■発展と応用(不正解)
※注意※
この話に限り、笹鎌+青二です。カップリングとして成立してる二組です。カプとしての錯綜はありません。
ヤってるのは笹鎌だけですが、青二は成立カップルです。
以上をふまえて、どうぞ… ↓
「……な、なあ笹谷? オレが言ったこと、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてる」
部室で後輩カップルとの交換劇をさせられて数日後、久しぶりに鎌先の部屋へと行った。
やたら大きな敷地内に離れがあり、そこを自室として使っている。部活で朝が早いことも多く、ごそごそと台所を歩き回られるよりは、夕食時に翌朝分も離れに持って行けば互いに気兼ねなく生活できるだろう。
そんな家族の配慮だと鎌先は言っていたが、本当は単に鎌先の飼うペットが朝からうるさいのでまとめて離れに押し込めただけのように思える。そうだとしても、実行できるのはこうして敷地と建物があってこそだ。本人からは金持ちらしさを微塵も感じないので、初めて訪れたときはかなり驚いた。それよりもっと驚いたのは、離れの中でもベッドなどがあるこの部屋の隣だ。以前、笹谷にだけ教えるとはにかみながら見せてくれたペットの写真が実に可愛らしいヒヨコだったので、実物に会ってみたいと言えば、鎌先ははしゃいで案内してくれた。そしてドアを開けた途端、白い塊が飛んできて笹谷は思わずしゃがみこむ。
『……!?』
『痛え!! ……ったく、相変わらず乱暴者だなあっ、ヒヨちゃんは……。』
生き物だと察知しなければ、バレー部の本能として叩き落としていたかもしれない。二口ならば、察知してもやったかもしれないと何故か戦慄した。
ともかく、飼い始めがヒヨコでも、あっという間に成長する。だが、飼い主にとってはいつまでも可愛いヒヨコのようだ。もうニワトリだろうとは何故か言えなかった。ともかく呆然と振り返れば、頭に爪を立てるようにしてとまられている鎌先は、少し血が出ていた。それでも嬉しそうなのが本当に不気味だ。よしよしを撫でながら部屋に戻した鎌先は、実にいい笑顔で尋ねたものだ。
『どうだ、可愛いだろ?』
『……お前の被虐体質の元凶を見た気がする』
『なんの話!?』
あれから数ヶ月が経つが、笹谷はヒヨちゃんとは会っていない。なんとなく、後ろめたくなるからだ。
だが泊まった際には夜明けと共に隣の部屋からけたたましく鳴かれるため、自宅よりは少し遠い鎌先の家からでも早朝練習に遅刻したことがないのは助かった。
そうして、今日も久しぶりに一人と一羽が住む離れにやってきた笹谷は、鎌先からあるお願いをされた。二人ともが互いにちゃんと恋人だと認識してから、数日なのだ。あの交換劇からは、初めての行為となる。ちゃんと恋人になったのだからと、何かしらを要求されることは予想していたつもりだったが、差し出されたのが例のノートだったことに笹谷は軽い眩暈を覚えた。
「オレのおねだり覚えてんならっ、なんで縛ってんだよ!?」
「おねだりとか言うな、気持ち悪い」
「笹谷ひどい!! 恋人でもやっぱりひどい!!」
顔を覆って泣く真似をしたいようだが、生憎鎌先の両手はとっくに縛っている。仮に本当に泣いても、視界を覆うようにタオルを巻いているので、笹谷が涙を拝むことはなかなか難しいだろう。
「知ってて好きになったんだろうが」
「そっ、それはそうだけどよ、つか、だから笹谷ってちゃんとオレのこと好きなのか!?」
「何回このやりとりさせる気だ」
「何回でも!!」
「好きだ」
「……はい」
「お前、なんで照れると敬語になんの? 地味にこっちも照れるからやめてほしいんだけど」
ちなみに、両手は手首を括るように縛っただけで、ベッドヘッドなどに結び付けてはいない。そこまで拘束すると、体勢を変えられなくなってしまうからだ。まだ制服から着替えてもいない鎌先の腰を跨いで座り、見下ろす。少しでも沈黙が訪れると、視界が塞がれている分、鎌先は不安になるらしい。
「……だ、だから、オレは、二口が書いてきたノートを、実践してほしいって言っただけで」
そして、また同じことを拗ねたように繰り返した。
久しぶりに来たこの部屋で、鎌先が渡してきたノートとは、例の交換劇で二口が書いた台本のことだ。途中まで部室でやってから、すぐに中断となったのですっかり忘れていた。笹谷は回収しなかったので、二口か青根か、あるいは茂庭が処分したのだろう。何も気にしていなかったところに、どうやら鎌先が持ち帰った挙句、何故かあんな台詞回しなのに感動していたらしいことを初めて知って、またげんなりした。
二つ折りにした痕がついている台本は、普段の二口たちの行為を記したものだ。つまり、二口役は鎌先で、青根役が笹谷である。台詞は別としても、行為そのものは実践してほしい。順番どおりでなくてもいいので、一通りしてみたいと顔を真っ赤にして訴える鎌先に対し、笹谷はどんどんテンションが落ちていく自分を他人事のように眺めた。
「青根はこうやって縛ったりしないだろ!? たぶん!!」
「……だろうな」
「それにっ、青根だったらこうやって目隠しもしねえよな!? たぶん!!」
「……見られるの好きそうだしな」
鎌先の言いたいことも分かる、きっと青根ならばこうしないだろう。おかしな性癖と好奇心で二口からねだることはあるかもしれないが、少なくとも青根から自発的にこうして身体的に束縛することはないと思う。それは笹谷も同意できる。
だが、また心の中で鬱積した気分が増すのが分かる。初めて他人の生々しい情事の一端を知って興奮するのは仕方ないとしても、鎌先はあまりにデリカシーがないと思うのだ。
「えっ、青根ってそういう趣味なのか!?」
「……知らねえよ。まあ、そうだとしても、鎌先ほどの末期じゃねえだろうけどな」
「なっ、オレは、別に、その……!!」
まだ騒いでいる鎌先に、笹谷はわざとらしいほど大きなため息をついてから喉へと手を伸ばした。
「わっ……!?」
「縛ったのは、制服破られたくないから。目隠ししたのは、そうでないとご注文の『向かい合ってする』をお前が恥ずかしがって実行できねえから」
「……そ、そうだけどっ、いや前に制服引っ張りすぎて破ったのは悪いと思ってるけどっ、でも!?」
「まだ騒ぐなら口も塞ぐ」
「……!?」
「照れるな、いやらしい意味じゃない」
