※注意※
これ書いてる時点(今日は7/21)で、本誌は標的105までです。
山サンがヒバリさんを止めたり、0%→0%発言があったりした回です(そんな説明!)
管理人は早売りとか見れないロボなので、あくまで標的105まででの妄想です(オイ
標的106以降であからさまにおかしい妄想になっちゃっても勘弁してね☆(オイオイ!
ちなみに。
内容としては、獄寺戦で頑なに無言だった山サンに。
「山本に似た何か(=メカ武)説」以外の説を提唱してみただけの妄想です。(待て待て
あと、獄山です。(ほんとだよ!
まあ、獄寺氏ほとんど出てきませんが(それって!)、
なんかほんと妄想でもよろしければどうぞ…アワワワ!
■てのひら
「……。」
「どうしたツナ、黙りこくって?」
低い位置から話しかけられた言葉に、ハッと息を飲んだ。
丑三つ時という時刻に、町外れの廃病院とくれば絶好の心霊スポットだ。
だがこの場所が、今では自分たちの『生』を感じさせてくれる。ヴァリアーとの戦いで傷ついた仲間たちが収容され、治療を施されている施設だからだ。
「獄寺は落ち着いたみたいだぞ」
本来ならば待合スペースだったはずの建物入り口付近に、粗末なソファーが置かれている。そこへ腰を下ろしていたところに、病室から出てきたらしいリボーンがそう教えてくれていた。
嵐のリングの守護者同士の戦いで、獄寺もまた傷ついた。ランボのときより多少マシとはいえ、出血多量で意識が混濁しかけるほどだったのだ。
そんな大怪我を負った友人を見て。
心から『生きてくれててよかった』などと思ってしまえる事態が、歯痒くて仕方がない。
「なら、後で顔を見に行くよ」
「それがいいな。なにしろ獄寺はあんな調子だ、ツナが傍に居ると満足に治療も受けたがらねえ」
「……うん」
校舎内で応急処置をした後、運ばれる際に当然自分は傍にいて気遣いたかった。
だがそれを、すっと肩を押して拒んだのは実際に獄寺を抱えていた友人だ。
その意味するところは明らか過ぎて、自分は何も言えずに従うしかなかった。ようやく処置も終え、静かになっている病室から出てきたリボーンが言ったとおりだったのだ。
獄寺は、自分をボスとして尊敬してくれているからこそ、平気だと強がる。
口ではどうこう言っても、リングを渡してきてしまったことを後悔している。
治療を拒むわけではないが、軽傷だと無理をして笑わせてしまうことに気がついたとき、そっと肩を押されて病室から出るように示された。自分が居ては駄目なのだ、と、恐らくあの場にいた全員が気がついていて誰も指摘しなかった。それは第一に獄寺の心情を気遣い、第二に自分のことも気遣ってくれたからだろう。
あのとき獄寺が戻ってきてくれたのは、自分の言葉に応えてくれたからだと信じている。
だからこそ戻ってきてくれた友人に少しでも報いようと傍に居続けた自分は、結局は獄寺のためにならないことをしていた。
「どうせしばらくは起きねえ。顔だけ見たら、お前はまた修行だぞ」
「分かってるよ。オレだって……絶対に、負けられない」
負けたくない、絶対に。
獄寺だけでなく、これまで傷を負った仲間たちのためにも。
そう繰り返す決意に揺るぎはないのに、握り締めた手が震えてしまう。戦うことが怖くないわけではない、当たり前だ、怖いに決まっている。だが今はそれ以上に怒りの方が大きくて、どうにもならない。
そしてそれ以上に、不安のような何か大きな波が押し寄せている実感に、手の震えは止まらなかった。
「……山本のことだがな」
「……!?」
静かすぎる待合スペースで、唐突に切り出された言葉に自分はビクッと肩を震わせてしまった。
心の中を見透かされたのかと思ったのだ。だがよく考えなくとも、次の対戦は雨のリングの守護者なのだ。その名が出てきても不自然ではない。
あるいは、リボーンには珍しく自分を気遣っているのかもしれない。なにしろ、何も分からずただ傍に居ることが友情だと信じて獄寺の横に立ち尽くしていた自分を、病室から出るよう促したのは山本なのだ。もちろんすまなそうに、苦笑を浮かべて肩を押した山本に、若干非難の色が混じった目が集まった。声にまで出して詰ったのが獄寺だったのも、当然の流れだった。
