■ふたり暮らし(後半)
※エロはないですが、若干のスクザン描写があります。(+獄山が中心)※
『……で、一方的な稽古の約束を勝手に反故にした挙句こんな時間になってやっと連絡してきたかと思えばそのザマはなんなんだ刀小僧ぉぉおおお!?』
旧式の通信機器ならば、キィンとハウリングを起こしていたかもしれない。それほどの音量で叫ばれたにも関わらず、大して気にならなかったのは、相手からの反応を予測していたらしい獄寺の手が淡々とパネルを操作していたからだ。徐々に大きくなっていったはずの声は、見事な音量調整で一定にしか聞こえなかった。
さすが獄寺、とうっとりした目で見つめていると、映像つきの音声はまた叫んだようだ。
『山本ォッ、貴様オレに詫び入れに連絡してきたんだろうがぁっ!?
早速椅子に見惚れてんなら最初から回線開くんじゃねえぞぉおおおお!?』
『まったくもってその通りだぞドカス!!』
『ごふっ!!……て、アンタ、そこでなんでオレ殴っ……!!』
実は回線の先には二人いたのだが、それこそ椅子に夢中な山本は音量がしぼられまくったスピーカーから聞こえるやりとりなど耳に入っていなかった。
今はもう日も暮れた夕方、本来訪ねるはずだった時間からは数時間以上経っている。山本としても、行かないならば行かないで連絡を入れようとしたのだが、いくつかの理由でこれまで無理だったのである。その一つはまさに指摘されたとおり、山本が今座っている椅子、獄寺の所為だ。朝に引き止められたのを皮切りに、それから何度か断りの連絡を入れなければと思い出しはしたが、そのたびにまた獄寺が腕を回し唇を塞いだり体をまさぐったりしてきて、頭の中から抜け落ちた。
朝から濃厚な行為に及んだ後は、さすがに互いに空腹だったので昼食をとることにしていた。宣言どおり獄寺によってスーツはぐちゃぐちゃにされたものの、着せようと思っていたと言って差し出された新しいスーツに袖を通せば、真新しい布の感触も獄寺が用意してくれたと思えば妙に肌に馴染む気がして気恥ずかしくなった。スーツと一緒に部屋の合鍵もくれたので、獄寺は外で食事をしてから山本を帰すつもりだったのだろう。だがあまりに嬉しくて離れがたく思っているのがバレたらしく、やや呆れた様子ながらももう一泊するかと提案され、外で食事はせずに材料だけ買い込んでまた二人で戻ってきたのである。
そこから遅めの昼食を作り、掃除などの家事を手伝っている間に昼寝だとベッドに引きずり込まれ、眠りに落ちる前にまた可愛がられた。一時間ほどで起きて今度は夕食を作り、獄寺とまた一緒に食べることができて嬉しくてはしゃいでしまった。
これでは、ほんとに一緒に暮らしているようだ。
幸せを噛み締めているとまた獄寺に撫でられ、風呂に連れ込まれそうになったところで反故にしていた約束をまた思い出したのだ。
さなみにその際に、連絡できなかったもう一つの理由、相手の電話番号などを知らないという事実にも直面した。だが連絡させなければ山本が何度も蒸し返すと気がついたのか、自宅にも引き込んでいるボンゴレ専用の回線を獄寺がパソコンから開いてくれたことで、ようやく連絡できたのだ。
その功労者である獄寺は、今はパソコンの前に座り、膝に山本を横向きで抱えてくれている。抱っこしてもらえるのも嬉しいとキュンキュンしながら山本が首筋に顔を擦りつけていれば、軽く背中を叩いて顔を上げさせられ、そのまま獄寺に唇を塞がれていた。
「んっ……んんっ、あ、獄寺ぁ……。」
『……オイ、刀小僧』
『ドカス、貴様も口を塞がれたいようだな!!』
『て、なんで今度は濡れタオル持ってんだドコから用意してきやがったっ、つか、意味が違うだろうがぁぁあああ!?』
「んー……んっ、獄寺ぁ?」
「ほら、さっさと話しとけって?」
それでも、絡めた舌もすぐに抜かれてキスを終えられ、物足りなくて見上げれば頬を撫でられてそう促される。そうして、そもそも今日行けなかったことを詫びようと思って回線を開いていたのだと思い出した山本は、久しぶりに画面を見て一瞬驚いた。