「マジで!? 期待させんなよバカ!!」
ちなみに、制服に関しては、本当に嫌だったのは代わりと貸された鎌先のシャツが、二つはサイズが大きくてまさに朝から彼シャツ状態になったためだ。
ともかく、騒ぐ鎌先に付き合っていると、いつまでも進めない。あれからまだやっぱりキスもしてないのにと文句を連ねる鎌先を無視し、笹谷は改めてノートを見た。
変なところで真面目な鎌先は、わざわざマーカーを引いて期待度を色分けで示している。授業もこれくらい熱心に受ければ、毎回補習に怯えることはなくなるだろう。ともかく、この台本で期待している部分の大半は、繋がる前の愛撫らしい。確かに前戯はほぼしないので、たまにはいいかと気持ちを切り替えて笹谷は手を伸ばした。
「だからっ、笹谷聞いて……おわっ!?」
「……耳って、どうなんだろうな。性感帯のヤツもいるけど、そうでもないヤツもいるって言うし」
まずは軽く耳へと触れてみた。青根は普段まずしゃべらない分、二口には耳への愛撫というか、触れたり唇を寄せたりといった仕草をよく見る。なんの言葉がなくとも、何かを伝えたいという意志が二口に分かれば充分なのだろう。二口は勝手に好意的な解釈をするし、青根にとっても間違いではないので嬉しい。
ただ、自分たちは特に会話に不自由しているわけではなく、むしろ鎌先は過多なくらいなので少し黙らせたい。耳に触れるという行為に、それ以上の意味がなければ、そんなに気持ちいいものではないのではないか。愛撫として触れたことはないので半信半疑だった笹谷だが、すぐに答えは出た。
「……鎌先は、全然感じねえみたいだな」
「えっ、あ……!?」
「じゃあもっとしてやらねえとダメか」
急に大人しくなった鎌先は、もう顔を真っ赤にしていた。タオルに覆われた下では、ギュッと目を閉じて耐えているのだろう。小刻みになった呼吸には熱がこもり、もどかしげに踵がシーツを滑っている。
どうやら鎌先は耳も弱いらしい。今まで、ぐずぐずに蕩けさせてから刺激の一端として耳を噛むことはあったが、それは他と変わらない反応だと思っていた。この様子ではやはり特別に気持ちいいようだと分かりつつ敢えて反対のことを口にしてから、笹谷はゆっくりと上体を倒していく。
「なあ鎌先、こういうの、してほしいんだろ?」
「んぁ……あ……!!」
振り回されると危ないので、耳を触る方とは違う手で、鎌先の両手を胸の上から頭の向こうへとぐっと押しやる。その上でしっかりと覆いかぶさり、反対の耳元で囁いた。顔が近づくと、喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえた。呼吸の早さもますます実感しながら、笹谷は赤くなっている耳朶をいきなり噛む。
「痛っ……!?」
「そんなに痛かったか? まあ、舐めときゃ治るだろ」
「あぅ、んん……ふ、あぁ……!!」
痛みで鎌先がビクッと反応をしたのを確認してから、笑いをこらえて笹谷はそう言い、べろりと舐めてみた。
溝にそって舌を這わせてから、口に含んで甘噛みする。唾液の音も立つようにわざと吸ってやれば、荒い息の合間に鎌先が訴える。
「さ、笹谷……なんか、これ……耳、からも…んぁっ、んん、ふぁ……!!」
「『耳からも』? 犯されてくみたいってことか?」
鎌先は頷かなかったが、またごくりと喉を鳴らしたので正解なのはよく伝わった。
そうしてたっぷり耳を弄ってやれば、それだけで鎌先は完全に酩酊状態に入る。ここに落とすには今まで後ろを慣らして射精させるしかないと思っていたが、大した収穫だ。やや満足して顔を上げると、鎌先は軽く口を開けて小刻みな呼吸をしていた。赤い舌が覗いているのを見れば、キスをしたい欲求にも駆られる。だが再び噛まれる恐怖だけでなく、別の不愉快さが戻ってきて笹谷はぐっと自制しておいた。
「鎌先、もうちょっと膝開け」
「ん……。」
腰に座る体勢から、開かせた足の間にまずは移動する。普段は鎌先のシャツを笹谷が脱がせてやることはない。鎌先に命じるのではなく、そもそも脱がせる必要性がないためだ。女ではないのだから触りたいとは思わないし、触っても鎌先も気持ちよくはないだろう。そう思っていたが、例のノートではしっかりとマーカーが引かれていた。そういう愛撫は、それこそ二口が女の代わりにしているのかと青根にキレそうだと思っていたが、そうでもないらしい。怒りを凌駕するほどの快楽があるのか、見当違いな嫉妬をする余裕もないなど愛されている自覚があるのか、後者だとすれば何故だか悔しくなりそうだ。
ともかく、これも鎌先からの要望だからと笹谷は制服のシャツのボタンを開けていく。中に着ていた派手な色のTシャツは、脱がせようにも両手を縛っていて叶わないため、たくし上げるだけにする。
「……。」
「笹谷……?」
そうして見下ろしても、まったいらな胸があるだけだ。されて感じる男はいるかもしれないが、するのが楽しい男は極端に少ないだろう。
部室での着替えでも、それこそ水泳の授業でも、男の場合はよく目の当たりにする。隠された場所を暴き出すような楽しみもない。実際に、今まで何度も見たことはあったし、それで興奮したことはない。本音で言えば、告白する前はいくら鎌先を好きな自覚はあっても、やはり性的対象として見ることができるかはずっと自信がなかった。それでも突っ込めれば男女の差はないので繋がることにばかり自分は執着しているのだと思っていたが、単なる食わず嫌いだったのかもしれない。
「えっと、笹谷、なんで急に黙って……んぁっ!?」
「……お前なあ、そんなに耳舐められるの、よかったのか?」
「は、ぃ……ひぁっ、ア……!?」
何故かとっくに制服のズボンを押し上げているモノには膝を押しつけるようにして戒めながら、笹谷は胸へと手を伸ばした。鍛えすぎていて、まったいらよりは少し膨らみがある。だが女のように柔らかいはずもなく、単なる胸筋だ。
その認識は今もそのままなのに、何故か興奮した。軽く指で触れただけで驚いたように身を竦めるのが愉しくて、今度は指先でぐにぐにと捏ねるように回してから、親指も使ってキュッと摘んでやる。
「んぁっ、あぁ……!?」
「……で、胸もいいのかよ。お前、ほんとは一人でシてるとき、こっちも弄ってんじゃねえのか? 反応よすぎだろ? んー?」
