■2006年・夏の獄山無料配布本(改訂版)


※コレは2006年の夏コミに無料配布(後にサイトにUPする可能性を前提に)したものです。
※時期的に本誌が雨戦の真っ最中で、具体的には標的108までをふまえてました。
※よって、
雨戦決着(ラスト)を見る前にフライングしたものです(現在改訂済)。
※12月現在、若干の修正を加えましたが、あくまで後に改訂したものであることをご容赦ください。
※よって、実際に雨戦後に書き上げた「背中」とは全く別物になっております。
※内容的には、「てのひら」→「重み」(いずれも表SSタイトル)の流れを汲んだものです。
※以上のことをふまえた上で、よろしければお進み下さい。



























「さすがだなっ、山本!!」
「山本、ほんとよかった……!!」
 危ない場面もあったが、辛くも対戦に勝利した山本へそんな言葉がかけられる。勝利を讃える者、無事を喜ぶ者、対戦中の成長に感心する者など、反応はそれぞれだ。
 その一つ一つに、山本は律儀に応じている。自分のときと同じように、ロマーリオに応急処置をしてもらうだけで、最初に斬られた派手な傷もなんとか止血はできたようだった。
「この調子で、後は全勝といきたいな!!」
「もちろんだ。もうオレたちに、後はねえんだしな」
「そ、そうだよな、リボーン……!!」
 そんなふうにもう次の対戦へと皆の意識が向くことを、山本もまた歓迎しているように見えた。あるいは、今の戦いを忘れてもらいたいのかもしれない。勝つには勝ったが、恐らく目には見えない部分で山本の中で切り捨てざるを得なかったものが多いのだろう。
 だがそんな葛藤などおくびにも出さず、健闘を讃えられれば無事だった右手で拳を作って見せたりもする。
 その笑顔は以前と同じくあっけらかんとしたものだったが、目に入ったとき、思わず呟いてしまった。
「……バカがっ」
「獄寺君……?」
 うっかり十代目と尊敬する御方に聞こえてしまっていたらしく、慌てて誤魔化しつつも、訂正する気にはならなかった。
 本当は、笑っていられる心境などではないだろうに。
 お前が無理をするから皆騙されてやってるんだとも言えず、自分一人あの空元気に付き合ってやらないガキ臭さを恥じた。







 ひたひたと歩み寄る気配に、ふっと意識が目覚める。寝るつもりはなかったが、どうやら意識は落ちかけていたらしい。もう午前三時は回っているはずなので、それも当然だと言えなくはない。だがあの対戦からまだ数時間しか経っていないのに、のん気なものだと自嘲しようとしたところで、ハッキリと物音を聞いた。
「……。」
「……。」
 この病室に、誰かがいる。明かりの消された室内では視界を頼りにできないが、それでも獄寺には確信があった。
 獄寺の対戦は昨日の話で、もう丸一晩以上が過ぎている。出血量の多さでかなりふらつきはしたものの、怪我自体はさほど深いものはない。よって止血さえすれば回復は早く、既に体力も戻ってきているので家に帰ると主張したのだが、まだ無謀だとロマーリオに止められたのだ。もちろんもう聞く気はなかったが、十代目と尊敬するツナにまでまだ安静にしていてほしいと言われれば強くは拒めない。おかげでもう一晩この廃病院の一室に寝転がりつつ、真夜中の訪問者には予感があった。
「……なんだよ、添い寝でもしてくれんのか?」
「……!?」
 起きている気配も察しただろうし、なによりいつまでも黙ったままでいるのは変な話だと思い、獄寺からそう声をかけた。体は起こすことなく、ベッドに寝そべったままで気配の側を見上げるようにしてからかう。すると、息を飲んで体を硬直させていたらしい相手は、やがて観念したようにゆっくりと息を吐くと、片手と共に頼りない言葉をこぼしていた。
「獄寺……。」
「……。」
