■躾の理由




※注意※
この話に限り、笹鎌+青二です。カップリングとして成立してる二組です。カプとしての錯綜はありません。
ヤってるのは笹鎌だけですが、青二は成立カップルです。

以上をふまえて、どうぞ… ↓























「……お前、今日も二口とケンカしてただろ」
「は? ケンカっていうか、いつもの……んぁっ!? あ、あぁ……!!」
 練習が終わってから随分と時間も経った部室は、まだ明かりが灯っている。三年生が引退してから一番上の学年となった自分たちが、ここの管理もするようになった。監督やコーチを除き、生徒で鍵を持っているのはもちろんキャプテンの茂庭だ。だが一人しか持っていないと、仮に病欠したり電車遅延などで遅刻すると閉め出されてしまう。そのため、どの世代でもキャプテン以外に最低二人以上は鍵を持つことになっている。もちろんスタメンの部室組から選ばれる。今で言えば、自分と鎌先だ。予備は一つ後輩の二口に託された。とても妥当な人選だと思うのに、どうしてだか鍵を渡されるときに茂庭から微妙な顔をされた。
『……でも、二人ともに渡す意味ってあるのかなあ?』
『あ? ……まあ、二口って性格はああだけど実力的には絶対次の世代の中心だろ。それよりもっとど真ん中なのは青根だけど、青根は青根でああだし。今のうちから部活の運営に組み込んでくって観点からも、一年で鍵を渡すのは二口しかないだろって話し合ったよな?』
『……いや、一年のことじゃなくてさ、まあいいんだけど』
 あのときは茂庭の反応がひたすら不思議だったが、今ならば分かる気がする。
 要するに、自分たちのこの関係に気がついていたということなのだろう。
「ほら、鎌先、もっと足開いて腰落とせよ」
「だ、だから、こんなこと、しながら……中腰は、むずかしい、て……ひ、あぁっ!?」
「今度は落としすぎだ。手間かけさせんな、バカ」
 鍵を渡す際に茂庭が言った二人とは、ポジション的にも同じになる自分と二口のことではない。きっと、自分と鎌先のことだ。ほどほどにねと笑顔で渡されたとき、てっきり自主練習などのやりすぎを心配してくれているのだと、やや感動した自分を殴りたい。
 優しくて、寛容で、見守るタイプの面倒見の良さを発揮する茂庭は、本当にキャプテンに適している。特に後輩の問題児二人を見ていてしみじみと思っていたが、茂庭にすれば、それより前から同学年で違う問題児たちを相手にして鍛えられていたのだろう。
 気がついてからは申し訳ないとは思ったが、かといってやめるつもりはない。釘は刺しつつも鍵を渡してくれたのだ。これは黙認ということだろうと都合よく解釈して、今日も練習の後にこうしていかがわしいことに興じている。
「……ったく、どうしようもねえな」
「え、笹谷? なに、ため息、ついて……ふ、あぁっ、んぁ!? あ、あぁ……そこ、ばっか……ア、あぁ……!!」
「……。」
 ロッカーの上に長い手をかけてしがみつき、こちらには背を向けて立つ鎌先は下肢だけ衣類をつけていない。脱がせたわけではない。ただ、脱げと命じた。いつものように鎌先はああだこうだと騒ぎ立てたが、脱ぐまで一言も口をきかないと態度に出せば、しばらくして不満たっぷりでも自らジャージと下着に手をかけた。
 それを、中央に置かれたベンチに座ってただ眺める。後ろ向きに立っただけでは、身長差があってやりにくい。軽く足を蹴れば、肩越しに振り返った鎌先はまだ唇を尖らせていたが、素直にロッカーから離れるように足を移動させて、開いた。
 腰を突き出すような格好を中腰とは言わない気もするが、鎌先の言葉はいつも何かずれているので流しておく。ようやくベンチから立ち上がって、ボトルから出したばかりの液体を指に纏わせて突き入れる。冷たさなのか、感触なのか、ビクッと震えた肩が面白かった。痛みではないだろう、もう数えきれないほどこういうことをしているのだ。最初は息を詰めたりしていた鎌先も、今では熱い息で内側から煽られる快楽をなんとか逃そうとしている。
 こういう姿勢が慣らすのにちょうどいいというのは本当だ。ただ、それほど大きな理由ではない。大半は、単に鎌先の羞恥を煽りたい。姿勢そのものも屈辱的だろうが、犯される行為に対して自ら協力しているという意識を植え付ける。ちょうどいい具合の高さになったご褒美として、後孔に埋めた指でその箇所を強く擦り上げた。ギュッと指を締め付けてきても容赦はせず、引っ掻くようにして強く刺激をすれば、パタパタと雫が床に散る。
「……おい、先にイッたら、お仕置きだからな」
「だ、だったら、そんなに、指で……んぁっ!? んん、あ、笹谷ぁ、ちょっ、と……マジ、で、ふぁ、アア、あ……!!」
 生理的な涙も何滴か含まれているかもしれないが、大半は先走りのものだ。後ろを慣らしているだけなのに、鎌先のモノはすっかり勃ち上がっている。好き者だなとは思うが、こうなるように体に覚え込ませたのは自分なので文句はない。むしろ、愉悦を感じた。上がる嬌声にそろそろ鎌先の限界を感じ取り、指を抜こうとしたところで、ふと視線に気がつく。
「……なんだよ?」
「……。」
 鎌先が、肩越しに振り返っていた。始まってからそれなりの時間が経ってからでは、珍しいことだ。紅潮した頬も、潤んだ瞳も、小刻みに上がる息も何かもかもが煽ってきて仕方がない。自然と腰が疼くのを感じていたのに、ねだるように一度舌で舐められた唇が紡いだのは、非常に不可解で不愉快な言葉だった。
「……嫉妬、してんのか」
「は? ……誰が? 何に? どうして? どういうつもりで? ちゃんと答えねえとマジで久しぶりに縛って中は犯してやらずに足だけで踏んでイかせるぞ?」
「や、やめろって、それ気持ちいいより痛いんだから!? だからっ、その……えっと、二口と、ケンカするたんびに……なんか、笹谷、いちいち言ってくっから……。」
「……。」
 だから、二口に嫉妬しているのではないか。
 そう言いたいらしいが、さっぱり意味が分からない。なんとなく、鎌先が二口と仲良くケンカしているのを見て羨ましくなったという解釈ではない気がする。もしそうであれば、嫉妬の対象は鎌先であり、本来は二口とケンカがしたかったということだ。
 想像しただけで、ため息が出た。あそこまでおちょくられているのを目の当たりにして、代わりたいと思うはずもない。かといって、鎌先が二口とは楽しそうに話すのが悔しいという真意には絶対に気がついていなさそうで、もう一度ため息をついてから呆れておいた。
「……オレは、あんなふうにからかわれて喜ぶ趣味はない」
「お、オレだってねえよ!?」
「どうだかな」
 真剣に否定されたので、やはりこちらの解釈ではないようだ。だが別の可能性を想像すると、軽く流せないほどの不快感が湧いてくる。正解ならば、今日も優しくできそうにない。
「それに……二口には、青根がいるだろ」
「……それは、知ってる。だってあいつら全然隠さねえし」
 本当は、こういうことを二口としたいのではないか。
 もしそんな解釈であれば、嫉妬の対象は青根となる。鎌先が出てくる余地はない。いや、せめて仲良く話しているように見えるだけでも羨ましいということなのだろうか。
 追及する気がなくなったのは、拗ねたように呟いて鎌先がまたロッカーへと向いてしまったからだ。
 曖昧なことを言って気分を害させたくせに、生意気な態度だ。こういう相手には躾が必要だと一度ぐりっとそこを擦り上げてから、ようやく指は抜いてやった。
