■木曜日





 本日は、木曜日。
 思えば鬼門の曜日だった。
「お、珍しいな」
「……!!」
「そっちこそ、財布持ってどうしたんだ? まだ昼休みには早いだろ」
 ちょうど二時間目が終わった休憩時間、購買に向かう途中で別のクラスのチームメイトたちに会った。学年でもクラスが端と端で違えば、部活以外で会うことはほとんどない。合同授業も二クラス、または三クラスずつのため、結果的に確実に別々となる。
 思えば、不思議なことだ。学校の外で待ち合わせて、早朝練習に向かい、一時間目が始まる直前までは一緒にいる。だがいざ授業が始まってしまえば、まず顔を合わせることはない。休憩時間や昼休みも、見かけることはない。同じ校舎内、どれだけ遠くとも同じ学校の敷地内にはいるはずなのに、急に青根の存在を感じられなくなるのはいつものことだ。おかげで、教室でクラスメートたちと過ごす自分と、部活で青根や先輩たちと過ごす自分が別人のような気もしてしまう。たまに授業中にサボッて寝ていたりすると、起きた時に部活も青根とのこともすべて夢だった気がして、ぼんやりと泣きそうになってくるのが最近の悩みでもある。
「そうだけど、購買ってもう開いてるし。先に昼メシ買っとこうかと思って」
「……。」
「二口って弁当じゃないのか? いや、うちも朝練が早すぎて作るの無理って言われてるから、不思議じゃないんだけど……。」
 既にバレー部員はいないクラスでの漠然とした不安は、こんな遭遇だけであっさりと解消された。
 移動教室から帰ってきたところらしく、階段を下りてきた小原と廊下でそんな会話をする。少し後ろに青根も立ったままだ。この二人は同じクラスなので、もちろん授業中も一緒である。
 痩せ我慢ではなく、羨ましくない。四六時中青根と一緒にいると、互いに自制できなくてまずいという自覚があるためだ。
 それでも、やはり羨ましい。
 開いたことがあるのかも分からないほど綺麗な教科書と、書かれていたとしても全く読めないであろうノート、それに筆箱をまとめて片手で持つ青根がどこか新鮮で、ドキドキしてしまった。まずいと分かっていてもわどさらしいほど視線を逸らし、小原とだけ会話をするよう試みる。どのみち青根はまずしゃべらないので会話自体は問題がないが、意識がそちらにばかりいっていたため、小原の言葉への反応が遅れた。
「……あれ? オレ、弁当だって言ったことあったっけ?」
 小原も続けたように、早朝練習に間に合うように家を出ると相当早い時間になる。母親が弁当を作るとすれば、もっと前から起きるか、作り置きしかない。そこまで頑張らなくていいと、二口は早々に宣言した。そのため、小遣いとは別に昼食代をもらっており、毎日購買か食堂で食事は賄っている。
 高校に入ってから一度も弁当を持参したことはないはずだが、小原は勝手に思い込んでいたらしい。何か誤解させるようなことがあったのかと首を傾げるが、非常に言いにくそうに視線を逸らされた。
「いや……弁当だから、教室で食べるから、そうなんだろうなって勝手に思ってたから」
「何が?」
「い、いや、だから、ほら……?」
 弁当持参で教室で食べるから、何だと言うのか。
 ますます首を傾げかけて、小原がチラチラと青根を見やっていることにようやく気がついた。
 放課後になれば今でも嬉々として廊下まで迎えに来る青根だが、それ以外の休憩や昼休みにわざわざ会うことはない。青根は自宅から来るときの半分くらいは弁当持参だ。弁当がないときは食堂に行くようだが、二口は購買で買って教室に戻ることが多いため、食堂で遭遇したのはまだ数回しかない。
 つまり、それだけ互いに積極的に会おうとはしない。その理由を、二口の弁当持参だと小原は誤解していたようだが、実際には違う。青根もそれは知っている。