だがそうして周りからどう思われようが、あるいは獄寺本人からどう思われたとしても、山本はしっかりとこちらを見据えて病室から出てくれと頼んでいた。
そのときに、自分はようやく理解できた。
自分や、獄寺の心情を気遣った者は多くいても、獄寺の身体を優先させた者は山本だけだった。結局それは獄寺の心情は蔑ろにすることになり、唯一恨まれることになる。
それでも構わない、というより、山本には関係ないのだろう。
ただ、最も心配すべきは獄寺の精神より大怪我を負ったままの身体だっただけだ。もちろん精神的により参っていれば、きっと気持ちを気遣った。だがそうではないと判断したから、傷が深い身体を心配したにすぎない。
感情に流されがちな自覚もある自分なので、そうして冷静な判断をしてくれる者がいるのは有難かった。実際に自分が病室から出て以降、獄寺は大人しく輸血も受けてくれたらしい。そう思えば山本は実に的確だったと思うのだが、そこに違和感を見て仕方がない。
「さっきのことなら、気にしてない。オレが病室にいるべきじゃなかったのは、ほんとだし……。」
「……それだけか?」
「それとも、明日の対戦? 大丈夫、山本なら大丈夫だ、だって……!!」
獄寺を気遣う親切を無下にされたと、山本を逆恨みなどしていない。
可能性は低そうだったが、そういうフォローかと思い返してみれば、リボーンは微妙な切り返しをしてきていた。
そうなると、単純に明日の勝算のことかもしれない。ディーノからの情報で知ったことだが、山本の対戦相手であるスクアーロは本来ヴァリアーのボスになるはずだった男らしい。発言がいちいちアレなのでつい忘れがちだが、ほんの数週間前、一人で山本と獄寺をのしたほどの兵だ。簡単な相手ではないことは明らかだ。
だが、そんな話題ならば尚更不要だと自分はリボーンを笑いたかった。
こんな場で、このタイミングで切り出すほどの話題ではない。
「だって、山本は、あんなに……!!」
「……。」
強くなってたじゃないか。
予想だにせず乱入してきたヒバリを止めた身のこなしは、確実に修行の成果だろう。そう思えば、山本が負けるはずがない。あんなに強くなっていたのだから、と続けるつもりだったのに、嗚咽をこらえた後にもれた自分の言葉は、違うものになっていた。
「あんな、に……冷静、だったじゃないか」
「……ああ」
スクアーロに挑発されたときではない、基本的には負けず嫌いな側面もあるのであの程度はこれまでの山本からも予想がつく範囲内の反応だ。
ただ、その前から。
何かが違う、何かがおかしいと、ずっと自分は感じていた。
その違和感の理由がずっと分からなかったのは、モニター越しではあっても目の前で繰り広げられる獄寺の戦いがあまりに凄惨だったからだ。
「獄寺君の、戦いの、前。みんなで円陣をしたときは、いつもの通りで……。」
「……そうだな」
「けど、それから……獄寺君の戦いが始まってからも、山本は、ずっと……!!」
めまぐるしく動く戦況、モニター越しという視野の限界。
なにより二倍三倍と容赦なく放たれるダイナマイトの爆音で、こちらの意識はとにかく対戦に持っていかれてしまう。
獄寺が優勢に立てば喜び、劣勢に立てば心配する。
敵の奇行に驚愕したり、その理由をリボーンなどに説明されて更に恐怖が増した。
そのいちいちを顔に、声に、なにより感情に出してしまう自分の横に、確かに山本は立っていたはずなのだ。だが肩に乗っていたリボーンの声は覚えているが、山本の声を聞いた記憶はなかった。
「……山本は、ずっと『冷静』だったからな」
「やっぱり、そう、なんだ。オレが、聞こえなかっただけかと期待してた……。」
それでも、対戦が始まった当初は何か言っていた気もする。だが普通は、次第に優勢にも劣勢にもなっていった方が、自然と声も出るものなのではないか。
いや、戦況が激変していったからこそ、『声も出なくなった』。
そう考えればいいのだと何度も自分に言い聞かせているのに、それが上手くいかない。獄寺の対戦が終わった直後、次は頼むと言われたときのあの笑顔。それだけならば不自然と思わなかったはずの、スクアーロの挑発に返した際の余裕。なにより先ほど自分を病室から追い出せるほどの『冷静さ』は、山本がずっと持ちえていたものなのか。