言葉で辱めるときに何度かやらせようとしたが、下を扱くことはあってもこうして胸を弄ることはまずない。男ならば、普通はそこに意識はいかないだろう。だからこそ、鎌先が自慰をさせても触れなかったことに疑問はなかったが、すぐに硬く勃ち上がった乳首をやや乱暴に弄るたびに声を出されては、そんなふうにからかいたくなってしまう。
「でもよ、自分で弄ってるだけじゃ……こうして、舐めたりとかはできねえだろ?」
「ひ、あぁっ!? んぁ……あっ、笹谷、それ……んんっ、んぁ、ア……!!」
「なあ鎌先、お前、初めてじゃねえんだろ?」
舌で押し潰した後、唇で挟んで口の中で転がすように舐め回す。軽く吸ってやればそのたびにまたビクビクと震える鎌先は、確実に愛撫として受け取っていた。
耳も、胸も、女相手であればきっと普通にしていたと思う。だが男相手で、よりによって鎌先なので、そんな知識もないだろうしと放置していた。ただ、知識はなくとも、鍛えられた敏感な体は無垢だからこそ教え甲斐もある。すっかり忘れていたと思いながら、笹谷は一度胸から顔を上げて鎌先の顔を見下ろした。
「ほら、鎌先、どうなんだよ?」
「んんっ、あ……あ、あぁ……!!」
乗せていただけの膝で、今は足の間をぐりぐりと刺激しながら、両手では胸を弄ってやる。ますます息が熱っぽくなっている鎌先はまともに答えられないと思っていたが、一度唇を赤い舌で舐めてから、掠れた声が返る。
「だっ、て……笹谷が、しろ、て……んんっ、んぁ……!!」
「ん? ああ、まあ、たまに言ってたよな、恥ずかしがらせるためだけの冗談だけど」
「冗談だったのか!? オレ、弄られてもよがらないのがつまらねえからって意味かと、思って、必死に……いやそんな必死にならなくても、最初から結構気持ちよかったけど、でも……!!」
そして、思わぬ告白に笹谷は鎌先には見えないので安心して笑みを深めた。
どうやらやはり元々は自慰で弄る趣味はなかったようだが、笹谷が言うのを真に受けて開発したらしい。事実だとはこの反応ではっきりと分かるので、今度自慰をさせるときは自分でも弄らせてやろう。密かな楽しみが増えた笹谷は、つい見極めが甘くなった。
「まあ、こんだけ勃ってんだから、相当気持ちいいんだろうな?」
「ん、あぁっ!? ア、笹谷ぁ、足……足、はずし、て……んぁっ、あ、あぁっ……!!」
確かめるのが半分と、ご褒美が半分のつもりで、またグリグリと膝で制服越しに苛めておく。だいぶ窮屈そうだと思ったとき、身を捩じらすように動いた鎌先が、上がっていた息を詰めた。
「ん、あああぁっ……!!」
「……鎌先?」
まるで、イッたときのようだ。
そう笹谷は思ったが、実際に膝を押し当てていたものが急に硬さを失っていけば、比喩ではなく事実だと悟る。
どうやら、鎌先は服の中に出してしまったらしい。小刻みに震える唇が、達した余韻からだけではないと知っていたので、笹谷は目隠しをしていてもよく聞こえるようにため息をついておく。
「……ったく、洗濯が大変だから服に出すなって言ってんだろ」
すると、余裕と現実が戻ってきた鎌先は当然のように反論する。
「そんなのっ、笹谷がやったんだろ!? オレ、もうやばいって言ってるのに、足、外してくれねえで……!!」
「我慢しろよ、あの程度」
「できねえよっ、気持ちよすぎて!!」
「うるせえな、黙らねえともっかいこのままでイかせるぞ」
「……。」
「まあ、黙ってもまたイかせるんだけどな」
そんなのひどいと騒がれる前に、笹谷は鎌先のベルトを外し始めた。下着はまだしも、制服にまで染みていると本当に洗濯が必要になる。明日は休日だが、午後から練習があるのだ。授業がある日と違って部活ジャージだけで登下校すればいいかとも思いながら、制服の前を寛げてから笹谷は軽く鎌先の腰を叩く。
「ほら、腰上げろ」
「……。」
まだ不満はたくさんありそうだったが、鎌先は大人しく腰を上げた。脱ぐ前にイかせられたことは怒っているが、それを笹谷に脱がせてもらうという行為は本当に久しぶりなので嬉しいのだとよく分かる。お手軽なヤツだなと内心で呆れつつも、さっさと制服と下着を長い足から引き抜いた笹谷は、再びぐっと膝を開かせた。
「まあ、鎌先の早漏具合を考慮せずに、下着を汚させたのはオレも悪かった。謝ってもいい」
「……オレが早いんじゃねえよ、笹谷がオレを気持ちよくさせすぎなんだよ」
「だから、ここは鎌先に選ばせてやる。扱いてもらうのと、もう後ろ慣らされるの、どっちがいい?」
「……。」
言っている間にも、鎌先のモノは出したばかりなのにまた勃ち上がりかけていた。若さだけが理由ではない。こうして、見られているということにも鎌先は興奮するのだ。特に今は鎌先の視界が塞がれているため、本当に笹谷が見ているかどうかに関わらず、ずっと全部を視線で嬲られているような気がしてしまうのだろう。
始めのうちは、鎌先も気持ちよくさせなければという意識から、何度か手で扱いてやったことはあった。だが鎌先はすぐに後ろでの快楽を覚えたし、同時にされる方が気持ちよすぎて怖いと泣かれたので、最近はほとんどしていない。
だが今日は耳や胸といった初めての愛撫をされ、だいぶ好奇心も高まっているのだろう。久しぶりにされたいという気持ちと、慣れた快楽に早く辿り着きたいという葛藤でキュッと唇を噛み締めている鎌先に、笹谷は構わず手を伸ばした。
「……んぁっ!?」
「ほら、鎌先、どっちがいいんだ? こうやって扱かれる方がいいか?」
「んんっ、ア、笹谷……待っ、て……んぁっ、あ……!!」
選ぶのを待たずに中途半端に熱を持ったモノを擦り上げ、先端には指先を立てる。そしてひとしきりグリグリと弄ってから、あっさりと笹谷は手を離した。
「笹谷? ……んんっ!?」
「あと、いつかさせてえから今のうちに味に慣れとけ」
「え……えっ、これ、オレ、の……!?」
「オレはまだ出してねえんだから、お前の精液なのは当たり前だろ」
少し前まできつく噛まれていた唇に、歯の痕がついていた。それを労わるように指先で撫でてから、ぐっと口内へ押し込んで舌に擦りつけた。驚いて噛まれる前にさっさと指を抜き、纏わせていた液体の正体を教えれば鎌先はざっと青褪める。そして今度は怒り出すのだろうと予想しながら、笹谷はベッドの脇へと手を伸ばした。
「変態っ、薄々気がついてたけど笹谷って変態だろ!? なんで自分の舐めなきゃなんねえんだよっ、笹谷のならまだしも!!」
