■濡れ鼠
ザーザーと流れる水音は、空から降る雨ではない。
二メートルもない高さからシャワーヘッドを起点に撒き散らされる水は温められていないが、そんなことももう気にならないほど、互いの熱に酔っていた。
「うぁっ……!!」
「山本……。」
正午過ぎのシャワー室は、わざわざ照明をつけずとも天窓からの日差しで充分に明るい。男子専用は覗かれる心配もないという豪快さでカーテンすらないが、今の時間では確かに建物の外に人気すらなかった。
既に昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いてから随分と経つ。もう、五時間目の授業が半分は過ぎた頃だろうか。そう思ったとき、まだ半分ある、ではなく、もう半分しかないと解釈したことに舌打ちしてしまった。
「……獄寺?」
本当に半分ならば、こうしていられる時間はあと三十分もないということだ。
あるいはある程度の事後処理を考えればもっと短いはず、と思ったことで漏れた舌打ちを、耳ざとく聞いていたらしい。この水音の中でよく聞き分けられたと内心感心しつつ、獄寺は後ろから繋がったままで、よく聞き取れましたと敏感な耳を歯を立てずに食んでやっていた。
「んぁっ……!?」
「なんでもねえよ。ちっと腹減ったかな、て思ってただけだ」
「獄寺……んんっ、く……あぁっ……!!」
シャワーの水で濡れた耳を、舌でベロリと舐める。少しばかり首を伸ばすようにしなければならないのは癪だが、身長差など今更だ。体格で見劣りしている自覚はあるが、それでいて今もこうして後ろから犯しているのは獄寺の方なのだ。さして整えられていない安っぽいタイルに四つん這いになるのはイヤだということで、今は互いに立ったままで繋がっている。
止めるつもりもないシャワーを流し続けたまま、山本は床から伸びているシャワーのパイプに必死でつかまっている。時折さすがに手が滑っているようだが、石鹸は使っていないので比較的足元がしっかりしている獄寺が後ろから支え、再びつかまり直させて今に至っていた。
既に一度、いや山本の方は二度出しているが、それでもまだこの熱は収まりそうになかった。天気のいい昼間ということで、温水器はつけなくても大丈夫だろうと最初にコックをひねったときは、その水の冷たさに少し驚いた。だが今ではこうして水を浴び続けていないと、繋がった熱でここがどこなのか、今がどういう時間なのか、それすら忘れてしまいそうだ。
「そんな声出して、ココ、学校だって分かってんだろ?」
「ごく、でら……!!」
平穏な昼休み、屋上で昼食を取るはずがうっかり邪魔されたのが数十分前。
獄寺の投げたダイナマイトがランボによって手で打ち返され、どんな偶然だか山本の持っていた牛乳パックの飲み口にズボッと嵌まってしまった。そのまま爆発したことで牛乳を浴びる羽目になった山本に、興奮したことは否定しない。だがそんな獄寺に、山本もまた興奮したことも確かなはずだ。
「いつも、は……声、出せっ、て……!!」
「んー? ああ、そりゃ聞きたいから、そう、言うけど。でも……ココじゃ、まずいだろ?」
「あぁっ!? んんっ、ん……あっ、あ、ごくでらぁ……!!」
運動部共用のシャワー室は、当然無人だった。建物の外にも気配がないのは分かっているが、それでも万全とは言い切れない。
だが敢えて諌めるようなことを言ったのは、当然山本を煽るためだ。
それでいて一際大きく中を抉るように腰を突き動かしてやれば、山本は息を詰めて、必死に快楽に耐えていた。
「んっ……んぁっ、く……!!」
「なあ、山本? さっき、屋上で。オレのダイナマイト、お前の牛乳の口にピッタリだったよなあ……。」
シャワー室に入ってすぐ、制服を乱しがてらにまずは一回。その後今と同じ体勢で後ろから繋がって、もう一回。
二度達している山本は快楽に対して過敏になっているが、同時に鈍くもなっている。要するに、感じやすくはなっているが体力的にそう続けて出すこともできず、もどかしい状態だ。出した回数とシャワーの冷たさで、いつもより余裕がある獄寺は、ふと思い出した光景をそう語る。
「けど……ココは、ピッタリてより、ちょっとキツイくらいだよなあ?」