「……まあ、それで。今日は行けなくて悪かったな、スクアーロ!!」
『貴様ぁっ、この状況見て言うことはそれだけかぁ……!!』
「へ? ああ、風邪でも引いたのか? そんな濡れタオル、首に巻いて」
健気に看病してくれる奥さんなのなっ、と褒めてみたつもりだったが、ザンザスが嬉しそうに絞っていく首に巻かれた濡れタオルによって、スクアーロの顔色はどんどんと悪くなっていた。
これは本当に風邪なのかもしれない。そうであれば訪問しなくてよかったと思っている間に、なんとかタオルを切って気道を確保したスクアーロは、ぜぇぜぇと荒い息をつきながら画面に向かってきていた。
『だ、だから刀小僧、稽古という名の真剣勝負を……!!』
そう繰り返してきたスクアーロに、そういえば最初の質問に答えていなかったと山本は思い出していた。
「ああ、でも別に変じゃねえだろ?」
『……確かに恐怖じゃなくて不気味さで関わりたくないような気がたまにしてくる貴様のことだからなと納得してる場合じゃねえええ!!』
「シャツは獄寺のだけど、そこまで小さいの分からないはずだしっ、て……んぁっ、ア、獄寺ぁ、悪かったって? ん、お仕置きなら、また、夜にたっぷりしてほしいのな……?」
『そんで会話の途中でイチャつき出すんじゃねえええ!!』
『お仕置きだドカス!!』
『グハァッ!!……だ、だから、オレ関係ねえだろうがよ、ボスさんよぉ……!?』
うっかりまた体格の差に言及してしまい、膝に座られせてくれている獄寺がムッとしたのが分かった。怒っていると示すために強めに耳朶を撫でられ、口の端にキスをされれても、昨晩から甘やかされ続けた体はすぐに悦んで熱を上げるだけだ。快楽の余韻が今も漂っているような状態では、お仕置きと言われるほどやや乱暴にでもされた方が気持ちいい。できれば今すぐにでも、と夜だと自分から言ったのに山本がすぐに撤回したくなっていると、画面から唸るような声が聞こえてきていた。
『……だから、そもそも、なんで膝に座ってんだぁぁあああ!?』
『オレも座ってやるぞカス!!』
『グハッ!! つ、ついでにラリアットかます理由はねえだろうがよぉおお……!?』
「ん? ああ、前にずっと抱っこしてもらったことがあって。それ嬉しかったって言ったら、獄寺がしてくれたのなっ」
獄寺好き好きっ、と懐けるのも、昨夜から散々気持ちのいいことをされすぎて気分がずっと浮ついたままだからだ。更に合鍵ももらい、これからは好きなときに勝手に上がっていていいとも言われ、もう山本はしばらく地に足がつかないだろうという自覚もある。
とにかく獄寺が好きだと濃密に示してくれるのが嬉しくて、ついまたへらへらと笑いながら獄寺に抱きついていると、呆れたような声が回線を通ってきていた。
『……ま、まあ、貴様が今日来やがらなかった理由は大体分かったぞぉ』
「ああ、えっと、それは朝オレはちゃんと行こうと準備してたんだけど獄寺が……。」
『もう聞かねえって言ってるだろうがぁっ!? それより貴様ぁ、次はいつ来る気だ!? こっちのボスさんが「主婦仲間の井戸端会議」がしてみてえとか寝ぼけたこと言い出して井戸掘らされるからこっちも準備が必要なんだぞぉ!?』
『バラすなっ、このドカスが!!』
「つか山本はまだ主婦じゃねえよ、これからじっくり新妻へと仕込んでくんだから余計なことすんな、テメェら」
「ん、獄寺ぁ……?」
「ああ、なんでもねえって?」
懐いていると獄寺がしっかりと抱き返して背中を撫でてくれるので、うっとりしている間に獄寺は勝手に返事をしていたようだ。なんでもないと言われたので素直に聞き流したものの、今も画面の向こうでザンザスにタコ殴りにあっているスクアーロの質問を、山本は考えてみる。
「……ああ、でももう行かねえ」
『なんだと!? 貴様ぁ、オレとの真剣勝負を……!!』
「いや、そうじゃなくって。オレ、そもそも今日稽古に行くって言ってなかったよな?」
『……。』