 抑揚のない調子は聞き慣れたものはかなり異なっていたが、それでも山本だった。
 きちんと手当てをするということでこの廃病院まで一度足を運んだ山本だったが、派手に斬られた箇所が左肩から胸にかけてだけだったことで、傷口を特殊なテープで塞ぎ直して治療は終えられた。タンクから滴った水に何度も落下したため、対戦中は傷口が乾くことはなく見た目以上には失血している。だがそんなことは微塵もうかがわせない気丈さで、一種鷹揚にも勝利を受け流して山本は自宅に帰ったはずだった。
 それから二時間弱で戻ってくるというのは、少し予想外ではあった。大方、ツナたちと別れてすぐに引き返してくるか、実際に自宅で寝て朝になってからやってくるのではないかと獄寺は予想していたのである。それが二時間という微妙な間隔だったことに、自分の読みの悪さを感じても、それを上回る嬉しさがあった。
「いいから、来いって? 寂しかったんだろ?」
「……。」
「山本、別に遠慮しなくていいんだぜ?」
 病室の明かりはついていないため、ドアに嵌めこまれた擦りガラス越しの非常灯では、やはり人影くらいしか認識できない。それでも、伸ばされてきた指先を握れば、その冷たさに少しだけぞっとした。死体のようだとは言わないが、長く水にでも浸かっていたかのようだ。
「お前、また寒いカッコで来たのか? 時期考えろって、もう秋も終わりだぞ?」
「……。」
 外気の所為だと分かっていても、まだ山本があの冷たい水の中で戦っているような錯覚をおぼえる。
 それに焦れ、しっかりと手を握り、促すように引けばようやく山本もベッドへと上がってくる。ギシリと軋んだスプリングに、見えない分変に興奮するなと思ったところで、当然のように獄寺は覆い被さられていた。
「獄寺……。」
「だから、遠慮しなくていいって言ってんだろ?」
 どうにも獄寺の方が重傷だと思い込んでいる節がある山本なので、起き上がろうとすれば雰囲気だけで心配してくるのだ。普段は天然で疎いくせに、こんなところばかり器用だと感心したものである。よって仕方なくベッドで仰向けのまま獄寺は両手を伸ばし、表情はよく見えないままで顔に触れてやった。
 両手で包んだ頬はやはり外気で冷たくはなっていたが、すぐに獄寺の体温でぬくもりを取り戻す。覆い被さる姿勢では腕で体を支えることになるので、左肩を斬られた山本にはあまりよくないだろう。だが言ってきいてくれるにはもう少し安心させてやらなければ無理だとも分かっていたので、獄寺は顔を引き寄せてから、軽く耳を撫でてやった。
「獄寺……?」
「……ほら、してこいって?」
「……。」
 じゃねえとオレから押し倒すぞ、とまで続ければ、少し迷う雰囲気を漂わせてから、山本はゆっくりと顔を近づけてきていた。いくら獄寺が手で誘導はしても、互いにほぼ視界が利かない状態だったので、山本の唇を最初に感じたのは鼻頭だった。あるいは、片目が包帯で塞がれているので、単純に目測を誤ったのかもしれない。どちらにしろ獄寺が笑っている間に、きちんと軌道を修正した山本は、しっかりと唇を合わせてくる。
「んんっ……。」
「ほら、舌入れるんなら、入れろって……?」
 露骨に促せばまた困惑したようだが、欲求には勝てないらしい。随分素直に求めてくれるようになったものだと思いつつ、獄寺は恐る恐る差し入れられる舌も、しっかりと愛撫してやっていた。
 基本的には獄寺が押し倒して強引に始めるばかりだった関係で、昨夜に続き山本からこんなキスをされるというのは皮肉なものだと思わないでもない。性的快感のために組み敷く獄寺にはされるがままなのに、連夜のこの行動は山本に快楽以外の理由がある。それが分かっているので好きにさせてやっているつもりだが、絡められる生温かい舌の感触には、やはり興奮も覚える。そんなことは当たり前なのだ、少なくとも獄寺の方は恋愛的に山本を求める感情が強い。よって、口内に侵入してきた舌を、獄寺の方から積極的に舐めてやる。まるで違う箇所でも愛撫するかのように丹念に舌でなぞってやっていた獄寺は、そこで包帯を避けるようにして指を絡めた短い黒髪がしっとりと濡れていることに、ふと気がついた。