「ああ、昼休みに青根と食わねえのはケジメみたいなもんだけど?」
「……!?」
「そうなのか!? つか、どこに対してのケジメなんだ?」
「ええと、なんだろうな、そう言われると困るけど……たぶん、我慢した方が会ったときの喜びが大きくなるみたいな?」
「……!!」
「それ、全然ケジメじゃないだろ……。」
 小原は呆れて笑っているが、実はそろそろまずい。
 今日は、木曜日なのだ。それに加えて、今週はずっと天気が悪く、冷たいみぞれや雪もよく降る。凍えるような寒さはますます拍車をかけ、そろそろ限界を迎えそうだ。
「まあいいや、もう休憩も終わるだろ。小原たちは早く教室に戻れよ」
 次の科目は知らないし、小原たちの教室は階段を降りきればすぐそこだ。たとえチャイムが鳴り始めても間に合いそうな距離なのに促したのは、二口が早くこの場を離れたかったからだ。
 早朝練習の前に待ち合わせたときは、傘が邪魔でしっかりと抱き合えなかった。濡れてもいいなどと、倒錯的なことは言えない。自分たちは一にも二にも部活が大事で、迂闊に風邪など引いていられない。
「オレたちより、二口だろ。今から購買に行って、戻れるのか? あっ、サボリか?」
「……!?」
「人聞き悪い事言うな、オレらのクラスは自習なんだよ」
 迂闊な風邪を引いたのは、教師の方だった。本来は二口たちが次の三時間目に移動教室のはずだったが、それが自習となった。体調不良による急なものだったためか、億劫な課題などもない。教室内で自習をして過ごすようにという指示を誰も守る気はないだろうが、かといって外でサボるには寒すぎる。結果的に多くのクラスメートが教室に残る中、どうせならもう昼食を買っておけば混雑する昼休みに行かなくてすむと思い、二口は購買に向かっただけだ。
「だから、オレは別に教室に早く戻る必要は……おわっ!?」
「……。」
「あ、青根っ、落ち着けよ、落ち着いてくれよ、ここ廊下だし!? 部室じゃないから、な!?」
 財布と携帯電話を制服のポケットに入れ、そろそろ会話を終えて購買へと足を向けた途端、ガシッと腕を掴まれて二口は驚いた。小原はもっと驚いていた。
 制服越しなのに、伝わる体温がやけに熱い気がする。痛いくらいに掴んでくる手は外す気など更々なく、鋭い眼光がじっと見つめてくる。廊下にいた同級生たちは、喧嘩でも始まるのかと興味深そうにして、すぐに視線を逸らしていた。だが自分たちをずっと身近で見続けさせられた小原の反応が正解だ。
「……青根、ダメだって言ってるだろ」
「……。」
「そうだ、二口、ちゃんと躾けてくれ。正直、来年度マジでお前らが同じクラスになったらどうしようってオレ心配してるんだけど……!!」
「お前、成績マジでギリギリなんだから、授業だけはせめてちゃんと出とけって、オレ言ってるよな?」
「……。」
「全くだ、赤点が過ぎてテストのたびに頼られるオレの身にもなってくれ、教えても分かったのか分からないのかが分からなくて大変なんだぞ……!!」
「だから……今日だけだからな?」
「……!!」
「二口見損なった!!」
 そうなると思ったけどと頭を抱えている小原に、青根は無言で持っていた教科書類を押し付ける。素直に託されてやるのを思えば、小原も諦めはついていたのだろう。
 なにしろ、今日は木曜日だ。
 もうこれ以上、我慢はできない。
「おいっ、四時間目には戻ってこいよ、一応三時間目は体調悪くて保健室ってことにしとくから……!!」
 二人分の授業道具を抱え、ため息混じりに言う小原に青根は反応しない。どこに行くとも決めないまま、二口が足を向けていた購買へと進もうとする。それを、逆に手首を握り返して二口は止めた。
「……!?」