不安で、仕方がない。
「……冷静なのが、悪いっていうんじゃないんだ。熱くなって周りが見えなくなるよりはよっぽどいいし、なにより山本は割りと飄々としてるタイプだったから」
「けど、今夜はそうは見えなかったんだな?」
「……事態を理解できなくて、面食らってただけならまだいい。けど、山本は『分かってた』と思うんだ」
そのことが、怖い。
元々『分かっていなかった』のが、山本だ。黒曜中学との戦いですら、まだ『ごっこ』と思っていたはずの山本は、もしかしてこれがマフィアであり、ファミリー内の抗争だと理解できたのか。
できていないはずだ、と叫ぶ自分が居る。
それよりも、できていないのにこうなってしまったのでは、と呟く自分に、震えが止まらない。
「どうしよう、どうしよう、リボーン……山本、おかしくなっちゃったのかな……!!」
「……どういう状態を、『おかしい』て言うのかが問題だけどな」
「だって、だってあんなのおかしいだろ!? 獄寺君だぞ、獄寺君が、だぞ!? あの獄寺君が戦ってて、あんなにボロボロになって。それでいて、冷静に受け止められてて……止めに入るなんてことができない以上、できることは次の対戦で勝つことだけだって割り切って、それは正しいけど、でも……!!」
山本は、最善の態度だったと思う。
まだ対戦が控えている以上、無駄に取り乱すよりは精神的に安定を保った方が賢明だ。ランボの対戦の際に自分が割って入ってリングを取られてしまったのを目の当たりにした以上、『勝つ』ためにはたとえ獄寺が負けそうでも乱入などできない。そうして実際に獄寺が負け、後がなくなったところで頼むと言われて、大丈夫だと笑ってみせる。驚異的な強さを見せた敵に平然と返すことも、『勝つ』ためには最善だったはずなのだ。
そうか、だからか。
そこまで自分の考えが回ったとき、違和感がストンと納得できた。
山本のこの冷静さは、間違っていないのにどこか不安を煽った。その理由は、すべての言動が『勝つ』ことを第一の目標に置いているからだと理解してしまった。
「山本、は……。」
「……。」
マフィアなんて、理解していなかった。
それにも関わらず、巻き込んでしまったのか。
確かに負けず嫌いではあるが、負けたとしても次にまた勝てばいいという楽観的で前向きな思考だったことは、ヒバリへの対応を見ていれば分かる。大切な友人が、あるいは友人以上の想いを寄せている者があんなにボロボロになって戦っているのを見て、動揺もしないほど『勝ち』だけを見据えることなど、できるはずがなかった。
「……ツナ、不満か? それとも、不安か?」
「両方、かな。不満なのは、むしろオレに対してで……不安、なのは……。」
明日、勝っても負けても山本は山本でなくなってしまうのではないのか、という不安だ。
恐怖、と言い換えてもいい。
そこに巻き込んでしまったのが確実に自分であるという現実が、後悔を更に加速させる。
「頭では、分かってるんだ。勝たなきゃいけないんだし、山本が冷静でいてくれることは有難いって。けど……。」
「家光が言っていたな。山本に足りないのは、『気迫』だってな」
「……父さんが、そんなことを」
マフィア『ごっこ』だと思っていた点を抜きにしても、それにはひどく共感できた。真剣みが足りないというのではない、ただ山本にとってはどこまでも『遊び』だったというだけの話だ。
それを克服、あるいは会得するために行った修行で、山本は確かに変わったはずだ。ヒバリを止めた身のこなしからもそれは明らかだが、もっと、精神的に。
内面が、変わったはずなのだ。
だが気迫どころか、変に冷静に落ち着いてしまっている。それがいいことなのかどうなのか、ただ不安で自分は頭を抱えるしかなかった。
「オレが、オレがこんなことに……巻き込んじゃった、から……!!」
「……。」
ランボのときと同じ後悔が、胸に去来する。
だがランボのときと違うのは、対戦が始まる前に勝敗に限らず『崩壊』が見えてしまっているからかもしれない。