「んっ……山本、風呂でも入ってきたのか?」
 校舎内に浸すことによって、雨の対戦で使われた水はお世辞にもキレイな状態だったわけではない。だが水溜りにでも飛び込んだかのような土臭さは感じず、真水で洗ってきたかのようだ。おかげでやたら強く感じるのは、消毒液と血液の匂いだ。大きな傷は胸の一箇所で、目立つものならばやはり右目の下と目蓋を切ったものだ。だが、掠り傷程度ならば山本も結構あるのだ。まさかそこから出血でもしているのかと心配になった獄寺に、物足りなさそうに唇を舐めてくる山本はぽつりと答えていた。
「……頭、洗えって」
「ハ? ああ、テメェのオヤジか?」
「風呂は、傷が開くかもしれねえからって。後は、シャワーで」
 いつもにも増して言葉が足りないので面食らうが、大方自宅で父親に風呂ではなくシャワーを勧められたのだろう。目では確認できないが、触った感触では確かに服も着替えている。なによりほんの少し漂う石鹸の香りで疑う余地もなかった獄寺は納得し、せがむように口元を舐めてくる山本に、ベロリと舌で応えてやっていた。
「んっ……!!」
「ほら、邪魔して悪かったって? 好きなだけ、していいからな?」
「ん……んんっ……。」
 怪我には触れないようにして背中を撫でてやり、なだめて促せばまた山本は唇を合わせてくる。そうして視界は半ば閉ざされたままで、クチュリと唾液が立てる水音と互いの息遣いだけがしばらくの間病室を満たしていた。
 能天気で、天然で、そのくせやたら有能だったりもする普段の山本には、こんなにふうに素直になれたりはしない。それは獄寺の性格の問題でもあり、プライドでもある。友人も多く人気があり、誰からも慕われると言っても過言ではない気質が前面に出ている際の山本にとって、獄寺はさほど大きな存在ではないからだ。軽視しているのではなく、大切なものが多すぎて埋もれている。よって、獄寺から求めれば拒みはしないが、そこまでだ。触れてもらえるだけで簡単に満足できてしまう山本は、その意味においてはできた恋人なのかもしれなかった。
 だが時折、本当に稀にではあるが、山本が獄寺を求めることがある。たまたま今回は連日に及んでいるが、きっかけはいずれも似たようなものだ。
「んっ、んぁっ……あ、獄寺ぁ……。」
「ほら、オレはここにいるって? 重くはねえから、もっと乗ってこいよ?」
「ん……。」
 種類はどうあれ、強い『恐怖』を感じたときに、山本は獄寺を求める傾向がある。ツナを始めとした他の者がいればこんなふうになることはなく、むしろ動じず平然としていることが多い。
 いや、実際に理解していないのかもしれない。恐怖を感じたという自覚がないので、へらへらと笑って過ごせるし、身の危険という場合であれば臆せず戦うこともできる。
 だが、山本はそこまで強くはない。
 単純な力ではなく、心の話だ。しかも、強くはないのに鈍すぎて、傷ついているとすぐに分からないことが多い。おかげで、特に差し迫った危機が去った後に、不意に癒されたいと手を伸ばしてくるのだ。普段はあれだけ無意識に翻弄してくるくせに、と思わないでもないが、好きな相手にせがまれて拒めるほどの恨みではない。ましてや、こんなに頼りなく、それでいて真っ直ぐに欲しいのだと示されて、獄寺に抵抗などする意志が生まれるはずもなかった。
「ん、なあ、獄寺……。」
「ああ……?」