「……その割りに、おっ勃ててんじゃねえか」
「だ、だって、それは、久しぶりに舌とか触ってくっから、もしかしてキスしてくれるんじゃとか、期待しかけて……ひぁっ!?」
憤慨してる鎌先に構わず、笹谷は手にしたローションの蓋を開け、逆さまにして一気に出した。
そそり立っているモノに当たるようにすれば、冷たさにも感触にも鎌先は身を竦める。当然だろう。だが萎えていくことはないので、相変わらずのポテンシャルだ。
薄くピンクがかった液体は、先端辺りから根元まで伝い、更にその奥まで垂れていく。これは制服よりもシーツの洗濯が大変そうだとは思ったが、笹谷がローションの残りを出しきるまで大人しくしていたことに免じ、さっさと指を突き入れてやった。
「んあっ!? ……あ、んんっ、笹谷ぁ……!!」
繋がるための準備作業が、鎌先にとっては最も慣れた前戯であり、愛撫だろう。非難がましく名前を呼ぶのは、制止ではなく催促、あるいは懇願だ。
もっと、中を擦ってほしい。
もっと、太くて長いモノで、奥まで抉ってほしい。
自然と揺れる腰にそうせがまれても、笹谷は指を増やしてしっかり慣らしておく。怪我をさせるつもりはない。そろそろいいかと笹谷は思っても、目隠しをされている鎌先にはもちろん見えない。だからこそ、快楽への期待が大きい分、不安も育ったのだろうと後からならば分かる。
「んんっ、ひ、アァ……あ、笹谷、なん、で……!!」
「いつものことだろ、ちゃんと慣らしてやるっていう親切だ」
「で、でも……んぁっ、ああ……ふ、んんっ……で、も……青根、なら……!!」
「……は?」
「青根、なら……こんな、焦らさない、て……。」
どうしてここで急に後輩の名前が出るのか、一瞬頭が真っ白になったので理解できなかった。だが思わず指を抜けば、ベッドの隅に放置していたノートが見える。
「んんっ……あ、笹谷……?」
「……。」
そういえば、あのノートが発端だった。鎌先によっていくつかマーカーが引かれていた箇所で、確かに慣らすとすぐに繋がるような記載もあった気がする。
あれは基本的に二口からせがむのが原因だろう。元より、性欲がないとまでは言わないが、青根は性癖と呼べるほどの嗜好があるかは謎だ。極論で言えば、二口とするのであれば内容にはそこまでこだわらない。むしろできるだけ二口を気持ちよくさせてやろうと、せがまれればすぐに応じるので、結果的に焦らすことにならないというだけだと思う。
他のカップルの趣味や関係性を、どうこう言うつもりはない。当人たちが満足していれば、それでいいのだ。
だが始める前に募らせていたストレスを、最悪のタイミングで思い出せてくれた鎌先に、笹谷はノートではなく別のものを手に取った。
「……そうだよなあ、青根なら、こんなことしねえんだろうなあ」
「えっと、笹谷……んあぁっ!?」
「……ついでに、二口なら最中に他の男の名前を繰り返すとか、しねえんだろうな」
小さく続けた呟きは、いきなり玩具で犯された鎌先には聞こえていなかっただろう。
もちろん笹谷が持ち込んだものだが、自宅で保管すると家族に見つかって面倒になりそうだったので、ずっと鎌先の部屋に置いている。男性器を模った物を押し込めば、鎌先は苦しそうに唸りながらも声に熱が混じっていく。
「ふぁ、アアッ……あ、笹谷、なん、で……んぁっ、あ、あぁ……!!」
「オレはもう萎えたってだけだ。でもお前だけはイかせてやろうってんだから、ほんっと、オレって、優しいよなあ」
実際には体は萎えていないが、どうにも不貞腐れた気分になってしまって腹が立って仕方がない。手にした玩具を何度か抜き差しした後、ぐぐっと奥まで押し込んでから笹谷はスイッチを入れる。
「ヒ、アァッ!? ああ、んんっ……あ、笹谷ぁ……!!」
「ちゃんとそこで咥えとけよ。オレがイク前に落としやがったら、顔にぶっかけるからな」
「そ、そんなのっ……んぁっ、ア、あ……オレ、がんばれ、なぃ……んあっ、ああ……!!」
自分の制服のベルトを外しながら適当に無茶なことを言えば、鎌先は何度も首を横に振っていた。
ぐるぐるとうねる玩具を咥え込み続けるというのは、意外に困難だろう。こんなに動くものなのかと感心したのは、手を離すと柄の部分がかなり回るからだ。逆を言えば、ぐっと手で柄が回らないように押さえれば、必然的に飲み込まされた中で男性器を模した部分が回っていることになる。気持ちいいのかは謎でも、傍から見る分には興奮するので今もまたぐっと握った笹谷に、ますます息を荒くしながら鎌先は訴える。
「笹谷っ、笹谷ぁ……んぁっ、ア、ゃだ……オレ、また……!!」
「イきてえなら、勝手に出せよ。オレもうお前とセックスする気ねえし、抜いとかねえと苦しいばっかだろ」
抜かないと苦しいだけなのは笹谷も同じなので、再び玩具からは手を放して自分のベルトを外す作業に戻る。
何を言われても、今日はもう無理だ。苛立ちが性欲を上回る。いっそ征服欲へと昇華すれば続けられたかもしれないが、仮にそうして繋がったところで、また知りもしないのに比べられると余計に落ち込むことぐらい想像がついた。だから快楽からの戯言にはほだされないとため息で決意したのに、鎌先はやはりずるい。
「ささやぁ……!!」
「……お前、卑怯すぎだろ」
洟をすすり上げるような音に嫌な予感がすれば、タオルを当てられていても涙が溢れているのが見える気がした。鎌先が最中にぐずぐずになって生理的な涙をこぼすのはいつものことだが、今はそれ以外も含まれている。
玩具で辱めるのはわりと始めの頃からやってはいたが、縛って抜けないようにして放置したり、鎌先にそれで自慰をさせたりしても、最後は必ず繋がってやった。鎌先は口や手で笹谷のモノを処理できないし、何より笹谷自身が我慢しきれなかった。そんなことばかりだったので、いつもなんだかんだで最後はちゃんとするのだという意識が鎌先にはあったのだろう。
「泣き落としとか、ガキかよ」
「んんっ……あ、笹谷……?」
「ほら、もっと足開け」
「え……んぁっ、ああっ……!?」
半分抜けそうになっていた玩具を取って、ぐっと膝の裏へと手を入れる。鎌先が慌てて足を開こうとするのも待てず、笹谷は猛っていた剛直を突き入れた。
容赦なく腰を進めれば鎌先が軽く達したのは分かったが、構わず抜き差しを開始する。笹谷にもあまり余裕がない。