「んぁっ!? ……あ、笹谷……?」
「……。」
 まだジャージ姿だった鎌先と違い、自分はとっくに制服に着替えていた。実は昨日も部室でしたので、今日は勘弁してやろうと思っていたのだ。
 それが、部活の終わりかけから、鎌先はずっと二口とケンカしていた。本格的な殴り合いなどではない、本当にいつものことだ。不真面目な態度を鎌先が注意して、それに二口は反発する。正確には、二口は本当に練習に対して不真面目なのではなく、集中すべきところとそうでもないところへの差が大きいだけだ。だが数ヵ月後には後輩もできるのだし、不真面目に見えてしまう態度を改めろと要求される。強く反発する二口は、集中するときに集中しすぎて物凄く疲れてしまうため、周囲への配慮だけが目的ならば無駄なことはしたくない。
 最初はいつもの真面目な言い合いから、次第に髪型だとか腹筋だとか、子供の口喧嘩レベルに落ちる。茂庭も止めることはない。本当にやばそうなときだけ、青根に頼む程度だ。青根は青根で、二口があまりに鎌先とだけ話していると寂しくなるようで、無言のまま手を伸ばして止めさせる。自分に構ってほしいと態度で示す。すると、二口はそれまで非常に愉しそうに罵っていた相手のことなどすっかり頭から抜け落ち、青根に大好きだと甘える。変わり身が早すぎて、時々気持ち悪い。そうしてベタベタし始める問題児二人に、鎌先は呆れて暴れはするが、微笑ましく見守っているのだとは傍目からもよく分かる。
 こういった、一連の流れが、このところ本当にイラついて仕方がない。二口たちがいちゃつくのは好きにすればいい、部室内でくらい甘えても構わない。だがそれを優しく眺めているように見える鎌先が、苛立って仕方がないのだ。
 嫉妬しているとすれば、鎌先の方だろう。
 苛立ちがぶり返してきてなかなかベルトが外れなかったが、やっと制服の前を寛げてから、とっくに屹立していたモノの先端をたっぷりほぐしたそこへと宛がった。
「力抜いとけよ」
「分かってる、て……ヒ、アァッ!? ああ、ああぁぁっ……!!」
「……入れただけでイッてんじゃねえ」
 そして後ろから一気に突き入れれば、鎌先は喉の奥を引き攣らせるような声を漏らして達した。確かにそこを抉るような角度は保ったが、堪え性がなさすぎだろう。キュウッと締め付けて余韻にでも浸ろうとしているそこから一度抜き、呆れたように言ってから再びすぐに腰を進める。
「ふ、あぁっ!? ア、笹谷、オレ……まだ、イッ、てて……!?」
「ほら、全部出しとけ」
「んぁっ、あ……あ、あぁ……!!」
 手で搾り取るような真似はしない。中から押し出すようにして腰を突き入れた。芯がなくなった鎌先のモノからは断続的に精液が飛び散るが、当然そう長く続くわけでもない。絶頂に酔わせるつもりは更々なく、軽く太腿を叩いて注意を引く。
「先にイくなって言っただろ、もう忘れたのか。だったらお仕置きだな」
「だ、だっ、て……んんっ、んぁ、アァ……あ、笹谷、が……急、に……ひぁっ!? ア、あぁっ……!!」
 少し鎌先の意識もはっきりしたところで、容赦なく腰の動きも再開した。
 具体的なお仕置きの内容は考えていないが、単語を出すだけで鎌先の締め付けが良くなる。本人は怯えているつもりかもしれない。だが頭での解釈はどうあれ、体はすっかり教え込まれた快楽を期待して疼いているだけだ。
 生憎今日はもう挿入してしまったので、中を慣らすだけ慣らして性器では犯さないという焦らしはもうできない。今から縛るのも、面倒くさい。玩具で犯して放置するには、門限までの時間が足りない。そこそこの痛みがお仕置きとして効果を発するのは、最初だけだ。一度出してしまうと、かなり手荒にしても鎌先はそれを愛撫としか受け取らず、興奮する一方になる。総合的に考えれば結局これしかないだろうと、部室に掛かった時計を見上げてから、鎌先の耳元で後ろから囁いた。
「……時間いっぱいまで、ずっと犯してやる」
「んぁっ!? あ、あぁっ……ささ、や……んんっ、ア、あぁ……!!」
「特別に、鎌先が自分で触る分は許してやるよ。ほら、男に犯されながら、自慰してみろ? 男のくせに、胸弄って喘いでみろよ、鎌先?」
「ア、あぁっ……ひ、あ、あぁっ…ん、アア……!!」
 ロッカーの上に掛けられた手が、少しだけ開かれそうになった後、再びギュッと力を込めて握り締められた。
 実際には何の愛撫も増えていないのに、鎌先のそこはキュウキュウと甘えるように締め付け、声にも熱がこもる。目で確かめることはできないが、すっかり萎えたはずのモノもまた角度をつけているのだろう。鎌先がすっかり夢中になっているところを見計らって、少し強めに尻を叩いた。
「んぁ……!?」
「……それと、オレが一回出したら。あっちに移動するからな?」
「……。」
 示した先には、部室の隅に置かれた姿見がある。本来はテーピングなどの確認をするものだが、身だしなみのチェックに使う部員もいる。主に二口だ。だが今回はそれとも違う主旨だと、しっかり囁いておいた。
「オレに犯されるトコ、ちゃんと見ながらまたイけよ?」
「……ん」
 小さく頷いた鎌先は、また腰をぶるりと震わせて締め付けてきた。
 図体はでかく、普段はうるさくてたまらないのに、こういうときだけやたら素直だ。調教した甲斐があったと密かに愉悦に浸りながら、犯すための動きを再開した。




「笹谷さんっ、一緒に帰りましょ!!」
「……!!」
「……なんで」
 さすがに連日で複数回に及ぶと腰がだるい。鎌先はいつも通りうるさいくらい元気なのが妙に腹が立つ。そう思いながら翌日も練習に参加した笹谷は、やっと終わったと部室に戻ったところで勢いよく後輩に腕を掴まれた。若干痛い。一人は袖だけだが、もう一人は無言で肉まで掴んでいる。痛い。
 つい怪訝そうに返したのは、その痛みからだけではない。少なくとも青根からは理由は聞き出せないだろうと思って手を外させてからもう一人に向き直るが、こちらはこちらで厄介だ。
「なんで理由からきくんですかっ、頷いてから尋ねてくださいよっ、そしたら帰り道でちゃんと説明しますから!!」
「……。」
「いやオレは先に理由を聞いてから諾否を決めたいんだよ、あと青根も頷くな、二口の言うことならなんでも同意すんな、好きなのは知ってるけど愛で盲目過ぎると周りが困る」
「……!!」
「……褒めたわけじゃないから照れなくていい」
「なに言ってんですか笹谷さんっ、照れてる青根は可愛いでしょ!? もっと照れて欲しいでしょ!? というか青根オレにも照れて!?」
「……!?」
「……まあ、お前らは好きにしてろ」
 取り敢えず、後輩たちから解放されて笹谷は安堵した。二人を鬱陶しく思っているのであればまだマシだが、どうにもこうして仲良くいちゃつかれるとまさに嫉妬しそうな自分が先輩としても人としても嫌だ。軽く自己嫌悪に至りながらやっとロッカーに辿り着けば、横でもう着替え終わっていた茂庭に声をかけられる。
「笹谷、今日は結構疲れてた?」
「ああ、なんかだいぶ寒くなってきたしな。いろいろ疲労が溜まってきてるのかも」
 自分でもよく分からない理由だと思ったが、そう言いながら流しておく。部活中には注意されなかったので、集中力を切らすほどではなかったのだろう。だが練習が終わってから言うということは、労わらないでいられるほど軽度でもないという証拠だ。茂庭の絶妙な気遣いに癒されかけたところで、笑顔のままで宣告される。