 今夜も、ようやく甘ったるいキスで落ち着いてきたのか、山本はそう名を呼んでしっかりと体を落としてきていた。正直重くないはずはないのだが、相手が山本だと思えば嬉しい感覚に変わる。つくづく自分も色惚けで困るなど内心は思いつつ、今回はやけに早かったなと獄寺は相槌を打っていた。
 考えてみれば、病院を出てすぐ引き返すのではなく、自宅でシャワーを浴びてくるくらいの余裕を見せた山本なのだ。山本自身の対戦は勝ちに終わったし、獄寺の対戦は昨夜なので時間も経っている。よってさほど深刻にならなかったのかと背中を撫でてやっていると、不意に山本は身を捩じらせて上体を起こす。
「山本?」
「……。」
 まさか、帰るつもりなのか。
 体をまたぐようにしてきていたのに、それすら横へと移動している山本に、言えるはずもない言葉を心の中だけで呟く。
 帰ると言い出せば、引き止めることはできない。癒された山本は、これで日常を取り戻せるはずだ。それは獄寺を求めなくなるのと同じ意味だが、今の不安定な山本の方が嬉しいなどと言えるはずがない。いつもこの自己嫌悪に陥るなと自嘲したところで、唐突に山本が掛けていた毛布をはがしていた。
「おわっ、寒!?」
「……獄寺」
「や、山本……?」
 実際にはそれほど寒いわけではなかったが、驚きの方が大きくてついそう叫んでしまう。だがすぐに、掛けていた毛布を自らが背中に掛けるようにして再び覆い被さってきた山本に、一緒に寝たかっただけかと勘違いしかけた。
「うおっ!? だ、だから、テメェ指が冷てえんだって……!!」
「……我慢、してくれねえ?」
 ずるずると下の方へさがっていった山本は、それこそ獄寺の足の辺りに座った後、いきなりシャツの裾から脇腹を撫でてきたのである。いつ襲撃があっても応戦できるように、と私服のままで寝ている獄寺だが、さすがに今はベルトはしていない。脇腹からゆっくりと指を滑らせた山本は、やがてベルトを外す必要のない獄寺のズボンに手を掛けると、そのままボタンを外してジッパーを下ろしてきていた。
「いやっ、その、我慢とかそういう……!?」
「獄寺だって、時々してくれるだろ。だから……。」
「いや、だからオレが言いたいのはなんで今……て、だからっ、山本!?」
 そこまでされれば、さすがの獄寺も意図くらいは分かる。躊躇なく下着の下に差し入れられた山本の手が、獄寺のモノに触れたのだ。そうして慎重に取り出すようにされ、撫でられれば自然と反応もしてしまう。
 だが獄寺が気になったのは、『時々』という頻度である。獄寺の方からその気になって押し倒すことが多い以上、後ろだけで達くには精度が落ちる山本に、こうして手で扱いてやるのはほぼ毎回だ。決して時々などという珍しいものではないはずだ、と思ったところで、勘繰っていた行動に出られて獄寺は思わず息を詰めてしまった。
「や、山本……!!」
「んー……。」
 手で支えられた性器に触れた生温かい感触は、間違いなく山本の舌だ。これまで行為の最中に、手で触れと促してみても応じることが稀だったために、舐めるという段階は最早夢の域に達するとすら獄寺は諦観していた。それにも関わらず、いきなりの行動には動揺せざるをえない。ましてや視野がほぼきかないことで躊躇いも軽減しているのか、最初に一度舌で触れた後、山本はそのまま口内へとぱくりと含んでいた。
「おわっ!? こらっ、山本、んないきなり咥えんなっ、バカ……!!」
「んー……んーと、じゃあ、くわえる」
「律儀に出してからまた咥えてんじゃねえっ、このバカ!?」
 ちなみに、予想だにはしていなかったが、納得できないことはない。
 なにしろ、普段のセックスにおいて山本からの協力がほとんど得られないのは、始まってしまうと山本は極端に思考能力が低下することに起因している。要するに、感度が良すぎてまともに会話もできない状態にあっという間に陥ってしまうのだ。その分反応はいいし素直に声も上げてくるが、いかんせん知らないことは知らないままなので行動には起こせない。かといって思考がはっきりしている際は潔いまでにそんな空気がないため、無邪気な子供に卑猥なことを騙して教えるような居たたまれなさがあり、これまで獄寺は手をこまねいていた。