「んぁっ、ア、笹谷、笹谷ぁっ……!!」
「……最初から、それだけ呼んどけばいいんだよ」
嬉しそうにキュウキュウと締め付けてくる鎌先のそこを、すげなく振り払うように抜き、寂しそうにしたところにまた奥まで抉る。ローションでたっぷりと慣らした後孔は、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて笹谷のモノを頬張った。絡みつく心地よさに次第に笹谷も絶頂が近くなっていく。
「ふぁっ、アア……あっ、笹谷ぁっ、オレ……また、んぁっ、ア、あああぁぁっ……!!」
「クッ……!!」
そして同じように本格的な波に襲われたらしい鎌先と、ほぼ同時に果てた。
かつてそれでしがみつかれたシャツを破られたので、ずっと後ろからしかしなかった。
今回はその教訓から両手は縛っておいたのに、やはり鎌先は鎌先だと笹谷は痛感する羽目になった。
休日も、基本的には練習がある。だが平日も毎日部活はあるため、休日練習はあくまで参加は任意だ。それでも強豪校だからこそ、ほとんどの部員が半ば必須のように出る。よって、大会がない時期は半日、または全日で体育館が使えない強制休養日が設けられるのは珍しいことではない。
「なあ青根、まだ練習まで時間もあるし、先に買い物行く?」
「……。」
土曜日である今日は、その半日休養日に当たっていた。部活に専念するため、自宅が遠い青根は学校のすぐ近くにアパートを借りて一人暮らしをしている。普通は部員たちの溜まり場にならないようにとコーチなどから言われるそうだが、最初の数ヶ月は誰も足を運ばないので逆にもう少し親睦を深めてはどうかと助言されたらしい。だがそんなコーチも、今は何も言わない。青根の家に誰も行かない理由が、入学当初とは変わったことを薄々察したからだろう。
「なんか、半日休みって、時間が使いにくいよなあ。せめて午後が休みなら、練習終わってから遊びに行ったりとかできるけど」
「……。」
「……まあ、でも金曜日の夜にたっぷりできるって意味では、午前休みもいいか」
「……!!」
昨日もちゃっかり泊めてもらった二口は、久しぶりに最中に意識がなくなるほどの行為を思い出して面映くなった。結果的に寝るのはいつもより早かったはずなのに、起きるのは早朝練習があるときよりずっと遅くてかなり驚く。青根はとっくに起き出して、掃除や洗濯の準備だけしていた。実際に掃除機や洗濯機を動かすと、うるさくて二口が起きることを心配していたのだろう。それ以上に、久しぶりにヤりすぎたかと気にしているようで、二口に怒られて更に機嫌を悪くさせたくないという意思が垣間見えて、笑ってしまったものだ。
そんなことで怒ったりしない、むしろもっとしたいくらいだ。
笑って手を伸ばせば、青根は嬉しそうにギュッと抱きついてきた。気恥ずかしい体温にうっとりしていればキスをされる。おはようの挨拶にしては熱烈だなと思っている間に再びベッドに沈められ、二口はうっかり寝る前の続きをすることになりかけた。
「でもさ、やっぱ半日練習って、中途半端なんだよなあ。体力は余るけど、でも疲労してないわけじゃないっていうか」
「……。」
「要するに、練習終わってから買い物行ってメシ作るのが面倒くさいっていうか」
朝に続きをしなかったのは、たまたま互いの腹が盛大に鳴ったためだ。どうやら青根は食事も準備だけして、食べずに待っていたらしい。平日に泊めてもらうときはコンビニ弁当ばかりだが、休日の際は適当に二口が作っている。ただし、ヤったときは朝食だけ青根の当番だ。そんな暗黙の了解ができるほどにこんな関係に慣れた二口は、二回目の洗濯を終えてそう話しながら台所に向かった。
今日は天気がいいので、布団も干せそうだ。これからどんどん冬になっていくことを考えれば、次に布団を外に出せるのはずっと先になるかもしれない。朝食の前に洗濯開始と布団干しだけやっておき、食べてから掃除をした。そしてもう一度回した洗濯機から濡れた洗濯物を出し、すべてベランダに干し終えれば十時を回っている。
昼食には早いが、やっておくべき家事は終わった。宿題などもない。早めに練習に行ったとしても、どうせまだ体育館は閉まっている。それならば、練習終わりに買い物に行くよりいいかと提案しながら、二口は背の低い冷蔵庫をしゃがんで開けてみた。
「卵は、もうないのか……あと、牛乳もほとんど空だな……。」
青根はたまにしか自炊をしないので、冷蔵庫に生鮮食品は少ない。二口も毎日泊まりにきているわけではないし、比べれば青根より多少マシだというだけで、料理の幅も広くはない。自然といつも似たようなメニューになってしまうのだが、青根は文句など言ったことはなくもいつも嬉しそうに食べてくれた。
ちなみに、青根も料理をしないわけではなく、また向いていないということでもない。ただ、適当に炒めて適当に調味料を振ればいいと適当に考える二口と違い、必ずレシピを見ながら書かれた材料をすべてそろえなければ気がすまないらしい。更に、一グラム単位で計量し、十分煮込むとあればきっちりと秒単位で待つ。時間もかかるし、何より気疲れする。当人はそれなりに楽しいようだが、泊まりにきている二口の方が耐えられない。放っておかれて不満は溜まるばかりなので、味に文句がないなら自分にさせろと詰め寄れば、青根は嬉しそうに頷いてあっさり任せてくれるようになった。
たまに実家に帰るときは、家族のパソコンを借りて簡単なレシピを探し、密かに出力してもらっていることは青根には話していない。頑張っているのだと恩着せがましくなることよりも、単純に気恥ずかしいのだ。今夜はその新しいメニューを試してみようかと考えていると、開けたままだった冷蔵庫の扉を後ろから伸びてきた手がすっと押して閉めた。
「あっ、悪い、ちょっと何作ろうか悩んでて……?」
「……。」
開けっ放しにするのはよくないという指導かと思ったが、いつの間にか台所に来ていた青根は、そのまま腕を回してギュッと抱きついてくる。
「青根?」
「……コンビニ、で」
そして珍しく口を開いたかと思えば、そんなことを言われて二口は少し悩んだ。
今夜のメニューを考えていると、コンビニでいいと言われる。つまり、作らなくていいという意味だ。今現在、二口は食事を作らないと怒るような事実を抱えてはいない。そうであれば、これから作るのが億劫だと感じるようなことをしたいのだと分かれば、つい笑ってしまった。