「じゃあ、オレは今日は鎌ちと先に帰るねっ」
「……は?」
「だって、二口たちが笹谷に用があるみたいだし」
「……。」
 着替えの手を止めて振り返れば、いちゃついていたはずの後輩二人は、仲良く並んでベンチに腰掛けてじっとこちらを見つめていた。青根は目つきが悪いので、睨んでいるようにしか見えない。だが律儀にぐっと拳を作って膝に置いて行儀良く待っている様を見て無下にするほど非情にもなれず、軽くため息をついてから頷いた。
「……分かった」
「じゃあよろしくね。……鎌ち、帰ろう?」
「えっ!? あ、ああ、おうっ、そうするか……!!」
 こちらも先に着替えていた鎌先の肩を叩き、茂庭はそう促して部室から出て行った。戸惑うような顔をしていた鎌先だが、挨拶をしてからその後を追う。他にも残っていた数人の部員も、それに続いた。そうして着替える終わるのが結果的に最後になったが、なんとか荷物もまとめて笹谷は振り返る。
「よし、じゃあ帰るか」
 だがそう言えば、大人しく待っていた後輩二人のうち、片方からあっさりと返された。
「えっ、茂庭さんが鎌先さんは連れ出してくれたし、寒い外で長話するよりここで話しましょうよっ」
「……。」
「……まあ、いいけどな」
 一緒に帰る目的が何らかの話をしたいからだとは察していたし、歩きながらより部室での方がいいという理屈も納得はできる。それでも即答できなかったのは、どうやら鎌先には聞かせたくない内容らしいと分かったからだ。
 昨日のことに、気がついているのだろうか。そんなはずはないと思う反面、二口だからこそ気がつけるのかもしれないと思う。気持ちばかりが逸る中、なんとか見えないように深呼吸をして落ち着くが、再び視線をベンチに戻すと言わずにはいられなかった。
「……なにしてんだ、お前ら」
「へ? ちゅーですけど」
「……。」
「なんで!?」
「……!?」
「だってもう笹谷さんしかいないし、いいかなって」
 話があると言った傍から、何をかましてくれるのだろう。
 並んで座る位置から二口が青根の正面へと回り、足を跨ぐように座って顔を寄せている。キスをしているくらい、分かってはいた。そこを尋ねたかったわけではない。だがきちんと理由を説明されても、それはそれで困った。
「……さっさと終わらせろ」
「はぁい、了解っス!! ……青根、ちゅーしよ?」
「……。」
 つくづく、どうしてこの二人がくっついたのか、よく分からない。傍からは青根が二口を好きになったことの方が驚かれているようだが、笹谷は逆だと思う。青根は対人関係の経験が少なすぎて、惚れやすい状態にあったのは間違いないからだ。だが、二口の方はどうして青根を選べたのだろう。コミュニケーションを取るのは非常に困難であるし、ただでさえおしゃべりな二口は寡黙にもほどがある青根には不満しかないのではないか。そんな印象は、ずっと近くで嫌でも見せつけられていると理由が分かる気もした。
 二口が饒舌だからこそ、無口な青根がよかったのだ。似ている相手には親近感を抱くが、凸凹がちょうど組み合わさる相手とは合体したくなるものなのかもしれない。自分はどうだったのだろうと憂鬱な思考に至る前に、ようやく青根との濃厚なキスを終えた二口が振り返った。
「んっ……えっと、それで、笹谷さんにききたいことがあるんですけど」
「……。」
「……なんかもう、膝に座るのは大したことじゃない気がしてきたから、さっさと話せ」
 キスを終えても青根から離れることはなく、背中を預けるように前に座っている二口に笹谷は疲れながらそう促す。青根は青根で、二口の腹の前に回した両手を組み、肩に顔を伏せている。それを二口は自然を受けて入れている。嫌がりはもちろんしないが、かといって過剰に喜んでまた青根に夢中になることはない。つまり、それだけ慣れた姿勢だということだ。相変わらず仲がよろしいことでと言ってみたくなったが、本当にやっかんでいるだけのようでぐっと堪えておいた。
「鎌先さんて、童貞なんですか?」
「……は?」
 だが自分の中での葛藤を抑え込んでいる間に、二口から真剣に尋ねられて一瞬頭が真っ白になった。
 どうして、二口はそんなことを尋ねてくるのか。
 童貞ではないと疑う事実でも出てきたのか。
 最もありがちなのは彼女がいた、あるいは、彼女ができたということだろうが、随分と面食らってから笹谷はなんとか声を絞り出す。
「いや……オレは、知らない。というか、童貞だと思ってる、けど……?」
「ですよねっ、オレもそう思います!!」
「……ふざけんなこの野郎」
「……!?」
 見た目はともかく、言動を知っていれば十人が十人、鎌先は童貞だと思うだろう。伊達工業バレー部で、残念なイケメンの双璧をなしている。ちなみにもう一人は当然二口だ。
 あれだけ深刻に切り出したくせに、あっさりと笹谷に賛同した。少なくとも、鎌先に彼女がいるような話を仕入れたわけではないのだろう。無駄にびびらせやがってという感情を込めて低く呟けば、青根だけがビクッと驚き、またギュッと二口を抱き締める。当の二口は平然としたものだ。
「まあいちいち童貞全開の発言かましてくれるから、昨日も練習終わりに部室でそう言って鎌先さんをからかってたんですけど」
「ああ、そういやそうだったな、というか、二口お前も童貞じゃねえか」
「オレはいいんですよっ、青根っていう愛するダーリンがいて幸せだから!!」
「……!!」
「あと青根はいつでもヤらせてくれるって言うからっ、その気になればすぐ捨てれますし!!」
「……!?」
「……まあ、青根が驚いてるのは追及しないとして、それで、鎌先が童貞なのがどうしたんだ」
 話題を逸らすには二口たちの関係に言及すればいいので簡単だが、その加減がどうにも難しい。付き合い立てでもないのに、相変わらずラブラブだ。付き合うまではいっそ絶縁かと思うほどの紆余曲折もあったので、なんだかんだで二人が仲良くしている方が安心してしまうのも悔しい。
 ともかく、早く話せと促せば、二口はまた表情を改めた。
「いや、オレは直接は聞いてないというか、要するに鎌先さんをからかってたんで聞こえなかったんですけど」
「ああ……?」
「なんか、オレが鎌先さんに童貞だ童貞だって言ってるのを見て、茂庭さんが『まあ童貞ではあるよね』て言ってたらしいんですよ」
「……。」
「……青根が聞いたってことか」
 微妙な言い回しだ、どちらとも受け取れる。ただ、聞いたのが青根というのが、少しだけ嫌な予感をさせた。
 青根は自分が話さない分、相手の表情や声色など、字面の言葉だけではないものも汲み取ろうとする。それが正解かは分からない。ただ、含みがあると感じたのは確かだったようで、二口がそう解釈してしまうのは仕方ない気もした。
「つまり、鎌先さんて、童貞ではあるんですけど処女じゃないってことですか?」
「……なんでオレにきくんだよ」
「だって違ってたら茂庭さんに怒られそうだし」
「……じゃあ鎌先にきけ」
「鎌先さんにはどっちだとしてもきけないでしょ!? いや違うなら怒りはしても笑い飛ばしてくれると思いますけどっ、鎌先さんて、なんかああだし、ほら、生意気だとかっていう暴力的な意味合いだったら過去の傷を抉ることになるし!?」
 気がつけば、青根もかなり深刻な顔で頷いていた。それに、こちらの胸が抉られるような感覚に陥りつつ、笹谷はなんとか曖昧な答えを返す。
「……もしそうだったら、どうするんだよ」