 散々組み敷いているのだから今更だと言われても、やはりこちらが手管巧みに篭絡させるのと、相手に教え込むのとではわけが違う。そう信じてこれまでぐっと堪えていた獄寺だったが、突然の展開にまだ割り切れていない。
「……オレがしたら、ダメなのか?」
「い、いや、ダメってワケじゃねえんだけど、て、言いながら舐めててんじゃねえよ……!!」
 今も獄寺に制止されたと思ったのか、両手で拝むように支えていたモノの先端を、山本は舌先でじれったそうに舐めてきていた。どういう思考回路でこれにいきついたのかはなんとなく予想もつき、更に百パーセントの確信があるのはどうやらキス程度では足りなかったらしいことだ。最後までちゃんとしたいならば異存はないが、獄寺のモノをこうして先に勃たせるという理由には疑念が残る。
「なあ、獄寺ぁ……。」
 だが結局のところ、山本からせがまれるという異例の事態に、獄寺が拒めないという結論だけは覆られない。もし山本がその気のときは、そのときになってからまた考えるという投げやりな決心で、獄寺は大きく深呼吸をした。
「……分かった。好きにしていいって言ったしな、やりたいならやれよ」
「ん、そうする……。」
 そもそも、口での愛撫自体には獄寺も歓迎なのだ。許可を出せばすぐにまた舌を這わせてきた山本は、一度根元から丹念に先端まで舐め上げてから、再び口内へと導き入れる。当然それ以上の技術はないものの、された感覚がおぼろげな記憶としては残っているのか、ゆっくりと頭を動かしてはいる。
 そうして舌や唇で促されれば、若さを自覚している獄寺のモノはあっという間に熱を溜めていく。相手が山本なので加速度に拍車がかかっているのだと心の中で言い訳をしなければならないほど、獄寺は自らの絶頂の近さを感じていた。
「や、山本……!!」
「んんっ……ん、んぁっ……!!」
 育っていったモノの質量で苦しくなっているのか、次第に山本の息も喘ぎになりつつある。視界がないことで、そんな息遣いだけを聞いていればまるで逆に自分がしてやっているときのようだとまで獄寺は思っていた。
「こら、そろそろ離せって……!!」
「んー……!!」
「お前、どうせ飲めねえだろうがっ、まだ……!!」
 だがいくらそうして錯覚をしていても、現実に咥えているのは山本の方なのだ。うっかり出してしまうだけならばいいが、驚いた山本に噛まれでもすれば洒落にならない。野球選手に限らず、ここぞというときに実力を発揮するスポーツ選手は、総じてグッと歯を食いしばる傾向があり、噛む力は相当らしい。おかげで歯がボロボロになるとまで聞いた知識が無駄に甦ってくれば、ますます大惨事に獄寺は怯えてしまう。だがそれでも萎えてはくれない自らのモノに若干諦めが混じりかけたとき、急に山本が口を離していた。
「……!?」
「んー……うん」
「……?」
 すっかりそそり立っている獄寺のモノを、指先で撫でていた山本は妙に満足そうに頷く。絡む唾液がクチクチと粘着質な音を立てているが、山本は飽きずに撫で続けている。
 このまま、手で出させてくれるのだろうか。
 口では危険だと思ったが、やたらしたがっていた山本なのでこうして半ば強制的にやめさせれば機嫌を損ねて放棄するのではと若干危惧もしていたのだ。もしそうなれば、獄寺は自分で最後は抜くという間抜けなことになるのだが、どうやらそれは避けられたらしい。だが指先でなぞるだけで少し刺激が足りないと思ったところで、カチャカチャという金属音が暗がりの中で響いてきていた。
「山本……?」
「ん……。」
