■ふたり暮らし








「……おい」
「あれ? 獄寺、起きてたのな?」
 てっきりまだ寝ていると思っていた獄寺が、後ろのベッドでむくりと体を起こす。上半身裸で毛布を引っ掛けただけの体は、白い肌が妙に扇情的だ。眠そうに欠伸をかみ殺しながらガシガシと髪をかきむしっている姿ですら様になっており、思わず見惚れていたと気がついたのは不意に目を合わせられてからだ。
「……なんだよ」
「えっ、あ……!?」
 緑がかった色素の薄い瞳は、先ほどまで眠そうだったのに今ではすっかり意志を灯している。
 獄寺と、見詰め合っているのだ。
 そう強く自覚させられると、途端に気恥ずかしくなってきて目を逸らしてしまう。だが反射にも近かったその行動で、獄寺を視界に入れられなくなるのも嫌だと思い、再び視界に入れようとおずおずと視線を戻していけば何故か盛大にため息をつかれた。
「獄寺……?」
「ったく、なに今更恥ずかしがってんだよ? テメェが乱れまくってよがりまくって一人でさっさとイきまくるのはいつものことじゃねえか」
「……。」
 どうやら、山本の方から目を逸らしたのが不愉快だったらしい。
 そうと解釈しなかったのは、言い募る獄寺の調子は決して不機嫌には見えないからだ。
「まあ背中ならともかくよ、テメェが目逸らすなんてありえねえだろ」
「なんで、背中ならともかく?」
「お前……あんだけ爪立てといて、よくそんな質問できるよな……。」
 心底呆れたと示してみせつつ、獄寺は自分の膝の辺りを片手で軽く叩いている。
 確かに、昨日は二人ともの休暇が久しぶりにぴったりと重なったことで、歯止めが利かなくなったのも事実だ。出しすぎて失神するなど、本当に久しぶりだった。こうして話していても、声はやや掠れているし、腰もだるさが抜けていない。それでもこんな疲労を実感するほど幸せな気分にもなってくる山本は、特に違和感も抵抗もなく呼ばれるままにベッドに腰を下ろしていた。
「なに、獄寺?」
「……いや」
 だがそうしてギシリとスプリングを軋ませれば、何故か獄寺の方が妙な顔をしている。
 先ほど獄寺は自らの膝を軽く叩いてみせたのだ。ここに座れという合図だと思い、膝のすぐ横のシーツに腰を下ろしてみた。だがもしかすると膝にそのまま乗ってこいという意味だったのかと思えばまた気恥ずかしくなってきたが、獄寺が求めているならといそいそと腰を上げようとしたところで、自分の推測が違っていたらしいと山本は知った。
「ほら、前に、リボーンさんか誰かが言ってただろ? 動物みてえに、よく躾けられてんだなって」
「ああ、そういや誰かが言ってたような……?」
 何人かがいた場での戯れ言だったので、山本もよくは覚えていない。ただ、確かにそのときも獄寺に小さな仕草で呼ばれ、すぐに従えばそうからかわれたのだ。
 こんなやりとりは今更であるし、そもそもそう仕込んだ獄寺の方が気にしている理由が分からない。もしかしてここにきて恋人を動物扱いしているような後ろめたさでも感じたのかと頑張って推測し、別に気になどしていないとニッコリ笑って山本は返しておいた。
「ん、調教師サマがそらもうアメとムチで体に覚えさせてくれたからなのなっ」
「バカ、それどっちもテメェ悦ぶじゃねえか。大体躾は完成してねえよ、テメェの引っかき癖も噛み癖もあんだけ濃厚な情事の翌朝なのにオレのこと起こしもしねえで帰っちまおうとする最悪な癖も、まだ直しきれてねえし」
「……。」
 オレは不甲斐ない飼い主だ、と嘆いてみせる獄寺は、やはり不機嫌らしい。
 わざとらしい言い回しで、ほんとはさほど気にしていないと示してみせつつ、いつの間にか片腕を腰を回してしっかりと引き寄せてきているのだ。スーツ越しに感じる腕にすら思わず腰が疼きそうなのに、獄寺は更にもう一方の手をジャケットの下のシャツへと伸ばしてくる。
「だから、獄寺、オレ今日は前から約束があって……。」