「童貞ネタでからかうのはやめます」
「……そうか」
「あと、鎌先さんの前では、いちゃつくの、やめます。オレたちは恋人同士ですけど、それでもやっぱ男同士ってことで鎌先さんが過去のトラウマとか思い出してつらくなるんなら、やめます。ちゃんと青根と話し合いました」
「……。」
「……そっか」
 だが、ずるい逃げ方をした笹谷に対し、二口も青根も誠実だった。
 非常に分かりにくくて時々疑わしくもなるが、問題児であると同時に、この二人は先輩である自分たちに信頼を寄せてくれている。自分に対してと限定すれば、いまいち首を傾げそうになる。だが他人事として茂庭への態度を見れば明らかだ。鎌先にも敬意は払っている。
 だからこその、誠意であり配慮なのだろう。とても優しくて頼もしい後輩たちからの申し出なのに、やはり胸の奥がズキズキと痛む。
「ほんとは、茂庭さんに尋ねようかとも思ったんです。でも、なんていうか……鎌先さんて、茂庭さんのこと、信頼してるからこそ、仮にそういうことがあっても、言ってなさそうだな、て……。」
「……そうだな」
「茂庭さんは優しいから察してるのかもしれないけど、確かめたりはしないだろうな、て」
「……そう、だろうな」
「だから、笹谷さんに尋ねようと思ったんです。鎌先さんは、茂庭さんにとは違った信頼っていうか、甘えてるっていうか? 弱音とかも吐けそうだから、何か、知ってますか?」
 更に畳みかけてくる二口に、笹谷ももう限界だ。いい加減にしてくれと叫びたくなる。
 だが、そんなみっともないことはできない。自分は先輩なのだ。きっと、笹谷が知らないと言えば、二口はもう誰にも尋ねないのだろう。それでいて、念のために青根とはいちゃつくのを鎌先の前では控えるに違いない。
 それが可哀想だというより、いずれ自分の前だけでは避けるという態度に鎌先が気がついて、また勝手に傷つくのが怖かった。本当に先輩として最悪だとため息を深めた笹谷は、ようやく腹を括った。
「……二口、今の話には二つほど訂正することがある」
「あっ、はい、なんですか?」
 自分のロッカーの横に、軽く背をつける。鎌先のロッカーだ。ふと脳裏に甦る昨日の記憶を必死で消してから、笹谷はベンチで見上げてくる後輩二人に告げた。
「まず、オレは鎌先に信頼されてないし、もちろん甘えられてもない。弱音なんか知らない」
「え、でも……?」
「それから、鎌先の性的なトラウマは過去のものじゃない」
「……へ?」
「……?」
 この二人にしては、よく考えてくれたと思う。だが、笹谷に対する評価と、鎌先の現状に対する推察が、一つずつ間違っていた。それをまずは指摘すれば当然面食らった二口たちに、笹谷は罪を告白するような気持ちではっきりと言葉にした。
「相手はオレだ」
「……!?」
「……えっ」
「鎌先のこと、ヤってんのはオレだ」
「……!!」
「えええええっ!? いやっ、あの、笹谷さん、マジで!? オレたちが変なこと言い出したから真顔でからかってるとかじゃなくて!? ほんとに!? ガチで!?」
「こんな嘘ついたら、絶対にお前は面白がって言いふらすじゃねえか。だから、マジだ」
 完全に面食らったので、念を押せばやはり何度も確認される。まさか、加害者に尋ねることになるとは思っていなかったのだろう。青根もかなり動揺しているが、焦るからこそ言葉に出すのが難しいようだ。いつの間にか組んでいた手を離し、二口のシャツを引っ張ることで尋ねるようにせがんでいる。
「あっ、えっと、じゃあ笹谷さんと鎌先さんは付き合ってるってことですか!?」
「……そうは言ってねえ」
「え」
「……。」
 そして、ある意味では最も胸が痛む質問をされ、否定する言葉が震えたのが笹谷は情けなかった。
 二口たちが付き合っているからこそ、そういう解釈になるのは当然だ。だが、世の中にはそんな幸せなカップルばかりではないのだ。
「……まさか、セフレ的な?」
「鎌先がそんな器用な性格に見えるか? まあ、無理矢理そう思い込んでるかもしれねえけどな」
「いや、でも……笹谷さんから強引に、てのは、考えにくいし……。」
 付き合ってはいない、割り切った体だけの関係でもない。残るは暴力的な支配での強引な関係だろうが、それは二口には想像がつかないようだ。温室育ちというだけではなく、単純に笹谷と鎌先では体格差がありすぎるからだろう。考え込み始めた二口に、笹谷は呆れつつ言ってみる。
「あのなあ、そんなの殴ったり縛ったりすればいくらでもなんとかなるだろ? 一回押し倒して躾けてやれば、従順になるし」
「……!?」
「いやあのっ、殴るのはダメでしょ!?」
「まあ、実際にはそんなに殴ってない、つか、平手で叩くばっかだけどよ。顔とか腕とか、目立つところにはしねえ。あいつバカだしな、痛みより快楽のが体での覚えもが早いし」
「……。」
「いやいや、単純な暴力じゃないことしかそれ安心できないんですけど!?」
「あとは、反抗的なときだけ泣いて懇願するまで焦らしたり、屈辱的な格好とか状態を見せつけてやればバカでも理解するっての。オレは特に道具とか使うのも抵抗ないから、余計に早く落とせたな」
「……。」
「……。」
「……?」
「……途中から二口が青根に試したそうな感じになったけど、別に青根には躾ける必要はねえだろ。二口が頼めば何でもヤらせてくれそうだし」
「……!?」
「まあ、それはそうなんですけど、でも、なんつか、それ以上に笹谷さんの性癖にちょっと慄いてました」
 非常に心外だが、元々笹谷は嗜虐的な嗜好ではない。そう信じている。ただ、鎌先が素直に応じてはくれないし、なによりあまりに騒いでうるさかったのでこうなってしまっただけだ。最初から今の関係を望んでいたわけではない。だが性的な接触が何一つない以前の関係よりはずっと歓迎できるので、止める気もないというだけだ。
 何故か青根の腕の中で振り返った二口は、頬に手を当てて顔を引き寄せている。青根も、二口の意図を理解して背中に回した手でぐっと支えている。そのまま唇を合わせ、何度か甘噛みするようなキスを交わしてから、二口が振り返った。
「……笹谷さんは、どうして鎌先さんとするんですか」
「それを尋ねるのになんで青根とキスしたんだよと思わないでもないが、まあ、なんでもいいだろ。少なくとも手当たり次第に生意気なヤツを組み敷きたいとかいう、特殊性癖じゃねえから安心しろ」
「そんなことは、オレも心配してないですけど、でも……。」
 二口は不満そうにしながら、青根の耳を撫でている。背中を撫でる青根の手つきも優しい。
 男同士だろうが、ちゃんとお互いに好きだと自覚し確認もし合っていれば、そうなるのだろう。眺めていると見当違いな苛立ちが生まれてきそうなので、笹谷はため息で無理矢理視界から消し、自分のカバンを担いだ。
「話がそれだけなら、オレはもう帰るぞ。二口、戸締りはしてけよ」
「あっ、ハイ、お疲れっス!!」
「……。」
 鍵は二口にも渡されているので、預ける手間もない。二口はほとんど条件反射的に返事をし、青根もペコリと頭を下げていた。生意気なのに、こういう礼儀だけは欠かさない。だから呆れることもできないとまたため息を深めながらドアに向かうと、後ろから尋ねられた。
「でもっ、笹谷さん!! ……笹谷さんて、鎌先さんのこと、好きなんですか?」
「……。」
 ただ、やはり生意気だとも思った。
 一度誤魔化したのに再確認するなど、先輩に対しての気遣いができていない。察しろと居丈高に返す余裕もなく、笹谷は答えずに部室を出た。
