■説明しない
今日も相変わらず修行がうまくいかない。
一頃のどん詰まり感こそ脱したものの、前途は依然として多難だ。
「……山本?」
「……。」
体を休ませるのも修行のうちだとは心得ていたので、体力的なトレーニングは適度に切り上げて夕食は取った。そこからはこの十年後の世界の状況を少しでも把握するために資料室へと篭り、そろそろシャワーを浴びて寝るかと思いながら廊下へと出たところで、見知った顔に出迎えられた。
「なんだよ、もう寝たんじゃなかったのか?」
夕飯までは一緒で、その後はまた各自での行動となる。元々体力バカな上に鍛えることに対しては極端なまでに熱心な気質は知っていたので、そこからはまたトレーニングメニューとは違う自主練のようなことをしていたのだろう。
だがそれも、日付が変わりそうな深夜まで行っていたはずがない。
そんなことをしていれば、きちんと休息も取れと助言か鉄拳かが飛んでくるからだ。
「獄寺だって寝てねえだろ?」
実際に、山本は夕食時に着ていた私服とは違っている。この状況なのでいつ何がどうなるか分からないこともあり、寝るからといってパジャマに着替えるようなことはない。そのため部屋着よりは厚手の私服だが、着替えている以上はもうシャワーを浴びたはずだ。
汗ではなく、さらさらとしたシャワーの水でしっとりと濡れているようにも見える伸びた髪に、不意にぞくりとしたものを感じる。だがそれを自覚するのも不謹慎な気がして、殊更焦って会話を続けようとするが、まるで拒むかのように山本がくるりと背を向けていた。
「山本……?」
「でも、もうそろそろ獄寺も寝ねえと。あんま根詰めても、いい結果は出ねえぜ?」
「あ、ああ……?」
一瞬、たまたま通りがかっただけでもう会話は終わりだと打ち切られたのかと思った。
だが背を向けて歩き始めた山本は、ごく自然に会話を続けている。進む先は居住区がある方向なので、獄寺の部屋も、山本の部屋もある。そのため、連れ立って歩いているようでも、単に方向が同じだけかとも考えたが、やはりそれには素直に納得できなかった。
資料室のドアを開けて、すぐのところに山本は立っていた。
獄寺を待っていた、あるいは呼びにでもきたといった様相だ。
その理由を推測すれば、獄寺がまだ寝ていない様子だったので、窘めにきたといったところか。そこに若干の違和感があったが、このときはまだ他のことに気を取られる。
余計なお世話だと思わないでもないが、目くじらを立てるほどではない。山本がお節介なのは知っているし、もし時間を忘れて資料に没頭していれば、きちんと体を休める時間だと教えにきてもらえれば助かっただろう。その親切は無駄になったが、だからといって不愉快な気はしない。むしろ期せずして寝る前に山本の顔を見れて胸が弾んだとまでは思考がいかなかったのは、単純な自制だけではなく、山本が急に足を止めたからだ。
「山本?」
「……。」
少し斜め後ろを歩いていた獄寺がぶつからずにすんだのは、足を止めた山本が、すぐに方向を変えて歩き始めたからだ。既にエリアは居住区へと入り、最初に右へと折れるのはいつものことだ。つられるようにして足を向け、一歩を踏み出したところで獄寺ははっきりと間違いに気がついていた。
「……あっ、おい、山本?」
右に曲がる経路を、一本間違えている。
地下に作った巨大な施設は、どうしても造りが似通ってしまい、目印となる数字や記号、色分けされたラインなどを確認しないと迷いやすい。自分たちの部屋があるのはもう一つ先の曲がり角だと笑いながら指摘してやろうとして、言葉を飲んだ。
「山本……?」
「……。」
山本の背中はしっかりとした目的があるかのように進んでおり、到底通路を間違えているようには思えない。思わず自分が間違えているのかと首を傾げ、壁にある識別用のペイント表示を見る。だがやはり私室に向かうにはもう一本先の通路であり、首を傾げたままで更にこの間違った通路の先を見やるが、取り立てて施設らしいものもなかった。
頭に叩き込んだこの地下施設の地図によれば、この先は確か本来居住区になるはずだった区域だ。だが工事中のまま放置されており、完成されていない。そのため、工事を再開する以外の理由で立ち入るはずもない区域で、山本もそんなことをするはずがないとくれば、やはり間違えているのだと結論付けた。
「山本っ、オイ、だからそっちに行っても……!!」