 いまだに同居をしていないのは、ファミリーとしての在り方が違うため、生活のスケジュールが全く合わないからだ。互いに足しげく部屋に通っているのだから一緒に住めばいいのにとツナなどには言われるが、とんでもないことだと山本は思っている。山本にしてみれば、一緒にいられる間は確かにいいが、いない時間の方がはるかに長いのだ。それに耐えられるとは到底思えない。一方の獄寺も同居に関しては一度も口にしたことがないので、大方似たような理由だと思い込みたいが、実際には違っているだろうと、心のどこかで分かってもいた。
 山本と違い、頭を使う仕事も多く担当している獄寺は、武器だけでなく書類やパソコンに囲まれて生活をしている。本来は学者や研究者タイプだと言われることも多い獄寺は、基本的には喧騒を嫌うのだ。ボンゴレの本部に赴いて仕事をしている間はそんなことも言っていられないので、その分せめて家でだけでも一人の時間が必要なのだろう。
 要するに、同居できない理由としては、山本は一緒に住んでいながら一人の時間を作りたくないからで、獄寺は一緒に住むことで一人の時間を減らしたくないからだ。
 こういう性質の差はしょうがないことだ。
 そう諦めようと思っているのに、獄寺は時折こうして寂しがるような素振りを見せる。こっちの気も知らねえで気が向いたときばっかり、と拗ねたくもなるが、引き止められると素直に胸が弾む。
 本当は、山本も帰りたくなどないのだ。早速用事を反故にしたくなってきているのを後押しをするように、獄寺の手は山本の腰を抱き、シャツの上から胸元を撫でてくる。
「んっ……!!」
「大体、これがでかける格好か? このシャツ、ボタンが……て、取れてんのか? あ、つかコレ、オレのじゃねえか!!」
 昨晩、スーツはさすがに脱いでから始めたものの、中のシャツは途中まで羽織ったまま散々互いに出したのだ。汗だけではないものが染み込んだ皺くちゃのシャツはさすがに着込めず、洗っておいてもらおうと脱衣所に持っていった。そこで比較的きれいだった赤いシャツを勝手に拝借してきたので、獄寺のものであることは当然である。
「ああ、借りたのな」
「言うのが遅えよ!!」
「え、これ借りたらダメなヤツだった?」
 アイロンがかかっていそうな洗い立てのものは悪いと思い、敢えて一度羽織ったがさして汚れないままに放置されていた様子のこのシャツにしてみたのだが、もしかして洗濯済みだったのだろうか。だがやはりアイロンが、と首を傾げていれば、大きくため息をついた獄寺がいきなり胸元に手を差し込んできた。
「んぁっ……!?」
「……だから、これ、ボタン取れたままじゃねえか。こんなに胸開けて外歩くな」
「んっ、あ、獄寺ぁ……!?」
 確かに少し開きすぎかとも思ったが、ボタンがないのならば仕方ないかと変なところで山本はあっさり納得していたのだ。だがシャツの中に手を入れて素肌をまさぐってくる獄寺は、あきらかに山本を煽ろうとしている。
 それに、ドキドキと鼓動は高鳴りつつも、なんとか口を開いてみればよく分からないことを返していた。
「あ、でも……ほら、シャマルのオッサンとかも、結構シャツ開けてて……?」
 ボタンがいくつかないことで普段より開いてることは分かっていたが、それでもあまりおかしいと思わなかったのは、そういうファッションをたまにしている知り合いがいるからである。その代表格であるシャマルの名を出せば、獄寺は呆れ返ったようにため息をついていた。
「バカッ、それはあのヤブ医者がナンパするためだろうが? テメェがしたところで胸毛が激しいどころかむしろ全身薄いくらいなのに、なんのセックス・アピールにもならねえよ」
 そんな言葉に、山本は目を瞬かせる。それはシャマルがシャツの前を開けていたのが、確かにこれから夜の街に遊びに行くのだと浮かれているようなときだったと合点がいったからだ。てっきり胃腸の強さでもアピールしているのかと思っていたが、違ったらしい。