「あっ!? え、あ、獄寺……!?」
「まあ、それぐらいがいいんだけどよ?」
繋がった箇所を指でぐるりと撫でてそう言ってやれば、ビクリと身を竦ませた山本は驚いた声を上げている。それに喉の奥で笑いながら、獄寺はまた背後からべったりと圧し掛かっていた。
「なあ、山本……。」
「獄寺……?」
シャワーは相変わらずザーザーという水音を立てている。すっかり足元に落ちている山本のズボンは、もう水でぐっしょり濡れて変色していた。着たままのシャツも同様で、ぺったりと肌に貼りついている背中を見ていると、どうしようもなく煽られる。
山本にこんなことができるのは、自分だけだ。
山本をこうしていいのは自分だけなのだ、という事実が愉しくて仕方のない獄寺は、それを山本にも確かめたくなった。
「今、なにされてんのか。どういう状況か、言ってみろよ……。」
「……。」
「自分のことが言えねえなら、オレのことでもいいんだぜ? なあ山本、オレ、今どうしてる……?」
山本を、犯している。
疑いのようのない事実を頭の中で反芻し、獄寺は更に愉悦が増す。だがふと肩越しに向けられてきた視線に目を合わせれば、濡れた黒い瞳は相変わらずなことを答えていた。
「……服着て濡れ鼠のまま、腹空かしてる?」
「……。」
「なあ獄寺、もう遅いかもしれねえけど制服脱がねえ? このままじゃ、着るモンが……。」
確かに制服を脱がずに始めたので、互いに濡れ鼠なのは事実だ。ついでに獄寺は昼食を食べ損ねているので腹も減っている。
だが今尋ねたのは、そういうことではない。
分かっていないはずはないと思われるが、なにしろ山本だ、山本武なのだ。本気で言っているのかもしれないという可能性が半分近くある以上、誤魔化されたと腹を立てるワケにもいかず、獄寺はため息の後片手を腰から離してやっていた。
「……だから、制服洗うために来たんだろうが」
「んんっ、あ……えっと、獄寺、そこシャツないっていうか……んぁっ、あ、うぁっ……!!」
さらされた胸を撫で回し、時折硬く立ち上がっている突起へと指を絡める。ボタンだけを外したシャツは前が完全に開いた状態であり、手を這わせたところで確かに洗濯などできるはずもない。だが既にそんなことはどうでもよくなっている獄寺なので、見当違いな回答のお仕置きとばかりにしつこく背後から回した手で胸の突起を押し潰す。すると息を上げた山本は、大きく背中をしならせた後いきなりガクリと上体を落としていた。
「おわっ!? ……あっぶねえな、山本?」
「獄寺……!!」
そのまましがみついているシャワーの配水管にでも激突しそうだったが、期せずして胸の前に手を回していたので寸前で止めてやることができていた。腰を折るようにして前のめりに倒れかけたので、支えてやらなければきっと顔面を打っていただろう。こいつは前髪が短いからきっとデコを切っていた、と妙な確信からほっとしていた獄寺に、更に姿勢が低くなった山本が再び視線を上げてくる。
「なあ、獄寺ぁ……!!」
「なんだよ?」
見ればパイプを持つ手を上へと根性でずらし、自らの手首辺りに顔をつけるようにして山本は振り返っている。若干後ろに下がってやってその姿勢を楽にさせてやりつつ、いつの間にか目線の高さが逆転していることにも獄寺は気がつく。肩越しに見上げてくる山本の視線が、どうしようもなく心地良い。再び自覚した熱で激しく突き入れたいと思いはするのだが、どこか拗ねているようにも見えた瞳に精一杯の理性で保っていれば、山本はしばらく黙った後ふいっと視線を逸らしていた。
「もう……オレ、無理」
「……ハ?」
「この体勢、無理。なあ獄寺、早く……オレ、の……!!」
これまでこうして立ったまましたことがないワケではないが、いずれももう少し足場が良く、更に山本がしがみつきやすいものがあった。だが今はシャワー室で、更に水も出しっぱなしなのだ。手がずるりと滑りかけたり、先ほど上体を支えきれなくなりそうだったのはそれなりに山本を疲弊させたらしい。早く、とせがむ山本に、なんとなく意図が分かった獄寺は、そろそろ果てさせるべく山本のモノへと手を回していた。
「んっ、あ……獄寺、指輪……!!」