「大丈夫だっての、オレも四時間目は出るし。つか、テストなんだよなあ、せっかく直前が自習になったんだし、勉強しとくかって珍しく思ったんだけど」
 その言葉も、嘘ではない。購買で昼食を買った後は、四時間目にあるはずのテストに備えて、教科書くらいは開いておくかと二口は考えていた。今となっては実行されない予定だ。
「……でも、やっぱ青根との保健体育のがいいよな?」
「……!!」
「ああもう、チャイム鳴ったし、早く行けよ。教師に見られたら面倒くさいだろ」
「じゃ、小原、ヨロシクなっ」
 ちょうどチャイムが鳴り響き、小原にも急かされて二口は青根の手を引いた。
 青根が下りてきたばかりの階段を、今は二人で昇っていく。最初は青根から掴まれたのに、今では二口の方が手首を掴んでいる。指を絡めて繋ぎたくなるのを防ぐためにと言い訳をしても、力がこもるのはもっと単純な欲求だ。
 早く、青根と二人きりになりたい。
 チャイムが鳴って廊下には生徒が減って行くなか、やけに響く足音よりも、ずっと鼓動の方が大きかった。




「んんっ……ふ、んぁっ、あ……ん、青根、もっ、と……んんっ……!!」
「……。」
 空き教室を探すのは容易い。なにしろ、本来はこの三時間目は二口たちのクラスが移動教室の予定だった。授業がなくなったはずのそこに向かえば、幸いにして後ろのドアだけは開いていた。しかも、二時間目にはどこかのクラスが使っていたようで、まだ暖房も効いている。照明だけは消されていたが、この時間では天気が悪くともそれほど暗くはなく、忍び込んで内側から鍵を掛けたときにはもう抱き締められた。
 すぐに腕の中で振り返り、まずはキスをする。あっという間に深められそうだったので、せめて教室の後ろ、廊下の窓からは見えない位置まで二口は青根を誘導した。かなり不満そうでも、理性が残っていれば青根は従ってくれる。ずるずると半ば引き摺られるようにして教室の陰まで移動すれば、箍が外れたように激しく貪られた。
「ん、んんっ……ふ、あぁっ、んぁ……んんー……!!」
「……。」
 まだ二口の腕は胸の間に挟まれたままだったので、苦しいと訴える。なにより、しっかりと抱き合いたい、二口からも青根に腕を回したい。途切れ途切れの呼吸でせがみ、やっとまともな抱擁ができれば自制など効かなくなった。
 嬲るように絡められる舌に応えようと、必死にこちらからも舌を動かす。だがすれ違うようで上手くいかない。キスはとっくに噛み合うようになったはずなのにと気持ちばかり焦っていれば、急に強く吸われて、ビクッと全身が震える。緊張が解けて弛緩するところを再びギュッと抱き寄せられると、後はもう青根にされるがままとなった。
「んぁっ、んん……ん、あ、んん……!!」
「……。」
 生温かい舌で撫でられるたびに、腰が疼いて仕方がない。青根の背中に回した手でしっかりと制服を掴み、もっと、もっととねだっていると、そのうち軽く唇を食まれて驚いている間にキスを終えられた。
「んんっ!! ……え、青根……?」
「……。」
「……あっ、こら!?」
 もっとしていたいのにとぼんやりと見上げた二口だったが、そこでようやく自分の制服のベルトが外されかかっているのに気がついた。確かに窮屈には感じていたが、今はまだ三時間目の授業中で、この教室にもいつ教師などが来るとも限らない。それなりに安全と思えるのはチャイムが鳴るまでで、しかも声などをしっかりと殺せた上での確率だ。
「お前、最後まで、してえの……?」
「……。」
「……そんな、はっきり頷かれても」
 オレも困るとため息をつきつつ、本当はぞくぞくと震えた。困ったような顔ができなくて、非常にまずい。
 なにしろ、今日は木曜日なのだ。危険なのは最初から分かっていたのに、青根に腕を掴まれただけで了承した。むしろ、こんな場所に誘導して、しっかりとキスには興じた。