「なんだよ、朝の続きがしてえの?」
「……。」
「今、十時過ぎか。……だったら、一回だけだぞ?」
「……!!」
そして確認すれば気配だけで頷かれ、練習までの時間を計算してそう言えば、青根は嬉しそうにまたギュウギュウと抱き締める腕を力を込めた。二口も嬉しくなるが、若干痛い。まだまだ力加減の躾はできていないと思いつつ、青根の腕を軽く叩いて冷蔵庫の前から立ち上がる。
「……?」
「青根、だったら……?」
後ろの青根も立ち上がったが、腕は回したままだ。したいのならばすぐにベッドに移動するのかと思ったが、なかなか歩き出そうとはしない。
ちなみに、干したのは元々青根が使っていたベッドの敷き布団だ。二口がよく泊まりに来るようになってからは、申し訳ないと二口の両親が客用布団を買って送ってくれた。もちろんこの関係は互いの両親には内緒であり、二口は普段その客用布団を床に敷いて寝ていることになっている。だが実際には使っておらず、たまに干したりする際の予備として敷くだけだ。マットレスしかない状態ではないのに、どうしてベッドに行かないのか。不思議そうに肩越しに見上げれば、青根は肩に顔を伏せたままで片手でジャージを引っ張った。
「……ん?」
「……。」
「……ああ、それか」
室内着として使っている二口のジャージのふちに指を引っ掛ける。だが手を差し込むわけでもなければ、下ろそうとするわけでもない。
一週間前なら、青根の意図は全く分からなかっただろう。それが今はしっかり確信を持てるのは、例のノートを広げて何度も同じところを指で示されたためだ。
「お前、そんなに気に入ってんの?」
「……!!」
数日前、部室で先輩カップルとの交換劇をした。二口たちは恋人として問題はないので、ただの余興や手本のようなものだった。だが鎌先に書かせた台本が予想よりだいぶひどかったため、茂庭から早めにストップがかかる。実際にあれから先に進めても、二口は愛撫も何もないまま後ろを慣らされて射精させられ、更に繋がって腰を振られて一度も青根の顔を見ることは叶わないという状況だ。
そんなことは興味がないと台本を捨てた二口だったが、青根が茂庭からもらっていたらしい。まさか意外にああいうのが好きなのかと慄いたが、青根の琴線に触れたのはもっと別のことだった。
「オレは、お前に脱がされる方が興奮するけどなあっ」
「……!?」
「……まあ、そんなにオレのストリップが見たいなら、いくらでも脱いでやっけど」
「……!!」
いつもの軽口でも叩いていないと、照れくさくて承諾できそうにない。
あの台本の中で、どうしてそこに注目したのかはよく分からないが、二口が自分で服を脱ぐという行為が青根はたいそう気に入ったらしい。昨夜もせがまれて、抵抗する理由もあまりなかったので応じてやると、やたら励まれて途中で意識を失ったので愉しいのは事実なようだ。
今も腕の中でやっと振り返り、青根を見上げる。そしてベッドに行く前にどちらからともなく唇を寄せたとき、空気を読まないチャイムとドアをノックする音が部屋に響いた。
「……あ、あの、二口さん? オレ、そろそろ、膝が痛いんですけど、いつまで、正座してれば」
「はあ? 休日にいきなり訪ねてきておいて、寛ぐ気なんですか、図々しいにもほどがあるでしょ」
あれから約三十分後、二口はかなり不機嫌そうにそう返すことになる。
二口が青根と台所でいちゃつこうとしたとき、いきなりチャイムを鳴らしたのは鎌先だった。もちろん無視しようとしたが、青根はそわそわするし、ドアもノックされて地味に近所迷惑だ。なにより遠くからベランダで洗濯物を干す姿が見えていたようで、いるのは分かっているんだぞと、どこの刑事ドラマかと疑うようなことを口走っている鎌先に、二口は諦めてゆっくりと玄関を開けたものだ。
『……あっ、二人とも、おはよう!! なあなあ聞いてくれよっ、笹谷がさぁ!!』
『鎌先さん……これ以上ここで騒いだら、噂のヒヨちゃん、毟りますよ』
『やめて!?』
二口は直接会ったことはないが、交換劇以降に笹谷から聞いたことがあった。二口は青根が一人暮らしなので困らないが、笹谷たちは部室くらいしかする場所はないのか。それに、笹谷はあっさりと鎌先の自室が離れにあることと、明け方までヤっていると隣の部屋でニワトリが騒ぐので気が散るという、どう慰めればいいのか分からない愚痴をこぼした。
ともかく、一応は大人しくなった鎌先を部屋に上げ、テーブルの前に座らせる。正座指定だ。青根はおろおろしていたが、二口が怒っているのが分かっていれば何もできない。なにより、邪魔されたことは青根も同じなのだ。もう少し家事があるからそれまで待てと飲み物は出したが、しばらくアパートを出て電話をしてきただけの二口に、鎌先はまた騒ぎ出した。
「せめてっ、せめて座布団とか!? お前らが座ってるクッションみてえなのないのか!? 足痛えんだけど!?」
「ここには青根とオレの分しかないです」
「……。」
「……いや、青根はクローゼットの方、見てるけど、ほんとにないのか」
「ありません」
青根は鎌先の言葉でハッと息を飲み、慌てて二口の顔を覗き込んできた。クッションというほどではないが、床に直接座る際に敷く物はある。これも洗濯をする際の予備だ。だがそれを鎌先に出すつもりはなく、そろそろ三十分が経つので二口も立ち上がった。
「まあ、筋肉バカの鎌先さんが自分の体重で膝を痛めるとチームとして困りますからね、仕方ないんでオレのを貸しますよ」
「いやオレの体重をどうこう言うなら青根のがよっぽど重いっていうか……?」
「……?」
「で、鎌先さん、今日は何なんですか」
「つかなんですっげー自然に青根の膝に座ってんだよ!?」
「ダメなんですか?」
「羨ましいだけだ!!」
確かに、鎌先の体格で笹谷に座ると、潰してしまうかもしれない。可哀想にと棒読みで感想を述べたが、ようやく青根の体温を再び感じるようになると安心したおかげで、二口は本当に心配になってきた。
先日の部室で、予定とはだいぶ違ったが鎌先も笹谷と和解というか、正式なお付き合いをできたようだ。笹谷は翌日も変わらず淡々としていたが、鎌先は浮かれまくっていたので間違いない。また鎌先の一人上手ではまずいと念のためこっそり笹谷に確認すれば、やはり恋人にはなったらしい。その流れで元ヒヨコの話も聞いたのだが、早速ケンカでもしたのだろうか。