 確かに毛深い方が、男としての精力は強そうだ。実際には、色素が全体的に薄めなのでやはりシャマルとは対称的になるはずの獄寺が、精力という意味では相当な猛者なので一概に反映しているかはよく分からない。昨夜の激しさを思い出しつつ、胸元をまさぐられて更に熱を引き出されそうになった山本がまた一人気恥ずかしくなっている間に、獄寺は今度はわざとらしく肩を上下させて息を吐いていた。
「まあ、実際あの毛深さに女が惹かれてんのかは知らねえけどなっ。どっちにしろ、このオレが、そんな格好でテメェを街中に離して、変な虫寄りつかさせるはずがねえだろ」
 不貞腐れたように言う獄寺は、本当に自分を出かけさせたくないのだろうか。そう思えばまた胸が弾み、思わず口元もほころばせながら山本は自然と笑って返していた。
「ああ、でもオレ、むしろ変な虫に寄ってきてほしいかも?」
「……テメェ、堂々と浮気宣言か」
「獄寺隼人っていう、昨日も散々オレのことよがらせてくれたくっつき虫のことだけど」
 実際にはくっつきたがるのは山本の方が多いが、稀にこうして獄寺の方からも自発的に腕を回してくれる。今に至ってはシャツの中に手まで入れてまさぐってくれているのだと嬉しくなった途端、その手をすっと抜かれて驚いた直後、山本は押し倒されていた。
「え?……うわっ!?」
「そうかそうか、でも他の虫はやっぱ払わなきゃなんねえよなあ?」
 抜かれた手はそのまま山本の肩へと置かれ、もう一方の手で腰をぐいっと引き寄せられる。そうして器用にベッドに仰向けにされところで、元々開いていたシャツをスーツのジャケットごと更にめくり上げられた。
 そのまま顔を埋めてくる獄寺に、山本は期待で胸が高鳴る。だが直後にピリッとした軽い痛みを肌に感じ、軽く吸いつかれただけだということは理解した。
「んんっ……ん、あ……?」
「バカ、なにそんな物足りなさそうな声出してんだよ? 虫除けなら、これで充分だろ」
 そう言って笑った獄寺が一度ベロリと舐めた肌には、くっきりとキスマークが浮かび上がっているはずだ。愛撫としては繰り返されたもので、決して嬉しくないわけではない。だが山本の頭を占めるのは、獄寺がこれを『虫除け』と表したことだ。
 恋人がいるのだぞという警告にするのであれば、まずそうして『虫』がいる場所に山本はいなければならない。つまり、これから外出すると思っての行動だ。
 ああ、やはり獄寺はせっかくの休みを二日も自分にだけ費やすつもりではなかったのだ。
 そうと気がつけば、高鳴ったはずの胸はギュッと締め付けられる。
 分かっていたはずなのに、やはり寂しい。
 そしてそもそもの外出の用件が、こんな獄寺に同居を持ちかけて承諾をもらうにはどうすればいいかという相談だったことを考えれば、あまりの虚しさにまともに獄寺の顔が見れなくなった。
「あ……えっと、獄寺、その……。」
「山本?」
 あくまで外出するのだと態度を貫くのならば、それこそ虫除けをしてくれてありがとうと礼を言うべきなのだろうか。だが今は確かにこうしてベッドに押し倒され、覆いかぶさっている獄寺の手がまだ胸に置かれているのに、自ら離れなければならないのだ。それがあまりにつらくて上手く笑顔も作れない間に、不思議そうにしていた獄寺が妙に優しそうな笑みをニヤリと浮かべていた。
「……バカ、こんなことで泣くなよ? ほら、ほんとはこっち触ってほしかったんだろ?」
「え……んぁっ!? あぁっ、ん、ア、獄寺ぁ……!?」
 そのまま手を滑らせた獄寺が、指先でキュッと胸の突起を摘んでくる。すると実際に上体がベッドで弾むほど過敏な反応を見せてしまい、山本が動揺したところで獄寺がしみじみと感想を述べていた。
「お前、ほんとココ弄られんの、好きだよなあ……。」
「ふぁっ、アァッ……あ、だって…ごく、でら、が……んぁっ……!!」
「まあ、確かにオレがそう仕込んだんだけどよ」