何もねえぞと呼びかけながら、随分と開いてしまっていた距離を慌てて追いかけつつも、出たばかりの結論がまた覆りそうになる。
この先に目的になりそうな施設などがないのは、確かだ。
だがそれでいて、山本は道を間違えていない。
「だからっ、山本、そんなとこになんの用が……!!」
ようやく追いつきそうになっても、山本が振り返ったり、足を止めたりすることはない。
むしろ私室からは更に遠ざかる方になる狭い通路へと曲がってしまってしまい、姿が視界から消えたところで獄寺はますます焦ってしまった。
まるで、あのときの山本のようだ。
こちらが何を言っても届かず、響かず、分かってもらえない。
そもそも自分の言葉が混乱していた故の八つ当たりだったからだと今ならば分かっても、そのときは本当に伝わらないことに苛立って、同時に絶望も覚えた。
「山本!!」
いつも、近くにいると思っていたのに。
だからこそ余計にあのときは失う不安に怯えたというのは口が裂けても言えないが、その代わりに差し歯をしたばかりの口の奥の方が、ズキリと痛んだ気がしていた。
「だからっ、こんなところに何の用が……うおっ!?」
「……ここには、用はねえのな」
だが姿を見失ったことで焦って角を曲がった途端、そこで振り返っていた山本にいきなり正面から抱きしめられていた。
思わず胸に飛び込むような格好になったのは、策に嵌ったようで悔しい。
それ以上に包み込まれる体温に胸が弾んでいると、ギュウギュウと両手で抱きしめてくる山本が、耳元でそんなふうに返してくる。その言葉に一瞬怪訝そうにしてしまったが、すぐにそれはこの『場所』には用がないという意味だと悟り、また呆れたため息をつくことになった。
「……バカ、オレに用なら部屋でもよかっただろ?」
この場所でなくてもよかったが、山本は獄寺に用があったのだ。
しかもその用件の大半は、既にこうして抱きしめたことですんでいるのだろう。体温に甘えるように顔を摺り寄せてくる山本へ、獄寺は片手を背中へと回し、もう一方の手をまだ濡れている少し伸びた髪へとやる。そして動物でも宥めるかのようにしばらく撫でてやっていれば、やがて山本は満たされたような深い息を吐いていた。
「……行ったけど、いなかったから」
「ハ?」
「獄寺の部屋、行ったけど、いなかったから。まだ頑張ってんのかなって思って、待っちゃったのな」
どこか後ろめたそうな告白にも聞こえたが、それで分かったこともある。先ほど山本の行動を推察していたとき、感じた違和感はこれだったのだ。
確かに、獄寺がまだ資料室にいるだろうという推測は、私室にいないことが前提になるはずだ。そうして不在を知ったのは結果論であり、そもそも獄寺の私室に夜一人で山本が訪れてくる理由など考えるまでもない。
今もこんな場所で抱き合うことになるほど、山本が飢えているという証拠だ。
「それで、テメェはこうしてるだけで満足なのか?」
自分たちの仲はツナのような親しいところでは周知であるし、こうして抱きしめ合う程度ならばわざわざここまで人目を避けることはない。そもそも私室に訪ねてきたのであれば、もっと違うことがしたかったのではないかと促した獄寺に、山本はゆっくりと顔を上げる。そして戸惑うように口元を動かしていたが、何を言う前にいきなり唇を押し当ててきていた。
「んっ!?……おい」
「……えっと、チュウしたい」
「もうしただろうがよ……!!」
唇が触れ合うだけとはいえ、キスには違いない。それを、既にしてからしたいと言うのはおかしいとばかりに睨んでみせれば、所詮はじゃれあいの延長と心得ているのか、全く動じた様子もなく山本はじれったそうに唇を舐めてくる。
「おい……!!」
「んー、もっと、凄いの。むちゅーって感じのが、したいのなー……。」
獄寺が拒むとは全く考えていない様子の山本は、そんなことを言ってしゃべっている途中の獄寺の口の中まで舐めてこようとしている。
山本は元々キスが好きだった。今ではすっかり体もいやらしくなっているが、最初からそうだったわけではない。獄寺が手ずから慣らし、快楽を教え込み、享受できるように作り変えたのだ。それは獄寺の中で相当な自慢になっているが、生憎ひけらかせる相手がいないのが悩みどころである。しかもいくら従順にさせたとはいえ、それはあくまで獄寺とする快楽に対してであり、むしろそうしてすがられるからこそ獄寺の方が逆説的に山本に縛られている気になることもよくあった。
「なあ、獄寺、していい……?」