それも山本が選んだ道だ、自分の所為でと後悔すること自体おこがましいのかもしれない。
それでも、山本が山本でなくなってしまう恐怖は消えてくれない。
そのとき、ふとリボーンが尋ねていた。
「……確かに、ほとんど黙り込んでた山本だったが。ツナ、あいつが久しぶりに叫んだ言葉、覚えてるか?」
「え……?」
ポケットに両手を突っ込み、野球中継でも眺めるかのようにモニターを見上げていた山本だ。もしかすると、まだ野球の試合の方が興奮していたのではないかとすら思う。
だがあのとき最も近く、山本の肩に乗っていたはずのリボーンにそう言われ、自分は必死で記憶を辿っていた。
獄寺が『勝つ』まで、山本はずっと黙っていた。
時限爆破装置というとんでもないものが仕掛けられていなければ、確実に獄寺は勝っていた。だがそれが起動し、校舎内で次々と爆発していく。リングを渡して引き上げろと言うシャマルに、そんなことはできないと固辞した獄寺。そのとき、確かに山本は叫んだ。
「えっと、確か……山本は……?」
「……。」
状況が状況だったので、自分もあまり正確には覚えていない。
それでも山本の声を聞き、ハッとした感覚だけは、強く記憶に残っている。
リングを渡して戻って来いと言ったシャマルの言葉は、当然だと思っていた。
だが同時に、ここで獄寺が負けてしまっては、何よりも獄寺自身が納得できないだろうという生半可な思いやりがあったのだ。
師匠なのだから、負けても生き残れと断言できるシャマルを羨ましいと思った。
……もし、ここで獄寺が負け、対戦が不利になってしまったら。
これまで傷ついた者たちに、どう言い訳ができるのか。自分が割って入らなければ殺されていてもおかしくなかったランボがいるのに、獄寺には負けてもいいと言えるのか。
これからの対戦で、よりつらい局面が訪れないとも限らない。
そんなとき、あのとき獄寺にもう少し粘ってもらっていれば、と後悔しないとも限らなくて、すぐにシャマルを後押しできない自分のずるさに言葉が出なかった。
「……けど、山本は」
「……。」
友人として、シャマルの言葉に乗っていいのか。
あるいは、『獄寺が望む』十代目として、ギリギリまで頑張れと信じて待つべきなのか。
後者であっても、もちろん爆発が近くなれば逃げろと言うつもりではあった。だが、それでは間に合わなかったかもしれない。頭では少しでも早く獄寺を説得して退避させなければならないと分かっていたのに、獄寺だったからこそ、まるで獄寺が望む姿であることが最大の友情のような勘違いをして、あの場で迷いかけた自分を叱咤したのも、山本だった。
「……そっか。山本は、何も言わなかった」
「ああ、そうだ」
「ただ……獄寺君のこと、怒ってた……。」
名を呼ぶだけで、何を言ったわけではない。
だが久方ぶりに開いた口で叫んだ名は、シャマルの言葉に従おうとしない獄寺を諌めるものだった。
冷静であったことは間違いないのに、『勝つ』ことが第一であれば出てこなかったはずの反応だ。そのことに安堵してしまってもいいものか、自分には分からない。なにしろそうして獄寺がなんとか脱出し、生きて帰ったときにはもう山本は『冷静』だったからだ。
むしろ、あのとき無理にでも獄寺が立ち上がって胸倉を掴まなければ、まともに会話をしたかも怪しいと思っている。一緒に駆け寄っておきながら、少し距離を置いてズボンのポケットに手を突っ込んだまま、『冷静』に見下ろしていた山本に違和感がないわけではない。そう思ったとき、ギィ、と音がして病室の扉が開いたことに気がついていた。
「……ツナ、まだいたのか」
「あ、山本……。」
パチン、と室内の明かりを消しているということは、その病室には患者である獄寺以外にはもう誰もいないということだ。恐らくリボーンと一緒に医師なども出て、山本一人が残っていたのだろう。音を立てないように慎重にドアを閉めた山本は、いつもの通りに見えていた。ただ苦笑を浮かべ、静かに廊下を進んでこちらへと向かってくる。
「もしかして、獄寺の顔見ようとか思って待ってたのか? それなら、アイツ今寝入ったばっかだからさ、あと五分でも十分でもいいから、熟睡してからにしてやってくれねえ?」