 二口が制止をかけたので青根はベルトもバックルから抜いたところで止め、それ以上は進めない。だが進みたいのだと示すように、耳から首筋を舐め、痕が残らない程度に甘噛みしてくる。
「こら、だから……青根、待て、って……んんっ……。」
「……。」
 脱がしはしないが制服の上からもまさぐられ、二口は抵抗する手も声もすっかり格好だけになった。
 二口とて、したいのだ。
 だが現実的な危険、時間的な制約、何より後始末が大変そうだと思えば応じてはいけないと分かる。特に、この教室は水周りの設備がないのだ。たっぷりと時間も取れて、人目を気にせず青根だけでも出歩ける場所ならばともかく、終わってからの後悔が凄まじくなるだろう。
 それが今から予想できるので、ここでするわけにはいかない。
「んっ……だか、ら……あお、ね……!!」
「……。」
 それなのに、どんどん体は熱を溜めていき、どのみち弾けそうになった。
 今は両手を青根の肩に置いて耐えているが、息はますます小刻みで荒くなり、思考が蕩けそうになる。それもこれも木曜日なのが悪いと思ったとき、急に機械的な振動が直接的に響いて驚いた。
「あっ……ああ、着信か」
「……。」
 正確にはメールの受信だったが、ポケットに突っ込んだままの携帯電話が震えたことで、二口は少しだけ落ち着きを取り戻す。青根も手を止めてくれたのでその隙に取り出し、確認してみれば、クラスメートからだった。購買に行ってくると言ったきり戻らないので、どうしたのだと不思議がる内容だ。せめて他の場所でサボッてくるとメールくらい入れておけばよかったと苦笑したとき、何故かいきなり青根に唇を塞がれた。
「んんっ!?」
「……。」
「……青根?」
 我慢しきれずに再開したのかと思えば、またすぐに唇を外される。理性的なのかと思えば、感情むき出しで携帯電話を睨んだ後、悔しそうにふいっと視線を逸らした。
 単に行為を中断させられたことだけではない。二口のクラスメートという存在に、どうにもならない嫉妬をして、衝動的にキスをしたのに、すぐにまた後悔をして嫌われるのではないかと不安がっている。
 いつものことと言えばいつもの反応に、二口はメール以上に苦笑してしまった。クラスメートには悪いが、ここで返信をすれば青根は本格的に拗ねてしまう。メールの内容もそこまで心配しているものではなく、部室なのかという文言もあったので、部活の仲間といることは予想しているようだ。
「青根、どうしたんだよ……。」
「……。」
「オレと保健の授業するの、嫌か?」
「……!?」
 笑いながら返信はせずに携帯電話をポケットに落とし、二口はそう言って青根の視線を戻させた。
 目が合うと、ぞくぞくした。少しだけ波が落ち着いただけで、昂ぶった快楽への期待は全く薄れていない。だが同時に冴えた思考はここで及ぶことの危険もしっかりと頭に残してくれる。わずかに逡巡した後、二口はやはりこれしかないと腹を括り、携帯電話ではなく財布を取り出した。
「でも、あんまり時間ないだろ? だから、一回だけしたら、すぐおしまい。それでいいよな?」
「……。」
 実際に、四時間目にちゃんと出るつもりであれば、一回しかできる時間がもうないのは明らかだ。予め回数を指定すれば青根はやや不満そうだが、それでも頷いてくれる。しないよりはずっといい。では早速とでも言いたげに手を伸ばしてくる青根に、二口は財布から出したものをずいっと突きつけた。
「だーかーらっ!! ……これ、使え」
「……?」
「お前どうせ見たことないんだろうけど、ゴムだ、ゴム」
「……!?」
「これに出したら、処理するのも楽だし」