 秋の深まりを見せる夜空は、ひどく寒かった。




 うっかり勢いでいろいろと暴露してしまった笹谷は、翌日部活に行くのが心底怖かった。二口はあの通りのおしゃべりなので、好奇心で広めないとも限らない。ただ、その確率よりも、正義感や鎌先への気遣いから、茂庭に相談するということが最も考えられた。
「なんだか、最近二口が大人しいよね」
「……そうだな」
「というか、ちょっと鎌ちと仲良くなってくれたみたいだし。前ほどは口喧嘩もしないから、うるさくなくなってよかったね」
 いろいろと嫌な想像はしていたが、すべて杞憂に終わっている。
 今はあれから数日が経ち、茂庭や鎌先、それに青根は特に変化はない。いつもの通りだ。唯一あったとすれば、茂庭が言うように二口があまり鎌先につっかからなくなったことだろう。笹谷からの理不尽な扱いを聞いて、少しは同情したのかもしれない。あるいは、単純に男に抱かれる側だと知って、親近感を覚えたのかもしれない。だがあまり仲良くされると、それはそれでまた鎌先にひどいことをしてしまいそうなので勘弁してほしいと願っていた笹谷は、自分の後輩に対する認識がいかに甘かったかを思い知らされた。
「茂庭さぁんっ、ちょっとお願いがあるんですけどーっ」
「うん、どうした?」
 この日も練習終わりの部室にはほとんど人が残っていない。ただ、明日は休日なので練習開始時間が遅く、着替えなどものんびりした雰囲気があった。そんな中で、まだ着替えていないジャージ姿の二口が軽い調子で茂庭へと話しかける。手にはノートを二冊持っているようだ。宿題の相談でもあるのかと適当に聞き流していたところに、とんでもない話が展開された。
「これ、台本なんですけど。どっちのカップルが幸せそうに見えるか、判定してもらえません?」
「いいけど、何の台本? 文化祭でやる劇とか?」
「いえ、片方はオレたちの実体験です」
 穏やかな二口に対し、青根は平然としていた。いくら惚れ抜いていても、もう少し恋人の暴走は止めた方がいい。そんな指摘を笹谷ができないのは、二口の言葉で鎌先が可哀想なくらい青褪めているからだ。嫌な予感が増したところで、二口は部室を見回し、もう自分たち五人しかいないことを確認してから続けた。
「オレたちがオレたちの体験を再現するだけなら、台本はいらないんで。オレと青根は、別のカップルのをやらせてもらいます」
「じゃあ二口たちの台本は?」
 当然すぎる茂庭の質問に、二口は笑顔でノートの片方を笹谷と差し出してきた。
「……もちろん、笹谷さんと鎌先さんに」
「……。」
「……すまん、笹谷、ほんとにすまん、協力しねえと部活内どころか学校中に言いふらすって脅されて、オレ、仕方なく」
「そっか、この台本を作るために最近鎌ちと仲良くしてたんだね。むしろ審査役をさせてもらえるなんて光栄だよ、オレも楽しみだなあっ」
「茂庭さんっ、あざーす!!」
 鎌先が頭を抱えてしゃがみこむ間に、意地でもノートを受け取らないでいれば二口からは二つ折りにしてシャツの首元から突っ込まれた。
 そして茂庭にだけ笑顔で返し、もう一冊を持ったまま二口は青根のところまで戻っていく。
「つか、オレもまだこの台本、読んでねえんだよな。ちょっと楽しみっ」
「……。」
 そうしてノートを青根に渡して、まずは二口たちから『劇』が始まったようだ。
 二口ですら読んでいないのであれば、青根も当然初見だろう。内容は執筆した鎌先しか知らない。いい加減に首元が苦しいので二つ折りにされたノートを出して見れば、表紙には『定番エッチ☆』とあり、早速うんざりした。
「青根っ、青根、まずはどうしたらいい?」
「……。」
 だが鎌先の台本を開いた青根の方が、困惑が極まっていた。
 要するに、笹谷がいつも鎌先にしているような行動を取らなければならないのだ。見た目が怖いだけで内面は温厚で優しい青根には、かなりの難易度だろう。しばらく睨みつけるようにノートを見ていた青根が、やがて弱りきった目で二口を見つめた。
「……『かべどん』?」
「は?」
 単に意味を知らなかったらしい。
 そんなに自分はいつも壁に追い詰めてはいない、叩いてもいない。自分が痛いことはしない主義だ。そんな主張をしてこれ以上評価を下げたくもなかったのでぐっと堪えていれば、二口が説明してやった。
「ほら、壁際に追い詰める感じで……。」
「……?」
「で、横に手をついて、ドンッてする感じで……。」
「……。」
 何度も頷く青根は素直で微笑ましい。何故か茂庭は生温かい目でこちらを見てきた気もしたが、きっと気の所為だろう。とにかく二口に教えられてやっとなんとなく理解できたらしい青根が、一度深呼吸をしてから、二口の肩を押した。
「わっ……!?」
「……。」
 笹谷ほど思いきりではないが、二口は驚いてやや後ずさる。壁というか、ロッカーに比較的近い場所に立っていたのですぐに背中がついた。そこに青根は一歩足を進め、ちょうど二口の顔の横辺りにまさにドンッと手をつく。
「……!?」
「……!!」
「……オレのロッカーがあああああ!?」
「鎌ちのロッカーの修理代は笹谷に要求するから、青根は気にしないで続けていいよ?」
「いや茂庭それおかしいだろっ、なんでオレにだよ!? つか鎌先も青根の馬鹿力想定して台本書けよバカ!!」
「うるせえっ、いっつも笹谷がやってくっからいけねえんだろうが!! オレは悪くねえ!!」
「そうだよねえ、鎌ちは悪くないよねえ、うんうんっ」
 この部屋に味方はいない。
 それだけは、笹谷も確信した。
 ともかく、凹んだロッカーの修理方法と代金は後回しにして、今は劇の続きだ。青根はロッカーが意外に脆かったことに驚いているようだが、二口はその大きな音に息を飲んだのだろう。ただ、すぐに意識が戻った青根と違い、二口はいつまでも呆然としたように見上げたままだ。
「あお、ね……。」
「……?」
 そこは、演技ではない。やや不安そうにした青根が二口の髪を撫でようとして、止める。台本にないからだろう。だがまだ目を丸くして見上げてくる二口に、どんどん青根も苦しそうになっていった。
 これだけ仲のいい二人でも、やはり威圧になるらしい。特に二口は普段青根から甘やかされまくっているのだろうし、ただの演技と分かっていても怖くて当然だ。
 少しだけ、胸が痛む。
 鎌先も、やはり怖かったのだろうか。
 この交換劇はただの余興ではなく、笹谷に自分たちがいかにひどい状態かを見せつける目的なのは明らかだ。もう充分に理解したので勘弁してくれと叫びそうになったとき、少し目を潤ませた二口が、いきなり青根へと手を伸ばした。
「……青根っ、かっこいい!!」
「……!?」
「すげーかっこいいっ、マジでかっこいい!! なあなあ、青根、お前もっと強気でオレに来てもいいんだぞ? 可愛くて優しくて甘やかしてくれる青根も大好きだけどっ、ちょっと強引でガン攻めなのも好き!! 全部好き!! 青根大好き!!」
「……。」
 なんとなく、反省したり二口を心配したり自分が可哀想になった。
 しっかりと背中に両腕を回して抱きつく二口は、ぐりぐりと顔を青根の首の辺りに擦りつけるようにして懐いていた。これも演技ではない。本音がだだ漏れだ。やけに興奮している二口に青根は最初こそ戸惑っていたが、どうやら怯えさせたわけではないらしいと理解できたのか、安心したように抱き返そうとしたところで無粋な外野から野次が飛ぶ。