「う、うん、そうするよ……。」
リボーンは獄寺が落ち着いたと言っただけで、寝たとは言っていなかった。意識がある状態では顔を見に行っただけでまた暴れさせるかもしれないと思っていたので、山本の提案自体は納得して受け入れた。
だが、どうしても先ほどからの違和感で、まともに山本の顔が見れない。
そんな態度を誤解したのか、待合スペースの受付に寄りかかった山本は、ベンチに腰を下ろしている自分にすまなそうに笑っていた。
「ああ、さっきは追い出すみたいになって、ごめんな? ほら、アイツ、ツナがいるとやたら興奮すっからさ?」
「そ、それは分かってるよ、むしろ……気づかなくって、オレの方こそ……。」
「ツナが悪いんじゃねえって、怪我してんのに暴れるアイツのがバカなんだよ。あんな状態で謝ったって、余計ツナも気にするだけだってのに、そんなことも分かってねえでほんとバカっていうか……。」
普段は獄寺の方が山本をバカだバカだと言っているが、今回に限っては異論はない。だが最もバカなのはそんな獄寺の性格を把握していたのに、気づきもしてやれなかった自分だ。山本を悪者にさせたみたいで気が引ける、と億劫さは増しても、項垂れているだけではいられない。ちゃんとお礼を言わなくては、と思いきって顔を上げた自分は、そこで何を言う前にハッと息を飲んでいた。
「ん?」
「あ、山本……口、切ってる?」
「へ?」
向かいの受付カウンターに寄りかかっていた山本の唇に、明らかに血がついていた。さほど多くはないが、確かに血だと焦って指摘した途端、何故か隣に座っていたリボーンにため息をつかれた。
「……ツナ、野暮だな」
「え……?」
「ああ、いや、えっと……まあ、その、小僧の言うとおりっていうか……。」
苦笑している山本は、軽く指で血を拭き取っていた。その顔は心持ち紅潮しているように見え、首を傾げかけたところでようやく思い出していた。
ここのところ、対戦続きに加え、山本の態度がおかしかったので忘れかけていたが、二人はそういう関係なのだ。そもそもリボーンたちが先に病室を出たのも、気を回したからだろう。更にそうして病室で二人きりとなり、怪我をしていないはずの山本の唇に血が移っていた理由など一つしか考えられない。
「ご、ごめん山本!! オレ、ほんっと気がきかなくて……!?」
「いいって、いいって、そんなことしてたオレらのがどうかと思うし?」
わりーなっ、と何故か謝ってくる山本に、自分は本当に居たたまれなくなった。
どちらがせがんだのか知らないが、キスぐらいはしていたのだろう。さすがにそれ以上のことには及んでいないのだろうが、と思ったところで、更に不思議なことに気がついていた。
「山本、血が……?」
「へ? ああ、取れてねえ?」
先ほど確かに、山本は手の平で口元を拭っていた。それにも関わらず、血がまだついている。むしろより多く移ってしまっている状況に戸惑ったところで、不意にリボーンが口を開いていた。
「……山本、両手見せてみろ」
「なんだ小僧、手相でも見てくれ……あ」
「や、山本……!?」
だが山本自身も声を出したように、向けられた両手には薄っすらと血が乗っていた。どうやら山本は今初めて気がついたらしく、一瞬引っ込めようとして、観念したらしい。
「ええと、マメが潰れてちゃってた、ていうか……?」
「……。」
「あ、いや、アイツの血が移っちまったのかな? ほら、止血はしても小さいかすり傷はいっぱいあって、そのままだったし」
野球によるマメならば、もっと指の付け根辺りにできるはずだ。あるいは獄寺の血が移ったのであれば、山本の手の平に傷があるわけがない。誤魔化しきれているとは思えない言い訳だったが、今は何も言わないでおいた。リボーンも黙っていたので、同じ心境だったのだろう。
あるいは、リボーンは知っていたのだ。
対戦の間、山本がポケットに突っ込んだままだった両手を、短く切りそろえているはずの爪が手の平に食い込むほど握り締めていたということを。
「えっと、あの、ツナ……?」
「……山本、ごめん」
「何が?」
あの冷静さは、激情を押し殺した産物だった。