「なんだよ、人がせっかくイかせてやろうと思ったのによ」
だがその途端、ビクリと体を震わせて嫌がられ、獄寺は不機嫌そうに言い捨てる。
時間的に、これが最後になることは確実だ。そのことが分かっていなくはないだろうに、さっさと終わらせてほしいとせがむ山本はつくづくデリカシーがない。
いや、こんな行為に執着がないだけか。
熱を冷ましてくれてちょうどいいと思っていたはずの水温が、急に寒気を感じさせるほど下がった気がしてた。なんとなく苛立ちが増し、さして本気だったわけではないが、獄寺は指輪を嵌めたままの右手を配水管を掴む山本の右手にギュッと重ねてやっていた。
「獄寺……?」
「そんなにイヤなら、自分でしろよ。テメェの手なら、指輪もなんもねえだろうが?」
「……。」
後ろだけでイくことも稀にある山本だが、先ほどのようにせがんだということは今はそれが無理そうだという自覚があったのだろう。一度触れただけでも、山本のモノもかなりの熱をためていたことは明らかだ。あと少しという刺激がほしいだけならば、いっそ自らの手で扱けばいい。体勢的に、片手でしがみつくのは恐らく危ない。だからこそこんな提案は嫌がると思っていたのだが、意外にも山本は無言でしばらく獄寺を見上げた後、思いきったように重ねられた右手を配水管から離していた。
「山本……?」
「……。」
嫌がるように獄寺の右手を払った山本の手は、だがそのまま自らの性器へと伸ばされることはない。宙に浮いた格好の獄寺の右手を捕らえると、山本はそのまま元々近くにあった顔を寄せてチュッと緩いキスを施していた。
「……!?」
「獄寺と、してんのに。一人でするときみたいなのは、イヤだ……。」
「このっ、バカ……!!」
これは自慰ではなく、セックスなのだ。
姿勢を保つのが苦しくなるからだとか、そんな理由は微塵もない。
ただ、獄寺にしてもらいたい。
そう訴えてこられて無下にできるほど、獄寺も鈍感ではなかった。
「なあ、獄寺。この、指輪……外して……。」
「わ、分かったっての!! ほら、外せよ……!?」
出るかと思った、と少しばかりの恐怖に胸を撫で下ろしつつ、獄寺は手の平を舐めてくる山本にべちっと右手を押し付ける。獄寺が自分で外すには、当然両手を使わなければならない。左手では相変わらず山本の腰を支えているのだが、こちらまで抜けば本当に山本は崩れ落ちそうな予感があったのだ。
そう獄寺が言えば、山本も意図はちゃんと分かったようで、人差し指と中指に嵌められていた指輪を右手でなんとか抜く。だが置いておくのにちょうどいい棚はなく、ポケットに入れるのも面倒くさかった獄寺は、指輪を渡されたところで口を開いていた。
「山本、持っとけ」
「ん……?」
「右手」
外してもらったばかりの山本の右手を開かせ、その指に指輪を嵌めていく。獄寺が中指に嵌めていたものは、人差し指に。人差し指に嵌めていたものは薬指にしか入らなかったのは軽く劣等感を煽ってくれたが、素直に嵌められている山本の手を見ていれば相殺されておつりも来る。まるで自分のものになったかのような山本の右手が再びしっかりと配水管を握り締めたのを確認して、獄寺は軽くなった右手を山本のモノへと伸ばしてやっていた。
「んんっ……!!」
「オレがしてやらなくても、イけるんじゃねえのか……?」
すると先ほどより熱を溜めていた気もする山本のモノにそんなことをぼやきながら、獄寺は指を絡めて軽く扱いてやる。そうして再び腰も進めてやっていれば、カツン、カツンと半端に金属的な音が響いていることに気がついていた。
「……?」
「んぁっ、あ……あぁっ、ん、あ……!!」
どうやら山本にさせている指輪が、シャワー室の壁に当たってしまっているらしい。
この調子だと、傷がついてしまうかもしれない。
所詮は学校の施設である壁の方はどうでもいいが、指輪の方はそれなりの値段がしたものだ。物に執着がないわけではないので、できれば指輪に傷がつかない方がいいとは思う。だがそれは絶対ではない。
「あぁっ、あ、獄寺、獄寺ぁ……!!」
「こらっ、テメェ、ちょっと早いっての……!!」
「んんっ、あ、あぁっ……!!」