 どうやら山本はベルトをしていたらしい、とバックルが立てる音にそう思ったが、次の瞬間に獄寺はザッと青褪める。いくつかパターンは予測していたが、これは最悪の事態かもしれない。そう思いはするのだが、相変わらず愛おしそうに性器を撫でてくる指と、緩慢な動作で止めるタイミングをはかりかねていたところで、あっさり山本が腰を上げていた。
「や、山本……?」
 明らかにズボンの前は寛げているが、せいぜい太腿の半分くらいまでしか下りてはいない。その状態で腰に跨ってきた山本は、躊躇なく繋がるために慣らしもしていないところへと先端を押し当てていた。
「ん、んぁっ……!!」
「バカッ、山本、痛いっての!? お前っ、ちょっと待っ……!?」
 だがそれはまさに暴挙でしかなく、強烈な痛みの予感というもので獄寺は焦る。
 そのまま腰を進めようとしてくる山本に、いい加減痛みからも堪忍袋の緒が切れてしまった獄寺は、勢いをつけてガバッと体を起こして怒鳴っていた。
「山本!!」
「うわっ……あ……?」
「テメェ、ほんっとバカだよな……!!」
 獄寺が体を起こしたことで、反動のように後ろに身を引いた山本は、そのままペタリとシーツに尻餅をつくようにして座っていた。そして顔は見えずとも不思議そうにしている様子が伝わり、ますます怒りは増しつつも獄寺は手を伸ばす。
「んんっ……!?」
「……全然、慣らしもしてねえクセに。いくらなんでも、入るワケねえだろ」
 このバカ、と言いながら獄寺が後ろから回した手を更に進めれば、触れた入り口は当然潤滑剤もなにもなかった。ぬめるだけならば山本が散々舐めてくれたので唾液で充分かもしれないが、元々繋がる器官でもないそこは、丹念にほぐしておかないと本当に傷がつく。
 それが分かっていないはずはないのに、無茶な繋がり方をしようとした山本を責めても、明かりがないために瞳を覗き込むことはできない。仕方なく顔を寄せた獄寺は、一瞬だけ躊躇したもののお仕置きだというように唇を塞いで一度強く舌を絡めていた。
「んぁっ……!!」
「……なに焦ってんだよ、したいんならちゃんとオレからしてやるし? いつもみたく、テメェはただ寝転がってろよ」
「ん、でも……獄寺、それは……。」
 逃げる舌からはさっさと離れ、唇を痛くない程度に食んでからそう言えば、山本は少し言いよどんでいる。大方、気が急いた結果だったのだろうが、したいならば獄寺には応じる用意もあるのだ。欲しいなら欲しいと言えと促した獄寺に、山本はやがておずおずと背中に腕を回してきながら、ぽつりと返していた。
「だって、獄寺……怪我、が……。」
「……。」
 怪我があるから、無茶はさせられなかったのだと。
 体を気遣ったから自分からすべてしようと思ったのだと説明した山本に、獄寺はただでさえあるとは思っていなかった我慢の糸が全部ブチッと千切れた気がした。
「獄寺……?」
「……テメェがそれを言うのかよ」
「え……?」
 思わず漏れた言葉には、さすがの山本も怪訝そうにしている。だがもう我慢ならないと思った獄寺は、優しいがやはりバカで鈍いどうしようもない恋人に分からせるため、敢えて両腕でギュッと抱き締めてみせた。
「うわっ!? ……て、獄寺、痛っ……!!」
「そうだろ、そうなんだろ、山本だって痛いんだろうがっ!? 大体怪我したばっかのヤツが変な気ぃ回してじゃねえよっ、更に傷作ろうとしてんじゃねえよ!? テメェ、オレがどれだけ心配したと思ってんだよっ、なのに、このオレに。このオレにまたお前の怪我増やさせようって、そんなの、なんで思えるんだよ、このバカ……!!」
 ハッと息を飲んだ音で、山本は全く考えていなかったのだと分かる。だが痛みが増すことも承知で、獄寺は抱きしめる腕を緩めることは出来ない。
「自分だけ痛くても平気だとかっ、自分なら傷ついてもいいとかそんなこと思うな!! 余計な自己陶酔なんだよっ、オレは全然嬉しくねえ!!」