そんなことすら見抜けないで、不安になるばかりだった自分が本当に不甲斐ない。友人として、失格な気がしていた。しかもいきなり謝ってしまうのは自己満足にしかすぎなくて、情けなくてまたうつむいてしまった自分に、山本はゆっくりと受付のカウンターから離れていた。
「ツナが謝ることねえって、お前が悪いんじゃねえし。こんなの怪我の内に入んねえよ……アイツが負ったのに、比べたら」
「……。」
きっと、山本は苦しかった。
友人としても、それ以上の想いを向ける相手としても、獄寺は山本にとって大切な存在だ。
勝つと信じていたからこそ、黙して戦況を見守った。好転しても、悪化しても、ただ見つめることしかできないと山本は最初から知っていたのだ。
戦闘中はともかくとして、その後、山本が取り乱して最も困るのは誰か。
それは『負け』を選んだ獄寺であり、山本が平然と次の勝利を約束しなければ生き残る選択自体を後悔したかもしれない。
「ツナ、大丈夫だって? オレ明日絶対勝つから、な?」
「山本……。」
項垂れた理由をどう解釈したのか、正面に立った山本はそう言って約束をしてくれた。だが相変わらず素直に顔を上げられない自分に代わり、隣からリボーンが切り込む。
「……『明日』、いけるのか?」
あまりに早くはないか。
頷いたところで対戦を遅らせることはできないが、山本が獄寺の惨状に動揺していたのならば、それはそれで不安だ。そんな思いを端的に口にしたリボーンに、山本はベンチの前に立ったままであっけらかんとして返していた。
「なんで? オレ、むしろ明日で感謝してるくらいだぜ?」
「……そうだろうな」
「山本……?」
修行自体は完了しているようだが、まだ気持ちの整理がつかないのではないか。そう尋ねたはずのリボーンも納得しているのに、自分だけが不思議に思って顔を上げる。すると随分と身長差のある山本は、苦笑しながら手を伸ばしてきていた。
「ツナ、泣くなよーっ!!」
「えっ、な、泣いてなんか……!?」
実際に涙はこぼれていなかったが、潤むくらいはしていたかもしれない。それほど、いろいろ苦しかったのだ。だが茶化すように笑った山本は、指で触れかけて、一度その手を止める。そして血のついていない手の甲でこちらの目の下辺りを拭ってくれた後、ニコニコしたままで教えてくれていた。
「だって、あの、王子とかいうヤツ。アイツに再戦はできねえんだろ?」
「う、うん……?」
仮にどれだけ山本が獄寺の惨状に怒ったとしても、その対戦相手であるベルフェゴールに挑むことはできない。そういうルールなのだ。
けど、と続けた山本は、まるで対戦相手に向けたような表情で、はっきりと言っていた。
「……貸しがあるのは、もう一人いるし」
「……。」
「オレってホント、運がいいよなあ!! ……獄寺の分まで、熨斗つけて返してやれる組み合わせなんてよ」
こぼれてもいない涙を拭ってくれる優しさを見せながら、同時にそう仕向けた敵には敢然と立ち向かう。
確かに冷静だが、その先に勝ちを見ているだけではない。
ただ、怒っているのだ。
不甲斐なかった自らにも、獄寺を叩き潰しかけた敵にも。
しかもああして獄寺から『後は頼む』と言われたことで、ベルフェゴールへの貸しも次の対戦でまとめて返してもらうことができる。
「だからな、ツナ、オレ明日でむしろ感謝してんのな。こんな状況で……そう、何日も。待たせられたら、オレ、何するか自分でも自信ねえよ」
「山本……。」
まあツナに迷惑かけちまうから我慢してるけどっ、とあっけらかんとして笑った山本は、再びズボンのポケットに両手を突っ込むと、くるりと踵を返していた。
上は黒いトレーナーなので目立たなかったが、白いズボンはところどころ血で汚れている。てっきりそれは獄寺を運ぶ際の返り血だと思っていたが、うっかり山本自ら触ってしまった際の血も含まれているのだろう。
ツナに迷惑がかかるから、と言ってはいたが、山本はやはりマフィアのことは理解しきれていないと思う。
理解したのは、たぶん二つだけだ。
この対戦にはルールがあり、それを守った上で勝たなければ他に迷惑がかかるということ。
そして、
「……獄寺君が」
「ツナ、もう山本を煽るな。そのまま行かせてやれ、今夜には万全になって戻ってくる」