稽古というよりは手合わせの色が強いが、それはこれからも行なうことになるだろう。だが今日訪ねたかったのは、別の用件だ。それは伝えていたつもりだったが、と首を傾げてみせれば、少し黙った後にスクアーロはすっと目を逸らしていた。
『……いつもの寝言かと思ってたぞぉ』
「あははっ、ひでーのな!! オレ、ほんとに悩んでて相談したかったのに」
「おい、山本、ロン毛に相談てなんだよ、オレじゃダメなのか……!?」
だがそんなやりとりには、何故か獄寺がぐいっと胸倉をつかんでくる。つられて獄寺へと向き直った山本だったが、あっさり頷くことしかできなかった。
「ん、獄寺じゃ無理」
「……明日朝一で十代目にヴァリアーのというかスクアーロの剣帝の称号は自称なので公的には採用しないようにという進言を」
『う゛ぉ゛お゛お゛い゛!? 貴様ぁ、なに勝手な八つ当たりしてんだあ!?』
「だって、獄寺に一緒に住みたいっておねだりするの、どうしたらいかなって相談だったのなっ」
それを獄寺本人に相談できるはずがない、と言ってみれば、獄寺は相当面食らっている。
そんな顔を見て、遅ればせながら山本も気がつく。確かに獄寺は合鍵をくれたが、同居とまでは言っていない。そこまでのつもりがなかったのであれば、山本が抱えていた欲求を知り、引いてしまったのではないかと思ったところで軽く唇を塞がれていた。
「んんっ……ん、ふぁっ、ア…獄寺ぁ……?」
「……ほんっと、バカだな、テメェは」
『まったくもってその通りだぞぉ!? どっからみてもむしろ爆弾小僧もその気じゃねえかぁっ!? それを言い出せねえとかアホらしくて付き合ってられねえぞぉおおっ、ていうかその謙虚さをオレたちにもちょっとは向けろお!!』
「獄寺……?」
「まあいい、そのことはまたたっぷりと話してやっから? それより、なんでその内容でスクアーロに相談すんだよ?」
そう尋ねられ、軽く首を傾げた山本は小さく首を振っていた。
「えっと、正確にはスクアーロじゃなくて、ザンザスの方?」
『呼んだか小僧!!』
「この二人って、今は一緒に住んでるけど。でもそれ、ザンザスの方が押しかけたって聞いたからさっ、積極的な奥さんなのなってソンケーしてたのな!!」
『そこまで褒められると照れるぞ小僧!!』
『ガハッ!?……て、なんでオレを殴るんだアンタはぁ!?』
高笑いと悲鳴と鈍い殴打音が響いてくる画面は一切気にせず、山本は獄寺を見つめてしまう。それは本当に呆れ返ったようにため息をつかれたからで、機嫌を損ねてしまったかと心配していると、伸ばされた手は優しく山本の髪を撫でてきていた。
「ん……?」
「山本、テメェはあそこまでの恐妻にはならなくていいからな?」
『爆弾小僧ぉ、それはある程度は尻に敷かれているって認めてるんだろうがよぉ!?』
「だから、な? 山本。あんまくだらねえ用事で、オレが休みのときに出かけんじゃねえぞ? 休みならまずオレに構え、オレを優先しろ」
『今更亭主関白気取りとは片腹痛いぞ爆弾小僧ぉ!!』
「ん、分かった。オレも獄寺と一緒にいたいのなっ」
『だから刀小僧はそいつに対してとオレらに対しての扱いに差がありすぎだろうがぁ!?』
その後、同じにされたいのか死ねカス浮気者ド死ねドカスという罵声と断末魔のような悲鳴が回線の向こうから聞こえてきた気がしないでもなかったが、獄寺がさりげなく音量どころか回線自体を閉じてしまったので山本には分からない。
それより、ずっと気になることがあったのだ。内容としては告げられていると思うのだが、もっと単純な言葉で確認したい。獄寺の膝に乗ったまましっかりと瞳を向け、恐る恐る尋ねてみる。
「……なあ、獄寺?」
「なんだよ?」
「えっと……一緒に、いたい?」
そう尋ねれば再び呆れた顔をされたが、結局苦笑へと変わった獄寺は当たり前だろと返しながらしっかりと誓いのキスをしてくれていた。
ふたり暮らしまで、あと少し。
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