 個別に包装されたものの一つを差し出せば、青根は随分と面食らった後、急に何か分かったようで動揺した。ただ、それは照れているのではない。知識不足による使い方への不安が半分と、そもそも使いたくない我儘が半分だ。だが、二口もせっかくの機会なので逃したくはない。そもそも避妊という概念がないため、最初から中に出すことしかしていない青根に、避妊具を覚えてもらうことはかなり前から考えていた。
「嫌なら今日はしねえ」
「……!!」
「じゃあ、付けてくれるよな?」
「……。」
 強気に出てみれば、青根はすぐに慌てる。それだけ自分としたいのだと示されて嬉しいが、ここはぐっと堪えて心を鬼にした。
 今では、基本的に週末に二口の自宅に泊まったときにするようにしている。だがしたがりの青根はその頻度で我慢できるはずもなく、部室や下校時に手を出されることも多い。そのとき、見つかる危険を考えて時間を短くするためにも、後始末を素早く終えるためにも、避妊具に出せば効果はあるはずなのだ。ずっと頭では分かっていたが、青根が一人で気がつくとは思えないし、仮に教えても買ってくるのは至難の業だろう。自分が用意するのが早いのは自明だったが、やはり恥ずかしくて時間がかかってしまった。更に実際に使う段になると、照れくさくて仕方がない。
「最初だし、今日はオレが付けてやっから。いいよな、青根?」
「……。」
「んぁっ……ん、らからぁ……ぃいんらろ、あおねぇ……?」
 今度は二口から青根のベルトを外し始めると、黙ったままで指が口へと突っ込まれた。怒っているわけでも、黙れという合図でもない。舌を指で挟んだり、擦ったりして、唾液を絡ませるのは潤滑剤がないときの仕草だ。太くて長い指が二本も口内へと差し入れられると、うまくしゃべれなくて呂律がおかしくなる。それでも歯は当たらないように指を一生懸命しゃぶるのに夢中になっていたので、やっと青根の下着の中へと手を入れれば、熱くなっていたモノに二口は嬉しくなった。
「ん……そんらに、おれと、したい……?」
「……。」
 更にゆっくりと肯定されて、ますます昂揚する二口は片手で何度も青根のモノを撫でた。
 そそり勃ってくる剛直の硬さを確かめてから、一度手を離し、持ったままだった包装を開ける。買った際に一つ開けて確かめたので、裏表に迷うような格好悪いこともせずにすみながら、青根のモノへと被せた。
 サイズが良く分からなかったので大きめにしてみたが、緩すぎず、きつすぎず、ちょうどいいようだ。試しに自分でしてみたときは若干大きい気もしたので男としてのプライドが傷つくが、今はこれに犯されるのだと思うと前も後ろも疼くのだから仕方がない。
 ふちを根元まで下ろしたところで、青根の指が口から抜かれた。糸を引く唾液がやけに目に付く。後ろへと回される指に視線もつられそうになるが、それより先に腰をぐっと引き寄せられ、腹にゴム越しのモノが当たったことで自分もすっかり下肢は脱がされていることに気がついた。
「んんっ……んぁ、んん……!!」
「……。」
 キスの間に、唾液でたっぷりと濡らされた青根の指が、後ろへと伸ばされてくる。入り口を撫でるようにした後、ぐいっと差し込まれて体が震える。
「あお、ね……んぁ……!!」
「……。」
 だが一瞬の緊張も、すぐに慣れた快感で蕩けていく。
 青根にしがみつきながら、時折互いのモノが触れる感触に二口は身を竦ませた。ゴム越しでも熱が伝わるようで、気恥ずかしさが増してくる。更に震えるたびに後ろで咥え込んだ指も締め付け、物足りなさに更に腰が疼いた。
 早く、もっと太くて熱いモノで嬲られたい。
 時間がないのだからという事実を言い訳にして、二口は青根にせがむ。
「青根、もぅ……大丈夫、だから……。」
「……。」
「はや、く……んんっ、んぁ……!?」