「ふざけんな二口っ、そんな反応は台本にねえだろ!? オレがそう思ってるとか誤解されたらどうしてくれんだ!?」
「思ってないんですか」
「……ちょっとしか、思ってない」
 逆を言えばちょっとくらいは思っていたのかと驚いている間に、ニヤニヤした二口は青根から手を離していた。
「青根、鎌先さんがうるせえから、台本の続きしよっか?」
「……。」
 それに、名残惜しそうだが青根も頷く。だが再び離れる前に軽く二口の耳元に顔を寄せていた。何かを囁いたのではなく、単に顔を擦りつけただけだろう。それに二口はくすぐったそうにしつつも、嬉しそうにはにかむ。愛情表現だとちゃんと理解している。
「……笹谷、ああいうの、羨ましい?」
「……んなわけねえだろ、つかこの茶番まだ続けんのか」
 茂庭に尋ねられても、そう吐き捨てるのが精一杯だった。
 ともかく、まだ終了にはならないらしい。二口はロッカーに背をつけるようにして立ったところから、台本が再開される。
「……『脱げ』」
「へ?」
 そして、青根に配慮してそれなりに言葉を削ったと思われる台本に、二口はまた面食らい、執筆者からは指導が飛んだ。
「青根っ、違う、まだ早い!! その前にっ、ほら!?」
「……?」
「おわっ……えっと、青根?」
「……『脱げ』」
 どうやらセリフの前に行動の指示があったらしい。青根は鎌先の言葉で気がついたようで、二口の肩をつかんで体を反転させ、ロッカーに向くように押し付ける。
 その上で、もう一度短くセリフを繰り返した。やめてほしい。自分はそこまで片言じゃないと反論したいが、動揺の方が大きいうちに青根が二口へと台本を見せていた。
「……え、ここでもうオレが脱ぐの? オレから? つかキスも何もしえてねえのに? 脱がされるんじゃなくて? オレが脱ぐのか!?」
「……。」
「しかもっ、下だけって!!」
 どうやら次の動作は、二口の行動を指定するものだったらしい。何度も確認してから、二口はチラリと鎌先を見る。嫌がらせや省略ではないと、大きく頷いている。次に二口はかなり怪訝そうに笹谷を見てきた。それは鎌先の誇張表現だとも反論できず、目を逸らしてしまうと、ため息をつかれた。
「……まあ、それなら仕方ないから脱ぎますけどね」
「……!?」
 二口はまだジャージのままだったので、余計に再現率も高い。腰紐を解き始めたところで、やっと頼もしいキャプテンの声がかかった。
「二口、そこまででいいよ。そんなひどい台本、再現させるの可哀想だしね」
「あっ、マジすか、よかった!!」
「……。」
「……ひどいって、そんな、オレは、ただちゃんと、真面目に嘘偽りなく書いただけなのに」
「……それがいけねえんだろ、もっと脚色しとけよバカ」
「笹谷は鎌ちにバカって言う権利はない」
 ぴしゃりと茂庭に言われて、笹谷も黙ることにした。それは分かっている、こうして伝えるための手段であれば、充分に目的は果たせた。
 二口は青根の手を引いてベンチに戻り、腰を下ろしてからノートを茂庭に渡していた。
「一応、続きはここに書いてあります。まあ、ちょっとした官能小説ですけど」
「そっかあ、あんまり読みたくないなあ、どうしようかなあ……。」
 だったら読むなと言いたいが、茂庭はほんの三ページくらいしかない台本にざっと目を通していた。
 それだけで、充分にひどさは伝わるのだろう。早くこの場から逃げ出したいと考えていると、急にニコッと笑顔を向けられた。
「じゃあ、次は笹谷たちの番だねっ」
「……オレたちもやるのか?」
「だって、二口たちにはこんなひどいこと、させたんだよ? 先輩が逃げるなんておかしいじゃない」
「いや実際にはひどい辺りはほとんど再現されてないっていうか、一番の被害者はロッカーだろっていうか、そもそも交換劇なんてする気はなかったというか、ああもう面倒くせえなあっ」
 実を言えば、後ろめたくてたまらないこの場に残っていた一因として、二口が書いてきたという台本に興味があった。表題だけで魂が削られそうになったので、まだ中身は見ていない。あれだけ無口な青根とどうやってセックスに至っているのだろうという興味本位でやっとノートを開けた笹谷は、そこでこれこそ脚色だらけの妄想だと確信した。
「……二口っ、お前これ絶対嘘だろ!?」
「……!?」
「えーっ、そんなことないですぅー、ほんとにいつもの青根とのエッチですぅー」
「嘘つけ!!」
 青根は戸惑っているので、やはりこのノートは見ていないらしい。茂庭や鎌先は、怪訝そうだ。どうせラブラブな恋人エッチを信じられない可哀想な人種とでも思っているのだろう。
 だが、そういう方向ではない。少なくとも、確実にこの台本のモデルは青根ではないし、二口でもない。
「嘘じゃないです!!」
「じゃあ何か、青根はいつもお前に『おお愛しの堅治よ麗しきもその甘美な肉体を今宵もオレに』これ以上読めるかバカ!!」
「……!?」
「やっぱ青根だって驚いてんだろうが!! 言うわけねえだろっ、こんなこと!!」
 しかも途中まで勢いで朗読しかけて、笹谷はノートを床に叩きつけた。青根が驚いているので、嘘だと証明されたようなものだ。これ以上の根拠はないと思うのに、何故か二口は本気だ。
「まあ確かに言葉にはなってないから表現は適当ですけど、でも、青根がそういう感じのこと思ってるってのは受信してますぅー」
「……!!」
「……お前、電波状態大丈夫なのか?」
「なあなあっ、青根、お前オレのこと好きだよな?」
「……すき」
「オレとエッチするのも、好きだよな?」
「……すき」
 それがどうしてああいう表現になるのか、二口の感性がやはり心配になった。
 ともかく、二口は二口で、そのまますぎるとセリフがなさすぎて難しいと配慮した結果なのだろう。伝えたい主旨は間違っていないらしい。あくまで表現がおかしいだけだ。そこだけは無理矢理納得して、笹谷はノートを拾い上げた。
「……セリフの表現だけは、変えさせてもらうからな。でないと、やらねえ」
「笹谷さんに偉そうに言われる筋合いはないですけど、でも台本はやってくれないと本来の目的も果たせないから、妥協してあげますぅー」
「うっせえ、その間延びした語尾マジでむかつく」
 そう吐き捨てたものの、ふと気になった。
 この交換劇の目的は、笹谷に自分たちの関係を客観的に見せることで、自制と反省を促すものだと思っていた。だが、二口の話しぶりでは、それよりも大きな目的があるらしい。やや首を傾げたが、今はとにかくむず痒いセリフを脳内で翻訳する作業に追われていたので、笹谷は気にせずに始める。
「……『鎌先、ヤるぞ』」
「お、おう……!?」
「ひどいっ、あんだけ頑張っていっぱい書いたのに!! そんな簡潔に!!」
「まあまあ、二口も、さすがにアレはオレもどうかと思ったから、さ? 見逃してあげてよ?」
「茂庭さんが、そう言うなら……でも青根は慰めて!?」
「……!?」
 被害者はこっちだと内心で思いながら、青根といちゃつき始める二口はもう無視することにした。
 この台本も、設定は部室になっている。もしかすると、鎌先とのことを話した日の出来事かもしれない。茂庭たちがいるのとは反対の端になるベンチまで進み、そこに腰を下ろした。
 鎌先は戸惑いつつも横に座るので、まずは位置としては完了だ。やたら長いセリフを流し読みした笹谷は、次の行動はこれかとため息をつく。
「笹谷……?」
「……ええと、『キスする』」
「えっ!? あのっ、え、それ、マジで、その、えっと、だから、ああっ、ええええっ……おわっ!?」