こうして山本を犯している状況で、中断してまで優先させるほどのことではなかった。
山本が痛がればまた別だが、そうでないなら指輪の傷くらいどうでもいい。むしろその傷で、こうして授業をサボって熱を貪りあったことを思い出す記念になるかもしれない。それを見て自分が浸るよりは、それを見せて山本がどういう反応をするのか、想像するだけでもう愉しくなってくる獄寺は更に深く山本の中へと侵入していた。
その途端、喉の奥を引き攣らせるような声で山本が達し、急激な締め付けに獄寺も思わず中に出してしまう。ボタボタと手を濡らす白濁した液体は、まるで自分のもののようだと達した酸欠状態で獄寺は思っていた。
だがそれも、ザーザーというシャワーの音が我に返らせてくれていた。
獄寺の右手を汚すものは、山本が出したものだ。
そんなことは当たり前なのだ、獄寺は自慰をしていたわけではない。
山本と、繋がっていたのだから。
「……腹減った」
「獄寺、さっきからそればっかだよなあ」
そろそろ五時間目が終了するチャイムが鳴ってもおかしくない時間帯、獄寺たちはシャワー室から併設している脱衣所へと移動していた。真ん中に置かれたテーブルとベンチは、男子専用らしく程よく小汚い。だが床に転がる気には当然なれないため、仕方なくそこに腰を下ろす獄寺は、いまだ全身濡れ鼠のままだった。
実は最中に山本が言っていたのは現実的な指摘だったのだ。いくら制服を洗うためとはいえ、下着まで洗ってしまうと替えがない。ジャージを持ってきてもらったところでダイレクトにはいたまま帰るという選択肢は、なかなかの羞恥プレイだ。
だがここで唯一の救いがあったのは、実はこの脱衣所には洗濯機と乾燥機が備え付けられていたことだ。山本もそのことは知っていたのだが、電気代の無駄ということで基本的に乾燥機は使わせてもらえないため、動かしたことがなかったらしい。一見して洗濯機より二十年は古そうな年代物のため、獄寺も動くのかと半信半疑だったが、取り敢えずコンセントを探して突っ込み、恐々スイッチを入れてみれば鈍いながらも回りだした。かなりの低出力のようで時間はかかりそうだが、下着くらいならば乾かないこともないだろう。よって獄寺はその乾燥機に下着だけを放り込んで制服を上下とも着込んでいるのだが、山本は全くの真逆だ。
「それより獄寺、寒くねえの?」
「……下着一枚のテメェに言われたくねえよ」
山本は山本で、制服の替えがない上、シャワー室でズボンは下に落としていたので獄寺のもの以上に濡れてしまった。よって制服の上下を放り込んで乾燥機で回しているのだが、さすがに全裸というのはどうかと思ったらしく、濡れた下着を限界まで水を絞って履いているのだ。
今日は天気もよく、これから一番気温が高くなる時間帯なので、確かに下着一枚ならば履いていても乾くかもしれない。だがそんな格好で十代目にお会いするワケには、と思っている獄寺に同じ選択肢は取れず、結果的に全身をべったりと濡れた布に貼りつかれて気持ち悪さも臨界点を突破しそうだった。
「オレはタオルあるし。なあ獄寺、お前も頭くらい拭いといた方がいいって?」
「つかそのタオル、誰のだよ……。」
腹が減っているのも事実だが、頻繁に口にするのは気を紛らす要素が大きい。一つはもちろんこの濡れた布の気持ち悪さだが、もう一つは下着姿で歩き回る無自覚な相手だ。もうそろそろチャイムも鳴りそうだというのに、再び手を出せるはずもない。だがヤったばかりだというのに、今回は体勢の関係でほとんど痕が残っていない肌を見ていると、無性に腹立たしくなってくるのだ。
その意外に白い肌に、情事の証を刻み付けたい。
この男は自分のものだという刻印を散らしたい衝動を抑えるのに必死になっているにも関わらず、当の本人は気にせず間合いを詰めると、バサッと獄寺の頭にタオルを乗せていた。
「おわっ……!?」
「ん、オレの。結構使うから、置いてあんの」
「そ、そうかよ……!!」
ギシリと安っぽいベンチを軋ませて、後ろに座ってきた山本はそう言いながらガシガシと髪を拭いてくる。少し痛いくらいのその仕草に、獄寺は戸惑いつつも嫌がるように止めさせて振り返っていた。
「ん?」