「でも、獄寺……。」
「怪我だって治す側のヤツがいるんだぞ!? テメェが勝手に軽んじたって……!?」
 それでも、言葉を重ねるうちに、ひどく自分が矛盾したことを叫んでいるとさすがの獄寺も気がついた。
 矛盾というより、厚かましいことかもしれない。山本を窘めようと紡ぐ言葉は、獄寺のオリジナルではないのだ。むしろ窘められるために向けられたものばかりで、その浅はかさに唇を噛む。
「獄寺……。」
「……。」
 そうか、こういう気持ちだったのか。
 どこかで冷静に納得しつつ、悔しくてたまらなかった。もしかすると、山本はわざとこんなことをしたのかもしれないと獄寺は思う。要するに、嵐のリングの対戦での選択を、獄寺だけがまだ悔やんでいる。間違っていなかったと誰に言われても、心のどこかには引っかかり続けていたのだ。
 それを、一敗は一勝で取り戻せると約束してくれた山本は、身をもって教えようとしてくれたのか。
 突き詰めれば自らの不甲斐なさがすべての原因かと分かり、窘めるつもりで強めていた腕が本当に後ろめたくてゆっくりと緩めたところで、山本がおずおずと腕を回してきていた。
「獄寺、オレ……。」
 だがそうして口を開いた山本は、焦れるように唇を押し当てた後、あっさりと続けていた。
「オレ……痛くても、獄寺としたい」
「……いや、そうじゃなくてな?」
「怪我しても、獄寺と繋がりたい。だって、それ、オレのワガママだし。ちょっとぐらい傷ついたって、オレ、別に……。」
 気にしないというのは、それが死に至るほどの重傷にはならないことが明らかだからだ。
 言いたいことは分からないでもないが、まさか全く伝わっていないのかと怪訝に思ってしまう。確かに生死をかけた対戦と、がっついた先の名誉の負傷を重ねてしまったのは獄寺だ。だがやはり納得はできないと黙ることで睨んでいると示せば、山本はしっかりと抱きついてきながら、呟いていた。
「それで、早く……ちゃんと、獄寺が生きてるって、感じたい……。」
「……て、それは卑怯だろうがっ、このバカ!?」
「んー……?」
 先ほど重なってなどいないと否定したばかりのことを蒸し返し、あまつさえ山本を傷つけてでも繋がった方が『生きている』という確認になるというのは逆転の発想だ。なんとなく術中に嵌められてしまった気がしないでもないが、甘えてこられると弱いのは自覚済だ。
 今山本がこんなふうになっているのは、一つは昨日の対戦で、獄寺が死んでいたかもしれないという恐怖からである。そしてもう一つの恐怖は、もし今日負けていれば他の者たちと話したり、こんなふうに獄寺と抱き合えなくなっていただろうということだ。
 普通は戦う前に感じたり、それが足枷となり実力を発揮できなかったりもする。だが戦う前も、最中ですら気負うことはないのに、終わってから遅効性の毒のようにじわじわと山本を蝕んでいる。気がつかずに放置していてもやがていつもの様子に戻りはするが、その毒は抜けることなく欠損として山本の中に残り続けるのだ。
 その欠落が、もっと大きな悲劇を導いてしまわないように。
 癒してくれと無意識に手を伸ばされれば、恋人として拒む理由は見つからない。
「分かった、したいんだよな? ならしてやっけどよ、そんな焦んな、もうちょっと我慢しろ」
「んー、でもオレ、すぐに獄寺のが欲しいのなー?」
 ため息混じりにすることは納得してやれば、途端に気を良くした山本がまたワガママを言ってくる。
 普段はこんなことを言わないし、性的なことに限定しなくても獄寺に対して極端に求めるものがない山本だ。それでいて、こんなときばかり欲しがられると獄寺もどうしようもなくなってくる。先ほど抱きしめてしまって痛がらせた傷自体は触れないので、せめてと思い背中を撫でてやりながら仕方なく獄寺も妥協せざるを得ない。