山本に求められると、手を出してやらずにはいられないのだ。
このときもその典型だったが、ここ数週間、正確にはあの日から変わっている行動の主体に気がついて、獄寺は仕方なさそうに装いながら口を開いてやっていた。
「ほら、キスぐれえ好きなだけしてこいって?」
「ん……んー……んんっ、ん、んぁっ……!!」
獄寺が組み敷くまで、セックスはもちろん、キスすらしたことがなかった山本は、ついでに知識も乏しく戸惑うばかりだった。そのため抵抗も奉仕もするでもなく、ただ快楽に足を開くだけだったが、獄寺はそれでも構わなかった。同じ男でありながら、男に足を開くことの抵抗感を考えれば山本はよく頑張ってくれていると知っていたからだ。
そんな状況が年単位で続けばさすがの獄寺も音を上げたかもしれないが、実際には数ヶ月で劇的な変化は訪れたのである。その最初の兆候はこのキスで、獄寺からの許可を得た山本の舌が口内へとぬるりと滑り込んでいる。
「んっ、んー……ふぁっ、あぁ、ん……!!」
「……。」
だがそうして獄寺の口内に侵入した山本の舌は、中で激しく蠢くようなことはまずない。ただ一箇所、こうして山本から確かめるようなキスを求めるキッカケになったあの日、山本によって抜けた歯の辺りを舌で触ってくるのだ。
今では差し歯も収まりがよくなっているが、怪我をしたばかりのころは、まだ歯茎の傷が完治していなかったり腫れていたりして痛んだものだ。そこを遠慮なく舌でぐりぐりと撫でてくる山本に、初めてこうされたときは実はまだ怒っているのかと恐怖した。
だが実際にはこれは山本にとって、純粋な確認と謝罪なのだ。そうしてある程度傷が治ったと分かれば、山本はひどくほっとするのである。するとそこでやたら積極的に獄寺の口内の一点だけを舐め回していた舌はピタリと動きを止め、以前のような愛され待ち状態に入る。
「ん……んー……?」
「……。」
「んー……!!」
すっかり動く気はなくした舌でも、獄寺の口内から出て行くことはない。むしろ唸るような声と開けたところで焦点が合うとも思えない瞳でねだられ、獄寺は内心笑ってしまいそうになった。どれだけ甘やかされたいのだと思いつつ、山本がこうしてワガママとも取れる一面を見せてくるのが自分に対してだけだと知っていれば、拒めるはずもなかった。
後ろ頭へと回していた方の手で頭をぐっと更に引き寄せ、角度を変えるようにして深く口を合わせる。そうして口内で獄寺の方から舌で促し、しっかりと差し込まれた山本の舌をまずはねっとりと舐めてやっていた。
「ふぁっ……ん、んんっ……!!」
「……。」
全体を舐め回し、軽く歯を立てるようにして食んでやる。痛くはないがしっかりした刺激で愛撫した後は再び唾液をたっぷりと絡めて舌で舌を翻弄し、時折吸ってやればその度に抱き寄せた山本の体が小さくビクビクと跳ねていた。
「ん、んぁっ、んー……!!」
最初こそ獄寺の舌との接触に過敏に反応していた山本の舌だが、やがて痺れてきたのか、あるいは単に力が入らなくなってきただけなのか、されるがままになっている。
そうして何度もたっぷりと口内で可愛がってやってから、山本の唾液が口の端から垂れる頃になって獄寺はようやく舌で舌を押し返すようにしてキスを終えていた。
「ん、あ……あー……?」
「バカ、テメェもうキスだけじゃ足りなくなってんだろうが?」
「……ん」
口の端からこぼれる唾液にも気がついていないようなので、仕方なく獄寺がベロリと頬ごと舐めてやる。するとそれにも気持ち良さそうな声をぼんやりとした視線で漏らした山本は、笑いながら尋ねた獄寺に素直に頷いていた。獄寺よりは背の高い山本だが、もう半分もたれかかっている状態だ。悔しいが体格差で若干支えるのがきつくなってきていた獄寺は、腰を引き寄せる腕で誘導をして山本を通路の壁へと背を押しつける格好に変えてやる。
「ごく、でら……?」
「どうせ部屋まで待てねえとか言いやがんだろ? まあ、実際歩けそうにねえしな」
こんな状態じゃあ、と続けながら、獄寺は腰を抱く手を抜き、山本のズボンの上から布を押し上げてそそり立っていそうなモノをギュッと押さえ込んでみせていた。
「ふぁっ……!?」
「あーあ、もうこんなにしちまって? 山本、そんなにオレにキスされるの気持ちよかったか?」
「ん、きもち、よかっ……んぁっ、ア、獄寺ぁ、そんな、に…した、らぁ……んぁっ、あ、アァッ……!!」