「あのな、山本……!!」
子供扱いするなだとか、そんな格好で不用意に近づくなだとか、言いたいことはたくさんあった。
だが首にタオルをかけたまま、自分もポタポタと黒い髪から水滴を滴らせている山本を見れば、ため息の方が先に出る。仕方なくベンチを跨ぎ直し、完全に向かい合うように座り直した獄寺は、ゆっくりと両手を伸ばして山本の首のタオルを取ってやっていた。
「……テメェも濡れてんだろうが、ちゃんと拭けよ」
「でもオレ、髪短いし? ほっといてもいいかなって思ってたんだけど……。」
「……『けど』、なんだよ?」
手にしたタオルを頭に乗せ、仕返しとばかりにかなり強くガシガシと獄寺は拭いてやる。だがそれを山本は嫌がるでもなく、むしろどこか嬉しそうだ。そうして一度離させていた両手を再び伸ばしてきた山本は、逆に獄寺の髪を優しく拭いてやりながら答えていた。
「けど……獄寺にしてもらえるなら、いいかなって。こういうの、オレ、ちょっと嬉しいのな?」
「……バカ」
「獄寺は嬉しくね? オレがガキなだけかな?」
そう言って笑った山本に、甘えるのも甘やかすのも好きじゃねえ、と獄寺は返したかった。
実行できなかったのは、口にしたところであまりに説得力がないと自分で分かっていたからだ。だが素直に認めるのも癪で、タオルに乗せた手を一旦止めた獄寺は、軽く引き寄せる仕草で山本の手も止めさせる。
「ん?」
「……嬉しくないことはねえよ」
意図を正確に理解した黒い瞳が、嬉しそうに弾む色が見て取れて、悔しいと思っていた。
こんなにも簡単なことで、喜べる単純さが羨ましい。
キスするのが嬉しいのだと臆面なく示せる強さに憧れてることを認めることすらできなくて、さっさとそんな色を消してしまいたい獄寺は精一杯の抵抗を試みる。
「んんっ、んぁっ……あ、獄寺……?」
「ほら、気持ちいいんだろ?」
「ん? んー……うん」
触れるだけでは終わらせず、深く舌も絡めるキスで山本の瞳をあっけらかんとした喜色から濃厚な艶色へと変貌させる。なんだかんだで、山本はキスは好きなのだ。ここでまた深められるとは思っていなかったようで、そのことには驚きはしたものの、念を押せば素直に口を開いてきていた。
「んっ……ん、なあ、ツナ……遅い、よな……。」
「……そうだな」
年代物の乾燥機がゴンゴンという不穏な音で回り続けている中で、キスの合間に山本はそう言う。山本は背を向ける格好になるが、獄寺からは脱衣所の壁にかかっている時計が見えていた。それもひびが入ったりしているのでどこまで正確かは分からないが、正しいとすればもう五時間目の後の休憩が終わり、ちょうど六時間目に入る頃合だ。
どうやら校舎から遠すぎてチャイムが聞こえないか、かろうじて聞こえるはずが乾燥機の音で消されていたらしい。そもそも獄寺は尊敬する十代目にジャージを持ってきてもらうなどという仕事をさせるつもりはなかったので、約束を違えられたところでむしろ歓迎だ。
「どうせなら、なんか、パンとか。食いモンも、持ってきてもらえばよかったな……。」
「……なんでだよ?」
「え? だって、獄寺、腹減ってんだろ……?」
だが相変わらずそんなことを言っている山本に、呆れた獄寺は再びキスを深める前に返していた。
「……減ってはいるけど、テメェ食ってりゃ忘れられる」
「えーっ、オレ、空腹紛らわすためだけにされてんのか? まあいいけど……あんま、よくねえけど……。」
すると言葉では流しつつ、実際には納得できていないと如実に示している山本に、獄寺はもう本当に笑ってしまっていた。
さすがにもう一度はできないと分かっているのだから、あまり煽らないでほしいと思う。
六時間目が自習だったりした運動部員がやってこないとも限らないのだ。
それでも笑いながらガシガシと久しぶりにまた髪を拭いてやった獄寺は、バサッとタオルを外してやり、短い黒髪を手櫛で整えてやりながら訂正してやる。
「……バカ。好きだからヤってんだよ、空腹忘れられんのはついでだ」
「それなら、いいけど? いい、のかな? よく分かんねえけど……んんっ、んぁっ、あ……だから、その……!!」
オレも獄寺が好き、と返してきた山本には、一瞬意識が飛びかけた。