 一際ぐいっと奥まで差し込まれて、思わず声が出た。だが普段慣らしているときよりも、ずっと浅くて焦燥感だけが募る。更に完全に指を抜かれる喪失感で、二口はもうどうしようもなくなる。そのまま教室の後ろの壁へと背中を押し付けられ、片足を抱えられそうになったところで、腕をギュッと握った。
「……?」
「……うしろ、から」
「……!?」
「青根、後ろから……立った、ままでいいから……後ろ、から……。」
 繋がりたいと訴えれば、青根は膝を抱えかけた手は下ろしたが、すぐに実行はしてくれない。嫌なのかと見上げれば、当惑しきった瞳に出会い、二口も首を傾げてしまった。
「青根……?」
「……イヤ、だったんじゃ」
 そして、珍しく単語意外にも続きそうな言葉に、のぼせそうな頭で二口はなんとか考えてみた。
 後ろからしたいと言えば、嫌だったのではないかと困惑される。
 確かに、嫌だった。去年したときは本当に嫌だったし、そうとも言った。しばらくはするなと居丈高に命令もした。青根も不満点があったようでそのときはあっさりと頷いて納得したからこそ、今になって急に撤回されて戸惑っているのだろう。
「そりゃあ……今でも、イヤ、だけど……。」
「……。」
「お前に、ギュッて、できねえのは……それは、イヤだけど、でも……。」
 教室の後ろには、ロッカーではなく教材を入れる棚がある。それは二口の胸の高さくらいまであり、しがみつくのにちょうど良さそうだと思ったのだ。
「……すぐ、気持ちよく、なれるし」
「……!!」
「今は、物足りなくて、寂しいくらいが……ちょうど、いい……んぁっ!?」
 ゆっくりと振り返って棚の上に腕を乗せ、板挟みの声を吐露すれば、腰をぐいっと引き寄せられて熱い剛直が中へと侵入してきた。
 馴らしが充分ではないものの、飢えた体は貪欲に青根を飲み込もうとする。深く突き入れられると同時に、指でもあまり触れられなかった箇所を容赦なく擦り上げられて二口は震えた。
「ひ、あぁっ……んぁっ、ふ、あぁ、ア……!!」
「……。」
 奥まで繋がる苦しさは、抜かれる寂しさの前では些細すぎる。何度も抜き差しを繰り返され、今日は一度もまともに愛撫されていない二口のモノも、先走りの液を飛び散らせた。
 確かに、いまだに後ろから繋がる体勢には抵抗もある。こんな冷たい棚よりも、照れるくらいに熱い青根にしがみつきたい。だが青根にゴムで我慢させた以上、二口の出したもので互いの服を汚してもいけないと思ったのだ。
「んぁっ、ア、あおね……ヒ、アァッ、あ……ん、ああああぁぁっ……!!」
「……!!」
 やがて絶頂の予感に身を委ねると、すぐに熱い快楽へと飲み込まれた。
 やはり、青根とするのは気持ちがいい。
 だが奥に熱い液を叩きつけられないと、もう物足りない体なのだと教えられてしまった。




「なに拗ねてんだよっ、バカ」
「……。」
 なんとか一回でセックスを終え、簡単に後始末をして制服も調える。
 薄暗い教室に掛かった時計を見上げるでもなく、携帯電話で確認をすれば、まだチャイムまで十分近くあった。これならばもう少しゆっくり進めればよかったという感想は、腕を回して一緒に床へと座り込む青根がいればあまり持たなくてすむ。
 終わってからいちゃいちゃするのも大好きだ。甘えるように背中を預けたが、肩に顔を埋めてくる青根からは不満そうな気配がする。腹の前でがっちりと組まれた両手が決意の証のようで、若干不安だ。青根のクラスは何の授業だか知らないが、二口は四時間目はちゃんと出てテストを受けないと、後日放課後にやらされて部活に支障が出る。
「ちゃんと声は出してやっただろ? ……いや、出したっていうか、殊更殺しはしなかったってだけだけど」
「……かわい、かった」
「だから可愛いとか言うなバカッ」