 初めて抱かれたときからしつこく愛撫を加えられ、山本のそこはすっかり性感帯として開発されている。今も最初から強い力で摘まれ、更に転がすようにして捏ねられれば、ジンとした熱と快楽を全身に広げながらすぐに硬くなっていく。
 だが昨日も散々指で弄られ、舌でも嬲られ、時に猛った獄寺の性器の先端でぐにぐにと押し潰すように刺激されまくったのだ。いまだに敏感になっているそこは、若干痛い。性急すぎる快楽に、体はまだしも頭の方が全く追いついていかない。
「んぁっ、や、あぁっ……い、痛い、のな……!!」
「んー? ああ、痛かったか? じゃあ宥めてやんねえとな」
 痛いが手を放されたくなく、獄寺が手を伸ばしてくれているベッドから逃れるつもりは更々ない。だが少し身を捩じらせただけで獄寺の指があっさりと突起を弄るのをやめたことで、ショックを受けて呆然としたときには今度こそ期待していた感触がベロリと下りてきていた。
「ひぁっ!? あ、アァッ……ん、あぁっ……!!」
「そうか、痛いよなあ、昨日散々いじめてやったしな? 優しくしてやっから、許せよ?」
「ん、んんー……!!」
 わざとらしい言い回しの合間に、獄寺は最初に乱暴な愛撫を加えられた方の突起にはねっとりと舌を絡めてくる。生温かい舌の感触が、ぬめる唾液を塗りこめるようにして嬲るのだ。痛みは中和されたのに熱はむしろ溜まり、時折唇や歯で甘く食まれるとますます腰が疼いてくる。
 それと同時に獄寺はもう一方の手までシャツの下に忍ばせて反対の突起へと触れ、こちらには先ほどとは打って変わって撫でてくすぐるような刺激を加えてくるのだ。少し落ち着いたことで逆にしっかりと快楽も受け取り、全身が熱を上げてくればそんな程度では逆に物足りない。そのため、獄寺が半分しかないボタンを外そうとシャツに手を伸ばしていることに気づかず、思わず身を捩じらせればまたため息をつかれてしまった。
「……なんだよ、脱がしてからちゃんとしてやるってのは、嫌なのか?」
「え……あっ、その、嫌なんかじゃ……!?」
 ねえのな、と慌てて続ける前に、スラックスの上からギュッと股間を握られる。
「ふぁっ……!?」
「……あーあっ、もうこんなにしてんじゃねえか。でもテメェが嫌だって言うんだからしょうがねえよな、脱がさねえで出させてやるか」
「んぁっ、ア…あ、獄寺ぁ……やめ、て……!!」
 容赦なく力を込めてやや乱暴な手つきでも、布越しに感じるのが獄寺の手だと分かっていれば否応なく快楽に転化されてしまう。敏感になっていた胸をたっぷりと弄られ、ただでさえ山本のモノは熱を溜めていたのだ。そんなに荒々しくされてもすぐに出してしまうと焦る山本に、獄寺はやたら猫なで声で耳元に囁いてくる。
「なあ、山本? このままスーツにぶちまけるか?」
「ん、んんー……!!」
「それとも……自分で脱いで、オレに素直に脚広げるか?」
 自ら脱ぐことも、獄寺に対して足を開してみせることも、山本の中ではそれほど抵抗があることではない。このため、純粋に天秤にかけようにも、スーツは汚したくなくて獄寺とはしたい山本には、選択肢自体がそもそも存在していなかった。
「ご、獄寺ぁ……脱ぐ、から……!!」
 本当にそろそろまずいので手を放してくれと懇願すれば、やけに満足そうに頷いた獄寺はあっさりとスラックスの上から撫でる手を外してくれていた。
「あっ……。」
「ほら、脱ぐって言っただろ? だったらさっさと脱げよ、おはようのキスもしねえで出かけやがるためのそんな服、さっさと脱いじまえ」
「ん……ん、あ……?」
 そのまま先に獄寺が体を起こし、腕を引いて山本の上体も起こしてくれる。さすがにいろいろと限界が近いため、息も上がっているし頭もぼんやりしてきている。とにかく、シャツはまだしもスーツは汚すわけにはいかないということだけを考え、必死でジャケットを脱いでいたときに、遅れ馳せながら山本の脳に獄寺の言葉が理解できていた。
「……んーん」
「何がだよ……?」