 そして、軽く宣言しただけなのに鎌先は異常に動揺した。横から手を置けば、驚いて身を引きすぎてベンチに仰向けで倒れ込む。
 それを笹谷は虚しくなりながら見下ろす。だが、どうやらあまり分かっていない後輩カップルはやけに煽ってきた。
「ほらほら、笹谷さん、そこでまずはちゅーからですよ?」
「……。」
 二口はともかく、青根まで拳を握って励ましてくる。
 大方、鎌先からほとんどしたことがないと聞いたのだろう。それに同情してこんな台本にしたのだろうが、見当違いもいいところだ。
「するのは、オレは構わねえよ。……でも、鎌先はどうなんだよ?」
「え……!?」
「……あれ? 笹谷さんが嫌がってるんですよね? 全然してくれないって泣いてましたけど?」
「泣いてまではねえよ!! ……じゃなくて、えっと、それは、その……!?」
「……最初は、もろに歯が当たって血まみれでそれどころじゃなくなった。二回目は、鎌先に思いっきり舌を噛まれて、やっぱりそれどころじゃなくなった」
「へ? ……あの、鎌先さん?」
「だ、だから、その、は、初めてだったからびっくりしたんだよ!?」
「で、三回目からは絶対嫌だって拒まれた」
「……鎌先さん!?」
「だ、だって、しょうがねえだろぉ……なんか、すげえ恥ずかしかったんだよ……!!」
 ちなみに、後ろからしか繋がらないのも同じ理由だ。顔が見えると恥ずかしいらしい。では明かりを消せばいいのかと提案すれば、真っ暗は怖いと子供のようなことを言う。薄明かりは、いかにもすぎて余計恥ずかしいと意味が分からないことを主張された。
「……青根っ、青根、オレもちゅーするの恥ずかしいんだけど!?」
「……!?」
「でもしてくれるよな!?」
「……!!」
 どうやら鎌先から先輩としての何かしらを学んだらしい二口は必死で青根に訴えているが、今更すぎるだろう。ちゃっかりキスしている。欲望に忠実だなとほのぼの眺めていれば、やがて満足したらしい二口がこちへと向き直った。
「んっ……えっと、じゃあ、笹谷さんは別にキスしたくないわけじゃないんですか?」
「でも鎌先がこんなだから仕方ねえだろ」
「……鎌先さんは、したいんですよね? だったら鎌先さんからすれば?」
「バッ、バカ、したいとか決めつけんな!? 間違いでもねえけど!! つかオレからとかっ、そんな恥ずかしいことできるかよ!?」
「別にキスくらい、どっちからしても……?」
「そうだよな、鎌先には無理だよな」
「笹谷……!!」
「いやダメでしょっ、そこで笹谷さんだけは認めちゃダメでしょ!!」
 呆れたように声を荒げた二口だったが、そこでふと考え込む。一度青根を見上げた。それから鎌先を見て、もう一度青根と頷き合い、ようやく笹谷へと視線を戻す。
「……あの、笹谷さん。ちなみに前戯とか全然しないのは?」
「二口っ、だからお前、そういうこと……!!」
 どうやらもう台本は放棄でいいらしい。鎌先はまだベンチで仰向けになったままなので、その腰を跨いで遠慮なく座ってから笹谷は答える。
「わっ、あの、だから、笹谷、こういうの、だから、すげえ恥ずかしいし、だから、笹谷ぁ……!!」
「……分かるだろ、こいつうるせえんだよ」
「あー……。」
「なるほどねえ……。」
「……。」
「う、うるさいとかひどいだろ!? つか笹谷が落ち着きすぎなんだよ!!」
 茂庭も納得したように頷いているので、ある程度のことは耳に入っていたようだ。どんどん鎌先への不信感が募っていっているのが笹谷にも分かる。なんだか可哀想だとこの場で思えているのは、きっと自分だけだろうと笹谷は見抜いた。
「じゃあ、後ろからしか繋がらないとか言ってたのも、きっと同じ理由ですよね」
「まあな」
「やたら高圧的に進めるのは?」
「その方が鎌先も大人しくしなきゃって意識が働くみてえだから、自然と」
「……鎌先さんから何かしたりとかを、全然求められないとも言ってましたけど?」
「お前、この状態の相手から奉仕してもらいたいって思えるか? 握り潰されるか、噛み千切られるか、どっちかしか想像できねえだろ」
「つまり結論としては鎌先さんが悪いってことでいいですね!!」
「よくない!!」
 反論したのは鎌先だけだった。青根は基本的に二口の味方というのもあるが、もし二口が今の鎌先のように騒ぎまくっていれば、きっとその先までは進めなかったと身に染みて分かるのだろう。一気に形勢は逆転したように見えたが、そこで一歩引いた冷静な声が割って入る。
「……でも、ちょっと待って。オレもさ、二人がちゃんと納得して、今の関係ならそれでいいよ? 何も、絶対に二口たちみたいな恋人関係を結べとは言わない、男同士だしね」
「なんか茂庭は寛容すぎて時々怖いんだけどよ……?」
「でもさ、鎌ちは不満みたいだよ?」
「……だろうな、別にヤりたいわけじゃねえんだし」
「そういうことじゃなくってさあ……。」
「だーかーらぁっ、鎌先さんは笹谷さんのこと好きなんですよ!? それ知っててつけこんだんですかっ、だったらやっぱり笹谷さんがひどい!! 鎌先さんが可哀想!!」
 言いにくそうな茂庭の言葉を継ぎ、ビシッと青根の真似かのように指を差してきた二口には、心底呆れてしまった。
「いや、好きって言っても、友達とか、そういうあれだろ? それすらまだ好きかも分かんねえけど」
「なんで笹谷さんはそうなんですかっ、男が男に抱かれるって結構な覚悟がいるんですよ!? 一回や二回の事故じゃないなら、真性でもない限りそういうことでしょ!?」
「……つまり、鎌先ってガチってことか?」
「茂庭さんこの人殴ってください!!」
 鎌先さんが可哀想すぎると嘆く二口を、青根はヨシヨシと頭を撫でてやっていた。期せずして告白されて、密かに嬉しいのだろう。二口から頼まれた茂庭は苦笑しているが、たまに思いきりがいいのでうっかり殴られたりする前に笹谷は答えておく。
「いや、だから、オレは鎌先に告白したんだっての」
「……!?」
「……え」
「……笹谷っ、それほんとなの!?」
「こんな嘘つかねえよ、鎌先にも確かめたらいい。とにかく、そしたらこいつ泣いて逃げるし、オレはてっきりふられたと思ってたんだけど。翌日に殊勝な顔で謝ってきて、お詫びにヤらせてくれるって言うから手を出したら、すげえうるさくてっていうのが初めてのときだ」
 何も最初から無理矢理押し倒したわけではない。あくまで鎌先とヤることを目的にした場合、従順に躾けることが最善だっただけだ。それ以降も関係が続いたのは、笹谷からは未練があったからにすぎない。
 単純に、好きな相手としたかった。そのこと以上に、快楽からでも執着が生まれれば、やがてそれが好意に育つのではないかと期待した。
「……けどまあ、鎌先がお前らにいろいろ相談したってことは、もう限界だったてことだよな。分かった、もうこの関係はやめる」
「……!!」
 先に二口へと話したのは、笹谷の方だ。それを思えば、ずっと限界に近かったのだろう。
 ため息と共に自覚して、跨いで座る鎌先の腰からおりた。そして床に立ってから、まだ仰向けのまま呆然としている鎌先へと手を伸ばす。
「今まで悪かったな。明日からはもうただのチームメイトに戻る。これで手打ちにしてくれ」
「……。」
 引っ張り起こしてやろうとしたが、鎌先が手を重ねてくることはない。まあそれはそうだろうと納得もできたので手を引っ込め、笹谷は背を向けた。