 いつものやりとりにも、やはり覇気がない。嘘をついて誤魔化すことはない青根なので、可愛いと思っていることは事実なのだろう。それと同時に、やはり不満がある。以前後ろからしたときの不満が、喘ぎが聞こえないという、二口にすればむしろ聞くなバカという類だったのでそれから確認したが、今回はそこは満足だったらしい。そうなってくると、やはり不満はもう一つの方しか考えられず、二口はため息をついて青根の腕の中で振り返った。
「……?」
「……そんなに、ゴムするのイヤか?」
 半分振り返って尋ねれば、青根は頷かなかった。だが、首を横に振ることはない。いつもの消極的な肯定ということで、嫌は嫌らしい。利点も分かっているので、胸を張って嫌だとは言えないだけだ。
「だから、お前の所為だろ? 部室でも、下校中でも、やりたがってくるから」
「……。」
「しかもお前、いっぱい出すし、終わってからオレが大変なの分かってないだろとかまで言わねえといけねえのかよっ、バカ」
「……!!」
 拗ねてみせれば、明らかに青根は動揺する。それなのに、それを隠そうと努めた挙句、二口の耳を指先で撫でながら口を開いた。
「……だ」
「『大好き』て言ったら、オレが誤魔化されるとか思ってんのか」
「……!!」
 こういうとき、青根が言うのは二つしか種類がない。
 好きか、大好きだ。
 正確には、誤魔化そうとしているのではなく、嬉しくて結果的に誤魔化されてしまう二口に期待しているだけだろう。聞きたいのに一回分を犠牲にしてまで止めた二口は、もうしっかりと振り返って青根を睨む。すると、薄暗い中でも分かるほど青褪めていく青根に、笑いたいのは必死で堪えて言い聞かせておいた。
「オレのことが好きって伝えたいとき以外、好きって言うな」
「……!?」
「ほら、今はなんて言うんだよ?」
 恥ずかしい思いをしてまで避妊具を買ってきたのは、自宅以外でもしたい青根に応えるためなのだ。分かっているならば頷けと促す二口に、青根はゆっくりと頷いてから再び口を開く。
「……たまになら、いい」
「なんで偉そうなんだよ、じゃあまずはお前がオレの家以外でたまにしか欲情するなよっていうか」
「……だいすき」
「……。」
 そして妥協しまくったと分かる態度で渋々認めた後、もう一度今度は最後まで告げてから青根はギュッと抱き締めてきた。
 念を押したばかりなので、告げたい欲求以外は何も存在していない。
 だからこそ二口ももう虚勢を張り切れず、青根の背中に腕を回した。
「……?」
「……オレも」
 大好きと言ってしまうと、本当に次の授業には出れなくなってしまう気がして、二口は肩に顔を埋めて飲み込んだ。
 木曜日だから、仕方がないのだ。
 週末に泊まりに来ることが習慣になっていると、どうしても体を重ねるのもそのときになる。先週は、金曜日だった。それから昨日に至るまで、学校から帰るときは決まって天気が悪い。さすがに雪が降る中でするつもりもない。明日になれば、部屋でできるかもしれないという期待でかえって落ち着くらしい。仮に二口のところに泊まりに来れずとも、翌日の休日練習は普段の早朝練習より始まりが遅く、既に預かっている鍵で部室ですることもできなくはない。
 だから、本当につらいのは金曜日ではなく、その前日なのだ。
 今週は特にまるっと一週間空いてしまった、だから仕方がない。これは、仕方がない。
「青根……。」
「……?」
 顔を上げ、唇を寄せようとしたところでチャイムが鳴った。
 自習も終わりだ。早く教室に戻るべきだと分かっているのに、なかなか腰を上げることができない。いまだ青根の背中に手を回したまま、二口は大きく深呼吸をしてから、精一杯にニコッと笑った。
「……お前の所為で、購買行き損ねたじゃねえか。責任、取ってくれるよな?」