 それは違うのだと首を振ったものの、ただでさえ認識できる範囲が狭くなっている山本は、ようやく脱げたジャケットをベッドの下に放り投げることで頭がいっぱいになってしまう。
 とにかく、シャツはともかくスーツは汚すわけにはいかない。
 そればかりを考えて次はスラックスだとベルトに手を伸ばしたところで、頬に伸ばされた手でぐいっと顔を上げさせられていた。
「ごく、でら……?」
「だから、何が違うってんだよ? 出かけるつもりじゃなかったてことか?」
「……んーん」
 どうやら会話を確認してきているようだ、と思えば、今度はスーツを脱ぐということを忘れてしまうため、ベルトに伸ばしたはずの手もそこで止まっていた。
 そのままじっと獄寺を見つめながら尋ねられたことを頭の中で繰り返してみれば、出かけるつもりはあったので否定したのだ。するとますます獄寺に怪訝そうにされてしまい、一生懸命思い出してみれば、ようやく自分がもう一つ前に否定していたことを山本は思い出していた。
「……ああ、チュウした」
「ハ?」
「おはようのチュウ、したのな。獄寺寝てたけど……。」
 いくら起こすのが忍びなかったとはいえ、朝起きて獄寺に触れないでいられるはずもなかったのだ。特に、今日はこのまま出かけた後は自宅に戻る予定で、夜にまたここに訪ねていいという約束もしていない。
 ここは獄寺の家で、山本が帰ってもいい場所ではないのだ。
 どれだけ寂しい時間を覚悟してもやはり獄寺と一緒に住みたいと願ってしまうのは、これが本当の理由なのだろう。次もまたこうして会えるという約束がないことが、いつも不安で仕方がない。だがこれがもし同居し、家族同然ともなれば、いつでも家に帰れば獄寺も帰ってきてくれると期待していいのだ。
 そういう場所が欲しいと願っている山本に、そこまで察することができるはずもないが、獄寺は苦笑すると頬に手を添えたままでゆっくりと顔を近づけてきていた。
「……バカ、ちゃんとオレが起きてるときにしろよ」
「だって、獄寺、よく寝てたから起こすのが……んっ、んんー……!!」
 そのまま唇を合わせ、獄寺は再び押し倒してくる。ドサリと二人分の重みでベッドが軋んだことで、思考が鈍くなっている山本もようやくこの体勢が理解できた。だが再び唇を合わせてこようとしていた獄寺に、気にしていたからこそするりと言葉が口を突いて出る。
「獄寺、スーツ……。」
「ああ、そんなのオレが……?」
「スーツだけは、脱がねえといけねえのな。だって、スーツは、獄寺のだとちっちぇーから借りれねえし……ああ、そっか、なんか袖短いと思ってたら、シャツも、獄寺のだからか……。」
「……。」
 そう、それは忘れてはいけないこの家でのルールだった。下着に関しては何故か獄寺がいつも新品を買い置きしてくれているので困らないが、それ以外のものは山本は着てきたものしかないのである。シャツなどは大きめなものも多いので獄寺のものでも入るには入るが、やはり若干小さい。だがスーツは一つサイズが違うため、肩も窮屈で丈が短く、さすがに借りようがないのだ。
 そのため、どれだけ性急に事に及びたくとも、スーツだけは汚すわけにはいかない。洗濯できないこともないが、やはり獄寺が見立ててくれたものなので大切に着たいという思いもあり、山本はいつも馴染みのクリーニング屋に出すことにしているのだ。
「……獄寺?」
「……。」
 だから、スーツだけは脱いで汚れないところにちゃんと避難させなければ。
 それ自体は必要なことだったが、すっかり気持ちよくなっていた山本は言及してはいけないことを口走っていたのだと、獄寺の鮮やかすぎる笑顔で気がついていた。
「……あっ、ああ、えっと、その、獄寺!?」
「なんだよ、山本?」
「え……あの、その……。」
 昔から、獄寺はずっと体格のいい山本を面白く思っていなかった。
 いつかテメェよりでっかくなってやると息巻いていた獄寺だが、出会ってから十年以上経っても、今のところそれは体の一部を除けば叶っていない。
