後の授業が始まったために、校舎全体が静かになったのだろう。
そんな静寂に包まれた中でも、この屋上は一際静かだ。そもそも二人しかおらず、どちらも口を開かないからだが、居心地の悪さだけは一級品だった。
少し強めに吹いた風が、屋上周りのフェンスを揺らしている。ギシギシという軋みが収まっても、バクラは視線を合わせることなく、ただただ沈黙を保って、さっさと不愉快な男がいなくなってくれることを願っていた。
| ▲お試し版メニューに戻る −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 一番最初の話なんで、まだそこまで仲良くなかったりします。 これから、海城も、本バクも、いろいろありますけど、基本的に二つのカプが恋愛的に絡むことはないです。仲がいいだけです。 本バクは他と多少ありますが、まあ、いつものアレで… 深刻ではなく… あ、世界観は一応原作設定です。 バクラさんが戻ってるとか、そもそも女体じゃねえかとか、何をもってパラレルと言っていいものか悩むのですが、そういうイメージで… だいたい、こんな感じで! まあ、女体なので、いろいろ、大丈夫な方のみでお願いします・・・ ロボっぽい何か |