「……!!」
「じゃあ……。」
 しがみついたまま立てと促せば、青根は期待通り抱えて床から腰をあげてくれる。ついでに埃も払ってもらってからしっかりと立った二口は、奢れと強要するつもりはない。そもそも、自習中に昼食を買っておくこともただの思いつきで、いつものように昼休みになってからまた足を運べばいい。
 だから、別のことを要求した。
「今日は、一緒に食堂で食べような?」
「……!!」
「……そしたら、食べてからちょっとくらいは、続きする時間も取れるだろ?」
 我慢できなくなることが分かっているから、殊更会わないようにしていた。
 それでも、自制するために仕掛けたことは、青根よりも二口に効いてしまったようだ。
「青根、ちゃんと責任取ってくれよ?」
「……!!」
 念を押せば、青根は何度も大きく頷いてくれる。
 嬉しくなって思わずはにかめば、ギュッと抱き締められてまた鼓動が高鳴った。すぐに離して、教室のドアヘと向かう数秒だけ手を繋ぎ、廊下に出る頃にはただのチームメイトの顔に戻っておく。
 今日は、木曜日だったから仕方がない。
 青根が飢えているということは、二口も同じように青根を欲してたまらないということだ。
「……青根、また後でな」
「……。」
 金曜日は、やっと巡ってきた週末に期待するから仕方がない。
 土曜日は、週末の中でも最も泊まれる確率が高いから仕方がない。
 日曜日は、翌日からまた学校が始まることへの不満があるから仕方がない。
 月曜日は、部活と恋人に没頭したいのに授業が億劫だから仕方がない。
 火曜日は、平日でした回数の大半が集中しているから仕方がない。
 水曜日は、週の半ばで週末まではまだ二日もあると肩を落とすから仕方がない。
 そして、今日は木曜日だったので、やっぱり青根としたくて仕方がなかった。
 だから自習中という、学校中に人がいる中で行為に及んでしまった。そんなにも好きにならせた青根が悪いのだと思いたくても、何も言わない背中を眺めているだけで、どうしようもなく幸せになってくるのだから、もう仕方がなかった。




 その日の部活後、どんな偶然だか二口が買ったものと同じ製品を鎌先がやはり財布に入れていたことが発覚する。誰もが見栄だと分かっているので尋ねなかったのに、勝手にしゃべり始めた鎌先はやはり余計なことを言った。
『いやっ、いつ何が起きるか分からないからな!? 女性への誠意ある身だしなみとして当然だろ!!』
『……!?』
『鎌先さんは奥手なのか箱入りなのか単に性欲が中学生レベルなのかはっきりしてくださいよ、というかどうせ年単位で出番ないから茂庭さん没収してください』
『いやオレが没収してもさあ!?』
『じゃあオレがもらっておきます』
『なんでやらねえといけねえんだよっ、返せ!! おめーは自分の使え!!』
 決して女性との行為を想定しての準備ではなかったと示すため、まずは鎌先の所持を改めようとして、二口は手を止めた。
 一度財布から引き抜き、まじまじと見てから戻す。
『な、なんだよ……?』
『いえ、そのサイズならいらないっス』
『……二口おめー今度こそぶっ殺す!!』
 同じ製品だと思ったが、どうやらサイズ展開が違うものだったらしい。強引にもらっても使えるか怪しいと判断したので二口は戻したのに、鎌先にはかつてないほどキレられた。それに呆れつつ、これを見てもそう言えるのかと青根のベルトを外そうとして、今度は茂庭に尋常でなく怒られた。











普通の高校生ぽいラブが書きたかったはずなのに
最後はやっぱり
鎌先さんごめんなさい!

ロボっぽい何か


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