「というか、昨日は笹谷さんが鎌先さんのところに泊まって行ったんじゃないんですか? またニワトリに起こされるって笹谷さんがぼやいてたし」
午後からの練習には出る様子だったので、自分たちのようにてっきり泊まった後に二人で登校するのだと思っていた。だがそれには、鎌先はやっと足を崩してから不満そうに唸る。
「オレも、そのつもりだったけど……朝から、ケンカしたから、笹谷が不機嫌になって……。」
「今度はなにやらかしたんですか」
「オレじゃねえよ!! 笹谷が悪い!! あとヒヨちゃんは成長したヒヨコだ!!」
笹谷の自宅方面を考えれば、やや遠回りして学校に向かうことになる。一度自宅に戻り、荷物を置いたりもしたいだろう。だがそうだとしても、途中まで一緒に行けばいいだけだ。先に家を出なくともいい。やはり何か深刻なことがあったのだろうとは察するが、笹谷が悪いという鎌先の弁は非常に疑わしい。
「……どうせ、鎌先さんが馬鹿なことして怒らせただけでしょ」
前回の教訓からそう警戒する二口に、鎌先は実に命知らずだとうっかり感心しそうになった。
「いやこれはほんとに笹谷が悪いっての!! だってな、『そんなに青根がいいなら青根と付き合え』とか言いやがったんだぞ!?」
「……。」
「……?」
「これってひどくね!? 恋人なのにひどくね!? ……あの、二口?」
背もたれにしている青根が不思議そうにしているのは察したが、構ってやれる余裕はない。
何がどういう流れでそんな発言になったのか知らないが、少なくとも、あの笹谷にそう言わせるだけの根拠が鎌先にはあったのだ。みっともなく騒ぐのは鎌先みたいで格好悪いのでやめようと自制した結果、二口は手を伸ばして鎌先の足を握り締めた。
「ギャー!?」
「……どういう趣旨かはさておいて、笹谷さんの助言に従ったんですか。その目的で、鎌先さんは休日に青根の部屋まで押しかけたんですか」
「い、痛いって、まだ正座の痺れが残ってっから、痛、い……痛だだだだだだだ!!」
「答えてください、鎌先さん。そうでないと、オレは鎌先さんの余命をあとどれくらいに設定したらいいのか分かりません」
「普通に怖ええよ!!」
脅しているのだから当たり前だ、この先輩は何を言っているのだろう。
心底分からないという目で返せば、鎌先はすっと目を逸らした。足もプルプルしているが、全体的にガタガタと震えている。怯えるより早く答えろと足を掴む手に力を込めたとき、後ろの青根からギュッと抱き締められた。
「……青根?」
「たっ、助けて青根、お前の恋人に誤解で殺されるっ、ていうかもう怖くて寿命縮んだ……!!」
脅しが通じていないのか、助けを求めて青根に伸ばそうとされた鎌先の手は、はたき落としておく。だが久しぶりに口を開いた青根は、二口にではなく鎌先へと言葉を向けた。
「……大切な、恋人が、いるので」
「え……?」
「あ、青根、そんなことより、助け、て……。」
「……先輩と、お付き合いは、できません。ごめんなさい」
「青根……!!」
「オレだって申し込んでねえよっ、なのになんでふられてんだ!! なんか理不尽だ!! つか誤解だって分かったなら二口もさっさと腕外せよ!!」
ようやく払い除けられたが、何も二口も本気で鎌先が青根を狙っているなどと思ったわけではない。ただ、ほんのわずかでもそんな兆候があるなら育つ前に摘んでおこうとしただけだ。だが実際には、仮に誰が青根に真摯な想いを向けようが、青根がこうして応じないのであれば何も心配することはない。むしろ動揺した自分の方が恋人を信じきれなくて不安にさせたかと焦るが、青根は大好きと耳元で囁いて抱き締めてくれる。
「そんでオレのこと放置していちゃつくのもやめてくれよ、寂しいだけじゃなくて羨ましくなってくっから……!!」
「……それ、あくまで『笹谷さんとのことを想定して』、ですよね?」
「当たり前だっ、オレが付き合ってんのは笹谷だし別れる気はねえ!!」
そうであるならば、尚更あやうい発言はやめてほしいものだ。少し落ち着いてきた二口は、それでも怪訝そうに尋ねる。
「だから、笹谷さんがそんなこと言うのって、どう考えてもおかしいでしょ? どうせ鎌先さんが迂闊な言動したんだろうし、さっさと謝ってきたらいいじゃないですか」
だがそれには鎌先は相変わらず頑なに否定する。
「オレは何もしてねえっての!! そもそも、昨日ヤるときから、なんか意地悪だったし」
「意地悪っていうか、笹谷さんが高圧的なのはいつものことなんですよね? そういうプレイみたいだし」
最初の頃はてっきりそういう上下関係なのかと憐れんだが、どうも笹谷としては鎌先に合わせてやっているという感覚らしい。実際にそれで体の相性はいいようなので、何が正解かは当人たちにしか分からないものだ。だからこそ、意地悪と言われても驚きはしないが、鎌先は俯いてやや顔を赤める。なんだか気持ち悪い。これを可愛いとか笹谷さんが思ってたらどうしようと、別の心配をしているうちに、鎌先がやっと口を開く。
「いや、その……確かに、目隠しは初めてだったけど、縛ったりとか、玩具でとかは、そんなに目新しいことじゃなかったし」
「ああ、それっぽいこと前に笹谷さんも言ってましたけど、ほんとなんですね……。」
「でっ、でもあいつ、突っ込もうとしなかったんだぞ!?」
「鎌先さんがうるさすぎて萎えたんじゃないですか」
「でもっ、やっぱ突っ込んでくれて!!」
「……嬉しそうで、それはなによりですけど」
「それで一緒にイッたのに、なんかまたその後でキレるし!! 青根だったらきっとそんなことしないって朝になって文句言ったら、あんなこと言われたんだぞ、オレは悪くないだろ!?」
「そこでどうして青根の名前が出るんですが青根の何を知ってるって言うんですかそもそも青根はオレの恋人であって他人の痴話喧嘩に勝手に巻き込ませないでほしいんですけどそろそろ追い出されてくれませんか鎌先さん」
「い、痛だだだだだっ、また足掴むなこの野郎……!!」
なんとなく、笹谷が怒るというか、やさぐれる気持ちは分かる気がした。部室から二口が書いたノートがなくなっていたので、気になって茂庭に尋ねれば、鎌先が持って帰ったようだと教えられた。大方、ああいうことがしたいと笹谷にせがんだのだ。