 終わりなど、あっさりしたものだ。ただ誰にもばれないまま関係が終わることを予想していたので、決して夢ではなかったと他人の記憶に刻まれることには密かな喜びもある。巻き込まれた茂庭と二口、青根は可哀想だったと思いながらカバンを取りに行こうとすると、ふと裾を持たれていることに気がついた。
「……鎌先?」
「……。」
 いつの間にか、鎌先はベンチで体を起こしていた。だが俯いたままで何も言わない。それなのに裾をつかんでくるという動作に困惑していると、期待の後輩がいきなり声を荒げる。
「鎌先さんっ、でかい図体でめそめそしないでくださいよっ、オレたちまで悲しくなってくるから!!」
 確かに泣いていそうな雰囲気ではあったが、まさか本当に涙がこぼれているとは思っていなかったので、弾かれたように顔を上げた鎌先には驚いた。
「これが泣かずにいられるか!! オレ今ふられたんだぞっ、しかも付き合ってるて思ってたのオレだけだって教えられたんだぞっ、最悪だ!!」
「おい、鎌先……?」
「うわあああんっ、鎌先さん、可哀想だけど自業自得すぎて同情できないですぅ……!!」
「……!?」
「あのさ、二口、嘘泣きでも青根が動揺するからやめてあげて」
「はい」
「……!!」
「それとさ、鎌ち? 満場一致で鎌ちが有罪ってことになったから、今更だけど笹谷の告白にちゃんと答えてあげて」
「なっ……!?」
「茂庭もなに言ってんだ……?」
 すっかり忘れていたが、茂庭は交換劇の審判員というか、判定役だった。だが裁判官ではなかったはずだ。一方的に言うだけ言うと、茂庭は自分の荷物を持っている。二口と青根もさっさとベンチから立ち上がった。
「じゃあね、二人とも。明日になってもまだ解決してなかったら、練習参加禁止にするから」
「そんなっ、横暴すぎるだろ……!?」
「つか、何を解決するんだ? もう全部片付いたはずだろ?」
 今更鎌先が告白の返事を繰り返したところで、何が変わるわけでもはない。泣いて逃げ出すという行為が再現されるだけだろう。首を傾げている間に、二口も手を振り、青根は頭を下げる。
「そんじゃっ、鎌先さん、ファイトですっ。慣れたら好き好き言うのも快感になりますよっ」
「うっせえ、おめーみたいになりたくねえよ、ちょっとしか……!!」
「つか、鎌先があんなだったら相当気持ち悪いよな」
「なっ……!?」
「もうっ、笹谷さんがそーゆーこと言うから!! ……ま、お互い様だからもういっか。なあ青根、エッチしたいから今日はお前のとこ泊まっていい?」
「……!!」
「あ、二口たちはすぐに帰っちゃう? オレ、二人の頑張りに感動したからファミレスで食事でも奢ろうかと思ってたんだけど」
「えっ、マジすか!? やったー、茂庭さんっ、あざーす!!」
「……。」
「……青根、心配すんなって? エッチは帰ってから、な?」
「……!!」
 勝手なことを言い合って、三人は部室から出て行ってしまった。腹は減っているので、自分もファミレスに行きたい。追いかければ間に合うだろうかとカバンを取りに行きかけて、いまだに鎌先に裾を持たれていることを気がついた。
「……おい、鎌先、離せって?」
「……。」
「もうここに居たってすることねえんだし、さっさと帰りたい」
 帰るぞと促すと、まるで一緒にと誘っているようで気が引けた。そんな配慮までしたのに、いつの間にかまた鎌先は俯き、黙り込む。手は離さない。
 どうやら、考え込んでいるらしい。バカなので長く考えるほど正解は遠のきそうだ。失礼なことを考えていたのが分かったわけではないのだろうが、やがてゆらりと鎌先が立ち上がった。まだ手は離さない。
「……茂庭が、練習禁止、て、言うから」
「は? あんなの冗談に決まってるだろ、真に受けたんならちょうど泣いてるしさっさと走って帰れよ」
 鎌先は性格的には非常に真面目なので、キャプテンという立場である茂庭からああ言われれば、無視はできないのだろう。それならば、手っ取り早く再現すればいい。茂庭が求めたことは、かつて告白した笹谷への返事だ。呆れながら待っていれば、やっと手を離した鎌先に肩を押された。
「おわっ……なんだよ?」
「……。」
「鎌先……?」
 背中がロッカーに当たり、やや驚いてから顔を上げる。すると、正面に立つ鎌先は、やはり背が高いと当たり前のことを思った瞬間、いきなり手が伸びてきて顔の横にドンッとつかれた。
「……今の衝撃で、お前のロッカー凹むどころか完全に扉外れたけど、オレは弁償しねえぞ」
「オレのっ、オレの力強さが、憎い、あと痛い……!!」
「オレも憎いし痛いよバカ」
 かなりの勢いがあったためか、そのまま鎌先は前のめりになった。額がゴチッとぶつかって、地味に痛い。だがようやく一歩下がった鎌先が、正面から見下ろしてくる。
「……だから、茂庭が言ってたのを、やるから」
 しなくていいとは言ったが、やりたいなら勝手にすればいい。見送りされたいのかと眺めていれば、やがて顔を赤くした鎌先に意外なことを要求される。
「だからっ、笹谷からもっかい言ってくれ!!」
「嫌だ」
「なっ……なんでだよっ、オレだけ恥ずかしいのずるいだろ!?」
「知らん」
 どうやら、告白劇のもう少し前から再生したいらしい。いちいちふられるために、好きだと告げるのは憂鬱だ。気乗りしない。絶対にしたくなどない。だが涙目で訴えられると、突っぱねきれないのが惚れた弱みだ。
「笹谷ぁ……!!」
「……分かった、分かった、鬱陶しいから泣くな」
「笹谷ひどくね!? 結構オレにひどくね!? お前っ、ほんとにオレのこと好きなのか!?」
「好きだ」
「……あ、はい」
 言えと言うので言えば、鎌先は目を丸くした後、突然丁寧になった。これもあのときと同じだ。今は完全に目が泳いでいる。もうしばらくすれば、居たたまれなくなって泣きながら逃走するのだろう。自分でもどうしてこんな面倒くさい相手を好きになったのか、さっぱり分からない。
 それでも、一緒にいると楽しいし、安心もする。独占欲は偏った友情の発露だと一年間自己暗示を続けて、成功しなかったので諦めた。そして告白した結果が、今なのだ。すべては自業自得かとため息をつく笹谷に、あのときとは違うことが起きる。
「……でも、その返事、オレは……その、ちゃんと、言えなかったから、だから」
「鎌先……?」
 逃げ出すのではなく、会話が続いた。どうやら人間は日々進歩するらしい。やや違った感動をしながら眺めていると、覚悟を決めた様子で、いきなり鎌先からキスをされた。
 あれだけ、恥ずかしがっていたのに。
 あれだけ、嫌がっていたのに。
 どういう心境の変化なのか、いや単にずっと本音を出せなかっただけなのか。ぐるぐると回る思考を止めたのは、相変わらず血でぬめる唇を離し、震えながら告げた鎌先の言葉だ。
 信じられなくて驚いている間に、もう一度唇を塞がれる。
 だがこれで許されるとすっかり思い込んでいる様子の恋人に、躾を教えるべく笹谷は差し込まれた舌を思いきり噛んでおいた。












6巻のプロフィールで いきなり笹谷さんが告白してたので
勢いあまって笹鎌でした
岩及とのWカプに比べて 二口さんは少しだけいい子です
まあ いい子でもこんな感じですけどもね!!!
そんな あおふたが すき・・・
あと 鎌先靖志さんっ 喘がせすぎてごめんなさい!

ロボっぽい何か


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