相変わらず感度のいい山本を気をよくし、服の上から撫でる手を強めれば山本は息を詰めてその刺激に耐えていた。背中を壁へと押しやっているのでかろうじてもたれかかっているが、この分ではいつ座り込んでもおかしくない。それを支えるためにという名目はほとんどないままに、獄寺は股間から手は抜いてやったものの代わりに片方の膝をねじ込み、ずるずると崩れ落ちそうだった山本のそこを押し上げるようしてやった。
「ア、やぁっ……!?」
「山本、そんなにオレの口でされるの気に入ったか? だったらココもしてやろうか?」
ココだと場所を示すためにわざと膝を持ち上げ、揺するようにしてやれば山本はまた息を詰めている。
実際にそこまでの愛撫をしなくても、山本は達してしまいそうだ。だがこうして簡単に熱を上げてくれる山本が嬉しくて、ねだられればしてやるつもりだった獄寺に、両腕をつかんできていた山本はようやく顔を上げてくる。
「ご、獄寺ぁ……!!」
「ああ……?」
だが期待したようなおねだりも、快楽に濡れた瞳も拝むことはできなかった。山本は必死で首を振り、どうやら拒絶しているようだ。最初は単に気持ちよすぎて快楽を紛らわせる仕草かと思ったが、そうではないらしい。それでも、ここまで感じているのであれば出すしかないだろうと怪訝そうに片手を頬へと添えてやった獄寺に、山本はハッと息を飲み、自然とまた俯いていた顔をもう一度上げていた。
「ご、獄寺の、口……!!」
「で、されるのはイヤってことか?」
「……イイ、けど。でも、オレの口にも、ちょーだい」
両方、と大きくアーンと口を開けてみせる山本に、さすがの獄寺も一瞬面食らう。だがいつしか足の間に差し入れた獄寺の膝に、むしろ擦りつけるようにしてもどかしそうにしている山本の様子に気がつけば、『両方』の意味など知れようというものだ。
それだけ、山本は煽られている。
そのことには興奮したのに、何故か胸を突き刺すような鋭い痛みも感じた。
「……なんで」
「ごく、でら……?」
急に、山本はこうして求めてきたのだろう。
夕食の際に顔を合わせたときは、いつもと様子は変わらなかった。それでもふと頭をよぎったのは、ほんの数日前、最も獄寺が追い詰められていたときに、獄寺のいないところでリボーンによってその生い立ちを話されていたということだ。
バラされたことに怒りはほとんどなかったが、変な焦りは感じた。そもそももうツナとこの山本が知っているのだと気がついたのが翌朝だったので葛藤する余裕すらなかったのだが、そのとき最も危惧したことがあったはずなのだ。
「……同情か」
「え、獄寺……?」
「……。」
ツナに対してされるのであれば、不甲斐ないとは思うものの、純粋な思いやりだとも分かっているので腹立たしさはない。
だが、山本に同じことをされると、どうしても納得できない。あるいは、受け流すことができない。山本も同じように本当に自分を慈しんでの憐れみだと分かっているが、そうであっても、苛立つのだ。
何故かと自問すれば、簡単だ。
ツナに対しては、どこか雲の上の遠い存在に感じている部分があり、そこにいて触れることもできるのに神にも近い偶像のような感覚を抱いている。
だが山本に対しては、どうしても肉欲まで伴った現実的な存在という印象が強い。先を行かれれば腹立たしいし、遅れられれば引き摺りたい。自分と違う道を見ているならどんな手を使ってでも軌道修正をさせ、いつも、いつまでも、隣で甘えさせてやりたい唯一の存在なのだ。
そんな山本から、ツナと同じような感情を向けられると、急に遠くなったようで苛立つ。
それと同時に、認めたくないが、寂しい。
「えっと……?」
「……。」
獄寺の生い立ちを知り、それからも修行がうまくいっていないことも察して、気分転換でもさせてくれるつもりだったのか。
確かに気持ちは転換しそうだったが、気がついてしまっては悪い方向に舵は切られている。
きっと、山本なりの思いやりなのだ。
いっそ愛だと言ってもいい。
そうと分かっていても素直に受け止められなかった自分に最大の苛立ちを感じたとき、ぼんやりとした様子でしばらく逡巡していた山本が、いきなり頷いていた。
「そ、そうそうっ、そーなのな!! どーじょーなのな!!」
「……テメェそれ絶対嘘だろ」
「えっ……!?」
山本は始め呆気に取られ、獄寺の言葉を頭の中で吟味するような素振りを見せ、それから一度首を振りかけて、ハッと気がついたように息を飲んでからいきなり同情だと大きく肯定したのだ。