「……だったら、舐めろ」
「ん? んぁっ……ふぁっ、あ、んんっ……!!」
「ったく、オレのじゃなくて、指舐めてくればよかったじゃねえか……。」
 いろいろ思考を働かさせられたおかげか、せっかくはちきれんばかりにまで育ててもらっていた熱はやや萎えてきている。合理的に考えるならば、今させているように最初からほぐすための指を山本は舐めてくればよかったのだ。それを、いつにないご奉仕をされて、いらぬ危惧まで抱いてしまった。ぴちゃぴちゃと音を立てて指を舐めずってくる山本にそんなことを思いつつ、仕返しのようにその熱い舌を指でギュッとつまんでやる。
「んんーっ!!」
「て、こらっ、噛むな!? マジ痛えだろうがっ、仕返しにしちゃ大人気ねえぞ!?」
 その途端、ガブッと歯で指を噛まれ、最初に仕掛けたのは自分だと分かっていても獄寺はそう大袈裟に叫ぶ。するとすぐに噛むのはやめた山本が、歯形が残っていそうな箇所に丹念に舌を這わせてくる。そして充分に唾液がまとわりついたところで、獄寺も口から抜いてやっていた。
 そのまま山本の後ろへと手を忍ばせ、早急に指を突き入れれば山本は少し身を竦ませている。だがそれは緊張ではなく、むしろ喜びに慄いたようなものだ。すぐに甘ったるい息をついた山本は、嬉しそうに懐いてきながらいつもの言葉を繰り返していた。
「なあ、獄寺ぁ……。」
「なんだよ」
「オレな、獄寺のこと……ほんとに、大好きなのな……。」
 獄寺を求めはしないくせに、獄寺が求めている言葉だけは頼みもしていないのに惜しみなく与えてくれるのも、また山本だ。何度も言うから有り難味がなくなると思っているのに、言われてまた顔が赤くなっているのが獄寺は悔しくて堪らない。暗がりで恐らくバレはしないことを心底良かったと思ったところで、珍しくもう一言続いていた。
「……そう、言えて。また言えて、よかった」
「……。」
 獄寺が、生きていて。
 自分もまた、こうして生き残って。
 崩壊した瓦礫の上でいつまでも水面を睨み続けていた山本は、きっとあの対戦相手もまた生きていると信じている。あるいは、信じようとしている。死体が上がらなかったことは事実であり、このときにはまだどちらとも判断はつかなかったのだ。
 本当は自分は生かされているのだと知っている山本からの言葉は、ずっしりと獄寺の胸の内にも重しをかけてくるようだ。受け取った毒はいずれ、獄寺をも冒していくのかもしれない。それならばそれで構わない、いっそ共に倒れるまで傍に居てやるのは自分なのだ。
 そんなふうに思いながら空いている手で包帯が巻かれていない頬を撫でてやった獄寺は、ゆっくりと口を開いてやっていた。
「……山本」
「んー……?」
 オレも生きててよかった、と返してやれば、雰囲気だけでも山本が喜んでくれたのが感じられた。
 甘いキスだけでは、この血と消毒液の臭いを消せはしないけど。
 それすら『生きている』ことの証だと刷り込まれればいいと、そう互いに願いながら熱に溺れた夜だった。
















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注意書きにもありますが、雨戦で興奮度MAXだったロボが先走ったものでした。(オイ
ちょっと修正して救済。もったいないオバケですいませんorz
まさかスクがあんなことになるとは思ってもいなかったので、そういう掘り下げが全くないんですがorz
でも今現在(標的127)を見るだに、山っこは対戦終結の時点ではスクアーロが死んだと思ってなかったのか?という可能性もあるっぽいので、そこに賭けて。
なんかギリギリかなあ、と。まあ死んだと思ってないっていうか、信じたくなかったんだろうと思いつつ。
こんな話書いてましたよ、という感じで流していただければ、オオオオ…!

ロボ1号