そこで、青根のようにあくまで二口としたいと繰り返せばよかった。だが恐らく鎌先の意気込みに軽く引いた笹谷に、青根ならばそんな反応ではないはずという方向での文句を重ねた結果だろう。それならば、今朝の暴言とやらも納得がいく。
二口がすっかり見抜いていると、ようやくチャイムが鳴り響く。青根は不思議そうにしていたが、さっさと立ち上がった二口はその手を引き、軽く唇を合わせた。
「んっ……青根も出迎えに行こ?」
「……。」
「……羨ましい、マジでああいうの羨ましい、けど、オレからはできねえし、やっぱ笹谷にやってもらうしか?」
「要望は本人に言ってくださいよ、オレたちに頼ってばっかじゃなくてたまには自分たちで解決してください」
ぶつぶつと一人で悩んでいる鎌先を残し、二口は青根と共に玄関に向かった。
電話をしたときから三十分で向かうと言っていたが、それより少し早い。だいぶ急いだようだ。一度チャイムを鳴らしてじっと待ってくれている様子に、二口は感謝しながらドアを開ける。
「こんにちはっ、笹谷さん」
「……。」
「……悪い、バカが押しかけてんだってな」
そして奥にいる鎌先にも聞こえるようにわざと大きく挨拶をすれば、慌てている気配は伝わってきた。だが靴はここにあるし、三階なのでまさかベランダから逃走したりもしないだろう。謝ってくる笹谷は本当に申し訳なさそうで追い討ちをかけるのは気が引けたが、やはり言わずにはいられない。
「というか、青根は渡しませんからね、だから笹谷さんもちゃんと鎌先さんを捕まえといてください」
「分かってはいるんだけどよ、やっぱ、なんつうか、ああいうタイミングで名前を出さされると……。」
やはり想像した通り、最中に鎌先が頻繁に青根の名前を出したのが原因だったようだ。さすがにそれは鎌先を擁護できない。恋人の機嫌を悪くさせて当然だ。
そう笹谷に同情するが、部屋の奥では鎌先が騒いでいる。どうやら、名前を出したことは反省しているらしい。だがそれとは別に、笹谷がキレたこともあった。あれは笹谷が悪いと往生際が悪いこと言っているので、二口はため息をついてから念のため尋ねてみる。
「あの、笹谷さん、昨日中に出してからなんでキレたんですか?」
「は? ……ああ、いや、大したことじゃねえんだけど」
玄関のドアは開けたままで、笹谷は部屋には入っていない。そんな状態でする話題かと二口は自分で呆れたが、平然と答える笹谷もやはり何かがずれていると確信する。
「すっごく久しぶりに正面からしたんだけどよ、もちろんあのバカのリクエストで。で、また制服破られたらかなわねえし、手は縛っといたら、しがみつけねえからかイッたとき足でだいしゅきホールドされて、腰骨が砕けるかと思った」
「……それは、大変でしたね」
「お前も青根にするときは気をつけろよ、つっても、青根は鍛えてそうだから平気だろうけど」
「……?」
これは笹谷がキレても仕方ないと思うのに、有り難い助言には気恥ずかしくなって仕方ない。青根はよく分からなかったようで、不思議そうにしている。教えて教えてと顔を覗き込んでくるのはやめてほしい。後で説明してやるとそれには流しておいて、二口は笹谷に返した。
「まあ、話はだいたい分かりました。たぶん、鎌先さんにとって、オレたちの何が羨ましいって結局はキスみたいなんで、たまにはしてあげてください」
「そうなのか? それ、マジで舌噛みきられそうで怖いんだけどよ、まあ善処するわ。……おいっ、鎌先、後輩に迷惑かけてねえ帰るぞ!!」
帰ると言っても、あと一時間後にはまた部室で顔を合わせることになる。どうやら笹谷は自宅で昼食も食べてくるつもりだったようだが、今から鎌先とファミレスにでも行くことにしたらしい。部屋の奥にそう叫べば、別に迷惑はかけていないと嘘ばっかりぼやきながら、やっと鎌先が玄関までやってきた。
二口たちが避けてやれば、廊下の端に座って部活カバンを横に置き、靴も履き始める。だがやけにもたもたしていると思ったのは、相変わらず学習していないからのようだ。
「……青根なら、きっと、迎えに来たりしたら」
「だーかーらっ、そこでオレの青根の名前を勝手に出さないでくださいよ!? そりゃあっ、確かに迎えに来てくれたりしたらっ、青根ならギュッと抱き締めてちゅーくらいしてくれますけど!!」
「……!?」
「自慢かっ、くそっ、羨ましい!!」
「鎌先さんがそうだからっ、また笹谷さんを怒らせるんでしょ!?」
今は迎えに来たわけではないが抱き締めてキスをした方がいいのかと青根はおろおろしているが、まだ玄関は開いたままなので我慢してほしい。
それは常識的な判断だと二口は思ったが、淡々と何かがおかしい笹谷がしゃがみこんだ。
「え。……わっ!?」
「……青根じゃなくても、これぐらいできる」
軽く頬に唇を押し当てただけなのに、鎌先は顔を真っ赤にしていた。靴を履く手が本当に止まっている。それを、しゃがみ込んだままさっさと紐を結んでやって、笹谷は鎌先の手を引いた。
「じゃあ、二口も、青根も、ほんとに悪かったな。また何か別のことで埋め合わせはする、今回のバカは許してやってくれ」
「ああ、まあ、ほんっと笹谷さんはお疲れ様です……。」
「……。」
そのまま玄関を閉められて、やっと先輩二人は帰って行った。なんだかいろいろと衝撃的だった。だが急に静かになった部屋で、二口は横の青根を見上げる。
「……お前、やっぱしゃべらねえだけで、恋人としてはかなりレベル高いんだな」
「……?」
単に二口の趣味と鎌先の理想が近かっただけなのかもしれないが、少しだけ不安になって手を伸ばす。
「でも……お前の恋人は、オレだからな?」
「……!!」
「青根、ちゅーしよ?」
自分は逆に恋人としても厄介だろうという自覚もあるので、焦るように促せば青根はすぐに抱き締めてキスをしてくれた。次第に深まっていくキスには、自然と腰が疼く。更に、耳元で二口だけが好きだと囁かれば拍車がかかる。
昼食を急いで取れば、一回くらいできるのではないか。そう期待に胸が膨らんだとき、まだ鍵を掛けていなかった玄関が『カバン忘れた!!』という叫びと共に開け放たれ、二口は足元にあった鎌先のカバンを力いっぱい投げつけた。
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