ここまであからさまだと、さすがの獄寺でも嘘だと見抜けてしまう。冷めた調子で淡々と指摘してみれば、山本はますます困った様子で視線を彷徨わせていた。だがやがてつかんでいた両手を動かし、獄寺の両肩へと乗せると、どこか泣き出しそうな顔で尋ねてきていた。
「だって……その、同情のが、いいんだろ……?」
「何と比べてだよ」
こんなふうに急に求められて、同情の方がマシだと思うほどの真の理由とはなんなのか。
具体的な例など思いつかなかったが、自らの機嫌がますます下がったことだけは獄寺にも分かった。そんな獄寺の雰囲気を察してか、山本はきゅっと固く唇を結んで押し黙ってしまう。そうされれば逆に居たたまれなくもなったきた獄寺は、ため息一つでなんとか自分の情けなさを吹き飛ばし、できるだけ優しく山本に促してやる。
「……別に、どんな理由でも怒りゃしねえって? ちょっと気になっただけだ。山本、言ってみろよ?」
「獄寺……。」
添えたままだった手で顔を上げさせれば、山本はまだどこか不安そうな顔をしている。それに、大丈夫だと示すために一度唇を寄せてチュッと音を立てるキスを贈ってやれば、山本は嬉しそうにしていた。
「んっ……。」
「……それで?」
「え? あー……ええと、ない」
「ハ?」
だが機嫌は治ったと思ったのにあっさりと告げられ、さすがに面食らったところで山本から繰り返されていた。
「えっと、別に理由とかねえのっ。修行終わったし、休息も取らなきゃいけねえって言われてるし、もう寝ようかなってベッドまでは入ったんだけど、急に獄寺に会いたくなったのな」
「……。」
「……獄寺と、シたくなったのなっ」
それだけそれだけと繰り返してしばらく嬉しそうに首筋に顔を摺り寄せていた山本だったが、獄寺の反応がないことに不安になったのか、心配そうに顔を上げてくる。
「獄寺、やっぱり理由がなくてこんな急にしたくなるとか、そんなの……!!」
普段から理屈っぽいとよく言われる獄寺なので、そんなふうに理由もなく説明もできない衝動で求めたりするなと、そんなふうに怒って押し黙っているのだろうと山本は思ったようだ。
だが、実際には違っていた。獄寺は単に、急にせりあがってきた感情を抑えこむのに必死になっていただけだ。
「獄寺……?」
「……バカ、山本、そんな理由もねえとか、それなのに」
打算もなく、気遣ったわけでもなく。
ただ純粋に、獄寺が欲しい。
変な理屈をつけて衝動を説明立てようとすることもない山本は、本当にただ獄寺としたくなっただけなのだ。快楽だけならば一人でも抜けるし、そもそも男相手にされたがる必要はない。
だがそこで獄寺だけを欲し、その獄寺とは最も深く生々しい繋がり方を願い、こうして言葉でも行動でもあからさまに示してくれる。
「ご、獄寺、その、オレ……!!」
「……このっ、バカ。いっそオレの方が同情してやるよ、んなこと言ってこんな場所でメチャクチャによがらせられても知らねえぞ?」
「え?」
そのままゆっくりと膝を下ろしていき、獄寺は山本を支えたままで一緒に床へと座り込む。そして壁から離すようにしっかりと腰を引き寄せれば、どうやら獄寺は怒っているわけではないらしいと分かった様子の山本は、本当に嬉しそうに笑っていた。
「でもそれ、オレ別に可哀想じゃないんじゃね? だってオレ、獄寺にメチャクチャに愛されたいのなー!!」
「……バカッ」
獄寺大好きっ、と向かい合って座ったままギュウギュウと抱き締めてくる腕の苦しさにも、獄寺はどこか安堵してしまった。
こんなふうに、誰かに抱き締められたことはなかった。
いや、もしかすると記憶がおぼろげなくらい昔には、数度あったのかもしれない。
だがそれは慈しまれる情愛であり、山本からのものとは違うものだ。
それでも。
「なあ獄寺、オレのことも好きって言って?」
「……。」
「オレ、急に好きって言ってもらいたくもなったのなっ。あ、そうだ、これが理由なのかな?」
感動したばかりなのに早速理由を見つけてしまっている山本の薄情さすら、いっそ愛しい。だからこそ獄寺はわざとらしく深いため息をついてやり、山本を散々不安がらせてからしっかりと抱き寄せて耳元で囁いてやっていた。
きっと、もっと好きになる。
オレも、お前もな。
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