 そのことは獄寺も自覚があるからこそ、山本が指摘すると怒るのだ。かといって謝ればもっと怒るし、流せば更に怒る。オレだって獄寺よりちっちゃくてギュッて抱き包められるようなサイズがよかったと言ってみたこともあったのだが、変なふうにプライドを刺激してしまったらしく、そのときは一日中獄寺の膝で抱っこされたまま過ごす羽目になっていた。
 それ自体は素敵な思い出だが、二度同じ手は使えないだろう。とにもかくにも獄寺の機嫌を損ねたと悟り、せっかくの情事も中断になってこの家から追い出されてしまうに違いないと落ち込む。実際に獄寺がこれまで怒ったときも追い出すようなことはなかったのだが、期待した分すっかり悲観的になっていた山本に、覆いかぶさってきた獄寺は耳元で囁いていた。
「……テメェ、やっぱり脱がせてやらねえからな」
「え?……んぁっ!? あ、アァッ……!?」
 低く宣言すると同時に、獄寺の手が再び足の間へと伸びてきて、中途半端に煽られたままのモノをスラックスの上から激しく擦り上げる。その感触には驚いたものの、山本の熱を上げさせたのは続いた獄寺の言葉だった。
「そんで、スーツ駄目にしてテメェが二度とオレの部屋から出れなくしてやっからな」
「……!?」
「……バカ、ちょっと大袈裟に言っただけだ」
 さすがにスーツがなくとも適当に獄寺の服を拝借することはできるし、それだけで閉じ込められるようなことになるはずがない。息を飲んで見つめ返せば、獄寺はすぐにばつが悪そうに否定している。だがそれに思わず首を少しだけ振った山本は、上半身裸なので素肌の感触がする獄寺の背中へと手を伸ばしながらしっかりと返していた。
「ん、オレはそれでもいいのな……。」
「……。」
 獄寺の部屋から出れないということは、まるで一緒に住んでいるかのようだ。
 戯れ言だとは山本にも分かっていたが、たとえ冗談でも獄寺がそんなことを口にしてくれたのが嬉しくて、現実的ではないと知りつつ頷いてしまった。それに、獄寺がかなり面食らった様子で見下ろしてくるので、冗談を真に受けられて困惑しているのかと焦ったが、そうではないらしい。
「……バーカッ、だから、ちゃんと外には出してやっから安心しろっての」
「獄寺……? んっ、んんっ……ふ、あぁっ……!!」
「山本……。」
 そのまま深いキスを施され、両手で全身をまさぐられたことで強い快楽が濁流のように理性を押し流し、山本にははっきりとは理解できなかった。
 それでも、獄寺は確かに言ってくれた気がするのだ。
 合鍵は終わってから渡してやると聞こえたその言葉は、繋がるために必要な最低限にしか服を乱さないままで朝から散々抱き合った後、現実に渡された小さな金属の重みでようやく本当だったのだと山本にも分かっていた。
 
 ふたり暮らしまでの、最初の一歩だった。



 











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標的173の扉絵にハァハァして、またも突貫…
24獄山 好き…(しみじみ言うな

あ、でもコレ、実は獄山+他カプの予定だったんで。
一応、獄山の部分だけUPしました(笑
どうせ更新されないだろうと思って、獄山+他カプのページ閉じてしまった…

★12.14.追記★
とか言ってたら、そもそも捧げ先だったヨシオムが、続きっぽい何かをUPしてくれた! ありがとう! 獄山+他カプの会話だけっぽい感じですが、気になる方はヨシオムのサイトのリボのいただきものページにどうぞ☆
ヨシオムもらってくれてほんとありがとう☆
 <<ヨシオムズサイト>> 【SMILE SYNDLOME】(別窓)

★更に追記★
ウチでもUPしていいて言われたので、することに!
エロはないですが、Wカプなので(一応)地下倉庫になるですよ。

>>NEXT(ちょっとだけ続き)


ロボっぽい何か