正確には、自制だろう。
だがなけなしの理性で自らを留め、何度も舌を絡めるキスに興じていたある日の午後だった。
「どどどどどうしよう……!!」
ちなみに、ツナは決して約束を忘れていたわけではない。
山本に言われたとおり、屋上に残された弁当箱は教室に持ち帰ってカバンへと入れておいてやった。そして五時間目の授業を受けた後、二人分のジャージをロッカーから回収し、クラスメートたちに不審がられつつ教室から飛び出したのだ。
すぐにシャワー室に向かわなかったのは、更に気を回した結果だ。きっと獄寺君はお腹を空かせて山本を困らせているだろうから、と考えたツナは、購買に寄って適当なパンを用意しておいたのだ。そうして部室棟の更に先にあるシャワー室まで辿り着いたのが、ちょうど休憩時間が半分過ぎたあたりである。普段ダメツナと言われているにしては、実に的確で順調な行動だったのだが、やはり敵は強大だった。
「あ、あんなことしてるのに、どうやって入ってったらいいんだよ……!!」
獄寺は怪しいと思っていたが、脱衣所にあった時計は実は正確だったのだ。更に言えば、チャイムの音は元々聞こえにくく、乾燥機の音で消されていたのも事実だ。唯一の獄寺の誤算は、ツナが約束を破ってなどおらず、こうして建物の外で怯えていることだった。
シャワーがある部屋と違い、脱衣所は当然建物の外へと出る扉に繋がっている。元々立て付けが悪く、閉まりきらないことはこの場では山本しか知らない事実だったが、あの山本なのでいちいち言うはずもない。よって、本当に二人が中にいるのか、ツナがそうっと覗いてしまったときには既にベンチに座ってイチャついていたのだ。ツナからはこの扉に鍵がかかっているのかは分からないが、どちらにしても声をかけなければならない。だが今にも雪崩れ込んでしまいそうな雰囲気の二人に何を言うこともできず、扉の前で蹲るしかないところで休憩時間を終えるチャイムが建物の外にいるツナには聞こえたのだ。
「ああもうっ、ほんと、どうしよう……!!」
授業に遅刻してしまう、ということで更に焦ったツナは、意を決して扉へと向き直る。
だがうっかり隙間から見えてしまった光景に、やっぱり帰ろうと思って振り返ったところで、不穏な声に悪寒が走った。
「……あららのら。ツナさん、それランボさんの?」
「ラ、ランボ!? まだ帰ってなかったのかよ……!!」
「ランボのだよね、だって、ぶ・ど・う……!!」
昼時を過ぎた購買部では、ほとんどパンが残っていなかった。よって選びようもなくレーズンパンを買っていたツナに、ランボが目をキラキラさせてにじり寄ってくる。
それに、ツナはキッと視線を強くする。そもそも、こうなったのもすべては屋上でランボが獄寺の昼食を勝手に食べてしまったことに始まっているのだ。
「だ、ダメだって!? これは獄寺君の、お前が食べちゃったお昼のお詫びなんだから……!!」
だがそんなことを言って、納得してくれるランボならばここまでの苦労はない。
干したぶどうでもそれなりに魅力的なのか、ヨダレを垂らしたランボがツナのレーズンパン目掛けて突進してきた。
「それ、ランボさんのーっ!!」
「バカッ、だからダメだって……!?」
牛の名に恥じず、真っ直ぐに突っ込んだランボ。
それを闘牛士のごとくひらりとかわした身のこなしは、ダメツナというあだ名には程遠い。
だがそうして避けてしまったことで、勢い余って激突したランボが五歳児ならぬ威力で扉を室内へとぶち破るまで、わずか数秒。
やっぱりオレはダメツナかもしれない。
扉が外れる音や、室内からの怒声、五歳児の泣き声のハーモニーを聞き入りながらレーズンパンとジャージを抱えてツナはそう思う。
予測される惨劇に遠くを見つめたツナの目に、今日も青空は眩しかった。
▲地下倉庫メニューに戻る
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
サイトでもエロ書かなきゃなっていうか。
エロ書きたかっただけですスイマセン(オイ!
そんなエロくならなかったけど…。
ウチの山サンはつくづく獄寺氏にヤられるのが好きで困る(待て待て
ロボ1号 |
|