大切な人を傷つけられて、大人しくしていられる山本ではない。
片手を一度だけヒラヒラと振って病院から出て行った山本の背中は、落ち着いていたが、それこそ嵐の前の静けさというものだ。
もし嵐をそのまま獄寺だと解釈しても、充分意味が成り立つのがまた皮肉だ。
獄寺の前には、常に飄々と冷静な山本がいる。だがその山本の冷静さが呼び水となって、結局は嵐を呼び込むのだ。それでいて嵐が去った後の惨状を、圧倒的な量の雨が押し流す。恵みの雨などと言ってられないほどの激流を引き起こす可能性をはらんだ雨は、今まさに降り出す直前だった。
「うん、分かってる。山本は、大丈夫だ……!!」
「……ああ」
たとえ対戦に無傷で勝っても、山本の両手は痛んだままだろう。
既に怪我を負っている獄寺は、当然全身を傷めたままだ。
あるいは山本も敵の強さを考えれば怪我をしてもおかしくはなく、明日のこの時間、どういう状態に二人がなっているかは分からない。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
いや、そうなってほしいという願望かもしれない。
「どんなに、痛かったとしても。山本は……。」
「……。」
傷ついたままの手の平で、きっと獄寺を抱きしめるはずだ。一晩で怪我が治るはずがない獄寺は痛がるだろうが、それ以上に喜ぶだろう。
よくやってくれた、と褒めるに違いない。
そうなるはずだ、と信じているのは、山本が勝つことを自分も疑わないからだ。
「……リボーン、オレたちも帰ろう。まだ時間はあるし、修行もしたい」
「そうだな」
「獄寺君の、顔を見たら。オレも、もう迷ったりしない……。」
ようやく待合スペースのベンチから立ち上がり、自分も病室に向かうことができていた。
その際、病室のドアノブや壁などに、ほんの少し血がついていることに気がついた。恐らく山本の手に付いていたものだ。
そう気がついた自分は、迷った後、室内の明かりはつけずに暗がりのベッドをドアのところから眺めるだけにしておいた。
「……。」
「……。」
きっと、明かりをつければベッドのシーツや獄寺の頬などにも、血がついているのだろう。
だがそれは見なくていいと、見ていいものではないと知っていた。
「……ツナ、帰るぞ」
「うん」
再びゆっくりとドアを閉め、廊下に出てから深呼吸をする。
流れていない涙を拭うとき向けられた手の甲は、山本の優しさだ。だが隠そうとしていた反対側では、あんなにも苛烈な激情を孕んでいた。その存在の証明である血の痕は、山本もそうそう踏み込まれたくはないものだろう。なにより、そんな感情の深淵を覗き込んで身が竦まないわけではない。
あれは、他人が見ていいものではない。
第三者が盗み見て、あれこれ批評すべきものでもない。
「……絶対、勝たなきゃな」
「当たり前だ」
山本の心情を理解しきれているなどとは言えるはずもないが、勝とうという意志は強くなった。
自分にできることは、それだけだ。
自分にできることも、それだけなのだ。
少しだけ、獄寺はあの山本の激情に気がついていないのではないか、と不安になった。だがやはり察しのいいリボーンに先回りをされ、安心してドアの前から歩き出すことができる。
「……だから、お前は野暮だって言うんだ。あの山本が、オレたちを追い出して一人獄寺の病室に残ったんだぞ? そこでしてたこと考えれば、伝わってないはずがねーだろ」
「いやそう言われちゃうと、あの山本が珍しくどこまでしたんだろとか気になるんだけど、まあ、いいか」
「いいに決まってる、どうせ元気になれば嬉々として獄寺のヤツが報告してくれるぞ」
それはそれでなんだかなあ、と苦笑しながら廊下を進む。
そうして受付の前を通って病院の玄関へと抜ける際、山本が寄りかかっていたカウンターにも血がついているのが目に入った。
血に濡れた、その手の平で。
早く安心して抱き合える日が来れるよう、友人として精一杯の努力もしようと誓いを新たにした夜だった。
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